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第29話 豊穣都市カリーサと初めてのギルド

 翌朝、俺は目を覚ますと、髪や服装を整えテントから出る。

 すると、それに気づいたユリカがこちらに顔を向けた。


「おはよう、エリア。しっかり休めたか?」

「はい、ぐっすり寝れました。見張りありがとうございました」


 俺は頷き、ユリカに礼を言った。


「馬車での移動が始まったら、俺は仮眠を取るからその間よろしくな! ただ、やばそうな時はちゃんと起こしてくれよ?」 

「分かってますよ、任せてください!」

「本当に頼むぞ?」


 俺が自身満々にそう言うと、ユリカが再度釘を刺した。

 

 俺達は朝食と椅子やテントの片づけ、荷物の整理を済ますと、馬車へ向かって歩いて行く。

 馬車の近くまで来ると、御者が馬達に餌を与えているのが見えた。


「御者のおっちゃん、おはよう」

「おはようございます」

「おお、お嬢ちゃん達。おはよう」


 俺達が挨拶すると、御者は俺達に気づいてこちらを向いた。

 

「馬車はいつ頃出発しますか?」

「馬達が餌を食べているから、食べ終わったら出発できるよ。先に馬車に乗って待ってておくれ」

「分かりました。ユリカ、馬車に乗ってましょう」

「おう」


 御者の言葉に従って、俺達は馬車に乗り込んで席に腰掛ける。

 それから、しばらくすると馬車が走り始めた。

 動き出しと同時に、ユリカは座ったまま目を瞑る。


「それじゃ、俺は少し仮眠するわ」

「はい。おやすみなさい、ユリカ」


 ユリカはしばらくすると寝息を立て始めた。

 俺はそんな彼女を見つめたり、馬車の外を眺めたりしながら過ごす。 

 警戒はしていたが、それからは何事もなく馬車は進みカリーサに到着した。

 

 カリーサに到着した俺達は、ユリカの案内でおすすめの宿へ向かって歩いていた。

 豊穣都市カリーサ。

 ゲームだった頃は推奨レベルが低いため、キャラ作成後に転送される王都から最初に向かい、初心者が拠点にする街である。

 カリーサ周辺はダンジョンなどがあまりないため、初心者は街の外のフィールドでレベル上げや|街の人(NPC)からの依頼クエスト等をしたりするのだ。


「それにしても……」


 俺はユリカの後をついて行きながら、周囲をキョロキョロと見渡す。

 石畳みと所々にある土の地面剥き出しの箇所、中央に向かって並ぶ大きな街路樹、石垣のような土台の上に建てられた木造家屋。

 正に、PCの画面越しに見ていた光景が目の前に広がっていた。

 その光景を眺めていると、テンションが上がってくる。


「ユリカユリカ! すごいです! スタゲの街が目の前に広がってますよ」

「分かったから、あまり騒ぐなよ。変に目立ちたくないだろ?」


 興奮気味の俺をユリカが宥める。

 そう言われた俺は深呼吸をし、一旦落ち着く。


「ごめんなさい、つい興奮してしまって……」

「まあ、気持ちは分からないでもないけどな」


 そんな話をしていると、ふいにユリカが足を止めた。

 どうやら、おすすめの宿に到着のようだ。

 俺は宿の看板を見上げる。

 すると、そこには宿屋深緑亭と書かれていた。

 ユリカが宿の中に入って行くので、俺もその後に続いて宿の中に入って行く。


 たまたま二人部屋が確保できた俺達は、宿で昼食を取っていた。


「この後はどうしますか?」

「食べ終わったら、冒険者ギルドに行かないといけないな。依頼クエストの達成報告しなきゃならないからさ」

「冒険者ギルド! 気にはなってました!」


 ユリカの言葉に、思わず身を乗り出す。

 コルナ村で冒険者ギルドの話を聞いてから気にはなっていた。


「ギルドについてから、さっきみたいに騒いだりするなよ?」

「分かってますよ、大丈夫です」

「本当かぁ~?」


 俺が勢いよくそう言うと、ユリカは半信半疑な目でこちらを見つめる。

 あまりにもユリカが疑いの眼差しで見つめてくるので、思わず目を逸らしてしまった。


「今、目逸らしたろ?」

「ユリカがじっと見つめてくるからですよ」


 ユリカにそう言われ、目を逸らしたままそう言い返した。


「まあ、一応釘刺したし、信用しようかね」

「本当に今度は大丈夫ですから」


 その言葉に俺はほっとした。


 その後もしばらくお喋りして食後の休憩を過ごす。

 そして、冒険者ギルドに行くために宿の外へと向かった。  


 宿を出た俺達は、再びユリカの案内で冒険者ギルド・カリーサ支部へ向かって歩いていた。

 宿からおよそ十分くらい歩いたところで、ユリカが少し大き目の木造家屋の前で立ち止まる。

 建物を見上げると、看板には冒険者ギルド・カリーサ支部と書かれていた。

 

「ここが……、冒険者ギルドですか」

「ああ、そうだぞ。宿からも近くて結構いいだろ?」

「確かに、すぐ着きましたね」


 俺がそう言うと、ユリカも同じように冒険者ギルドを見上げる。

 

「それじゃあ、入って依頼クエストの報告に行くぞ」

「はい」


 俺達は冒険者ギルドの中に入って行った。


 中に入った俺は、冒険者ギルドの中を見渡す。

 入って真ん中に受付カウンターがあり、左手には丸テーブルや椅子が置いてあった。

 おそらくは休憩スペースだろう。

 右手は二階に続く階段があり、上の階にも何かありそうだ。

 

「ユリカ、二階には何があるのですか?」


 俺がそう尋ねながら、二階を指差すとユリカもその先を見上げる。


「二階は診療所になってるんだ。怪我した時は二階に世話になるな」

「そうなんですね」


 俺達はそんな話をしながら、受付へと向かった。


 受付に来た俺達は、奥の方で何やら作業をしている少女に声を掛ける。


「ミミカ、依頼クエストの報告に来たぞ」

「ちょっと待ってくださいね」


 受付の少女はそう言うと、綺麗なエメラルドグリーンのロングヘアを揺らしてこちらに振り返る。

 そして、ユリカの顔を見ると嬉しそうな表情を浮かべ、カウンターに小走りでやってきた。


「ユリカさん、おかえりなさい。結構戻りが遅かったので心配しましたよ」

「心配かけて悪かったな。盗賊団の残党探しに手間取ってな。それじゃあ、これが依頼達成の証だ」


 ユリカはそう言うと、カウンターの上に戦利品を並べていく。

 受付の少女は並べられた戦利品を確認していった。


「確かに、確認させていただきました。それでは、ギルドカードの提示をお願いします」

「ああ」


 ユリカは頷くと、ギルドカードを取り出して受付に提示した。

 受付の少女はそれを受け取ると、何かの装置の上に置き、装置を操作する。

 操作が終わって少しすると、ユリカにギルドカードを返却した。

 そして、受付カウンターの中にしゃがみ込むと、布袋を取り出す。


依頼クエスト達成の報告、受領しました。それでは、こちらが依頼の報酬となります」


 受付の少女は布袋をカウンターの上に置いた。

 中を覗くと、硬貨が入っている。

 ユリカはそれを受け取ろうとして、動きを止めた。


「そうだった、依頼クエスト絡みのことで別に報告したいことがあったんだ」

依頼クエストで何かあったのですか?」


 受付の少女が首を傾げると、ユリカは頷いた。

 コルナの森で謎の魔物に出会い討伐したこと、その魔物の死体が合わさって別の魔物になり討伐したこと、そして合わさった魔物の死体に盗賊達が身に着けていたと思われるものが付いていたこと等を伝える。

 それを聞いた受付の少女は驚いた顔をしていた。


「そんな話、初めて聞きましたよ」

「俺も見たのは初めてだったぞ。正直、一人で戦ってたらやばかったかもしれない」


 ユリカはそう言い、俺の方を見る。

 その目線につられて受付の少女も俺を見た。

 急に二人の視線がこちらに向き、俺は困惑する。

 とりあえず、俺は受付の少女に向けて会釈した。


「そういえば、紹介してなかったな。こいつはエリア。今、話した件で協力してもらったんだ」

「初めまして、エリアと申します」

「初めましてですね。見ての通り、私は冒険者ギルド・カリーサ支部で受付を担当していますミミカ・イースティアと申します。よろしくお願いしますね、エリアさん」 


 ユリカに紹介された俺は再度会釈する。

 それを見た受付の少女も会釈を返した。

 二人の自己紹介を見届けたユリカは再度、俺の方を向く。


「そうだ、エリア。おまえも冒険者ギルドに登録しておいた方がいいだろう」

「っ! 私、冒険者デビューですか!」


 ユリカの提案に、再び俺の気持ちが昂る。

 すると、ユリカに脇腹をつつかれた。


「ごめんなさい……」

「まったく……、やっぱりこうなったか……」


 ユリカは肩を竦めた。


「ふふっ! 二人は仲良しなんですね」


 そんな俺達のやり取りを見ていたミミカさんは、俺達の方を向いて笑う。


「それで、エリアさん。冒険者登録はいたしますか?」

「はい! お願いします!」


 ミミカさんに尋ねられた俺は即答で頷く。

 俺が頷くと、ミミカさんは一枚の紙と羽ペンを差し出した。


「それでは、こちらの用紙に必要事項を記入してください」

「分かりました」


 そう言われ、俺は必要事項を軽く確認していく。

 名前や性別、年齢などほとんど一般的な内容だった。

 いざ、記入しようとしてふと疑問が浮かぶ。


(一番下の項目、推薦者ってなんだろう? 名前、性別、年齢は……、マイキャラエリアので大丈夫か)

「あの、すみません。一番下の推薦者というのは何ですか?」

「それは、既に冒険者登録されている方に推薦された場合に記入する欄ですね。基本的に冒険者登録の際には、登録試験があるんですよ。結構軽い試験なので、ほとんど落ちることはありませんけどね。冒険者登録時に、Dランク以上の冒険者の推薦があると、登録試験をパスしてすぐに登録ができるんです」


 俺がミミカさんに尋ねると、丁寧に説明してくれた。


「それじゃあ、俺がエリアの推薦人になるよ。推薦欄は推薦者が記入するのか?」

「はい、そうです。それとランク確認のため、ギルドカードを提示していただいています」

「分かった」


 ユリカは頷くと、用紙に自分の名前を記入しギルドカードを提示する。

 ミミカさんはそれを受け取ると、ギルドカードを確認しユリカに返却した。


「ギルドカード、確かに確認させていただきました。エリアさんは登録試験をパスして冒険者登録を行いますね」


 そう言うと、ミミカさんは記入された用紙を持って奥の方へ入って行った。


「ユリカ、推薦人ありがとうございました」

「礼はいらないぞ。おまえの実力は知ってるからな」


 俺が礼を言うと、ユリカは微笑んだ。

 

 しばらく受付カウンターで待っているとミミカさんが戻って来た。


「お待たせしました。こちらがエリアさんのギルドカードになります」 


 俺はミミカさんからギルドカードを受け取る。


(これで、俺も冒険者か~)

 

 冒険者になったことに対し、謎の感動の様なものを感じていた。

 そんなことを考えていると、脇腹をまたつつかれる。


「エリア、まだ話終わってないぞ」


 どうやら、ユリカにつつかれたようだった。


「ごめんなさい、つい謎の感動で……」

「あははは……、それでは最初から説明いたしますね」

「本当にごめんなさい……」


 俺は頭を下げて謝った。


「それでは、始めから説明させていただきますね。まずは、冒険者ランクについてですね。最初はGランクから始まり、実績に応じてランクは上昇していきます」

「最初はGランクですか……、推薦者がDランク以上なのでDランクからいろいろ変わってくるのですか?」

「そうですね……、受けられる依頼クエストが増えてくる代わりに依頼クエストによっては危険性が高くなっていくというのはありますね。でも、これに関しては仕方のないことですけど……」

「やっぱり、そうなっていくんですね」


 俺の質問にミミカさんは頭を捻りながら答える。


「それでは、次に依頼クエストについて説明していきますね。基本的に、自分のランク以下の依頼クエストしか受けることはできません。しかし、複数人でパーティーを組みパーティーランクが依頼クエストのランク以上の場合は特別に依頼クエストを受けることができます」

「パーティーランクというのは、冒険者ランクの平均とかそういう感じなのですか?」

「はい、パーティーを組んで自身のランクより高い依頼クエストを受ける場合には、パーティーの皆様のギルドカードからパーティーランクを割り出し、そのランクが依頼クエストのランク以上になれば依頼クエストを受けられるんです」


 俺はミミカさんの話を聞きながら、相槌を打つ。


「じゃあ、自分が受けられるのは、今はGランクのみなのですね」

「そうなりますね。ただ、ユリカさんとパーティーを組んで依頼クエストをするのであればもう少しだけ上のランクの依頼クエストを受けられますけどね」

「まあ、一緒に行動してるからその辺は大丈夫だろう」


 俺がミミカさんからアドバイスをもらっていると、ユリカが補足する。 

 パーティーランクの説明を聞いて、ふと疑問が浮かんだ。


(ユリカとパーティーを組んでパーティーランクを上げれば、Gランク以上の依頼クエストも受けられるのか……。……そういえば、ユリカは何ランクだろう?)

「そういえば、ユリカの冒険者ランクは何ランクなのですか?」

「俺のランクか? 俺のランクはBランクだぞ」

「えっ!? そんなに高かったのですか!?」

 

 ユリカのランクを聞いて、俺は驚愕した。

 想像以上の高ランクだったからだ。


「ユリカさんは、私がカリーサ支部で受付を担当する前から冒険者していましたからね」

「そうだったな。久しぶりにカリーサに来た時には、受付変わってたもんな」  


 ミミカさんの言葉に、何かを思い出すようにユリカは上の方を見つめる。


「次に、依頼クエストの受け方について説明しますね。入り口から入って右手に掲示板があります。その掲示板から受けたい依頼クエストの用紙を受付に持ってきてください。冒険者ランク等の確認が終わりましたら、依頼クエストの受付手続き完了になります」

「右手……、あっ! あれですね」


 俺が掲示板を指差すと、ミミカさんは頷いた。


「はい、そうです。一応、一度に受けられる数は厳密には決まっていませんが、期限付きのものもあったりしますので、基本的に一度につき一つの依頼クエストのみという感じになりますね」

「まあ、一度に複数受けて達成できなくても困るしな……」

「なるほど、確かにそうですね」


 二人の話に、納得し頷く。

 複数の依頼クエストを無理に受けて期限が過ぎたりしたら、一番困るのはギルドだもんな。


「最後に……」


 と、ミミカさんが話をしていると、二階から艶やかなアクアマリンのボブヘアをした少女が降りて来る。

 その少女は俺達に気づくと、こちらにやってきた。


「ミミちゃん~、おつかれ~」

「ココちゃんもおつかれさま。もう、終わったの?」

「うん、今日は終わり~」


 二階から降りて来た少女はミミカさんと親しげに話し始めた。


「あ~、ユリカちゃん戻って来たんだね~。依頼クエスト~、おつかれさま~」

「ああ、ちょうどさっき戻ってきてな」


 今度はユリカの方に向き、話しかけた。

 最後に、少女は俺の方を向く。


「あなたは~……、初めまして~?」

「はい、そうですね。初めまして、エリアと申します」


 尋ねられた俺は自己紹介をし、首を傾げている少女に会釈した。


「これはご丁寧にどうも~。私は~、ココナ・ノースティアと言います~。よろしくお願いしますね~」

  

 俺の自己紹介に対し、彼女も会釈しながら自己紹介してくれた。


「ココちゃんは二階にある診療所で働いているんですよ。それと最後に説明しようと思ったのが診療所についてです。名前の通りなのですが、依頼クエスト中に怪我等をして治療が必要な場合、回復魔法による治療を行っています。治療を受けたい場合も受付に声を掛けていただいて、対応していますよ」

「怪我したら~、ココ達が回復魔法で~、治します~。お任せあれ~」


 ミミカさんの言葉に続いて、ココナさんがポーズらしきものを決める。


(ココナさん、独特な人だな~)


 少しの間、ポーズを取ったままのココナさんを見ていたが、再びミミカさんの方に顔を向ける。

 俺がミミカさんの方に顔を向けると、彼女もこちらに顔を向けた。

 

「それでは、冒険者ギルドについての説明は以上になります。ご不明な点等ございましたら、気軽に声を掛けてくださいね」

「ありがとうございました」


 俺はミミカさんに礼を述べた。


「ユリカ、早速依頼クエストを見に行きませんか?」

「ああ、それじゃ見に行こうか」


 俺にそう言った後、ユリカはミミカさんとココナさんの方を向く。


「俺達、ちょっと依頼クエストの方見てくるわ」

「はい、いってらっしゃい」

「いってらっしゃ~い」


 俺達は依頼クエストを見るために、掲示板の方へと歩いて行った。

 

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