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第25話 初めての馬車旅と洗礼

 俺達は今、カリーサ行きの定期馬車に乗りカリーサへ向かっていた。

 ユリカの話では、コルナ村からは三日くらいかかるらしい。

 窓からはどこまでも広がる青い空と草原が見えていた。

 天気もよく絶好の馬車旅日和である。


「ユリカ、この辺りはずっと草原なのですか?」

「ああ、そうだぞ。カリーサまでの街道はずっと草原が広がってるんだ」


 馬車がコルナ村を出てからずっと窓の外を眺めていた俺は、ふと気になりユリカに聞いてみる。

 すると、俺と同じようにのんびりと窓の外を眺めていたユリカがそう答えた。


「まあ、楽しめるのは最初のうちだけだけどな。景色がずっと草原だからさ」


 そう言って、ユリカは苦笑した。

 たしかに、カリーサに着くまで窓の外がずっと草原なのはそのうち飽きそうだ。

 これだと一日持たないだろう。

 

「たしかに、ずっと草原が続いているならそうなりそうですね」

「まあ、ずっと眺めてないで適度に眺めてれば大丈夫だろうな。たぶん……」


 そう言うと、ユリカは窓から目を離して背もたれに寄り掛かる。

 彼女の助言に従って、とりあえず俺も窓から目を離した。


「そういえば、今走ってる街道もスタゲの時と一緒なのですか? その、名前とか……」

「ああ、そのままだ……」


 窓から目を離し暇になった俺は適当に思いついた話題をユリカに振る。

 すると、ユリカは呆れた顔をしながら頷いた。

 

「俺達が今走ってるここは六番街道だ。この世界の公式の名前だそうだ」

「街道の名前、本当にそれなのですね」


 ユリカが呆れた顔のままそう教えてくれたので、俺も半笑いをした。


 スターゲートオンラインに存在する第一惑星:始まりの星エルスフィア。

 その街と街を繋ぐ街道には名前が付いているのだが、名前が○番街道なのである。

 ネットで見たことのある情報によると、運営が街道にいい感じの名前を付けようとしていたらしい。

 だがいい名前が思い浮かばず、気分転換に皆で飲んでいたら酒の勢いも加わり分かりやすいし番号でいいんじゃないか? ということになったらしい。

 プレイヤーの間でも手抜き過ぎだろという感じの意見と、運営の言うように分かりやすくていいんじゃないかという両方の意見がある。

 俺としては確かに名前はどうかとは思うが、どちらかというと分かりやすくていいと思っている。

 ゲームを始めた頃は街道でレベル上げのために狩りをしたが、それは始めのうちだけだった。

 しばらくすると、野良やギルドメンバーとのダンジョン周回でレベル上げしていたので移動くらいしかしなくなる。

 しかし、金策系のクエストをし始めると色々な街道にドロップ品やクエスト用アイテムの採集、エネミー討伐のために行くことになるのだ。

 なので、名前がこだわられて分かり辛くなるよりは全然いい。


「じゃあ、もしかして他の街道も……なんですよね?」

「そうだぞ。一昨日、国やダンジョンが一緒だったって言っただろ? 街道も同じなんだ」

 

 他の街道も同じなのか気になりユリカに聞いてみると、ユリカは頷きながらそう答える。

 どうやら、街道までゲームだった時と同じようだった。

 

(本当にこの世界はスタゲの世界にそっくりなんだな)

 

 ここまでで得たこの世界の情報を整理しながら、俺はそんなことを思っていた。

 俺達はその後適当に窓の外を眺めたり、のんびりとお喋りしながら過ごしていた。

 

 馬車がコルナ村を出てから、しばらくの時間が経った。

 窓の外は、夕陽が空を茜色に染め上げている。

 出発したのがおそらく昼前なので、元の世界なら四~五時間は経過しているだろう。

 その頃、俺は……。


「ゆ、ユリカぁ~……」

 

 俺は涙目になりながら、ユリカに声をかける。


「エリア、今から音を上げてどうするんだ~?」


 涙目で声をかけてくる俺を見て、ユリカはニヤニヤしながらそう言ってくる。

 その表情は何やら楽しそうだった。

 

「そんな……。私、もう駄目です……。こんなの……っ!」

「ほらほら、頑張らないと駄目だぞ~」


 俺の方はかなり限界がきているのでそう言うが、ユリカはニヤニヤしながら俺の言葉を聞き流す。

 彼女がいつになく弄りにきていて困惑しているが、それどころではない。

  

「ユリカぁ~……。こんな……、こんな痛み耐えられません! もう……、無理ですからっ!」

「まだ始まったばかりだろう~? まだまだこれからだぞ~?」

 

 俺はユリカに痛みを訴えるが、ユリカはまたしても聞き流す。

 今日の彼女は、一切容赦がなかった。 


「痛い、痛いんですっ! ……お尻がっ!!」


 俺は馬車旅の洗礼を受けていた。

 馬車の椅子は木製で堅く、長時間座っているせいかお尻がすごく痛いのだ。

 俺は痛むおしりを手で擦る。

 おそらくこれがユリカの言っていた乗れば分かるってことなんだろう。

 俺には想定外の出来事だった。

 ユリカは大丈夫なのかと思い、彼女の方に顔を向けた。

 見てみると、全然平気そうな顔をしていた。

 

「ユリカはなんでそんなに平然としていられるのですかっ!?」

 

 ユリカがあまりにも平然としていたため、気になった俺は勢いよく尋ねた。

 彼女は待ってましたとばかりの表情をした。

 

「それはな……? こいつのおかげだ」


 俺が勢いよく尋ねると、ユリカは少し溜めを作る。

 そして、お尻の辺りに手を入れ何かを取り出すと俺に見せてきた。

 

「なっ!? それ……!」


 俺はユリカが取り出した物を見て驚愕した。

 

「こいつがなければ、俺もお前みたいになってたかもな~」

 

 ユリカは取り出した物をちらりと一瞥する。

 そして、俺の目の前で取り出した物を見せびらかすように振っていた。

 彼女が取り出した物、それは……柔らかそうなピンクのクッションだった。 


「ユリカ、それ貸してくださいっっ!!」

「いや、無理っ! これしか持ってないから」


 それを見た俺はユリカに即お願いすると、向こうも即断る。

 俺は涙目で睨むが、彼女は得意顔で俺を見つめていた。

 

「そういうのが必要になるなら、村を出る前に教えてくれればよかったじゃないですか!?」

「ちゃんと経験して、馬車旅の辛さを知ってほしいと思ったから言わなかったんだよ。それに……、コルナ村にはクッション売ってないしな」

 

 俺は涙目で睨みながら、ユリカに文句を付ける。

 それを聞いたユリカは少しだけ真面目な顔でそう言った。

 俺の中で何かが弾けた。

 

(ユリカの気持ちは分かった。だが、納得はできない。ならば……、戦争だっ!!) 

「……シルフィードベール……」

 

 俺は、俯き呟くように小さな声で自分に補助魔法をかける。

 

「え、エリア……?」

 

 突然俯き、体から緑色のオーラを輝かせる俺を見てユリカが困惑する。

 俺は困惑するユリカの声を無視し、目にも止まらぬ速さで動いた。

 そして、ユリカが目の前で振っていたクッションを奪い取り、素早く自分のお尻の下に敷く。

 お尻の痛みは消えはしなかったが、柔らかいクッションを挟んだことで軽減はされたようだ。

 

「……あれ? クッションどこいった!? ……おい! 何勝手に使ってんだよ!」


 ようやくクッションが手元にないことにユリカが気が付いた。

 周りを見回して、クッションを探す。

 そして、俺のお尻の下に敷かれているのを見つけると、額に筋を浮かべながら俺に怒ってきた。


「ユリカが意地悪するからです」


 ユリカが怒ってきたが、意に介さず俺は顔を背けてすねたように唇を尖らせた。

 そんな態度を取る俺のことを彼女は見つめていたが……。 


「ふ~ん……、そうか。お前がそのつもりなら……」

 

 ユリカはそう言うと席を立ち、馬車の壁に手を当ててバランスを取りながらこちらに近づいてくる。

 そして、俺の膝の上に座った。

 彼女が座ったことで両太ももに負荷がかかり、それに伴ってお尻にも負担がいき痛みが増す。


「ユリカ、重いです……」

「我慢しろ。お前が俺のクッション勝手に使ったんだからな」


 お尻がまた少し痛くなってきたので、それとなくユリカに文句を言った。

 しかし、ユリカは気にせずそのまま俺の膝の上に座り続ける。

 どうやら、膝の上からどいてくれるつもりはないようだった。

 クッションを敷いて、和らいできていた痛みがまた少しずつ増してくる。

 

「ユリカ、またお尻が痛く……」

「どいてもいいけど、クッション返せよ?」


 俺がそう言うと、ユリカは俺の言葉を遮り怒りをはらんだ声で俺に二択を迫る。

 ユリカの言葉を聞いて、俺は迷ってしまった。

 

(ユリカ、怒ってるな。……どうしよう!? また、クッションなしに戻ったらお尻がやばい!? 今のままのがお尻的にはよさそうだが、どうするか……)


 お尻の痛みが辛かった俺は悩んでしまい、ユリカにすぐには答えられなかった。

 そして、そのまま考え込んでしまう。


「え、エリア!? お、おいっ!?」

「……え?」


 考え込んでしまった俺にユリカが突然慌てるように裏返った声を上げた。

 どうしたのかとユリカの方に目を向けると、ユリカの後頭部が目の前に広がる。

 よく見ると、耳が赤くなっていた。

 俺は自分の状態を確認する。 

 すると、俺は座っているユリカの胸の辺りに両腕を回し思い切り抱きしめていた。

 まるで、悩んでいる時に枕とかクッションを抱きしめるかのように。

 それに気が付くと、ユリカが身に着けている鉄製の胸当ての冷たい感触と抱きしめたことにより俺の胸が押しつぶされている感覚がした。


「わわっ!?」 


 俺は慌てて抱きしめていたユリカを開放する。

 俺から解放された彼女はそそくさと俺の向かい側の座席に戻っていった。


「あの……。ごめんなさい……」

「あ、ああ……。なんか、俺もごめん」

 

 俺は赤くなりながらユリカに申し訳ないといった表情で一言謝る。

 俺が謝ると、ユリカも顔を真っ赤にしたままなぜか謝ってきた。

 俺達の間に気まずい空気が漂う。

 そんな空気の中、突然馬車が停止した。


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