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第41話 リーリ村での一夜

 夕食を終えた俺達は宿屋のロビーにあるソファーに座り、ゆっくりとしていた。

 周りにある他のソファーでも、他の宿泊客が楽しそうに談笑している。


「夕食美味しかったですね」

「ああ、やっぱりここの飯は美味いな」

「だな。リーリ村では一番かもな」

「そうですね、機会があれば他のメニューも食してみたいところです。ところで、明日はどの様な予定になっているのでしょうか? ゼロスさん、何か聞いていますか?」

「おっと、そうだった。危ねえ危ねえ……」


 リーズにそう言われたゼロスは何かを思い出したような仕草をする。

 どうやら、何か伝言があったようだ。

 というか様子を見るに、伝え忘れそうになっていた様だが……。


「明日は、早朝から出発するそうだぜ。一応、俺達が来なかった場合も少しは待っていてくれるそうだ」

「分かった。なら、今日は早めに休んだ方がいいな」

「そうですね。今日は結構な距離を歩きましたから、疲れもあるでしょうし」

「確かに、かなり歩きましたよね。疲れもありますし、すぐに眠れそうです」

「風呂入るまでは起きてろよ? なるべく最初に入らせるからさ」

「だ、大丈夫ですよ。たぶん……」

「心配は要りませんよ。エリアちゃんが寝たら、私がき……優しく起こしてあげますから!」

「今、何か言い直しましたよね!? ちゃんと起きてられますから! 大丈夫です!」


 リーズの言葉を聞いた俺は慌ててそう言い返した。

 聞いている途中で、なんか急に不安になったからだ。

 これは風呂から出るまで寝るわけにはいかないな!


「よく分からんが……、まあ頑張れ!」

「はい、頑張ります!」

「無理はしないで大丈夫ですからね」

「無理じゃないですよ!」

「やれやれ……」 


 俺とリーズのやり取りを見ていたユリカが肩を竦めた。

 俺達がそんな話をしていると、ふと他の客の会話が耳に入ってくる。


「おい、聞いたか? コメスの方でまたあったらしいぞ」

「もしかして、例の子供の失踪事件か?」

「ああ、怖いよな~。うちの子もまだ小さいからな。心配だぜ」

「そういえば、リサディーとかでも起きてるらしい。うちも気を付けないとな」


 話をしていた宿泊客達はソファーから立ち上がり階段の方へと歩いて行った。

 失踪事件が起きているとはなんとも物騒な話だ。


「あの、今の話って……」

「最近、ギルドの方でも話題になってたぜ。なんか、子供の失踪事件が起きているとかって話だ」

「俺もコルナ村に来る前にギルドで話は聞いたな。なんでも、王国内で頻発しているんだとか。一応、気を付けろとは言われたな」

「そのようなことが起こっているのは不安ですね。エリアちゃん、知らない人について行ってはいけませんよ? 何かあったら大声を出すのですよ?」

「リーズ……、なぜ私だけに? 私だってそこまで子供じゃないですよ。だから、大丈夫です! というか、子供扱いは止めてください!」


 俺が自信満々に言うと、三人とも微妙な表情で俺を見つめていた。

 何か言いたそうな表情だ。


「な、なんですか? 何かあるなら言ってください」

「それじゃあ、言うが……。お前、絶対事件に巻き込まれそうだな」

「なっ!? なぜですか!?」

「なぜって、そりゃあな。既にコルナ村で……」

「ユリカ!? その話はやめ……」


 俺は慌てて止めようとするが、止める前に――。


「既に、何かあったのですね?」

「一応、聞いておいた方がよさそうだな」


 リーズとゼロスの二人が続きを促す。

 ユリカは俺の制止を無視して、コルナの森での出来事を二人に説明する。

 その時の話を聞いた二人から不安だと言うような視線が飛んできた。


「なるほど、そういうことだったのな」

「ええ、納得いたしました」

「えっ? なぜ、納得しているのですか? あの時の反省はきちんと活かしてますから、大丈夫ですよ?」


 話を聞いた二人は何やら一瞬で納得していた。

 それが不思議だった俺は首を傾げる。

 そんな俺を見て、リーズは心配そうな表情で見つめ、ゼロスは溜息を吐いた。


「もしかしてと思ったが、気づいてなかったのか」

「気づくって、何がですか?」

「エリアちゃん、リーリ村へ来る途中で盗賊が襲ってきた時、最初怯えていましたよね? ユリカちゃんのおかげで落ち着きましたけど」

「え? あれは……、その……。自分でもよく分からないんです。なんか突然でしたし……」


 俺は少し俯き気味に話す。

 自分では過去の経験として、もう大丈夫だと思っていたのだ。

 もし、それが気のせいだったなら……。

 あの時のあれはそういうことになってしまう。

 それは今後を考えると、認めたくなかった。

 俺が俯いたままでいると、リーズが傍に寄って来て優しく抱きしめる。

 俺は驚いて、顔を上げた。


「大丈夫ですよ、私達がついていますからね」

「まあ、そういうわけだ。だから、心配すんなよ」

「というわけで、なるべく一人で行動することは無いようにな。皆、お前を心配しているからな」

「……はい」


 俺は三人の顔を交互に見ると、しっかりと顔を上げて頷く。

 三人の優しさが心に染みた。

 それからしばらくして、俺達は泊まっている部屋に戻った。


 部屋が違うゼロスとは別れ、俺達三人は部屋へと戻って来た。

 俺は椅子に座って、備え付けのお茶を飲んでのんびりしていた。

 向かいの席には同じ様にリーズが座り、お茶を飲んでいる。

 ユリカは風呂の準備をしてくると言って、風呂場の方で風呂の準備をしていた。

 しばらく、お互いに何も言わずゆっくりしていると、リーズがこちらの方に顔を向ける。


「ふと気になったのですが……。エリアちゃんはユリカちゃんと、どのくらいの間一緒に旅をされていたのでしょうか?」

「どのくらいと言われても、出会ってまだ数週間ですよ?」

「えっ!? そうなのですか?」

「はい」


 俺が頷くと、リーズはすごく驚いた表情をしていた。

 俺達はそれ程長く一緒にいるように見えていたのだろうか。

 リーズはお茶を一口飲むと、話を続ける。


「ユリカちゃんが話していた内容から推察すると、エリアちゃんはコルナ村出身だったのですか?」

「いえ、そういう訳ではないですよ? ユリカと初めて出会ったのはコルナの森でしたし……」

「……えっ?」


 俺がそう言うと、リーズは突然固まった。

 少しの間その状態だったが、すぐに我に返る。

 そして、俺を心配そうな表情で見つめていた。


「エリアちゃんは……、森に住んでいたのですか? ご両親は今もそこに?」

「えっと……」


 リーズの問いかけに対して、言葉に詰まる。

 俺は今の状態エリアになる以前の、本来のエリアの素性については何も知らない。

 生まれや故郷、もちろん両親についてすらも分からない。

 そして、自分がどうしてこうなったのかも……。 

 だから、俺には答えられなかった。


「エリアちゃん……」


 俺が黙ったままでいると、リーズはおもむろに立ち上がる。

 そして俺の背後に来ると、後ろから俺を優しく抱き締めた。

 俺はそのまま大人しく抱き締められる。

 そうしていた方がいいと思ったからだ。 


「エリアちゃん……。ユリカちゃんと出会う前は……、一人だったのですか?」

「……」


 俺は何も答えることができず、沈黙したまま抱き締められていた。

 リーズが震えていて、声も若干涙混じりだったから……。

 部屋の空気が重く感じられた。

 お互いに何も喋らずそのままでいると――。


「風呂の準備できたぞ。……何してるんだ? お前ら」

 

 準備を終えて、風呂場からユリカが戻って来た。

 俺とリーズはユリカの方に顔を向ける。

 だが、リーズは泣き顔を見られたくないのか、すぐに顔を逸らす。

 リーズの様子を見たユリカは、こちらに寄って来た。


「何かあったのか? ……エリア、何したんだ?」

 

 ユリカはリーズを心配そうな表情で見つめた後、俺の方を睨み付ける。

 睨まれた俺は、慌てて弁明する。


「な、何もしてないですよ! ただ、色々質問されていただけで……」


 俺が答えても、ユリカはこちらを睨み続ける。

 しばらくそのままで睨み続けていたが、俺が困惑したままでいると少しだけ表情を和らげた。

 そして、リーズの傍に寄るとリーズの背中を優しく撫でる。


「リーズ、何があった?」

「ユリカちゃん……。エリアちゃんが……、エリアちゃんがぁー……」


 リーズはそう言葉を切り、再び涙を流し始めた。

 そこで泣き始めるのは止めて欲しい。

 絶対勘違いされる!

 ユリカはリーズの言葉を聞いた後も、少しの間リーズの背中を撫でていた。


「……エリア、ちょっとこっち来い」


 そして撫でるのを止めると、こちらを睨みながら指で、こっちに来い、とジェスチャーする。

 正直言って、今のユリカは今まで見てきた中で一番怖い。

 俺は恐る恐る頷くと、ユリカの後について行く。

 そして、俺達二人は脱衣所の中へと入って行った。


 俺が脱衣所に入ると、ユリカは脱衣所のドアの鍵を閉め、こちらに振り返る。

 俺の逃げ場を封じた形になった。


「……で? 本当は何があったんだ?」

「えっ? あの……」


 ユリカは睨むのを止め、こちらを見つめる。

 表情こそいつも通りだが、目がまったく笑っていない。


「いえ、本当に質問されていただけですよ! そしたらリーズが、途中で抱き締めながら泣き始めて……」

「……とりあえず、何を聞かれたんだ? それを教えてくれ」


 俺は頷くと、リーズとのやり取りを説明した。

 話を聞き終えると、ユリカは表情を和らげる。

 どうやら、勘違いだと理解してもらえたようだ。


「なるほどな……。たしかにそれは答えられないよな」

「はい……。それで黙ってしまったら、先程の様になってしまって……」

「そういう事か……。流れは分かった。たしかに、知らないことは答えようがないもんな」

「私達はこの世界だと、どういう存在になっているんですか? 人格が二つあるとかそういう状態になっている訳ではなさそうですが……」

「それは俺もよく分からないな。俺の方も、特に家族や親戚がいるとか出会ったとかなかったしな」

「じゃあ、私達の体はこの状態になった時に初めてこの世界に出現したってことですか?」

「おそらくそうだと思うぞ。これに関しては、俺達だけじゃ推測の域を出ない。他の転移者プレイヤーにも聞いてみないとな」

「そうですね」


 俺達が話していると、脱衣所のドアがノックされた。


「ユリカちゃん、エリアちゃんの事ですが……」

「分かってる。誤解は解けてるぞ」


 ユリカはそう言い、鍵を解除し脱衣所のドアを開ける。

 すると、そこにはリーズが立っていた。

 ただ、目は赤くなっており泣いた形跡がまだ残っている。

 

「エリアちゃん、ごめんなさい。私のせいでとんだ勘違いを……」

「顔を上げてください。心配してくれたというのは分かっていますから」


 リーズは頭を下げて謝る。

 俺はリーズの顔を上げさせて、笑顔を見せる。

 すると、リーズも理解してくれたようで微笑んだ。


「どうやら、解決したようだな。俺達は少し話したいことがあるから、リーズは先に風呂に入っちゃってくれ」

「分かりました。それでは、一番風呂いただきますね」

「エリア、続きはテーブルの方で話そう」

「分かりました」 


 俺は頷くと、ユリカとともに脱衣所を後にした。


 俺達は脱衣所から部屋へと戻ってくると、椅子に座ってお茶を飲んでいた。


「それでユリカ、お話というのは?」

「ん? ああ、あれは方便だよ。リーズがあんな状態だったし、風呂に入ってすっきりしてもらった方がいいと思ってな」

「なるほど、そういう事でしたか」


 ユリカの言葉に俺は納得した。

 確かに、あの状態だったら先に入ってもらった方がいい。


「それではリーズが出てくるまで、のんびりお茶でも飲んでいましょうか」

「そうだな」


 俺達はリーズが出てくるまでの間、のんびりとお茶を飲みながら過ごす。

 そしてリーズが出てきた後、俺達は順番に風呂を済ませ、眠りについた。


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