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第44話 コメスでの一夜

 コルネロさんとの話を終えた俺達は、ナナリーさんの後に続いて受付カウンターの方へ戻って来ていた。

 

「それじゃあ、依頼クエストの受付を始めるよ。ギルドカードを出しておくれ」

「はい」

「ああ」

「おう」


 リーズ以外の俺達三人はそれぞれのギルドカードをナナリーさんに手渡した。

 ナナリーさんはギルドカードを受け取ると、カリーサ支部でも見かけた装置の上に置く。

 そして、装置を操作し始める。

 少しの間、装置を操作すると手を止めた。


「これでこいつの作業は完了だ。ギルドカードを返すよ」


 ナナリーさんは俺達三人にギルドカードを返却する。

 受け取った俺達三人は、それぞれのギルドカードを仕舞う。

 その後、ナナリーさんは依頼クエストの用紙をカウンターの上に出すと、用紙の右上に判子を押した。


「これで依頼クエストの受付は完了だね。これは無くさないように持ってておくれよ」

「ああ、分かってる」


 用紙を受け取ったユリカは、それを腕輪の中に仕舞う。 

 ナナリーさんはそれを見届けた。


「調査は明日から始めるのかい?」

「そうなるかな。今日は時間的に買い出しなどを済ませるだけで日が暮れるだろうし」

「そうかい。依頼クエストの件、よろしく頼んだよ」


 ナナリーさんの言葉に俺達は頷く。

 

「任せておけって、姉さん!」


 すると、ゼロスが少しふざける様に返事をする。

 そう呼ばれたナナリーさんは、一瞬きょとんとした表情をするがすぐに眉を動かした。


「だから、その呼び方は止めてくれと言ってるだろう!」 

「ちょっとした冗談だって」

「全く……。ゼロス、他の三人が可愛いからって変な事するんじゃないよ?」


 今度はナナリーさんが仕返しとばかりにゼロスをからかう。

 その言葉にリーズが反応し、ゼロスの方を笑顔で見つめる。

 ただ、目は笑っていないのですごく怖いが……。


「ゼロスさん?」

「いやいや、何もしないから! 本当に何もしないからっ!!」

「本当に大丈夫かい? なあ、ゼロス~?」

「大丈夫ですよ。もしゼロスさんが何かしてきたら、私の銃が火を噴くだけですから。エリアちゃん、ユリカちゃん、何かされたら私に言うのですよ?」

「えっ? ……は、はい……」

「いや、さすがに心配し過ぎじゃないか? まあ、仮に何かあったら俺達の部屋まで来ればいいけど」


 突然、話を振られた俺は困惑しながら返事をした。

 隣にいるユリカは若干呆れた表情でゼロスとリーズのやり取りを見つめている。


「ユリカちゃん、そんなことはありませんよ! 何があるか分かりませんからね。私もいつでも引き金を引けるようにしておきますし! それと、お部屋には遊びに行くかもしれませんから、よろしくお願いします!」

「そ、そうか……」


 リーズはユリカにそう言うと、若干興奮気味に顔を近づける。

 突然のことに顔を引きつらせながら、ユリカは距離を取った。


「おや? 三人は一緒の部屋じゃないのかい?」

「ああ、リーズはゼロスと同じ部屋なんだ」

「…………えっ?」


 笑いながらからかっていたナナリーさんは、ユリカの言葉を聞いた途端に表情を変える。

 そして、ゼロスの方を呆然とした表情で見つめた。


「今日の宿、米須で部屋を取ったんだが、二人部屋しか空いてなくてな。リーズとゼロスが同じ部屋で寝ることになったんだ」


 呆然とした表情のままゼロスの方を向いているナナリーさん。

 そのまま固まっているナナリーさんにユリカが補足した。


「…………はっ? すまないね、もう一度言ってもらえるかい?」

「だから、二人部屋しか空きがなかったんだ。それで、俺とエリア、リーズとゼロス、の部屋分けになったんだよ」


 それを聞いたナナリーさんは、自分が聞いた話が信じられなかったのか、再度ユリカに確認する。

 ユリカは再度、同じ様な説明をした。

 再確認したナナリーさんは、頭を抱えだす。

 しばらくそうした後、ナナリーさんはリーズの方を向いた。 


「リーズはそれで納得したのかい?」

「そうですね……、納得した、という訳ではなく、エリアちゃんやユリカちゃんをゼロスさんと同じ部屋にさせる訳にはいきませんからね。仕方がないので私がゼロスさんと一緒のお部屋になったのですよ」

「いや、まあ……。たしかに、そうだけどね。リーズ、あんた自身のことも心配しな」


 リーズは少し考える仕草を見せると、ナナリーさんの質問に答えた。

 リーズがそう答えると、ナナリーさんはリーズの方を向いて心配そうな表情を浮かべる。

 しばらくリーズの方を向いていたナナリーさんは、ゼロスの方へ顔を向けた。


「ゼロス、さすがにこれで何かあったら冗談じゃ済まないよ? 大丈夫かい?」

「余計な不安を煽るのは止めてくれ……」


 ナナリーさんの言葉に、ゼロスは不安そうな表情で肩を落としながら、そう言った。

 俺にできるのは、何も起きない事を祈るだけだ。


「何かあれば、私の銃でなんとかしますから、大丈夫ですよ」

「だから、そういうのは……」


 リーズは笑顔で二丁拳銃を構えると、笑顔でそう言った。

 隣ではゼロスが突っ込みを入れようとしていたが……。


「……お前ら。日が暮れる前に買い出しとか行きたいんだが、いいか?」


 ユリカの言葉に、俺達三人とナナリーさんの視線がユリカに集中する。

 ユリカは呆れた表情を浮かべて俺達の方を見つめていた。


「そ、そうだな! 暗くなる前に急がねえとな!」

「たしかに、暗くなる前に済ませてしまった方がよいでしょうね」


 ゼロスがそれに素早く乗る。

 おそらく、話題を逸らすのにちょうどよかったのだろう。

 武器を構えていたリーズも、同意すると武器を仕舞う。

 しばらくこちらを見ていたユリカは、俺達三人を交互に見る。 


「とりあえず、落ち着いたようだな。それじゃ、買い出しとかに行くぞ」

「はい」

「分かりました」

「おう」


 俺達三人の様子を確認したユリカは、ナナリーさんの方を向いた。


「ナナリー、俺達はそろそろ行くぞ」

「分かったよ。依頼クエストの件、しっかり頼んだよ」

「ああ!」


 ユリカは頷くと、ギルドの出入り口の方へと歩いて行く。

 俺達三人もその後を追った。


 買い出しなどの用事を済ませ、宿屋に戻って来た俺達は夕食を食べていた。

 周りの席には同じく宿泊客だろう人達が会話をしながら食事を楽しんでいる。

 俺達も食事をしながら、明日の予定を相談していた。


「それで、明日はいつ頃出発すんだ?」

「魔物の習性が分からないから何とも言えないが、話を聞く限り早朝だと早すぎるかもしれない。だから、早朝より少し遅いくらいに出発しようと思っているんだが、どうだ?」

「目撃した時間帯は様々な方が出掛けている時間帯のようですし、それでよいと思いますよ」

「私もそれでいいと思います」

「俺もそれでいいぜ。異論はない」

「なら、決まりだな。その予定で明日は頼むぞ」

「「分かりました」」

「分かった」


 俺達三人はユリカの言葉に返事をする。

 その後は俺達もお喋りしながら、食事を楽しんだ。


 食事を終えた俺達は、泊まることになった二〇四と二〇五の部屋の前へと戻ってきた。

 ちなみに、俺とユリカの部屋が二〇四で、リーズとゼロスの部屋が二〇五だ。


「それじゃ、ここで解散だな。早朝じゃないとはいえ、夜更かししないようにな」

「はい、大丈夫です」

「ええ、分かっていますよ」

「俺は安心して眠れる気がしねえな……」


 ゼロスは天井の方を見つめながら、そう言った。

 ほんとに何も起こらないことを祈るばかりだ。


「ゼロス、大変だろうが寝不足にだけは気を付けてくれ」

「ああ、分かってるぜ」


 ユリカが励ますようにそう言うと、ゼロスはユリカの方を向いて頷く。

 ゼロスの隣にいるリーズはその様子を眺めると、俺の方を向く。

 そして、突然俺を抱き締めた。


「……えっ? えっ??」

「少しだけ、エリアちゃん成分を補充させてください」


 突然のことに慌てる俺。

 抱き締められた俺は、リーズの豊満な胸に埋められる。

 俺が慌てた様子を示すと、リーズは抱き締めながらそう言った。

 しばらく俺を抱き締めていると、満足したのか解放される。


「ありがとうございます、これで明日まで大丈夫です!」

「そ、そうですか……」


 リーズは満面の笑みを浮かべる。

 俺は少し困惑気味のまま、曖昧に返事を返す。

 隣では、俺達二人のやり取りをユリカとゼロスが見つめていた。


「エリア、そろそろ部屋に入るぞ。それじゃあ、二人ともまた明日な」

「は、はい!」

「ああ、また明日な」

「はい、また明日」


 俺とリーズの様子を見ていたユリカはそう言うと、部屋の鍵を開け、中へと入って行く。

 俺もその後に続いて中へと入って行った。


 部屋に戻り、風呂を済ませた俺達はのんびりお茶を飲みながらくつろいでいた。


「明日調査する魔物はどんな魔物なんでしょうね」 

  

 お互いに喋らずのんびりと過ごしていたが、ふと気になったのでユリカに話を振ってみた。

 俺が話しかけると、ユリカはカップをテーブルに置き、こちらを向く。


「そうだな……、剣での攻撃が効かなくて魔法が有効ということはもしかしたら甲殻系の魔物かもな。死の虚空迷宮デッドホロウラビリンスから来た可能性があるなら、霊体ゴースト系の魔物の可能性もあるけど、それなら始めから剣が効きそうにないのは分かるだろうしな。ただ、甲殻系の魔物は大抵浜辺や森林の様な場所に生息してるはずなんだけどな」

「コメスの南方に浜辺や森林があるのですか?」


 ユリカは少し考える仕草をした後、俺の質問に答える。

 返答を聞いた俺は、再度ユリカに質問をした。

 ゲームだった頃の記憶を手繰っても、この辺りに浜辺や森林のダンジョン等があった覚えがないからだ。


「いや、そういったダンジョン等はないな。コメスの南方は緩やかな丘が続いていて、ダンジョンは死の虚空迷宮デッドホロウラビリンスくらいしかないはずだからな」

「そうなのですね」


 ユリカが再度俺の質問に答えると、カップを持ちお茶を一口飲む。

 ユリカの答えを聞いた俺もお茶を一口飲むと、再び記憶を手繰ってみる。


(う~ん……。俺が知ってるこの辺りのダンジョンは死の虚空迷宮デッドホロウラビリンスくらいだし、ユリカもああ言ってたからな~。明日調べるまで分からないか)


「え……、えり……!」

「……ん?」

「エリア!」

「ひゃいっ!!」


 突然近くで呼ばれた俺は、驚いて変な声を上げながら声のした方を向く。

 すると、いつの間にか俺の傍までユリカが寄って来ていた。

 俺が反応したのを確認すると、ユリカは先程まで座っていたテーブルの向かい側に移動する。


「やっと反応したか……。急に黙り込んだから、少し心配になってな。びっくりさせる気はなかったんだが、悪いな」

「いえ、大丈夫です。明日調べる魔物の事を考えていたんです。結局、ゲームだった頃の記憶を手繰っても何も分かりませんでしたが……」 

「まあ、俺も思い当たることがないからな。今はあまり考えてもしょうがないだろ。明日になれば分かるさ」

「そうですね」


 ユリカは表情を柔らかくし、そう言った。

 本当に心配してくれていたようだ。

 俺は笑顔を作ると、頷いた。


「まあ、このまま考えててもしょうがないし、今日はもう休もうか」

「はい、そうしましょうか」


 そして、俺達はそれぞれのベッドに入り、眠りについた。


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