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第28話 初めての野宿

 今日はここで野宿することになった俺達は馬車を降りて、馬車から少しだけ距離を取ったところにいる。

 俺は野宿するのは初めてなので、何をすればいいのか全然分からない。


「それで準備って何をすればいいのですか?」

「まずは寝床の準備かな。と言っても、すぐ終わるんだけどな」


 俺が尋ねると、ユリカは腕輪を操作し始める。

 そして、腕輪から何やら大きい布のような物を取り出した。

 

「それはなんですか?」

「これはテント用の魔道具だ。この布に魔力を通すとテントの形になるんだ。転移者(プレイヤー)の場合はMPメンタルポイントを消費すれば使用できるぞ」

「へ~、そんな便利な魔道具があるのですね」


 ユリカが取り出した布について尋ねると、彼女が実演してくれた。

 まず、布を地面に敷いて広げていく。

 広げた布は結構な大きさがあった。

 地面に布を敷いたユリカはしゃがみこんで目を閉じ、布の上に手を置く。

 すると、布がどんどん膨れ上がって四角錐の形を作っていく。

 ある程度の大きさまでテントが膨らんだ辺りでユリカは目を開けた。

 そして、そのままテントの四隅に移動して同じ様に手を当てては移動を繰り返す。

 俺は彼女の後ろを付いて回り、何をしているのか見ていた。


「四隅の固定もMP消費ですか?」

「そうだぞ。まあ、MP消費量はほとんどないけどな」


 俺が固定方法を尋ねると、ユリカは四隅を順番に固定していきながらそう答えた。

 固定されたと言っても、ぱっと見の違いがないため見ただけではよく分からない。

 そして、四隅全ての固定が済んだらしくユリカは立ち上がる。


「これ、ちゃんと固定されているのですか? 見た感じ変化がないようですが」

「大丈夫だぞ。軽く引っ張ってみれば分かる」


 固定できているのか不安だった俺はユリカに尋ねると、彼女は四隅のうちの一角を指差した。

 俺は言われた通り、引っ張ってみる。

 引っ張ってみると、地面に縫い付けられたようにまったく動かせなかった。

 俺が立ち上がると、どうだと言わんばかりの顔でユリカがこちらを見ている。


「すごい固く固定されてますね」

「だろ? だから、心配いらないって」


 俺が感心したような顔でそう言うと、ユリカもうんうんと頷く。

 これだけ固く地面に固定されていれば、テントは大丈夫だろう。

 

「これで寝床はオッケーだ。あとは飯だけど、簡単なものしかできないな。そういえば、エリアは料理できるのか? できるなら、頼みたいんだが」

 

 ユリカは一度テントの方に目をやった後、俺に尋ねてきた。

 尋ねられた俺は振り返り、彼女の方を見る。

 心なしかその目には期待の色が見える。

 だが、俺も本当に料理と呼んでいいのか微妙なレベルの簡単なものしかできない。

 野菜とか切って挟んでサンドイッチを作ったり、あとはおにぎりとかそんなレベルだ。

 ユリカの期待に応えられないのは辛いが、それはしょうがない。


「ごめんなさい、料理はほとんどできないんです……」

「あ~……、俺も料理はあまり得意じゃないからお前と一緒だ。だから、そんな顔するなって」


 俺が本当に申し訳なさそうな顔でそう言ったため、ユリカは慌てて両手を振る。

 慌てている彼女をおかしく感じた俺は、表情を崩し少し笑う。

 笑っている俺を見て、ユリカも落ち着いた。

 だが、問題は何も解決していない。


「それで、晩ご飯どうしましょうか……?」

「だいじょうぶ、洗って切れば食べられるものを買っておいたから。それらで簡単なサンドイッチを作ろう!」

「はい!」


 晩ご飯はサンドイッチを作ることになった。


 ユリカは腕輪を操作し始める。

 しばらくして、彼女の腕輪から宿屋とかにありそうな四角いテーブルが出てきた。

 そして、その上にまな板や包丁にお皿、水を入れる桶、肉、そしてキャベツのような野菜類を取り出していく。

 色々取り出し終わったユリカが不意にこちらを向いた。


「エリア、出発前におっちゃん達にバスケットもらっただろ? あれ、出してくれるか?」

「分かりました」


 俺は腕輪を操作して、アイテム欄に仕舞ったバスケットを取り出しテーブルの上に置いた。 

 俺がテーブルの上に置くと、ユリカはバスケットの中身を確認する。


「おっ! あったあった!」

 

 ユリカはバスケットの中からブレッドを取り出す。

 俺もそのブレッドに触れてみる。

 もらって時間が経たないうちに仕舞ったからか、まだ焼きたての温かさが残っていた。

 

「これと、トマトとレタスとハムでサンドイッチ作るか」

(あ、これレタスか。素で間違えた……。いや、違う。暗いから間違えただけなんだ、ほんとなんだ……)

 

 ユリカの言葉を聞いて勘違いに気づき、俺は心の中で突っ込みながら落ち込む。

 そして、ふと気づく。


「この世界って元の世界にあった野菜や果物で存在しないものが多いらしいですが、レタスはあるのですね」

「レタス以外にもキャベツみたいな葉物野菜はあるみたいだぞ。他は大半がなかったり違う物だったりだな。特に根菜類はやばい! あれは元の世界(あっち)の野菜で考えたら地獄みるぞ……!」


 ユリカは何かを思い出したのか、口元を押さえて震える。

 興味はあったが俺はそのまま話に触れることはせず、根菜類はやばいから気を付けようとだけ心に刻む。

 

「ユリカ、今ここには根菜類はないから大丈夫ですよ! とりあえず、サンドイッチ作りませんか?」

「……そ、そうだな! 早く作ろう!!」


 思い出した何かを振り払うようにユリカが元気良く声を出す。

 

「野菜を洗いたいので、桶に水を入れてもらえませんか?」

「ちょっと待ってな」

 

 そう言うと、ユリカは腕輪を操作し始める。

 しばらく操作すると、腕輪から大きな樽と椅子が出現した。

 

「樽……ですか?」

「そうだぞ、この中に水が入ってるんだ」

 

 俺が確認のため尋ねると、ユリカは頷く。

 そして、彼女は一緒に出した椅子を踏み台にして樽から水を掬った。

 桶に水を入れた俺達は桶の中でトマトとレタスを水で洗う。

 そして、洗っているうちにふと思った。


 「あの、ユリカ? まな板と包丁ってこれ一式以外にありませんか? もう一式ないと、私何もできませんが」

 「あ……、これしか持ってないな」


 ユリカがしまったという顔をして、こちらを見つめる。

 俺も彼女を見つめ返す。

 お互いに沈黙してしまった。

 ユリカは、少し考えてからまな板に包丁を置く。


「エリア、サンドイッチ作るの任せていいか? 俺はテントの中で寝る準備とかしておくからさ」

「分かりました。私が作りますね」


 俺が頷くと、ユリカはテントの中に入って行った。

 俺はまずブレッドを切る。

 一人二つずつくらいのつもりで、全部で八枚の食パンができた。

 その後切った食パンの大きさに合わせ、レタス、トマト、ハムを切る。

 最後に、既に切ってあるレタスとトマト、ハムとともに挟む。

 そして、サンドイッチ四個が完成した。

 ちなみに調味料はユリカが取り出した中にはなかったので、本当にただ切って挟んだだけだ。

 二枚のお皿の上にそれぞれ二個ずつサンドイッチを置く。

 そして、残ったブレッドをバスケットに仕舞い、そのバスケットを腕輪の中に仕舞う。

 

「ユリカ~、サンドイッチできましたよ~」

「はいよ~」


 俺がテントの中に呼びかけると、ユリカが出て来た。

 

「とりあえず、飯の前に余計な物は片しちゃうぞ」


 ユリカは腕輪を操作して、使ったまな板や包丁、余った食材を腕輪に仕舞っていく。

 サンドイッチを乗せたお皿以外を片すと、今度はコップを二つと少し大き目のポットと椅子を二脚取り出した。

 そして、樽からポットに水を掬うと、椅子に座る。

 俺もユリカの隣に置かれた椅子に腰かけた。


「飲み物水しかないけど、我慢してな」

「いえ、大丈夫ですよ。ありがとうございます」


 椅子に腰かけると、ユリカがコップに水を注ぎこちらに渡してくれた。

 俺は水の入ったコップを受け取ると、口に一口含む。

 冷たい水が喉を潤し、体を冷やしていく。

 今思えば村を出てから一度も水を口にしていなかったため、喉は渇いていた。

 

「ふぅ~……」


 水を飲んで一息つく。

 隣を見れば、ユリカはコップに入った水を一気に飲んでいた。 

 

「そんなに喉が渇いていたのですか?」

「まあ、渇いてはいたな。村を出てから何も飲んでなかったからさ」

「それなら、飲んでもよかったのに」


 水を一気に飲んだユリカに尋ねると、彼女は空になったコップをテーブルに置く。

 

「そうなんだけどさ、喉渇いてすぐに水が飲めるのは俺だけだったしな。さすがに、少し気が引けたんだよ……」

 

 ユリカはそう話すと目を逸らす。

 俺はそんなユリカの事を見つめていた。


「喉が渇いたら少しくらいは飲んでもいいんじゃないですか? いざという時に喉が~、とかになっても困りますしね。もし、気が引けるなら私にも少し水を分けて持たせてください。それなら、大丈夫ですよね?」

「……それもそうだな。いざという時のために、お前にも持たせておいた方がいいか。一応、食料も少し分けておくよ」

「ありがとうございます」

 

 俺は微笑みながらユリカに提案する。

 それを聞いたユリカはこちらを見ると、頷く。

 そして、腕輪を操作した。

 すると、テーブルの上に様々な野菜や果物のようなものが取り出される。

 取り出した物の中から何か入れ物のような物を手にすると、俺に手渡す。

 俺はそれを受け取って見てみるが、これが何だか分からない。


「これは?」

「革製の水筒だよ。予備で持ってた分なんだが、お前にやるよ。水はそれに入れて持ち歩くといいぞ」

「これ、水筒だったのですね。ありがとうございます」


 俺は笑顔で水筒を撫でる。

 手触りもなかなかいいのでたぶんすごくいいものだろうな、というのは分かった。

 撫でていた水筒から目を離し、ユリカを見ると微笑ましいものを見るような目でこちらを見ていた。

 俺の視線に気づいた彼女は慌てて目を逸らす。


「き、気に入ってくれたようでよかったぞ。水筒を一旦こっちに渡してくれるか? 中に水を入れるから」

「分かりました、お願いします」


 俺は頷いて、ユリカに水筒を預ける。

 ユリカは樽から水筒に水を入れた。

 そして、満タンまで入れるとこちらに水筒を手渡す。

 受け取った水筒は先程までとは違い、そこそこの重さがあった。

 俺は受け取った水筒と食料を腕輪の中に仕舞う。

 

「ありがとうございます」

「なくなったら言ってくれれば補充するぞ。ただ、飲み過ぎるなよ? 後が辛くなるからな」

「え?」


 俺は水筒を受け取り礼を言うと、ユリカが少し真剣な顔で注意してきた。

 俺は彼女を不思議そうに見つめる。


「言わないと分からないのか……。トイレ行きたくなるから気を付けろってことだよ。イメージ的には高速と一緒だな。朝馬車が出発してから次に休憩するのは昼前だから、それまでは走りっぱなしだからな? 我慢なんて絶対無理だからな?」

「なるほど、そういう意味でしたか。大丈夫です、それは分かっていますよ」


 俺は笑いながらそう言うが、ユリカは表情を変えず俺を見つめている。

 大丈夫だと思っているが、彼女の反応を見ると段々と不安になってきた。


「あの、ユリカ? そんな風に見つめられると、不安なんですが……」

「本当に大丈夫か? エリアとは出会って数日だが、実際俺はお前が心配でしょうがないんだよ。絶対、お前……」


 見つめてくるユリカに耐え切れず話しかけると、彼女はジト目で俺を見つめる。

 途中で言葉を切ったユリカはしばらく何か考えていたかと思うと、咄嗟に右手で口元を覆いながら俺から顔を逸らす。

 その横顔は赤くなっていた。


「ユリカ? 何を考えていますか? ……いえ、何を妄想してるんですか?」

「も、妄想なんかしてねえよ!? 変なこと言うな!?」

 

 ユリカの反応を見た俺は冷たい眼差しで、彼女を見つめた。

 反論しようとこちらを見たユリカは俺の表情を見て顔を強張らせる。

 

「本当だぞ! 本当に妄想はしてないぞ!」

「ふ~ん? そうですか」

「そ、それより早く飯にしようぜ~? お、お腹空いてるしさ?」


 俺が凍るような視線を送り続けると、ユリカは誤魔化すように話題を逸らす。

 確かに、俺もお腹は空いている。


「確かに、お腹は空いていますし食べましょうか」

「ああ、そうしよう! いただきます!」

「いただきます」


 誤魔化すように顔をサンドイッチに向けたユリカはサンドイッチにかぶりつく。

 しばらくはユリカを睨んでいたが、空腹には勝てず俺も食べ始めた。

 サンドイッチを一口かじって、咀嚼する。

 特に何か調味料を使ったわけではないので、味がかなり薄いサンドイッチになるだろうと思っていたがハムのおかげかいい感じに美味しい。


「このハム、美味しいですね」

「結構いけるだろ? 俺も最初は味とかどうなのかと心配してたけど、食べたら美味くてな」


 俺はあっという間に二個のサンドイッチを平らげるのだった。


 晩ご飯のサンドイッチを食べ終えた俺達は椅子に腰かけたまま、のんびりと過ごしていた。

 

「晩ご飯も食べたので後は寝るだけだと思いますけど、交代で見張ったりするのですか?」

「そうなるかな。魔物の方は御者のおっちゃんが魔除け用の魔道具を持ってるみたいだから大丈夫だろうけど、盗賊とかには効果がないからな」

「魔除けの魔道具もあるのですね」


 俺がユリカに確認すると、彼女は頷いた。

 

「夜のうちは俺が見張りをするよ。エリアは起きてられないだろ? 途中で眠られても困るからな」

「お願いします、夜遅くまで起きているのは苦手で……」

 

 ユリカの提案に俺は頷く。

 俺が夜の見張りをするのは絶対無理だと思っていたからだ。

 元の世界にいた頃も週の半分は寝落ちしていたので、途中で寝る可能性はすごく高い。

 頷いた俺を見たユリカは、真剣な表情をする。


「朝、馬車が出発したら俺は馬車の中で寝る。だから、俺が寝ている間はエリアに任せるぞ。ただ、無茶なことは絶対にするなよ? いいな?」

「はい」


 ユリカから念押しされたため、俺は真面目な表情で頷く。

 昨日のような過ちはもうしない。

 ユリカに迷惑と余計な心配をかけるだけだと分かっているから……。

 俺を見つめていたユリカだったが、納得するかのように表情を和らげる。


「分かってくれてるならいいさ。やばそうな時は起こしてくれよ?」

「ちゃんと起こしますから、安心してください」


 ユリカの表情が和らいだのを見て、俺も表情を崩した。

 俺が理解したのを確認すると、ユリカは空を見上げる。


「思った通りだったな、今日はいい天気だったし。エリア、空を見てみろよ」

「え? ……わぁ~」


 空を見上げたままのユリカに促され、俺も空を見上げる。

 すると、そこには宝石を散りばめたように輝く星々が見えた。

 元の世界のように街灯があるわけでも高いビルやマンションがあるわけでもない広い草原からは、星々の輝きがより際立って見える。


「綺麗ですね、星達がよく見えます」

元の世界(あっち)は街灯とか建物からの光で昼夜問わず真っ暗になるようなことはないもんな」

「確かにそうですね。それに元の世界にいた頃は、星をのんびり眺めるという考えも浮かびませんでしたから」

 

 俺はユリカと共に星々を見上げ続ける。

 そうして、俺達はしばらく星空を眺め続けた。


 星空を堪能した俺達は、明日に備え休むことにした。

 俺がテントの中に入ると、そこには二つの寝袋が置いてある。

 寝袋を確認した俺は、テントから顔を出す。


「ユリカ、そろそろ寝ますね。見張りよろしくお願いします」

「おう! ゆっくり休めよ」


 ユリカはそう言うと、椅子に座ったまま辺り一帯を警戒し始めた。

 俺は寝袋に潜り込むと目を閉じる。

 初の馬車旅で疲れていたのか、睡魔はすぐにやってきた。


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