第5話 転移者(プレイヤー)
少し遅い昼食を食べた俺達は、宿泊している部屋に戻ってきた。
「お腹一杯です……、美味しかったですね」
「ここの宿は採れたての野菜使ってるから、美味いんだよな」
そんな会話をしながら、俺達はベッドに腰掛ける。
そして、しばらくの間二人揃って食休みをしていた。
お腹が落ち着いてきた頃、再び先程の話の続きをすることにした。
「そういえば、ユリカがこの世界に来たのはどのくらい前なのですか?」
ユリカも元々はスターゲートオンラインのプレイヤーだったらしいので、いつからここにいるのか気になり尋ねてみた。
「ん? 俺がこの世界に来てから、もう四年になるかな……」
ユリカは少し考えてから答える。
俺は予想外の答えに驚いてしまった。
(え……? 四年前!?)
正直二~三カ月とかそのくらいなのかと思っていたからだ。
俺の驚いた顔を見て、ユリカが少し苦笑した。
「まあ、俺もそれだけ長くこの世界にいるってことさ……」
彼女は窓の方へ顔を向け、少し遠くを見るようにそう言った。
「ユリカは、ずっとこの世界で一人だったのですね……」
俺は窓の外を見ているユリカを見つめる。
(この世界で一人は心細いだろうな……。俺もそうだったし)
彼女を見つめたまま、つい数時間前までの自分を思い出していた。
「いや、そんな顔するなよ。俺なら大丈夫だからさ!」
俺が気遣うような心配そうな表情をしていたからだろうか、大丈夫だとアピールするように慌てて手を振る。
「それに一人じゃないしな」
「それって以前は誰かと一緒だったということですか?」
ユリカの言葉が気になり、もしかして誰かと行動してたのではと思い聞いてみた。
すると、彼女が若干遠い目をする。
「いや、誰かと一緒にいたとかそういうことじゃなくてだな……」
なにやら歯切れ悪く、間をおいた。
俺は小首を傾げながらユリカの方を見て続きを待つ。
「この世界に来てしまった転移者は俺らだけじゃないんだよ……」
「ええっ!? 他にもいるのですか!?」
ユリカの口から驚きの事実が飛び出した。
俺達の他にも、転移者がいるというのだ。
「ほ、他には何人くらいいるのですか?」
俺達の他に転移者がいるという事実が気になり、身を乗り出すようにユリカに尋ねた。
すると彼女は落ち着けというように手で制しながら、話を続ける。
「エリア、少し落ち着け。とりあえず、俺が聞いた限りだと二百人はいるらしいぞ」
「……え?」
ユリカの答えを聞いた俺は、口をぽかんと開け固まった。
たしかに、彼女は他にも転移者がいるとは言っていたが予想外の人数だった。
(そんなにいるのかよ!? いくらなんでも多すぎるだろ!)
予想外すぎて、つい心の中で突っ込みを入れてしまった。
突っ込みを入れて、少し落ち着いたところで再確認するようにユリカに聞いてみる。
「ほんとにそんなにいるのですか? あまりにも多すぎる気がしますが……」
「実際に二百人近くいるのかは分からないが、かなりの人数がいるのは間違いないぞ」
ユリカはそう答え、何かを思い出すような仕草をしながら話を続ける。
「たしか、俺がこの世界に来てから一年くらいたった頃だったかな。王都の掲示板にとあるメッセージが書かれていたんだ」
「王都の掲示板?」
俺は思わず首を傾げた。
王都と言われても、俺はこの世界のことを全く知らないのだ。
「あ……、ごめんな。王都って言っても分からないよな。俺達が今いるのはアステリア王国という国なんだ。王都というのはこのアステリア王国の王都のことさ。ちなみにこのコルナ村は王都から南東の辺りにあるんだ」
「そうなのですか。あれ? アステリア王国ってたしか……」
ユリカが王都のこととコルナ村との位置関係を教えてくれた。
それを聞いてる時に、ふと王国のことが頭に引っかかった。
俺の言葉を聞いた彼女が頷きながら、言葉を続ける。
「ああ、スタゲでキャラ作成後に最初に転送される街だ。この辺の細かい話は後で教える」
「やっぱりそうなんですね。わかりました、先程の続きをお願いします」
俺がそう答えると、頷きながら先程の掲示板の話を再開する。
「話を戻すが、その王都の掲示板にはこんなメッセージが残されていたんだ。異世界より来たりし者たちで集会を開きたい、ってな。そのメッセージと一緒に開催予定の場所と日時が記されていたんだ。俺もそのメッセージ見た時はめっちゃ驚いたが気になったから、その集会に参加したんだ」
「なるほど。その集会に大勢の転移者が集まったのですね」
俺の言葉を聞いた、ユリカが頷いた。
当時を思い出したのか、若干呆れたような顔で話を続ける。
「開催場所に行こうとしたら、着く前にすごい混雑でさ。何事かと王都の警備隊まで出てきてすごいごった煮状態だったんだぜ」
「それ、結局開催できたのですか?」
俺がそう尋ねると、呆れた顔をしていたユリカは笑う。
「ああ、なんとか南門の大広場辺りでな。それでな開催主が姿を現したんだが、なんとヘブンズナイトのギルマスだったんだよな」
「え? ヘブンズナイトってあの……?」
俺は驚きながら聞き返した。
説明しよう!
ヘブンズナイトというのはスターゲートオンラインにあるプレイヤーギルドの名前だ。
プレイヤーギルドとは、複数のプレイヤーが集まったグループみたいなものだ。
ゲームによってはチームや騎士団など呼び方は変わるが基本的には同じようなものである。
ゲーム内にはギルドランキングというものがある。
これは主にゲーム内で月一回行われている攻城戦と呼ばれるギルドVSギルドの対人戦で決められる。
勝率が高いギルドがギルドランキング上位になるのだ。
ヘブンズナイトはこのギルドランキング一位のギルド、要するに廃人の集まりだ。
俺もギルドに所属してはいるが、俺の所属ギルドはランク外である。
だって、俺含めみんな対人戦に興味ないから仕方ない。
そういうわけで俺でもこのギルドの名前くらいは知っているのである。
「ああ、他にもランキング上位ギルドのメンバーは結構こっちに来てるみたいだったぜ。『ギルドメンバー全員揃っちゃった(笑)』とか言ってるギルドもあったしな~……」
「ええ~……」
あまりの内容に呆れてしまった。
(それって、こっちにいるのって廃人ばかりってことなんじゃ……)
そう思って、さらにげっそりした。
そんな俺の様子を見て、ユリカは苦笑する。
「まあ、気持ちは分かる。俺もそう思ったからな。でも、さすが廃人と言った感じで情報収集はお手の物って感じでな、その集会で結構有益な情報得られたんだぜ?」
「有益な情報?」
ユリカがそう言ったので、少し怪訝な表情をしながら尋ねてみた。
たしかに、廃人と呼ばれる人達はゲームに関して一切妥協しない印象がある。
故に情報収集も手を抜かないだろうと思った。
すると、少し真面目な顔をして話し始める。
「こっちに来てしまった転移者の共通点さ」
「共通点?」
すごく大事な話に移り、俺も真面目な顔をして耳を傾ける。
俺の様子を確認すると、そのまま話を続けた。
「その集会に来てた奴ら、もちろん俺も含めて情報を合わせたからたぶん間違いないだろうな。一つ目の共通点はキャラのメインサブ職業のレベルだ。こっちに来てしまった転移者のメインサブ職業のレベルはともにレベル100だったんだ」
「なるほど、それで上位ギルドの人達が多いわけですね」
説明しよう!
スターゲートオンラインの職業レベルはメインサブともに現在はレベル100でカンストである。
カンストとはカウンターストップの略で、要するにレベルが上限に達したという意味だ。
レベル上げに関してはメイン職業はそんなに辛くないのだが、サブ職業のレベル上げは地獄なのだ。
なにせ、メインと比べると一回で取得できる経験値がメインの半分だからだ。
これを緩和する装備はあるが、ものすごく高額装備なのでレベル上げ中のプレイヤーが手に入れるのはほぼ不可能だ。
俺は、ずっと仲の良かったギルメンの人がその装備を貸してくれたので他の人達よりは比較的に苦労が少なくレベル100にできたのだ。
あの高額装備を信用して貸してくれたギルメンには頭が上がらない。
まあ、その後しばらくの間ダンジョン攻略に連れまわされたが。
ここまで、話してふと気になったのかユリカが聞いてくる。
「一応聞いておくが、エリアもメインサブ職業ともにレベル100なんだよな?」
「はい、そうですよ」
俺の返事を聞くと、やっぱりかと言った表情で頷いていた。
他にもあるのか気になり、俺は話の続きを促す。
「それで他にはどんな共通点があったのですか?」
「二つ目の共通点はプレイ時間だ。エリアも自分のプレイ時間、なんとなくでも覚えてるだろ?」
ユリカに聞かれ、俺は頷いた。
たしかに、おおよそのプレイ時間は覚えている。
スターゲートオンラインにログインする時、マイキャラの選択画面で選択中のキャラのプレイ時間が表示されるのだ。
だいたいのプレイヤーは毎日ログインするから、毎日見てるはずなのでおおよそのプレイ時間を覚えているのである。
俺の反応を見て、彼女が話を続ける。
「でだ、こっちに来てしまった転移者のおおよそのプレイ時間が9000~10000時間だったんだ。俺の場合はたしか、九千八百時間くらいだったか。エリアはどのくらいだったんだ?」
「私のプレイ時間は……」
ユリカが二つ目の共通点を言って、俺におおよそのプレイ時間を聞いてきた。
俺は思い出すために、記憶を探る。
「昨日、ログインした時は8990時間くらいだったと思います。だから、プレイ時間9000から10000時間だと共通点に当てはまらないですね」
「それ、最後にログインした時のなんだよな? なら、昨日ゲームしてるうちに共通点の下限の9000時間越えたんじゃないか?」
「あ……、そうかもしれません。クエ片付けてから、少し休んでたら落ちる前に寝てしまったから……」
ユリカの予測を聞いて、思い出した。
自分は寝落ちが多く、昨日もいつも通りに寝落ちしていたことを……。
それを聞いた彼女が笑う。
「あははは! なんだ、エリア寝落ちしたのか」
「うっ……。しょ、しょうがないじゃないですか! 眠気は突然来るんです!」
俺は少し拗ねたように、口を尖らせた。
そう言うと、ユリカが両手を前に合わせながら謝ってくる。
「悪い悪い、ちょっと意地悪言っちまった」
「まあ、いいです。ほんとのことなので……」
俺は溜息を吐いた。
ユリカも謝ってきたし、事実なので許してあげることにしたのだ。
そう心の中で決め、彼女の方を見ると窓の外を眺めている。
俺も同じ様に窓の外を見てみると、もう日も沈みかけていた。
「そろそろ暗くなってきたな、夕飯はどうする? さっき食べたばかりだが、下で何か頼むか?」
「どうしましょうか? 私はまだお腹全然空いてませんが。この宿はどのくらいまでなら、夕飯を頼めるのですか?」
「結構遅くまでやってるぜ、夜は酒場も兼ねてるからな。一般家庭の夕飯時くらいまでなら全然余裕だな」
「じゃあ、少し休んでから夕飯食べに降りましょうか。さすがに疲れたので少し休みたいです」
俺はそう言うと、座ったままの状態で体をベッドに倒す。
そうしたら、ユリカが何やらニヤニヤした表情を浮かべる。
「休むのはいいけど、寝るなよ~?」
「大丈夫です! ちゃんと起きてられます!」
ユリカがからかってきたので、つい反応してしまった。
俺の反応に気をよくしたのか、その後も夕飯を食べるまでちょこちょこ弄られたのであった。