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第27話 街道の魔物事情

 コルナ村を出発してからかなりの時間が経ち、辺りはすっかり暗くなっていた。

 それでも馬車はカリーサを目指し止まることなく、暗くなった街道を進んで行く。

 馬車の中は天井の辺りに備え付けられた魔道具のおかげで、ろうそくに火を灯したように明るくなっている。

 どうやらこの魔道具は一定以上暗くなると自動で発動する魔道具のようで、辺りがすっかり暗闇に包まれると明かりを点し始めた。

 魔道具が点されると、ユリカはおもむろに立ち上がり馬車の窓とドアにある窓のカーテンを閉めた。

 俺は天井の魔道具に顔を向けると、そのまま見つめる。 


「蛍光灯のような魔道具もあるのですね」

「まあ、明るさは蛍光灯より全然暗いけどな」


 天井の魔道具を見つめたまま俺がそう言うと、ユリカも天井の魔道具に顔を向けた。

 たしかに、蛍光灯に比べると全然明るくはない。


「ですが、真っ暗よりは全然安心できますよね」

「まあな。ただ、なるべく光は馬車の外には漏らさないようにしないといけないけどな」

 

 俺が安心したような表情でそう言うと、ユリカはカーテンに目をやる。

 俺は疑問に思い、首を傾げる。


「光が漏れると何か問題があるのですか?」

「この街道に限った話じゃないんだが、辺りが真っ暗だから光が漏れると外からは目立つんだよ。そうすると、魔物とか盗賊とか面倒なのが寄って来るからなるべくカーテンで光が漏れないようにするのさ」


 俺が首を傾げながらユリカに尋ねると、ユリカが説明してくれた。

 

(なるほどな~。たしかに暗い中だと明るければ目立つか。というか……)


 俺はユリカが説明してくれた内容について考えていた。

 そして、ふと思い出してしまった。


「やっぱり、街道には盗賊みたいなのがいるのですね……」

「この辺りにいたのはこの前潰したから大丈夫だと思うが、それでも魔物はいるから気を付けるにこしたことはないな。……だから、そんな顔しなくても大丈夫だぞ?」

 

 ユリカは心配そうな顔で俺の方を見つめる。

 どうやら、不安になった気持ちが顔に出てしまっているようだ。

 

「いえ、大丈夫です! それに……、今はユリカが一緒ですから」

「そうか? それならいいが……」


 ユリカが心配そうな顔で俺を見つめてくるので、俺は慌てて両手を振る。

 そして、俺は笑顔を作りユリカにそう言った。

 コルナの森であんなことがあったため、盗賊という単語に反応してしまったようだ。

 おそらく、ユリカも俺の反応を見て心配しているのだろう。

 俺が笑顔でそう言ったため、ユリカは心配そうにしながらもそれ以上何か言うことはなかった。

 

 それからしばらくお互いに無言でゆっくりとしていた。

 俺は先程ユリカから聞いた話を頭の中で整理していた。

 その時、ふと疑問に思った。


(そういえば、六番街道ってウルフ以外にも魔物いたよな? 他の魔物はどうなんだろう?)

 

 俺が疑問に思ったのは街道に出る魔物のことだった。

 昼間、魔物に襲われた時にユリカはウルフが出るとだけ言っていた。

 だが、ゲームだった頃は六番街道にはウルフ以外の魔物もいたのだ。

 もしかしたら、ゲームだった頃とは生息している魔物が違うのかもしれない。


「ユリカ、六番街道ってゲームだった時はウルフ以外の魔物もいましたよね。今は違うのですか?」

「ああ、違うぞ。ゲームの頃はこの街道にもゴブリンとかスライム系の魔物がいたけど、この世界の六番街道はウルフしか見たことないな」


 俺が尋ねると、ユリカは少し思い出すような仕草の後頷いた。

 ユリカの話では、六番街道にはウルフ以外いないらしい。

 RPGの定番モンスターのゴブリンとかスライムも、もちろんスターゲートオンラインには存在する。

 こちらも定番通りウルフと同様、ゲームを始めたばかりの初心者が戦うモンスターだ。

 

「この世界にもゴブリンやスライムはいるんですよね?」

「ちゃんといるぞ。ただ、現実リアルになった今、魔物間でも縄張りのようなものがあるみたいでな。街道毎にだいたい同種の魔物が住み着いてるんだ。六番街道にはウルフ、ゴブリンは九番街道に多くいるな」

「そうなのですね」


 魔物といえど、やはり種族間ではいろいろあるみたいだ。

 ユリカはさらに補足するように続ける。


「これはゲームの頃との違いだが、スライムは初心者用の魔物じゃなくなったな。弱いやつでも中級者並の強さがあるから。だから、ゲームの時と同じに考えたら返り討ちにされるぞ」

「え? スライムそんなに強いのですか!?」

 

 ユリカの補足に俺は驚いた。

 ゲームの頃のスライムは強くても中級者レベルのマップやダンジョンまでしか出現していなかった。

 それがこの世界では弱くても中級者レベルというから驚きだ。

 

(スライムさん、出世したな~。どれ程の強さになってるのか分からないけど、もし遭遇したら気を付けないとな)


 驚きながらもそんなことを思っていた。

 

「だから、スライムに遭ったら気を付けろよ? 絶対酷い目に遭うからな! ほんとにやばいからな!! 一瞬でパーティー崩壊するからな!!」

「……何があったんですか?」

 

 ユリカが注意を促してきたと思ったら、突然力説し始めた。

 それも顔を赤くしながらかなり興奮気味に力説している。

 俺はすごく嫌な予感がして聞きたくなかったが、情報は欲しかったので力説しているユリカに顔を強張らせながら尋ねる。

 すると、ユリカは何も答えず俯き押し黙ってしまった。

 ただ、顔はさらに赤くなっている。

 

「あ、やっぱりいいです! 言わなくていいです!!」


 押し黙って顔を赤くしているユリカを見て、俺は即座に取り消す。

 これは触れない方がいいと思ったからだ。

 結局、それからユリカは俯いたまま何も言わなかった。

 

 それから、しばらくお互いに何も喋らず馬車に揺られていた。

 馬車の中が静かなせいか、街道を走る馬車の車輪が地面を踏みしめる音が大きく聞こえてくる。

 俺はうとうとしながら、窓際の壁に体重を預けている。

 そして、突然馬車が停止した。

 停止したのに気づいた俺は、少しぼ~っとしていたがすぐに意識を切り替える。

 

(馬車が止まった……。もしかして、また魔物?)


 馬車が停止したため俺はそう考え、ユリカの方に顔を向ける。

 ユリカも先程までの俺と同じ様に窓際の壁に寄り掛かりながら、眠っていた。

 俺はユリカに近づき、肩を優しく揺する。

 

「ユリカ、起きてください! また、馬車が止まったんです!」

 

 俺はユリカの肩を揺すりながら声をかけるが、ユリカはなかなか起きない。

 揺すっていたが起きないため、そのまま寝かせておくことにした。

 俺は揺するのを止めて、馬車のドアの方に向かいカーテンをまくって外の様子を窺う。

 しかし、外は暗くてドアの窓からではよく分からなかった。

 俺はまくったカーテンを元に戻して、馬車を降りた。


 馬車を降りた俺は御者の方に向かう。

 御者の方に向かって行くと、御者は馬の手綱を馬車に固定し馬の餌らしきものを用意していた。

 そして、御者が歩いてくる俺に気が付く。


「お嬢さん、どうしたんだい?」

「馬車がまた止まったから魔物が出たのかと思って、様子を見に来たんです」

 

 御者に尋ねられた俺は、様子を見に来たことを伝えた。

 御者の人はそれを聞くと、驚いた表情をする。

 

「おや、そうだったのか。それは心配かけたね。でも、大丈夫だよ。今日はここで野宿するために止まっただけだからね」

「そうだったのですか。では、もう一人を起こしてきますね」


 御者は俺にそう言い、微笑む。

 それを聞いた俺は安堵し、ユリカを起こすために馬車の中へ一旦戻って行った。

 

 俺はユリカを起こすために馬車の中へ戻って来た。

 ユリカの方を見ると、まだ眠っているようだった。

 俺はユリカに近づき、肩を揺する。


「ユリカ、起きてください。今日はここで野宿するらしいです」

 

 ユリカの肩を揺すりながら声をかけるが、ユリカは起きない。

 なんだかんだ疲れが溜まっているのだろうか。

 俺はどうしたものかと考える。


(ユリカ、疲れてるのかな? なら、このまま寝かしておいた方がいいのだろうか?)


 俺はユリカの肩を揺するのを止め、どうするか考えていた。

 その時、突然ユリカに抱き付かれる。


「痛っ!」 


 ユリカの突然の行動にバランスを崩した俺は馬車の床に押し倒され、動揺する。

 

「ユリカ!? あの、何を……」


 俺は慌てて上体を起こしそう言うが、ユリカは何も言わない。

 ユリカの顔を見ると、目を閉じたまま嬉しそうな顔で眠っている。

 おそらく、寝ぼけているのだろう。

 俺が慌てているうちに、ユリカは俺の大きな胸に顔を埋めると顔をゆっくりと左右に振るように擦りつけてくる。 

 

「ひゃうっ!」

 

 ユリカが顔を擦りつけると、胸の辺りから変な衝撃が来て思わず俺の口が声が出る。

 俺は顔を赤くしながら咄嗟に口を両手で覆うと、ユリカの様子を窺う。

 ユリカは心底安心した表情をして顔を擦りつけていた。

 その様子を見た俺は口を覆っていた両手を離し抱き付いているユリカの頭を優しく撫でる。

 俺が泣いたり悲しそうな表情をした時に、撫でてくれたのと同じような感じに。

 頭を撫でると、ユリカはさらに嬉しそうな顔をする。


「……お姉……ちゃん……」

 

 頭を撫でていると、ユリカの口からそんな言葉が聞こえた。

 呟くようなとても小さな声。

 

(寝ぼけて俺をユリカのお姉さんと勘違いしてるのか?)

 

 それを見た俺は何だかすごく穏やか気持ちになった。

 普段のユリカとは全然違う、すごく甘えん坊なユリカがとても可愛く見えたのだ。

 俺は無理に離すことができなかったため、目を覚ますまで抱き付いたままのユリカの頭を優しく撫で続けていた。


 しばらく頭を撫でていると、ユリカがもぞもぞと身動きする。

 どうやら、ようやく起きたようだ。

 そして、俺から離れて体を伸ばす。

 ユリカから解放された俺は立ち上がり、お尻の辺りの埃を叩き落とす。

 

「んん~……」


 体を伸ばしたユリカは寝ぼけた顔で馬車の中を見回していた。

 

「ユリカ、起きましたか?」

「へっ!?」


 俺が声をかけると、ユリカが飛び跳ねるように距離を取りこちらを向く。

 そして、俺に気が付くと安堵したように息を吐いた。


「なんだ、エリアか。脅かすなよ……」

「別に脅かしたつもりはないのですが」


 ユリカが俺の方を見て、安堵したようにそう言った。

 俺としては起きたと思ったから声をかけただけなのだが。


「今日はここで野宿するそうですよ。さっき御者に確認してきました」

「そうか、なら俺達も準備しないとな」


 ユリカも起きて、意識もはっきりしてきたようなのでユリカに野宿することを伝える。

 すると、ユリカは腕輪を操作し始めた。

 アイテム欄を確認しているのだろうか。

 しばらく腕輪を操作していたが、腕輪から目を離すとこちらに顔を向ける。


「それじゃ、外に出て野宿の準備をするか」

「はい」


 俺はユリカに頷く。

 そして、俺達は馬車を降りた。


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