第37話 今後の相談
リーズとゼロスが落ち着いてきたため、険悪な雰囲気が少しずつ薄れていく。
なので、俺達は改めて今後の予定を相談することにした。
「さっき聞いた時も言ってたが、次の行先はコメスでいいのか?」
「ああ、そこで色々調べたいことがあってな」
「調べたいこと……、ですか?」
リーズは首を傾げ、ゼロスもユリカの言葉を待っているようだった。
「まあ、ちょっと説明し辛いことでな。だから、これ以上はすまん……」
ユリカは申し訳なさそうな表情で頭を下げる。
「ユリカちゃん、頭を上げてください。何か話せない事情があるのでしょう?」
「ユリカ、訳有りなのは分かってるからあんま気にすんな」
「ああ、ありがとう」
リーズとゼロスの言葉を聞き、ユリカは顔を上げる。
その表情は、少しの安堵と不安そうな表情が入り混じっていた。
「もし、話したくなった時はいつでも言ってくださいね。お話を聞きますから」
「だな、遠慮は無用だぜ」
「ああ、その時は話す」
二人の言葉に、ユリカは笑顔を浮かべていた。
さて、俺はというと――。
(どうしよう……。会話に入れない……)
俺はただ三人の会話を聞いてるだけの置物みたいな状態になっていた。
俺が知っているこの世界に関しての情報は少ない。
なので、基本的にはユリカに頼る状態になっていた。
今後のために宿屋に戻ったらユリカと話をする必要がありそうだが、実際に考えてみると何を聞けばいいのかがすぐに思い浮かばない。
「エリア?」
「え?」
宿屋に戻ってからどうするか考えていた俺は、ユリカからの突然の呼びかけで我に返る。
「さっきからずっと黙ったままだが、大丈夫か?」
「えっと……、大丈夫……です?」
「いや、聞いてるのはこっちだから……」
俺の返事に、ユリカが困ったなといった表情を浮かべていた。
ユリカに心配をかけていると思った俺は笑顔を作る。
「ごめんなさい、大丈夫です。続けてください」
「あ、ああ……、分かった」
俺は続きを促すように手でジェスチャーすると、ユリカは頷いた。
そして、俺を不思議そうな顔で見つめた後、話の続きに戻る。
「行先は分かったが、いつ頃出発するんだ?」
「それは定期馬車次第だな。コメス方面に行く馬車が来るなら、明日にでも向かいたいところだ」
「じゃあ、明日はいつでも行けるように物資の補充、ですか?」
「そうなるかな」
ようやく話した俺の言葉に、ユリカが頷く。
「一応、今日中に定期馬車についてだけは調べておきたいな」
「停留所に行けば、分かるものなのですか?」
「いや、宿屋やギルドで聞いた方が正確だな」
「それではギルドを出る前に確認してから出た方がよいでしょうね」
「ああ、そうだな」
リーズの言葉にユリカが頷き、立ち上がる。
それに倣って俺達三人も立ち上がった。
「じゃあ、ミミカに聞いてみるか」
「「はい」」
「おう」
ユリカの言葉に俺達三人は頷く。
受付カウンターに向かおうとギルド内を見てみると、既に人は疎らになっていた。
どうやら、結構な時間を休憩所で話込んでいたようだ。
俺達は受付カウンターの方へ向かって行く。
カウンターの中ではミミカさんが椅子に座り、休憩しているようだった。
「ミミカ、確認したいことがあるんだが、今大丈夫か?」
「はい、大丈夫ですよ」
ユリカが声を掛けると、ミミカさんは椅子から立ち上がりカウンターの方へやってきた。
「それで確認したいこととは何でしょう?」
「コメス行きの定期馬車が次に来るのはいつ頃になるか知りたいんだ。分かるか?」
「コメス行きの定期馬車ですね、ちょっと確認してきます」
ユリカに尋ねられたミミカさんは確認のためか奥の部屋へと入って行った。
「分かるといいですね」
「たぶん、分かるとは思うぞ。ただ、念のため宿に戻ったらそっちでも確認してみようか」
「分かりました」
ユリカの言葉に、俺は頷く。
確かに確認できるなら両方でしておいた方がよさそうだ。
受付カウンターでしばらく待っていると、奥の部屋からミミカさんが戻って来た。
「お待たせしました。コメス行きの定期馬車についてですが、何事もなければ明日の昼過ぎには来ると思いますよ」
「分かった。ありがとな、ミミカ」
「いえ、お役に立てたならよかったです。……ということは馬車が来たら、明日にはコメスに行ってしまうのですね」
「ああ、そうなるな。まあ、用事があれば来るだろうから、また会えるさ」
「……そうですね、少し寂しく感じてしまいますね。また来てくださいね、ユリカさん」
「ああ!」
ミミカさんの言葉に、ユリカは力強く頷く。
ギルドでの確認が終わった俺達は、宿屋に戻るためギルドを後にした。
ギルドを出た俺達は宿屋に戻る前に最後の確認をおこなっていた。
「それで、出発は明日にするのか?」
「ああ、そのつもりだ。早朝にギルド前に集まって必要な物を買いに行こうと思っているが、皆はそれでいいか?」
「はい」
「それでよいと思います」
「俺も問題ないな」
ユリカの確認に俺達三人は頷いた。
「じゃあ、それで決定だ。今日はここで解散だな。……そういえば、ゼロスはどこの宿取ったんだ?」
「宿屋月光亭だな。ギルドから南の方に行くとあるんだ」
「そうか……。じゃあ、ゼロスとは方向が違うな。それじゃあ、また明日な」
「だな、また明日ここでな」
ゼロスは手を振りながら宿屋の方向へ歩いて行く。
その後ろ姿を見送った俺達は宿屋深緑亭のある方向へ歩いて行った。
滞在している宿屋が違うゼロスと別れた俺達は、宿屋深緑亭へと戻って来た。
俺達は宿屋でもコメス行きの定期馬車について確認を取る。
どうやら宿屋でも同様の答えで、明日の昼過ぎには来るんじゃないか、ということだった。
宿屋に戻ってきた頃にはタイミングよく夕飯タイムになっていたため、馬車の確認を済ませた俺達は夕食を取っていた。
「ちょうど、夕飯タイムでよかったですね」
「そうだな、腹減ってたしな」
「今日の魚はなんですか?」
「サーゲって書いてあったから……、鮭……だと思う」
「……確信ではないのですね」
俺達がテーブルで注文の品を待ちながらのんびり会話していると、リーズが階段を下りてくる。
リーズはカウンターで注文を済ませた後、採ってきたカリーサグラスや残ったポーション等を仕舞いに部屋へと戻っていたのだ。
俺はリーズに手を振ると、気づいてくれたのか俺達のテーブルまでやってきた。
「お待たせしました、少々やることがありましたので……」
「まだご飯も来てないですから大丈夫ですよ」
俺がそう言った直後、注文した料理が俺達のテーブルに運ばれてくる。
今日の魚もいい感じに焼けており、食欲を刺激するいい匂いがしていた。
俺は魚の切り身を少し解し、口に運ぶ。
「焼きたては美味しいですね。これは……、味と食感が鮭ですね。」
「そうだな」
「しゃけ? メニューにはサーゲと書いてあったと思いますが……」
俺達が鮭と呼んだのを聞いて、リーズは不思議そうな表情で俺達を見つめる。
俺は慌ててどう言うか頭を悩ませた。
「えっとですね……、その……」
「あ~、なんだ。俺達の故郷ではそう呼ばれていただけなんだよ。ただ、それだけだから……」
「なるほど、そういうことだったのですね」
ユリカの咄嗟の発言で、うまくリーズを誤魔化せた。
ナイスだユリカ、と言いたいところである。
「あの、ふと疑問に思ったのですが……。ユリカちゃんとエリアちゃんは故郷が同じだったのですか?」
「「え?」」
誤魔化せたと思ったら、そんなことはなかった。
ユリカの方に目を向けると、ユリカはどう答えるか考えているようだった。
「ユリカ……」
「……いや、完全に同じではないな。住んでいた街は違うと思う。たぶん、だけどな」
「そうでしたか」
それを聞いたリーズは水を一口飲む。
それ以上は何も言わなかった。
夕飯を終えた俺達は今日の依頼での疲れからか風呂から上がって早々に眠りに落ちた。




