第34話 みんなのトラウマ
カリーサ大森林の奥地にてカリーサグラスを見つけた俺達三人。
後は、採取するだけという時に、魔物が姿を現す。
見た目はマンイーターのようだが、色が緑ではなく赤かった。
俺達三人は慌てて戦闘態勢を取る。
「気を付けろ! こいつ、普通のやつとは違うぞ!」
「これは変異種でしょうか。赤いマンイーターは聞いたことがありませんが……」
「どうしますか?」
「どうするもこうするも倒すしかないだろ」
ユリカはハルバードを構え、赤いマンイーターに接近していく。
「いくぜ! 爆砕襲撃!」
ユリカはハルバードを振り上げながら飛び上がると、落下に合わせてハルバードを地面に振り下ろした。
それにより発生した小さな破片達が赤いマンイーターに襲い掛かる。
しかし、特に何の行動もしていない赤いマンイーターに当たった破片は全て弾かれた。
「何!? 俺の攻撃が効いてない!?」
攻撃が効いていないのを確認したユリカは、急いで赤いマンイーターと距離を取る。
そこに俺とリーズさんも集まった。
「ユリカの攻撃、弾かれてましたね」
「ああ。あのマンイーター、妙に堅いな」
「では、次は私の銃と魔法で攻撃してみます」
リーズさんは両手の銃を構える。
そして、赤いマンイーターの頭部に向けて銃弾を放つ。
しかし、その銃弾はマンイーターの頭部に命中するが弾かれてしまった。
「なら、これはどうでしょう。聖なる光よ、我が眼前の敵を破砕せよ! シャインブラスト!」
リーズさんが呪文を唱え、銃を持った右手を突き出す。
すると、赤いマンイーターの元に光が集まっていき、マンイーターの全身を覆う。
そして、光がマンイーターを覆い尽くすと、その輝きが増し、爆発して四散した。
周囲が爆発により土煙に覆われる。
そして、土煙が晴れるが――。
「そんな……。なぜですか!?」
そこには無傷の赤いマンイーターがいた。
「私もいきます! ホーリーランス!」
俺が手を振り上げると、光の槍が六本出現する。
そして、赤いマンイーターの頭部に狙いを定め、俺が手を振り下ろすとマンイーターの頭部目掛けて光の槍が高速で飛んで行く。
赤いマンイーターの頭部まで飛んで行き、命中すると光の槍は貫かず先端が砕けて消滅した。
「まだです! デスチェイサー!」
俺はスキルを発動した。
デスチェイサーは一定時間武器に一定確率で即死する効果を付与するスキルだ。
すると、俺の大鎌の刃の部分が深紅色に明滅する。
俺は赤いマンイーターに接近していく。
「これなら、どうですか! ブラッディサークル!」
俺は自分を軸に独楽の様に回転した。
ブラッディサークルにも一定確率で即死する効果が備わっている。
俺は赤いマンイーターの蔓を切り刻もうと、回転しながら接近した。
そして、刃がマンイーターの蔓に触れると――。
まるで金属の様な硬いものに思い切り打ち付けたかの様な反動が両手を襲う。
「ぐぅっ!」
俺は反動で手が痺れ、大鎌を取り落としてしまった。
手の痺れが酷くて動けず、そのまま敵の目の前で座り込んでしまう。
「エリア!」
「エリアちゃん!」
二人が叫んだ声が聞こえると、慌てて二人の元に一時下がろうとしたが――。
「シャアァァァァァっ!」
俺の元に赤いマンイーターの蔓が無数に飛んでくる。
「え? ひゃあぁぁっ!」
俺は両手両足首が蔓に絡みつかれ、身動きが取れなくなってしまった。
「今、助ける!」
ユリカは赤いマンイーターの方に向かって、ハルバードを振り上げながら跳躍する。
「専用特技! 全てを貫く破砕の一撃!」
ハルバードの槍と斧の部分が青白い光に包まれる。
そして、跳躍からの落下に合わせて、俺を拘束している蔓に向かってハルバードを振り下ろした。
だが、その強力な一撃を喰らっても、蔓に僅かに傷をつける程度だった。
ハルバードは蔓の切り口に嵌って抜けない状態になってしまう。
「くそっ! 武器が抜けねぇ……」
「キシャアァァァァァっ!」
抜けないハルバードを抜こうとしていたユリカにマンイーターの蔓が迫る。
「ユリカちゃん! させません!」
リーズさんは銃を構えて、弾丸をユリカに迫る蔓に撃ち込む。
だが、その弾丸は蔓に命中しても蔓を止めることができずに弾かれてしまう。
「うわっ!」
ユリカも俺と同じ様に両手両足を赤いマンイーターに拘束されてしまった。
「ユリカちゃん!」
蔓は今度はリーズさん目掛けて、殺到する。
その蔓の姿はまるで津波の様だった。
リーズさんは蔓を避けたり、銃を撃ったりしていたが、隅の方に追いやられてしまう。
俺はスタゲの頃の記憶を手繰り寄せ、思い出そうとする。
(あのマンイーター、見覚えがあるんだけど思い出せない。いったい、どこで見たんだ? カリーサ大森林……、マンイーター……、赤い……)
俺は必至に頭を搾る。
後少しで思い出せそうという時だった。
「きゃあっ!」
声の方に顔を向けると、粘っていたリーズさんも蔓に拘束されてしまっていた。
俺は赤いマンイーターの頭部を見て、何かが頭をよぎる。
そして、俺は思い出した。
「思い出しました! このマンイーター、まさかウーマンイーターじゃないですか?」
「ウーマンイーター、ですか?」
「なるほどな、それで攻撃が全く効かなかったのか」
「リーズさん、ウーマンイーターは女性からの攻撃に耐性を持っているマンイーターなんです」
「そのようなマンイーターがいたなんて」
リーズさんが驚愕の表情をしていた。
ウーマンイーターはスタゲの初期に実装されたモンスターだ。
こいつはカリーサ大森林の奥のマップにポップアップする。
実装当時、女性キャラを使うプレイヤーが多かったため、男性キャラを使うプレイヤーを増やすために運営が実装したのだ。
ウーマンイーターは女性キャラの攻撃に高い耐性をもっており、初見殺しはもちろんのこと、多くのプレイヤーが手も足も出ないという地獄を見た。
弱点は単純なもので、女性キャラに強い反面、男性キャラの攻撃には弱いのだ。
当時は男性キャラを使っているプレイヤーがあまりおらず、知り合いの男性キャラは引っ張りだこだった。
あまりの酷さに課金して男性キャラを最初から作り直す人もいた。
今はウーマンイーター自体の弱体化とインフレしていることもあって女性キャラでもある程度の火力があれば倒せるようにはなっている。
最初に思い出せていれば、対策はできたかもしれないが、実物を見てもすぐに思い出せなかったのが痛かった。
俺達のパーティーには男性はいない。
おまけに全員捕まってしまっているため、相当ピンチな状況になっている。
ユリカやリーズさんの方を見ると、なんとかしようと足掻いていた。
俺も足掻こうと思った時だった。
俺を拘束している蔓とは別の蔓が両手両足首に巻きついて段々と付け根を目指すよう巻き付きながら上がっていく。
這い上がる蔓の感触は気持ち悪く、全身に鳥肌が立つ。
両手の方は袖から服の中に入り巻き付いて段々と登っていく。
両足の方も足首からふくらはぎ、ひざ、太ももとどんどん巻き付いて登ってくる。
蔓が動くたび、気持ち悪い感触がして鳥肌が止まらない。
「っっ! 嫌っ!」
俺は必死に足掻くが蔓の拘束は固く、びくともしない。
こうしている間にも、腕側は体の方へ、足側は太ももに巻きつきながら上を目指してスカートの中にまで入って来ていた。
「やめっ! 嫌っ!」
そう言い、必死に足掻いていた時だった。
「はあっ!」
突然現れた白銀の鎧に白いマントを身に着けた男性が俺を拘束していた蔓を切り落とした。
「え……? ひゃあっ!」
それと同時に蔓の支えがなくなり、地面に落下しそうになる。
地面に落ちる、と思わず目を瞑ってしまった。
だが、いつまで経っても地面にぶつかった衝撃が来ない。
目を開けると、その男性にひざ裏と首後ろを支えて持つ所謂お姫様抱っこをされていた。




