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第45話 南口へ向かって

 翌朝、部屋で身支度を整えた俺とユリカはゼロス、リーズと合流し朝食を取っていた。

 今朝のメニューは色々なパンに目玉焼きと元の世界にもありそうな品々だ。


「それで、食べたらすぐに出るのか?」


 ちょうど、食べていたパンを飲み込んだゼロスはユリカの方を向いて尋ねる。

 目玉焼きを食べていたユリカはフォークを置くと、ゼロスの方を向いた。


「皆の準備が出来ていれば、出発かな。俺は食べてからでも大丈夫だが、二人はどうだ?」


 ユリカはそう言うと、俺とリーズの方へと顔を向ける。


「私は大丈夫ですよ」

「私も昨日の内に準備は出来ていますので、大丈夫ですね」 


 俺は食べていた手を止めると、ユリカにそう返答した。

 リーズも俺と同じ様に手を止めると、同じ様に答える。  

 俺とリーズからの返答を聞いたユリカは軽く頷くと、再度ゼロスの方へと顔を向けた。


「エリア達も大丈夫なようだし、食べたら出発するか」

「あいよ」


 ユリカの言葉にゼロスが軽く答える。

 その後は、適当な話をしながら朝食を取っていた。


 朝食を終えた俺達は、予定通り宿を出発して死の虚空迷宮デッドホロウラビリンスへ行くために、南口の方へと向かっていた。

 昨日は人でごった返していた通りも、さすがにこの時間はまだ人通りも多くない。

 まあ、カリーサやリーリ村に比べれば全然人はいる方だけど。


「この時間はまだ人通りは多くないのですね」

「早朝じゃないとはいえ、まだ朝だからな。もう少ししたら、また人通りが増えると思うぞ」

「今はお祭り効果で観光客も多いだろうし、昼前には昨日の様な具合になるんじゃねえかな」

「昨日の様な……ですか」


 ゼロスの話を聞いた俺は少しげんなりする。

 昨日の人波は結構辛かった。

 昨日の事を思い出して、ふとユリカの方を見やる。

 すると、突然こちらを向いたユリカと目が合った。

 俺と目が合ったユリカは小首を傾げる。


「エリア、どうかしたか?」

「いえ、その……」


 突然の質問に、俺は言い淀んでしまった。

 そんな俺を見て、ユリカは足を止め、こちらを見つめる。

 ユリカが立ち止まったのに気づいて、ゼロスとリーズも同じ様にこちらを見つめていた。


「エリアちゃん、ユリカちゃん? どうかしましたか?」

「二人共どうかしたか?」


 俺とユリカの様子を見ていた二人が俺達に尋ねる。


「いや、偶々エリアの方を向いたら何か言いたそうな顔で俺を見てたから……」

「えっ? 私、そんな顔してましたか?」

「ああ、してたな」


 驚いた俺がそう言うと、ユリカは頷く。

 たしかに、ユリカの事を考えてはいたが、そんな顔をしているとは思わなかった。


「なにかあるならちゃんと言ってくれよ?」

「えっと……、人込みの話をしてたら、昨日のユリカを思い出しただけですから……」

「昨日の俺?」


 俺がそう答えると、ユリカは不思議そうな表情を浮かべる。

 後ろでは、俺の言いたかった事がなんか伝わったらしいゼロスとリーズが理解したような表情で頷いていた。


「ユリカちゃん、エリアちゃんはユリカちゃんの心配をしているんですよ。昨日、人込みで辛そうにしていましたから」

「まあ、そう言う事だ。ユリカとしてはエリアの方が心配なんだろうがな。そこはお互い様みたいだぜ」

「そうだったのか……。それは大丈夫だ……とははっきり言い切れないが、今は混んでないし大丈夫だぞ。帰ってきた時はどうか分からないが……」

「それはそうですよね……。……南口に向かいましょうか」

「……だな」


 お互いに微妙な空気になったが、再度南口に向けて歩き出した。


 それからしばらく歩くと、大きな石造りの門が見えてきた。

 どうやら、あれが南口の門のようだ。

 俺は歩きながら、目の前に広がる門を見上げる。

 城壁も門もかなりの高さがあり、見上げると視界いっぱいに広がっていた。

 カリーサにも門や囲いがあったが、それとは比べ物にならない高さだった。


「コメスに着いた時には気づきませんでしたが、改めて見ると門も城壁もすごい高いですね」

「ここは流通の要だしな。それに戦争になった際は王都への防衛拠点になるから、立派な造りをしているらしいぜ」

「そうなのですね。それにしても戦争……ですか」


 言葉だけは分かるが経験はないため、そういう発想は浮かばなかった。

 俺がそう言うと、リーズがゼロスに詰め寄る。


「ゼロスさん? エリアちゃんに変な事を吹き込んでいますね?」

「いや、吹き込んでないから! こういう反応するとは思ってなかっただけだ」

「今回は見逃してあげますが、次はありませんよ? エリアちゃん、心配しなくても大丈夫ですからね」


 ゼロスの方に詰め寄っていたリーズはそう言うと、俺の傍に寄って突然抱きしめ始める。

 いつもの様に埋められる俺。

 なんか、少しずつ慣れてきている自分がいる……。

 だが次第に苦しくなり、いつもの様にリーズの腕を軽く叩く。

 

「エリアちゃん、もう少しこのままで!」


 解放して欲しい俺は先程よりも少し強めに叩く。

 すると、ようやく解放された。

 俺はリーズから離れ、息を整える。

 すると、リーズは非常に残念そうな表情で俺を見つめていた。


「もう少し、エリアちゃん成分を補給したかったですね……」

「その辺にしといてやれよ」


 残念そうにしているリーズに、ゼロスはそう声を掛ける。

 すると、リーズはゼロスの方を少し睨んだ後、溜息を一つ吐いた。

 リーズの様子を確認すると、ゼロスが俺の方へとやってくる。


「基本的には同盟を結んでいないゲオルグ帝国以外とは割と友好関係だから、そこまで不安がらなくても大丈夫だ。ただ、それはコメスでの話だけどな」

「そうなのですね」


 ゼロスの話を聞いた俺は安堵の溜息を吐いた。

 ゼロスの傍で話を聞いていたユリカは首を傾げる。


「ん? ゲオルグ帝国とは数年前にも戦争してなかったか?」

「え?」


 ユリカの言葉に、思わず振り返る。

 ユリカの話通りなら全然大丈夫じゃないのだが……。


「ああ、たしかに三年程前にあったな。俺はその頃はまだ駆け出し冒険者だったからな。参加はしていないが」

「三年前って……、割と最近ではないですか!?」

「その話は私も聞き覚えがありますね。当時はエルティアにいたので詳しくは知りませんけど、かなり激しい戦いだったと聞いています」


 俺は思わずツッコミを入れた。

 ほんとに最近の話だったからだ。

 俺の隣で話を聞いていたリーズは、何かを思い出そうとする仕草をしながらそう言った。

 

 (ゲオルグ帝国に、エルティア……エルティア神聖国、か……。やっぱりその二つの国もあるんだな)


 ゲオルグ帝国とエルティア神聖国もゲームだった頃に存在していた国だ。

 ゲオルグ帝国はゲームマップで言うと、アステリア王国の左上の方――つまり北西にあるだろう雪国である。

 そこにはPVP――対人戦系のクエストや施設があり、PKの多い一帯だった。

 ゲオルグ帝国にも金策系のクエストはあったが、PKが面倒だったのでここら一帯にはほとんど行ったことはなかった。

 エルティア神聖国の方はというと、アステリア王国の下の方――南にあるだろう国だ。

 宗教国家で、女神エルティアを祭っているエルティア教の本山がある。

 リーズが女神エルティアへの祈りを奉げていることから、おそらくリーズもエルティア教徒なのだろう。

 そして本山では、回復系スキルを強化することができるため、ヒーラーが多く集まる国でもあった。

 俺が思考に耽っていると、突然右肩辺りに何かが触れる。


「ひゃっ!」


 俺は驚いて、慌てて右方向を確認する。

 すると、そこには驚いた表情をしたユリカが立っていた。

 どうやら、肩に触れたのはユリカの手だったようだ。


「悪い、そこまで驚くとは思わなかった。ただ、人も増えてきてるから、移動しやすい内に行こう」


 ユリカの言葉を聞き、ゆっくりと周りに目を向ける。

 すると、先程よりも人通りが増えてきており、遠巻きにこちらをちらちら見ている人もいた。

 周りの視線を感じた俺は、途端に恥ずかしくなってくる。


「は、はい!」


 俺は恥ずかしさを誤魔化す様に頷くと、南口に向かって歩き出すユリカを追いかける。

 後ろからは、ゼロスとリーズが同じ様に後を追っていた。

  

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