第2話 出会い
おそらくはMP切れで動けなくなっていたであろう俺を親玉狼から助けてくれた人が再度声をかけてきた。
「お~い、そこのあんた。ほんとに大丈夫か?」
ようやく眩暈と頭痛が落ち着いてきた頭で、声のした方向に顔を向ける。
そこには小柄な女の子が立っていた。
栗色のボブヘアで、髪の一部を赤い小さなリボンで結んで小さなツインテールみたいにしている。
少し強気そうであどけない顔に、燃え盛る炎のような深紅の瞳。
赤いTシャツを着て、その上には胸の辺りを覆うように鉄製の胸当て。
膝上丈の黒いミニスカートに、皮製の黒いベルトを付け短剣や薬品を吊るしている。
そして、その目の前には少女の身長よりも大きく先端に槍のような突起がありかなり大きな刃がついた斧(ハルバードっていうんだったか?)を地面に突き立てていた。
そんな、戦士のような恰好をした可愛い女の子だった。
しばらくぼ~っと見惚れてしまったが、その子がこちらを心配そうに見ていることに気づいて慌てて返事をする。
「すみません、大丈夫です! 助けていただいたみたいでありがとうございます!」
慌てて立ち上がり、お礼を言いながらガクガクと勢いよく頭を上げ下げする。
そんな俺の様子を見て、笑いながら手で制止をかけてきた。
「あははは! そんな頭下げなくていいって」
「いえ、ほんとに死ぬかと思ったから……」
安堵したせいだろうか、先ほどの光景を思い出して再び目元が潤んでくる。
少女はこちらに寄ってきて少し背伸びしながら頭を撫でてきた。
「もう大丈夫だから、泣くなよ。な?」
そして、しばらくの間頭を撫でられながら俺は泣いたのだった。
俺が泣き止んで落ち着いてきた頃、少女が提案した。
「とりあえず、このままここにいるのは危ないから移動しようぜ。森を出て少しのところに村があるからさ」
その子の提案に返事の代わりに頷き返す。
俺はお尻の辺りの埃を叩き落としながら立ち上がって、彼女の後に付いて行くことにした。
少女は右方向の森に向かって行ったので、俺もその後に続く。
(あれ? 村は正面方向じゃなかったんだ……)
あの時、もし正面突破しようとしてたら死んでいた可能性が高かった事実に少し体が震える。
(あの時行動しなくてよかった、ほんとによかった……)
俺は心の中で、そっと安堵した。
森の出口へ向かって移動中もこちらを気遣うようにしながら、少女がちらちらとこちらを見てくる。
当然、周囲を警戒しながら。
(そういえば、自己紹介してないや)
ふと、そんなことを思った俺は自己紹介することにした。
「そういえば、助けていただいたのに名乗っていませんでした。お……私の名前はあさ……エリアと申します」
一瞬、自分の本当の名前を言いそうになってから、自分が今はエリアになっていることを思い出して慌てて言い直す。
同時に一人称も俺から私に言い直した。
ゲーム内でもチャットの時はRPしてたので、それ程抵抗なく言えた。
慌てての訂正だったが、セーフだと思いたい。
「エリアさんね。俺の名前はユリカだ、よろしくな! あと、俺のことはユリカでいいぞ」
「なら、私もエリアでいいですよ」
特に気にした様子もなく、少女は自己紹介してくれた。
彼女の名前はユリカという名前らしい。
(なんか、喋り方が男っぽいな……)
そんなことを思ったが、気にしないでおくことにした。
少女改めユリカは俺に質問してくる。
「見たところどこかのお嬢様っぽいけど、こんな森の中で何してたんだ? さっきみたいな魔物も出るし危ないんだぞ?」
ユリカは俺の全身を見回しながら、尋ねてきた。
(え? 俺、お嬢様に見えるの!?)
ユリカの発言に俺は驚いた。
まさかお嬢様に見られるとは全く思ってなかったからだ。
そう言われて改めて自分の服装を見直してみると、なんとなくだが納得した。
(この服装のせいだろうな、たぶん……。この世界だと本当にお嬢様はこんな感じの服着てそうだしな。俺のイメージではだけど)
なんとなく理解したところで、記憶を辿りながらユリカに返事を返す。
「実は朝目覚めたら、この森の中にいたんです。ここがどこか分からなかったし、森の出口を探してたらさっきの狼達に襲われて……」
ユリカが俺の背中をそっと撫でてきた。
先程彼女の前で泣いてしまったから、落ち着けようとしてくれたんだろう。
今は落ち着いてきたためか、自分より年下の子に慰められて少し恥ずかしかった。
「そうだったのか……、怖かっただろうに。村に着くまで俺がお前を守ってやるから安心しろ!」
そう言うと、俺を安心させるように笑顔を向けてきた。
不覚にも一瞬ドキっとする。
「ありがとうございます」
俺も笑顔を浮かべながら、そう礼を述べた。
そうして、しばらくの間歩くと森の出口らしきものが見えてくる。
ここに来る途中も何回か狼に襲われたが、ユリカがハルバードで突き殺したり重量を乗せた一撃で叩き切ったりして倒してくれた。
おかげで俺は、全く戦うことなく安心して出口に向かうことができた。
先程までずっと一人だったせいもあって、彼女が一緒にいてくれるのは本当に心強い。
「出口が見えてきたぞ! 森を出たら村まですぐだから頑張ってな」
ユリカが俺を励ます。
俺も彼女に大丈夫だという意思を込め少し笑顔で頷き返す。
そして、森の出口に辿り着いた。
(やっと出口に着いた。これで森から出られるな!)
そう思った矢先のことだった。
突如、大きな影で覆われ上を見上げると何かが跳びかかってきていた。
俺達は転がる様にしながら慌てて左右に散るように回避をする。
俺は急いで立ち上がりながら、状況を確認する。
すると、目の前には先程の魔物と同じような大きな狼がいた。
ただし、三頭である。
(嘘だろ……。三頭って……!?)
あまりの光景に俺は顔を強張らせ、固まってしまう。
ユリカはその間に武器を構え、俺を背中に隠すように前へと出た。
「エリア! 危ないから急いで下がれ!!」
ユリカが大声で怒鳴る様に俺に言った。
俺はその声で我に返り、言われた通りに下がり、近くの木の陰に姿を隠す。
俺が下がったのを確認すると、彼女は魔物達に突っ込んでいった。
「お前らの相手は俺だー!」
叫びながら、まずは真ん中にいた敵に思いっきり振り被ったハルバードを振り下ろす。
だが、後方へ飛び退きその一撃を躱された。
その間に他の二頭がユリカを囲むように移動する。
まるで三角形のような陣形で囲まれてしまった。
(このままじゃ、ユリカが危ない!)
木の陰から様子を見ていた俺は、ユリカを助けなければと思い飛び出そうとした。
だがその時、突然彼女が高く飛び上がったかと思えば、ハルバードの先端を地面に向け勢いよく落下し出す。
「砕け散れ! 爆砕方陣!」
そのままハルバードが地面に衝突すると、地面を砕き周囲に砕けた石片などが飛び散りユリカを囲っていた親玉狼達の顔や頭、体などに勢いよく突き刺さっていく。
そして、そのまま大量の血を流しながら三頭共一気に倒れた。
俺はその光景に呆然としながら立ちつくしていた。
(親玉狼達が一瞬で……!?)
あれほどまでに強そうな魔物達を一瞬で葬ったからだ。
そのまま立ちつくしているとユリカから呼ばれた。
「片付いたからもう大丈夫だぞー! 早く村に行こうぜ~!」
そして、平然とこちらに向かって手を振っている。
呼ばれた声で我に返り、急ぎユリカの元に駆け寄る。
そうして俺は彼女の案内の元、村に向かって歩き出した。
ちなみに村までは森を出てからだいたい十分くらいで到着した。