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第26話 初めての街道戦

 俺達はカリーサを目指して、馬車で移動していた。

 その途中で気まずい空気が流れていた馬車が突然停止した。


「あれ? 馬車が止まりましたね」

 

 突然停止した馬車を不思議に思い、ユリカの方に顔を向ける。

 すると、彼女は無言で立ち上がって馬車の出口に向かっていく。

 表情は見えないが、何かを警戒している雰囲気が伝わってきた。

 

「ユリカ、なぜ馬車は止まったのですか?」

 

 気になった俺は、馬車の出口に向かって行くユリカに尋ねた。

 彼女は俺の質問には答えずに、馬車のドアの窓から外の様子を窺っている。

 

「おそらく、魔物が寄って来てる」

「えっ!?」

 

 しばらく、ドアの窓から外の様子を窺っていたユリカがそう答えた。

 ユリカの答えを聞いた俺は驚いた顔をする。

 だが、よく考えてみると……。


(……よく考えれば、街道に魔物が出るのは当たり前か。スタゲでも街道に魔物はいたしな)

 

 俺は席を立ちユリカの方に近づいていく。

 それに気づいた彼女がこちらに顔を向けた。


「とりあえず、馬車から降りて周囲を探ろう。前衛は俺がするから、エリアは御者の傍で護衛を頼む」

「分かりました。馬車から降りる前に補助魔法をかけておきますね。ストレングスゾーン! ディフェンススクエア! シルフィードランディング!」


 ユリカが真剣な表情でそう指示を出したので、俺は頷き俺とユリカに範囲補助魔法三種をかけた。

 俺達の体を覆うように赤、青、緑色の光が順に数回ずつ輝く。

 

「ありがとな。それじゃ、行くぞ!」

「はい」


 光が収まるとユリカが俺に礼を述べた。

 俺は頷いて返事をする。

 そして、俺達は馬車を降りた。

 

 馬車を降りた俺達は御者の傍へ向かう。

 

「お、お嬢ちゃん達!? 危ないから馬車の中へ隠れてな!!」

「御者のおっちゃんは戦えるのか?」

 

 馬車から出て来た俺達を見て、御者は慌てて馬車の中へ戻るように促す。

 おそらく、俺達が戦えないと思っているんだろうな。

 まあ、見た目から言えばそう思われてもしょうがない訳だが。

 彼が馬車の中へ戻るよう言ってきたが、それには従わずユリカは真剣な顔で質問していた。

 しかし、御者は何も答えず黙り込んでしまう。

 

(反応を見る限り、この人は戦えないんだろうな)


 御者の様子を見て、俺はそう思った。

 彼から目を離し、俺とユリカは周囲を確認する。

 すると、馬車の前方に何かいるのが確認できた。

 

「あれが魔物でしょうか?」

「たぶん、そうだろうな。たしか、この辺りでよく出る魔物はウルフだったかな」

 

 ウルフはスターゲートオンラインの魔物の中でも最初の頃に出てくる魔物で、ゲームを始めたばかりの初心者が狩るようなレベルの魔物だ。

 普通に戦えば俺達ではまず負けない相手だろう。

 とはいえ、現実になった今は油断大敵である。

 

「御者のおっちゃん、魔物は俺達で倒すから大丈夫だぞ」

「え!? お嬢ちゃん達、本当に大丈夫なのか!?」


 ユリカが笑顔で御者にそう言うと、彼は心配そうな顔で俺達の顔を交互に見る。

 俺はユリカの言葉に同意するように微笑みながら頷いた。


「御者の護衛は私がします」

「よ、よろしくお願いします」 


 俺は御者に顔を向けると、安心させるようにそう言った。

 彼は心配そうにしながらも俺達に任せてくれるようだった。

 

「近づいてくる前にこっちから仕掛けてくるぜ! 来い(オーダー)! ハードブレイカー!」


 俺と御者の様子を見ていたユリカは、右手を前に出しながら武器を呼び出す。

 すると、光が集まり右手に柄の部分が納まるように斧の形を形成していく。

 そして、集まった光が斧の形を形成すると光が弾け、彼女の右手には少女の身長を超える大きなハルバードが握られていた。

 呼び出した武器を構えたユリカは、前方の魔物の方へ向かって走っていく。

 俺は段々と小さくなっていく背中を見送った。

 ここから魔物らしきものがいる位置までは距離があるのか、ユリカの姿もほぼ豆粒ほどになり見えなくなる。

 少しして、前方の方から何か重い物が地面に叩きつけられたような音が聞こえてきた。

 どうやら、戦闘が始まったようだ。

 

(その間、俺はしっかり御者と馬車を守らないとな!)

来い(オーダー)! ソウルイーター!」

 

 前方から音が聞こえ戦闘が始まったのだろうと思った俺は、右手を突き出して愛用の大鎌(ソウルイーター)を呼び出す。

 すると、光が集まり右手に柄の部分が納まるように大鎌の形を形成していく。

 そして、集まった光が大鎌の形を形成すると光が弾け、俺の右手には愛用の大鎌(ソウルイーター)が顕現した。

 その光景を間近で見た御者は驚いて目を見張っていた。

 呼び出した大鎌を両手で握りしめながら、俺は馬車の周りを回るように歩き周辺を警戒する。

 とりあえず、馬車の周りを一周しながら辺りを警戒したが他には何も見当たらなかった。

 一周して戻って来た俺は御者に目をやる。

 彼は不安そうな顔で落ち着きなく前方を中心に見える範囲を見渡していた。


「ユリカは強いですから、大丈夫ですよ」


 不安そうな顔をしている御者を安心させるように、俺は笑顔を浮かべながら明るく御者に声をかける。

 俺が声をかけると、御者の顔が少し和らいだ。

 少し落ち着いてくれたらしい。

 ただ、その後すぐに顔を少し赤くしながらそらされる。

 不思議に思いながらも、落ち着いてくれたようなので俺は再び周囲の警戒に戻っていった。

 

 俺が馬車の周囲を警戒しながら再び馬車の後ろ側まで来た頃、前方で響いていた戦闘音が止んだ。


(静かになったな。終わったのかな?)


 前方が静かになったため、俺は辺りを警戒しながら御者の傍まで戻ろうとした。

 その時、馬車の後方から辺りを見渡すと、何やら小さなものが僅かに見えた。

 

(なんだろう? 戦闘の音に釣られてきた魔物かな?)

 

 先程まで前方では戦闘音が響いていたためそうだろうと、当たりを付ける。

 俺は確認しに行くために、大鎌を構え直す。


「一応、補助魔法をかけ直しておこうかな。ストレングス! ディフェンス! シルフィードベール!」

 

 俺は確認に向かう前に補助魔法三種をかけ直しておく。

 そして、後方に見えたものの方へ向かっていった。


 馬車から少し離れたところで小さいながらも、見えたものの正体が判別できた。

 どうやら、ユリカが言っていたウルフだったようだ。

 数は四頭で、固まってこちらに向かって来ていた。

 

(四頭ね……。なら、ホーリーランスで先手打てばいいか)


 こちらまでの距離と向こうの数を考えて、そう判断する。

 

「ホーリーランス!」


 俺はホーリーランスを発動させる。

 すると、少しして俺の頭上に六本の光の槍が顕現する。

 俺は六本の光の槍をすぐ発射できるように構え、ウルフ達に向かって行く。

 そして、ある程度見やすい位置まで接近した俺は左手を振り上げる。

 六本中四本の光の槍をウルフ達それぞれに一本ずつ狙いを定め、左手を振り下ろす。

 それを合図に、狙いを定めた四本の光の槍がウルフ達に向かって飛んで行き、次々と突き刺さっていった。

 しかし、一本外れたらしく一頭のウルフだけこちらに迫ってくる。

 俺は残り二本の狙いを残ったウルフに定め、発射した。

 発射された二本の光の槍がウルフに突き刺さる。

 そして、ウルフ達は動かなくなった。

 

(とりあえず、これで終わりかな)


 再度、ウルフ達の方を確認するがこれで全部のようだった。

 確認を終えた俺は馬車の方へ戻っていった。


 馬車の後方に戻って来た俺は、周囲を警戒しながら御者の傍まで戻る。

 戻ってくると、ユリカが彼の傍について護衛していた。

 彼女は俺を見つけると手招きしてくる。


「後方に魔物らしきものが見えたので、倒してきました」

「そうか、おつかれ!」


 手招きされて彼女らの傍に来た俺は、ユリカに後方の魔物を倒したことを伝えた。

 そして、俺は御者の方へ顔を向ける。

 すると、彼女も同じ様に彼の方へ顔を向けた。


「近づいてた魔物は倒しましたよ」

「前方の方も全部片付いたぜ」

「ありがとうございます、お嬢さん達」


 俺達が笑顔で御者の人に報告すると、安堵した表情を浮かべながら彼はお礼を述べた。

 

「また馬車を走らせますから、馬車の中でゆっくりしてください」


 そう言われた俺達は、笑顔で頷く。

 そして、馬車の中へ再び乗り込んでいった。


 俺達は武器を仕舞い、馬車に乗り込んでドアを閉じる。

 すると、馬車は再び動き出した。

 そして、座席に座ろうとしてある物が目に入る。

 それは先程まで取り合っていたピンクのクッションだった。

 

「あの、ユリカ。これ……」


 俺はそう言い、ユリカにクッションを手渡す。

 彼女はこちらを向いたが、手渡されたクッションは受け取らない。

 俺は不思議に思い首を傾げる。


「ユリカ?」

「もうしばらく、貸してやるよ。お尻に敷いてな」


 俺が首を傾げながら呼びかけると、ユリカは目を閉じて少し笑みを浮かべる。

 

「ありがとうございます」


 俺は笑顔でお礼を言い、クッションをお尻の下に敷いた。

 俺がクッションをお尻の下に敷くのを見ていたユリカは、ジト目で見つめてくる。


「どういたしまして。ただ、勝手に人の物を奪って使うのは駄目だからな。大人げないかもしれないが、あれはイラっときたぞ」 

「それは、ごめんなさい……」

「まあ、反省してるならいいさ。だが、次やったらお仕置きな!」

 

 俺が謝ると、ユリカがそう宣告する。

 俺は少し怯えた表情で彼女を見つめた。


「お仕置きって……。……何する気ですか?」

「今はまだ考えてない。ただ、また何かしたらその時考えるつもりだ」


 俺が怯えた表情で震えながらユリカに尋ねると、彼女はそう答えた。

 まだ内容が決まっていないことに、ひとまず安堵する。

 

「問題を起こさなきゃ何もしないから、そう怯えるなよ」

「たしかにそうですけど……。そう言われるとやっぱり怖いんです!」


 怯えている俺を見て、ユリカは呆れた表情をした。

 そう言われたが、俺は怯えたまま彼女の方を見つめる。

 何されるか分からないのはやっぱり怖いのだ。

 俺が怯えたままでいると、ユリカが何やら考えるように右手を顎に当てる。

 しばらくそうしていたかと思うと、突然ニヤニヤし始めた。


「そんなに怖いなら、頭でも撫でてやろうか~?」

「子供扱いしないでください! それに怖いこと言い出したのはユリカです!」

 

 ユリカがニヤニヤしながらからかってきた。

 俺は少し赤くなりながらつい反応してしまう。

 そんな俺の反応を見て、彼女は余計楽しそうにニヤニヤしながら俺を見ていた。

 

 それからしばらく、ユリカにからかわれたり逆襲したりと楽しそうに俺達は喋っていた。

 その間に、夕陽も沈み辺りは暗くなっていく。

 辺りが暗くなっても、馬車は街道を進み続けた。

 

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