第3話 疑問
無事に森を抜けた俺達は、ユリカの案内で近くにあるという村に来ていた。
「さあ、着いたぞ。ここはコルナ村。見ての通りの農村だ」
「へ~」
ユリカがこの村の名前を教えてくれた。
俺は周りを見渡してみる。
周りに見えるのは木造建ての家々。
そして、家と家の隙間から広大そうな畑が覗いている。
少し歩いて見てみると、農家さんが野菜のようなものを採っていた。
「ユリカ、あれって野菜なのですか?」
「ん? どれ?」
俺は少し離れたところで作業してる農家さんが採った野菜を指差して聞いてみた。
その野菜は赤い色をしていて、ナスとバナナどちらにも見えるような形をしている。
ユリカの目線が俺の指先を辿り、その先の野菜に向く。
「あ~……、たしかあれは……」
そこまで言ったユリカは思い出そうとしばらく唸り、思い出せたのか教えてくれた。
「名前は忘れたけど、キュウリみたいな味がする野菜だったな。たしか……」
「あれ、キュウリなんだ……」
ユリカの答えを聞いて、俺は呟いた。
それを聞いていた彼女はふと何か引っかかったのか、少し考える素振りを見せる。
「そういえば、エリア。キュウリってなんだか分かるのか?」
「え? はい、分かりますけど……?」
変なことを聞いてきたので、小首を傾げる。
俺が不思議そうな顔で見つめていると、ユリカが怪訝な顔をした。
「エリア、ちょっとついてきてくれるか?」
そう言うと俺の返事を待たずに、ユリカは俺の腕を引っ張っていく。
いきなり引っ張られて、足がもつれそうになった。
「わわっ……!? いきなり引っ張らないでください! それで、どこに行くんですか?」
いきなり引っ張られたことへの抗議と行先を尋ねてみたが、ユリカは何も答えず俺を連れていく。
疑問に思ったが、とりあえずこのまま大人しくついていくことにした。
しばらくユリカに引っ張られながら歩いていたが、とある一軒の木造家屋の前で止まった。
そして、俺は彼女に腕を引っ張られながら中に入っていく。
中に入ると周りには木製のイスとテーブルが複数あり、奥にはカウンターのようなものがある。
見た感じは飲食店といった印象だ。
そのまま引っ張られながら奥まで歩いていくと、彼女はこちらに背を向けながら何か作業している男性に声をかけた。
「おっちゃん! 今日俺が泊まってる部屋に一人追加で泊めたいんだがいいか?」
「おう! ユリカちゃんお帰り。宿代きっちり二人分払ってくれるなら構わねぇぜ。ユリカちゃんが泊まってる部屋は元々二人部屋だったしな」
「おっけ! じゃあこれこいつの分な」
ユリカが声をかけると、おっちゃんと呼ばれた男性はこちらに振り向き、笑いながら答えた。
彼女が後ろ向きに俺を親指で指差しながら答え、カウンターの上に何かを置く。
置かれたものを見てみると、カウンターの上には銅色をした硬貨が数枚載っていた。
どうやら、この世界のお金らしい。
「それじゃあ、俺達は部屋に行くぜ」
「おう! 飯が食いたくなったら、降りてきて声かけな!」
ユリカは軽く手を振って挨拶してから、俺を引っ張りながら二階の部屋へと向かう。
二階には部屋が四つあった。
おそらく四つ共、宿泊用の部屋なのだろう。
彼女が宿泊してる部屋は一番奥の部屋のようだ。
俺達はその部屋の中に入って行った。
中に入るとそこそこの広さがあり、部屋の奥には窓があった。
その傍らには窓の方に頭を向けるように簡素なベッドが二つ置かれており、ベッドとベッドの間には小さいテーブルが置かれている。
ユリカは俺を右側のベッドに座らせると、自身は左側のベッドに向かい合うように座る。
そして、怪訝な表情を崩さないまま質問してきた。
「エリア。さっきの質問をもう一度するが、おまえはキュウリが分かるのか?」
先程してきた質問と同じ内容だった。
だが、俺には何を疑問に思っているのか分からなかった。
「さっきも言いましたけど、分かりますよ?」
なので、俺も先程と同じように答える。
それを聞いたユリカが少し考える仕草を見せると、内容を変えて再び質問してきた。
「じゃあ、キュウリがどんな見た目してるか言えるか?」
そう言われた俺はすぐには思い浮かばず、どう説明するか少し考える。
(キュウリの見た目がどうしたんだろう? キュウリ……、緑色で細くて少し曲がってていぼいぼした棒? あと思いつく説明は……、……!?)
キュウリの見た目をどう説明しようか考えていた時に、ちょっと口に出せない表現が浮かんだ。
本当に親しい友人とかとなら馬鹿話的な感じで言えるが、いくら男っぽい喋り方をする子だとしてもつい先程会ったばかりのそれも女の子相手にこの答えはとてもじゃないが言えない。
考えていることがあれだったので、恥ずかしくなり頬が少し熱くなっている気がする。
(ええと……? まさか、今の俺の口から言わせたいのか!?)
おそらくは違うのだろうが、一度そうなのではないかと疑問に思うとそんな気がしてきてしまう。
そう思った俺は、気づいたら睨むような警戒するような目をユリカに向けていた。
俺の視線の変化に気づいたのか、彼女は怪訝な表情を崩し少し困惑した顔をする。
「どうしたんだ? なんか、すごく怖い顔してるが……」
「あの……、なんでキュウリの見た目を聞いてきたのですか?」
困惑してるユリカに俺は質問し返す。
俺の様子が少しおかしいことに気づいたのか、考える仕草のまま彼女が語りだした。
「さっきお前に野菜について聞かれた時、俺は味がキュウリに似てると言った」
「はい、言ってました」
俺は相槌を打つように頷く。
「そしたら、お前は『あれ、キュウリなんだ』って言ったな?」
「はい、確かに言いました」
ユリカは先程のやり取りを確認するように、話を進める。
俺は再度相槌を打つように頷く。
「でも、キュウリの見た目と何の関係があるのですか?」
俺は怪訝な目をしながら、ユリカに質問する。
すると、彼女は真剣な表情になって質問に答えた。
「本物のキュウリを見たことがあるか確認するためだ。なにせ……」
ユリカが一旦言葉を切り、そして告げた。
「この世界の野菜の中にキュウリは存在しないからな」
俺はその言葉の意味をすぐには理解できず、少し考え込む。
しばらくして質問の意図を理解し、同時に彼女が何を疑問に思っていたかも理解した。
(この世界にはキュウリが存在しない。なのに、そのキュウリのことを知っているということは? というかユリカの疑問の裏を返せば……)
そこまで考えて気づいた時、ユリカが再度質問してきた。
俺が彼女に質問しようと思ったことと同じ質問を。
「エリア、お前この世界の人間じゃねぇな? おそらく、スタゲのプレイヤーだろ?」
ユリカが確認するように、そう質問してきた。