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第36話 新たな仲間達

 依頼クエストの報告を終えた俺達は休憩所の方へ行き、ゆっくりとしていた。


「無事に依頼クエストが終わってよかったですね」

「そうだな。あの時、ゼロスさんが来なかったらどうなっていたことやら」

「ほんとに偶々だからな。あの緊急の依頼に感謝してくれ」


 先程の蔓の感触を思い出し、少し鳥肌が立つ。

 ユリカの言う通り、あの場面でゼロスさんが来なかったらどうなっていたかは考えたくない。


「本当に依頼クエストだったのですね。先程は失礼いたしました。ただ、むやみに女性に近づいたゼロスさんも悪いのですよ? あのタイミングで近づいたら余計警戒してしまいます」

「あ~、それは悪かった。今後は気を付ける」


 依頼クエストの報告により、態度が軟化したリーズさんにゼロスさんも反省の色を見せる。

 先程のような険悪な雰囲気は消え去った。

 俺は受け取った布袋の中身を確認する。

 すると、銀のような硬貨と銅のような硬貨が入っていた。

 そこでふと思い出す。


(そういえば、コルナ村にいた頃からユリカにお金を出してもらってばかりだったな。気にするな、とは言われたけど……、少しは返した方がいいよな)

「あの、ユリカ」

「ん? どうした?」


 俺が声を掛けると、ユリカは不思議そうな顔で俺を見つめる。

  

「コルナ村にいた時からですが、ずっとお金を出してもらったままだったので、少しお返ししようと思いまして……」


 俺がそう言うと、ユリカはキョトンとした顔をする。

 しばらくすると、ユリカは表情を崩し微笑む。


「それは気にしなくてもいいぞ。あの時は状況が状況だったからな」

「でも……」


 俺が何か言いかけると――。

 

「そういえば、エリアに通貨の話してなかったよな?」


 ユリカは突然話題を逸らした。


「だから、今教えておく。ちゃんと覚えろよ?」

「え……? は、はい!」

「硬貨は全部で四種類。鉄貨、銅貨、銀貨、金貨がある。順番も下から鉄、銅、銀、金だ。銅貨一枚は鉄貨十枚、銀貨一枚は銅貨百枚、金貨一枚は銀貨百枚になる。これが基本だ」

「え、えっと……。硬貨は四種類で……、銅貨は鉄貨十枚で銀貨は銅貨百枚でそれから……」 

 

 いきなりのことに頭が少しパニックを起こしているが、何とか頭に叩き込む。

 俺達の様子を見ていたリーズさんとゼロスさんは呆気に取られていた。


「エリアちゃん、お金のことまったく知らなかったのですか?」

「えっと……、はい……」

「はいって……、今までどうやって生活してきたんだ?」

「それは……、その……」


 二人から質問されるが、俺は答えることができない。

 俺は助けを求めるように、ユリカに顔を向ける。

 ユリカはやれやれと言った感じで、溜息を一つ吐いた。


「まあ、二人ともそこまでな。エリアが困ってるし」

「それはそうですが……。もしかして、エリアちゃんはどこか有名な貴族のご令嬢、なのでしょうか?」

「そんなところだろうな。それなら、自分でお金を使ったりする機会も少ないだろうし、納得できるわ」

「いえ……、そういうわけでは……」


 俺は否定するが、二人は俺の言葉を無視して話を続ける。


「エリアちゃんのこと、お家に送り届けてあげた方がよいのではないでしょうか」

「え?」

「そうだな、親御さんも心配してるだろうしな」

「あの……」

「あ~、二人とも。俺も初めて会った時はそう思ったんだが、違うみたいだぞ」


 俺の言葉が流されているのを見て、ユリカが助け船を出す。


「エリアは貴族の令嬢でもなんでもない、ただの世間知らずなだけだぞ」

「世間知らずねぇ……」


 ユリカの言葉に、ゼロスさんが疑いの眼差しで俺の方を見つめる。

 世間知らず扱いには流石にイラっときたが、事実には変わりないので俺は大人しく黙ったままでいた。

 

「エリアもちょっとずつ世の中のことを覚えていってるし、もうこの話はここまでにしないか?」

「ユリカちゃんがそう言うなら……」

「まあ、訳有りってところか。そういうことなら、この話はここまでにするしかないな」


 二人とも納得した表情はしていなかったが、ユリカのおかげでこの話はうまく流れてくれた。

 ユリカには色々と感謝しかない。 


「訳有りで行動しているのは分かったが、ユリカちゃん達はこれからどうするんだ?」

「とりあえず街々を回って行こうと思っててな。次はコメスに行こうかと思ってる」

「エリアちゃんと二人でか?」

「ああ」


 複雑そうな表情をしたゼロスさんの言葉にユリカが頷く。

 リーズさんの方に目を向けると、心配そうな表情で俺達を見ていた。


「二人だけで行かせるのは心配ですね……、…………っっ!!」


 リーズさんはしばらく考え込むと、何か思いついたという顔をした。

 それとともに表情には若干の笑みが浮かんでいる。


「そうですよ、そうですよね!」

「そうですよねって、何がだ?」


 リーズさんは何を思いついたのか、いきなりテンションを上げていた。

 その様子をゼロスさんが不思議そうな表情で見つめている。


「ユリカちゃん、エリアちゃん、私決めました。お二人の旅に付いて行きます!」

「「えっ?」」


 満面の笑みを浮かべながらそう告げるリーズさんに俺達は驚く。

 流石にこれは予想できなかったのか、ユリカも困惑している。

 俺としてもそれは考えてもいなかった。


「お二人だけでは心配ですから。特にエリアちゃんのことがですね。ユリカちゃんもエリアちゃんのことを見てあげられる人が増えるのはよいと思いませんか?」

「まあ、それはそうだが……」

「あの……、なぜ私ばかりが子ども扱いされているのですか? 少しは否定して欲しいのですが……」

「さっきのやり取りでそう思われたんだろう。それは仕方ないから諦めろ」

「……」


 俺はこれ以上言っても無駄だと思い、沈黙する。

 諦めて黙った俺の方にユリカが顔を向けた。


「エリア、リーズさんが一緒に付いて行くと言っているが、どうする? 俺は構わないが、お前の意見を聞きたいな」

「私もいいと思いますよ。仲間が増える分にはありがたいことではないですか?」

「そうか……」


 俺の意見を聞いたユリカが思考を巡らせる。

 それから、しばらくしてリーズさんの方を向いた。


「エリアもああ言ってるし、俺もさっき言った通り構わないから、一緒に行こうか。リーズさん、改めてよろしくな」

「はい! よろしくお願いいたします!」

「リーズさん、よろしくお願いします」

「あの……、それでですね……」


 リーズさんは何かを言いたそうにモジモジしだした。

 俺達は首を傾げる。


「初めてお会いした時にも言いましたが、私のことはお気軽にリーズとお呼びください。さん付けは不要です」

「分かった、リーズ」

「はい、リーズ」

「ああっっ!! お二人が私の名前を呼んでいる……!」


 リーズは恍惚な表情で、お祈りをするかのように手を組み、天を見上げる。

 その光景に、俺達はツッコミすら入れず放置した。


「俺からもいいか」


 俺達とリーズの話がまとまったところで、ゼロスさんが声をかけてきた。

 

「俺もユリカちゃん達の旅に同行しようかと思ってな」


 ゼロスさんがそう言うと、リーズは先程までの満面の笑みが嘘のように顔をしかめる。

 俺達はゼロスさんの方を向いて、続きを促す。


「流石に女性だけで旅をするのは危ないだろ? リーズさんじゃないがエリアちゃんが心配というのもある」

「私ですか!? ゼロスさんもですか!?」

「ユリカちゃんはしっかりしてるからな。心配なことには変わりないが、エリアちゃん程じゃないし」

「だそうだぞ、エリア」


 ゼロスさんに心配そうな表情で見つめられていると、ユリカが笑いながらからかってきた。


「ユリカ、笑わないでください! ゼロスさんも私を子ども扱いは止めてください!」

「別に子ども扱いしてるわけじゃないぜ。さっきユリカちゃんが言っていたが、世の中のことを覚えていってるってことは知らないこと多いんだろ? だから、心配してるだけだ」

「うぅ~……」


 ゼロスさんの言葉に俺は言い返せなかった。

 だって、事実だからな~。


「それで、ゼロスさんは俺達に付いてきて大丈夫なのか? 他に一緒に行動している人とかはいないのか?」

「偶にパーティーを組んだりすることはあるが、特別一緒にいるって人はいないな。だから、その辺は大丈夫だ」

「そうか……。なら、俺は構わないぞ。エリアはどう思う?」

「私もいいと思いますよ。ただ、子ども扱いはしないでくださいね」

「なら、最初に一つだけ。何、大したことじゃない。俺もさん付け不要で、ゼロスと気軽に呼んでくれ。俺も、ユリカ、エリアって呼ぶからさ」

「分かった。それじゃよろしくな、ゼロス」

「よろしくお願いしますね、ゼロス」

「ああ、こちらこそよろしくな」


 俺達は同意し、ゼロスも一緒に来ることが決まった――。


「待ってください!」


 と思っていたら、リーズが待ったをかける。

 そして、リーズはゼロスを睨む。


「ゼロスさんも一緒に付いてくるとはどういうことですか!」

「それはさっき言っただろ? 女性だけだと危ないし、二人のことが心配だから……」

「確かに女性だけですが、私も一緒に付いて行くので結構です」

「だが、二人は許可してくれたぜ?」

「それは、そうですが……」


 言い渋るリーズは上手い言葉が見つからないのか、俺達の方を見つめる。


「ユリカちゃんもエリアちゃんも本当によいのですか? もっとよく考えてください。男性をパーティーに入れるということを……」

「そう言われて改めて考えても、パーティーに加えることに問題はないと思うけどな。今日のマンイーターみたいな変な魔物にあった時とかな。戦闘面でもゼロスは、聖盾のゼロス、と言われるほどの実力者だし」

「聖盾のゼロス、と呼ばれているということは、ゼロスのメインの役割は剣での攻撃より盾を用いての守りなんですよね? パーティーバランス的にもいいと思いますよ?」

「それは私も理解しています! 私が気にしているのはそういうことではなくてですね。ゼロスさんの噂に女好きだという噂がありまして、エリアちゃんやユリカちゃんに手を出さないか不安なんです!」


 そう言いながら、俺達の後ろにきたリーズは後ろから俺とユリカを抱きしめ始める。

 俺とユリカは椅子に座ったままだったので、一瞬椅子から落ちそうになった。

 その状態に気づいたのか、リーズは抱きしめる力を緩める。

 目の前でそう言われた本人は流石にイラっとしたようだ。 


「流石に、噂だけでそう判断されたくねぇな。いろんな噂が流れてることは分かったが、それを全面的に信用されても困んだよ」

「火のない所に煙は立たぬ、と言います。何もなければ煙は立たないでしょう?」

「何もなくても立つときは立つんだよ!」

「「…………」」


 再びの険悪ムードで周りの空気が重い。

 これはどうすればいいのか、俺には分からない。

 俺はユリカの方に顔を向ける。

 ユリカもどうしたものかといった表情をしていた。


「ユリカちゃん、エリアちゃん、再度お尋ねしますが、本当によいのですか? 不安に感じたりはしないのですか?」

「えっと……、その……」


 リーズに問われた俺はユリカの方に目を向ける。

 すると、ユリカと目が合った。

 どうやら、ユリカも答えに困っているようだ。


「私としては、リーズとゼロスが険悪な状態のままの方が不安と言いますか、その……」


 俺は二人の顔を交互に見上げながら答える。

 それを聞いた二人は呆然としながら俺を見ていた。


「確かにそうだな。今、不安に感じることと言えば、リーズとゼロスの中が険悪な事だと思う」


 ユリカも俺に同意するように頷く。

 俺達の言葉を受けて顔を見合わせる二人。

 しばらく睨み合っていたが、表情を緩めた。


「このパーティーのリーダーはエリアちゃんとユリカちゃんです。そのお二人にそう言われてしまっては……」

「ああ、こりゃ参ったな」

 

 ゼロスは軽く頭をかく。

 お互いに少しずつ冷静になっているのが表情から読み取れた。


「分かりました。お二人がそう言うのであれば、私はもう言いません。ですが……」


 リーズはゼロスの方を真剣な眼差しで見つめる。


「もし、エリアちゃんとユリカちゃんに何かしたら……。その時は容赦しませんからね!」

「分かったよ、肝に銘じておく。俺だってそういうつもりで同行すると言ったわけじゃないしな」 


 こうして、なんとか丸く収まったのだった。


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