第4話 現実(リアル)
「エリア、お前この世界の人間じゃねぇな? おそらく、スタゲのプレイヤーだろ?」
一連のキュウリに関するやり取りを終え、確信したらしいユリカは俺にそう質問してきた。
質問内容の裏を返せば、彼女もプレイヤーということになる。
俺は隠すことなく、素直に答えることにした。
「はい。私は確かに昨日までスタゲのプレイヤーでした。ユリカもそうなんですよね?」
俺が尋ねると、ユリカは頷いた。
質問してきた時点で予測はできてたが、やはり俺と同じようにプレイヤーだったようだ。
「あの……、ひとつ聞きたいのですが……」
少し遠慮気味に尋ねる。
尋ね辛いことだったし予測はできてるが、気になっていたので一応確認してみることにしたのだ。
「なんだ?」
「ユリカって……、男っぽい口調ですけど元は男性プレイヤーなのですか?」
ネットゲームにおいて相手の現実について詮索するのはマナー違反だが、状況が状況だし気になってつい尋ねてしまった。
なにやらおっかなびっくり尋ねる俺を見て、ユリカが笑う。
「ああ、そうだぞ。つうか、喋り方で分かると思ってた。俺は別に現実について聞かれるのは、深く踏み入った話でなければそこまで気にしないからそんな怯えるなよ」
「はい、ありがとうございます」
すんなりと教えてもらえたので、なんとなく礼を述べる。
俺の様子を見ていたユリカは、何か納得したという表情を浮かべる。
「エリアはさ、元男性プレイヤーと一緒だとやはり不安か?」
「え?」
突然ユリカがそう尋ねてきたが、どういうことか分からず小首を傾げる。
俺の不思議そうな顔を見て、言葉を続ける。
「いやさ、女性プレイヤーから見るといくら体が女になってるとはいえ元男性プレイヤーは心配なのかな~……って思ってさ」
ユリカは気遣うようなちょっと気まずそうな表情をする。
先程俺が元男性プレイヤーか尋ねたせいだろうが、なぜか俺は女性プレイヤーだと思われているらしい。
「いえ、そういう心配はしてないですよ。ユリカには危うく死にそうな状況で助けていただいたし、信頼しています」
ユリカは安堵したような表情を浮かべる。
先程、彼女は自分の現実について素直に教えてくれた。
ユリカになら隠す必要はないと思っていたので、俺も隠さず伝えておくことにした。
「あと、私は女性プレイヤーじゃなくて男性プレイヤーですよ?」
「は?」
俺がそう告げると、ユリカがぽかんとした表情でこちらを見つめる。
そして、確認するように尋ねてきた。
「え……?まじで?」
「はい、まじです」
ユリカが確認するように尋ねてきたので、俺は頷く。
俺が頷くと彼女は、そのまま考え込み始めた。
なにやら納得できなかったようだ。
時折、いや、でも……とか、ないよなとかぶつぶつと呟いてるのが聞こえてくる。
(俺、そこまで信用されないようなことした覚えないんだけど)
と思ってこっちの世界に来てからを振り返ってみると……。
(狼に襲われて助けられたとき、安堵したら結構まじ泣きしたな。しかも、頭撫でられながら……。もしかして、これが原因か? 第三者目線で想像したら、中身女性に見えてもしょうがない状況だ……)
覚えがないとか言いつつ、一瞬で思い浮かんだあたり他にも何か原因がありそうな気がする。
ただ、思い出すと自分へのダメージになりそうな予感がしたので、ここで考えるのを止めた。
ユリカの方を見ると、まだ何やら考え込んでいる。
「ユリカになら隠す必要はないと思ったから正直に言ったつもりだったんですけど、何か信じてもらえてませんね」
「いや、だっておまえの口調丁寧だからさ。現実でもそうだったんだろ? なんか話し慣れてる感じがするしさ」
まだ納得できないと言った表情をしたユリカにそう言われた。
どうやら、丁寧口調で違和感なく話しているからそう思われているらしい。
別に現実で丁寧な話し方をしたことなどほとんどない。
なので、一応否定しておいた。
「いえ、違いますよ? 現実でこんな話し方しませんよ」
「じゃあ、なんでそんなに慣れてるんだ?」
なぜそんなに気になるのかわからないが、ユリカはそう尋ねてきた。
「それはですね……」
「それは?」
ユリカが続きを促す。
俺は少し間をおき、答える。
「私がRP勢だからです!」
「…………」
ユリカの方を向き、見事なドヤ顔をしながらそう答えた。
それと同時に押し黙る彼女。
部屋が沈黙に包まれる。
その時、静まり返った部屋にぐぅ~っと可愛らしい音が響いた。
(そういえば、目覚めてから何も食べてなかったな)
それは俺のお腹から鳴ったようだった。
目が覚めてから色々あったせいで気づいていなかったが、宿のベッドに腰掛けて落ち着いたせいかお腹から催促がきたようだ。
「そういえば、目覚めてから何も食べてませんでした。お腹空いた……」
俺はお腹を押さえながら、そう言った。
すると、それを聞いたユリカは笑う。
「ふふっ! それじゃあ、下に行って飯にするか。俺も腹減ったしな」
「はい!」
俺はユリカに返事をすると二人一緒に部屋を出て下の階に降りた。
そして、おっちゃんに飯を頼んで遅い昼食にするのだった。
ちなみに、出てきたメニューはこの村で採れた野菜をふんだんに使用したスープとサラダでとても美味しかった。