第32話 カリーサ散歩
翌日の朝、俺達は身支度を整え一階で朝食を取っていた。
早朝ということもあり、他の客はほとんどいない。
朝食を食べ終えた頃、リーズさんが階段を下りて来る。
そして、俺達を見つけるとこちらに小走りでやってきた。
「エリアちゃん、ユリカちゃん、おはようございます」
「おはようございます」
「おはよう」
「朝食、同席させていただいてもよろしいですか?」
「はい」
「ああ」
俺達が頷くと、リーズさんは料理を注文しにカウンターへ向かう。
カウンターから戻ってくると、俺達のテーブルの空いている席に座った。
「お二人は既に食べ終えているのですね」
「起きたのが早かったからな」
「朝早くから、注文を受け付けててよかったです」
それから俺達三人でお喋りしていると、リーズさんの元に料理が運ばれてくる。
料理を見てみると、俺達が選んだメニューと同じようだった。
「リーズさんもそれを注文したのですね」
「ええ、あの中だとこれが美味しそうに見えたもので」
「まあ、実際美味かったけどな」
俺達は食事をするリーズさんと会話を楽しみながら、食後の腹を休めていた。
リーズさんも朝食を食べ終えてから少しの休憩の後、俺達三人はカリーサの街を散歩しながらお店へと向かっていた。
周囲を見回すと、この辺りにも大きな街路樹が綺麗に並んでいる。
街の中にも自然が多いからか、空気がおいしい。
「朝早くから、やっているお店ってどのくらいあるのですか」
「俺が知ってる限りだと二~三軒かな。リーズさんは行く予定のお店とかあるのか?」
「私もカリーサには数回程しか来たことがなくて、お店は完全には把握できていませんね。一応、いつも行くお店はありますけど……」
「なるほどな。じゃあ、俺が知ってるお店とリーズさんの行きつけのお店を見てみようか」
「はい」
「そうしましょうか」
俺とリーズさんが頷くと、最初にユリカが先頭に立って案内し始めた。
ユリカの案内で最初に来たのは街の南口の辺りだった。
ここは、俺達が定期馬車を降りた停留所がある。
その関係で人の往来が多いのか、この辺りには様々なお店が固まっていた。
ただ、どの店も開店準備中といった様子である。
先程までいた宿屋周辺は冒険者ギルド以外は民家ばかりのようだったので、また違った雰囲気がしている。
「この辺りはお店が多いですね」
「どの街も停留所の周りは結構店多いぞ。やっぱり、人の往来が違うんだろうな」
ユリカの先導で、店が多いこの通りを今度は東の方へ進んで行く。
その途中、突然リーズさんに手を繋がれた。
いきなりのことにびっくりした俺はリーズさんの方を見上げる。
すると、リーズさんは笑顔を浮かべていた。
(昨日のことがあるから少し不安だけど、これくらいならいいか)
俺は手を繋いだまま、ユリカの後を付いて行った。
それから十分弱くらい歩いたところでユリカが足を止める。
店の様子を見てみると、他の店と違い既に開店しているようだ。
「ここは何のお店ですか?」
「ここは雑貨屋だな。いろんな物が置いてある。昨日使ったテントもここで見つけて買ったんだ」
「とりあえず、入ってみましょうか。何かいいものがあるかもしれませんから」
リーズさんの言葉に頷き、俺達三人は店の中へ入って行く。
店に入った俺は周囲の棚等を見てみる。
そこには、食器や置物、本に見てもよく分からないものなど、様々な物が置いてあった。
店内を見て回っていた俺は、あるものを見つける。
「ユリカ、これ買いませんか?」
「ん? どれだ?」
「これですよ」
俺が指差すと、ユリカがその先を目で追う。
それはまな板と包丁とナイフのセットだ。
「そういえば、この前なくて困ったんだよな」
「はい。なので、これはあった方がいいと思います」
「何か見つけたのですか?」
俺達がまな板セットを見ていると、リーズさんがこちらにやってきた。
「まな板と包丁とナイフのセットですよ。この前、一式足りなかったのであった方がいいかなって話してたんです」
「なるほど、そうだったのですね。ですが、足りないということでしたが二セットは荷物がかさばるのではありませんか?」
「それに関しては俺達は大丈夫だから、心配いらないさ」
「どういうことですか?」
ユリカの言葉にリーズさんが不思議そうな表情をする。
俺達は腕輪を持っているから大丈夫なのだ。
しばらく思考していると、リーズさんは何かに気づいたのか俺の方に顔を向ける。
「もしかしてエリアちゃん、ストレージリングをお持ちなのですか!?」
リーズさんは少し驚いた表情で俺を見ている。
ユリカの話ではかなり高価な品らしいし、仕方がない。
俺はどうするかとユリカに視線を送る。
それに気づいてくれたのか、少しの思慮の後ユリカが首を縦に振った。
「はい、確かに腕輪を持っていますよ」
「やはり、そうでしたか。それなら、荷物の心配はなくなりますね。ただ……」
リーズさんは俺の方を心配そうな顔で見つめる。
見つめられた俺は首を傾げる。
「逆に、エリアちゃんが変な人に襲われないか心配ですね。でも、大丈夫ですよ。何があっても私が守りますからね!」
「え? えっと……、ありがとうございます?」
「まあ、俺もいるから大丈夫だぞ」
「いえ、ユリカちゃんも私が守ります!」
「……え?」
ユリカの言葉に、鼻息荒くリーズさんが即答する。
即答されたユリカも困惑した表情をしていた。
「お二人は私が守るので安心してくださいね!」
「それ……、私達の台詞なのですが……。冒険者的には」
「だよな……」
やる気満々のリーズさんを、俺達はただただ見つめることしかできなかった。
雑貨屋でまな板セットを購入した俺達三人は、ユリカ先導の元で次の店がある街の西口の方へ向かっていた。
その道中、先程の宣言通りリーズさんは左手でユリカと右手で俺と手を繋ぎながら歩いていく。
その状態は若干歩き辛く、結構恥ずかしかった。
(なんか、子ども扱いされてないか? めっちゃ恥ずかしいんだが……)
と思いながらリーズさんの顔を見ると、昨日のような満面の笑みを浮かべている。
(もしかして、守るは口実で実際は手を繋ぎたかっただけなんじゃ……?)
そう思えるほど、機嫌が良さそうな雰囲気を醸し出している。
この状態のまま、俺達三人は街の西口に到着した。
俺は周囲を見渡す。
この辺りも様々な店が開店準備をしていた。
ただ、広場の大きさは南口より小さい。
「西口にも停留所があるのですね」
「この街は確か、西口、東口、南口に停留所があるんですよ」
「ここの定期馬車はトレンス行きなんだ。だから、それに合わせて食料関係の店が多いな」
「なるほど。じゃあ、ここでは食料を調達するのですね」
「ああ、その通りだ」
ユリカは頷きながら、北へ向かう通りを歩いて行く。
程なくして、ユリカの目的の店に到着する。
色々な野菜や果物が売っている八百屋だった。
だが、元の世界とは違う野菜が売っており、相変わらず見てもどれがどんな野菜か分からない。
「ユリカ、買う物は私が持ちますよ」
「じゃあ、頼むわ。リーズさんは何か買う物あるか?」
「いえ、私は携帯できる食料を持っているので大丈夫ですよ。ただ、店には一緒に行きます」
「分かった」
俺達三人は店の中に入って行き、食料を調達した。
すぐ傍にあった三軒目での買い物も済ませた俺達三人は、リーズさんの行きつけの店がある北口へ向かって移動していた。
もちろん、両手で俺達と手を繋ぎながらだ。
そろそろ他の店も開店する時間になり、人通りが多くなってきている。
道行く人たちは俺達の方にちらちら目を向けていた。
(なんか、めっちゃ見られてるんだが……。やっぱり手繋いでるのおかしいからか? でもリーズさん、手を放してくれないし……)
周りに目を向けると、こちらを見ていた人達が慌てて目を逸らす。
まるで監視されているみたいで、居心地はあまりよくなかった。
しばらく歩くと北口に到着する。
リーズさんのお目当ての店は北口のすぐ傍にあった。
「ここがリーズさんの行きつけの店か。ちなみに何を売ってるんだ?」
「ここは薬屋ですね。ポーションや解毒剤などの薬品を扱っているお店です。ここの薬品は質がいいのでここでいつも買っています」
「なるほどな」
リーズさんが店に入って行き、手を繋いでいる俺達も引っ張られていく形で店に入る。
店の中を見渡すと、左右の棚に薬品が所狭しと並んでいた。
薬品を見てみるとポーションっぽい青色の薬などがある一方で、毒々しい紫色の毒薬っぽい薬品も置かれている。
店に入るとリーズさんが手を放してくれた。
だが、俺が棚に近づこうとすると、後ろに引っ張られる。
見ると、俺の右手をリーズさんが掴んでいた。
「エリアちゃん、そっちは危ない薬品とかも売っていますから近づかない方がいいですよ。ユリカちゃんもですよ」
「わ、分かりました」
「わ、分かった」
突如引っ張られた俺はとりあえず素直に頷く。
反対側にいるユリカも同じ様に頷いていた。
俺達は固まって動かずに、リーズさんの方を見つめる。
すると、リーズさんはその間に薬品類を購入していた。
会計が終わると、俺達の元に戻ってくる。
そして、俺達三人は店を後にした。
買い物を終えた俺達三人は北口広場で最後の確認を行っていた。
「それじゃあ最終確認だが、依頼はカリーサ大森林奥地にてカリーサグラスの採取及び道中の同行、でいいな?」
「ええ、それで合っていますよ。お二人とも、よろしくお願いいたしますね」
「はい!」
「おう!」
こうして、俺達三人は北口からカリーサ大森林を目指して出発した。




