第22話 村への帰還
推測により危険な人物がいるだろうと思った俺達は、日が沈んできていることもあり森の中を駆けていた。
前方を走っているユリカに続きながら走っているとあっという間に森を抜け、切り株だらけの広場まで戻って来た。
俺達はそのまま村のある方向の森の中へ入り、出口まで一気に駆け抜ける。
途中で狼の遠吠えが聞こえたが、無視して走り続けた。
森の中を駆け抜けると、改めてこの体の凄さを思い知らされた。
元の体だったら、どんなに速く走ってもようやくあの広場に着くか着かないかくらいだっただろう。
それをこの体はおそらく二十~三十分くらいで一気に森の出口まで駆け抜けたのだ。
驚くに決まっている。
森を抜けた俺達は徒歩十分くらいの村までの道のりを数分で駆け抜け、村に帰った。
村に到着した俺達はすぐさま宿泊している宿に向かう。
そして、宿の中へと入っていった。
俺達が宿の中に入ると、カウンターで作業していただろうおっちゃんが振り返る。
そして俺を見ると驚いた顔をした後、安堵の表情を浮かべてこちらに駆け寄ってきた。
「エリアちゃん、無事だったか! 姿が見えなくなって心配したんだぜ!」
「おっちゃん……、ごめんなさい!!」
俺は駆け寄ってきたおっちゃんに謝罪し、頭を下げた。
ユリカは隣で俺達の様子を見守っている。
謝罪されたおっちゃんは一瞬目を丸くしたが、すぐに優しい表情をして俺を見ていた。
「いや、エリアちゃんが無事だったならそれでいいさ!」
そう言って、頭に手を乗せ撫でてきた。
俺は申し訳なさと恥ずかしさで赤くなりながら俯く。
俺が俯きながら撫でられていると、カウンターの奥から足音がした。
顔を上げるとおっちゃんの奥さんだろう女性がこちらを見ていた。
そして、俺の顔を見るとこちらに駆け寄ってくる。
「ふぇっ!?」
「……よかった、無事だったのね。気づいたら村のどこにもいないから心配したわ」
その女性は目に涙を浮かべながら俺を抱きしめてきた。
ただの宿泊客であるはずの俺のことをここまで心配してくれたこととかなりの心配をかけてしまったことに、俺は申し訳なさと感謝で涙が溢れてくる。
そして俺は同じように抱き返した。
「心配かけて……ごめんなさい! ……ごめんなさいっ!!」
俺が泣きながら謝罪すると、黙って抱きしめたまま頭を撫でられる。
俺はしばらくの間優しく頭を撫でられていた。
しばらくして、お互いに落ち着いてきたため抱きしめていた腕を離した。
傍で見守っていたおっちゃんが頃合いをみて尋ねてくる。
「落ち着いたところで、そろそろ晩飯にするかい? それとも、先に汗を拭くかい?」
そう尋ねられた俺達はお互いの顔を見合わせる。
「どうすっか……」
「私は汗を拭きたいですね、べたべたして気持ち悪いので」
俺がそう言うと、ユリカはおっちゃんの方を向いた。
「あいよ! じゃあ、お湯と布の準備しておくぜ! 晩飯はどうする? 拭いてる間に用意することはできるけどよ」
再びおっちゃんに聞かれた俺達は再度顔を見合わせる。
「俺はお腹すいたから、飯早い方がいいな」
「私も朝食べてから何も食べていませんでしたから、お腹ぺこぺこです」
「あいよ! じゃあ、その間に飯の用意しておくぜ」
俺達がそう言うとおっちゃんは頷き、カウンターの中へ入っていった。
それを見送った俺達は二階に上がり、宿泊している部屋に向かう。
そして、部屋に入った俺達はベッドに腰かけゆっくりと体を休めた。
しばらくして、女性がお湯と布を持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
俺が礼を述べると、その女性は笑顔を浮かべながら会釈して部屋を出て行った。
「ご飯ができるまでに手早く済ませてしまいましょうか」
「だな」
俺達はお互いに布を濡らすと背を向ける。
俺は腕輪を操作して、装備欄から服と下着の服飾装備をアイテム欄に入れる。
これで同時に洗濯も済ませた。
全てを脱いで裸になった俺は体の汗を念入りに拭いていく。
そして、濡らしてない布で水気を取った。
俺は腕輪を操作して装備欄に服と下着の服飾装備をセットし、先程と同じ服装に戻す。
ただ服と下着はアイテム欄に戻したことにより、洗濯済みのように綺麗になっていた。
(汗拭き取って、すっきりしたわ~。風呂があれば最高なんだがな~……。まあ、ないものはしょうがないな)
「ユリカ、終わりましたよ」
そんなことを思いながらユリカに声をかけた。
「あいよ、こっちも終わったぜ」
すると、ユリカから返事が返ってくる。
なので、彼女の方に向き直った。
そして、ベッドに倒れ込む。
「おいおい、汗拭いてすっきりしたのは分かるけどさ、もうすぐ飯なんだから寝るなよ~?」
ベッドに横になる俺を見てユリカがからかってきた。
「少し横になるだけで、寝たりはしませんっ!」
からかうユリカに俺は少しムッとした表情をする。
そんな俺を見て、ユリカは笑っていた。
笑っているユリカを見た俺は上体を起こし、話題を逸らした。
「そういえば、これで残党の討伐は終わりなんですよね? 明日はどうするのですか?」
「まあ、気になることは残ったままになったがひとまずは依頼完了だな。明日はちょうど定期馬車が来るはずだから、それに乗ってカリーサに行こうと思ってる。ギルドに依頼完了の報告に行かなきゃならないからな」
俺が明日の予定を聞くと、ユリカは少し考えてから答えた。
彼女は俺の様子を窺いながら、話を続ける。
「勿論、お前も一緒だからな? 変な心配はするなよ?」
ユリカが笑顔でそう言うと、こちらに右手を差し出してきた。
「改めて、これからよろしくな!」
「はい! こちらこそよろしくお願いします!」
俺は笑顔で返事をして差し出されたユリカの右手と握手を交わした。
ユリカと一緒に行ける喜びとともに、心にできた余裕のおかげで今は他の街へ行くことに心が躍っている。
(ユリカと一緒にゲームに似た異世界を冒険か~。俺、すっげえわくわくしてきたぞ!!)
俺はそう思い、嬉しそうな表情を浮かべる。
そんな俺をユリカも楽し気に眺めていた。
「そういえば、カリーサはここからどのくらいかかるのですか?」
「そうだな~……、だいたい三日くらいかな」
「ということは、三日間の馬車の旅になるのですね」
「そうだぞ。馬車が来るのはたぶん昼前くらいだから、明日は馬車が来るまでに食料とか買いに行こうな。しっかり準備しないと死ぬような思いするからな」
俺が楽し気な表情で尋ねると、ユリカが明日の予定を教えてくれた。
この世界でのお店を見るのも初めてなので、少しわくわくしている。
「わかりま……、……あのユリカ……」
「ん? どうした?」
俺は返事をしようとして大事な事に気づいてしまった。
何やら様子が変わった俺をユリカは不思議そうな顔で見てみる。
「私……、お金持ってません……」
「……なるほどな。そりゃ持ってるわけないもんな。まあ、食料とかは俺がお前の分も買うから安心しろ」
俺がそう言うと、ユリカは納得したような顔をして頷いていた。
俺が気づいた事、それは……。
俺が一文無しということだった。
「持ってるわけないってどういうことですか?」
「この世界はスタゲの世界に似てるだけで、通貨が違うんだよ。だから、この世界に転移された時点で一文無しなのさ」
俺は納得されたのが不思議で尋ねると、ユリカが教えてくれた。
どうやら、通貨が違うから皆始めは一文無しになるらしい。
「だから、皆最初はアイテム欄にあった現状使わなそうなものを売ってなんとかしたんだよ。俺もそうだったし」
「そうだったのですね。ユリカ、ありがとうございます。今、宿に泊まれているのだってユリカのおかげですし、明日も買ってもらうことになりそうですし……。お金はいずれきちんとお返しします」
「いや、気にしなくていいぞ? 困った時はお互い様って言うだろ? ……もし何か返してくれるなら、俺が困ってる時に助けてくれよ。それでいいからさ」
俺がそう言うと、ユリカは慌てて手を振りながら笑った。
俺は少し迷ったが、頷いた。
(ユリカ……、ありがとう。もし、ユリカに何かあったら全力で助けるからな!)
俺はそう心に誓うのだった。
その後も2人でのんびりと話をしていると部屋のドアがノックされた。
「2人共、飯の支度ができたぜ。着替えが済んだら降りてきな」
「ありがとな、おっちゃん!」
「ありがとうございます」
伝えに来てくれたのはおっちゃんだった。
俺達は伝えに来てくれたおっちゃんに礼を述べる。
伝え終えた彼は一階に戻っていった。
「それでは、晩ご飯を食べに下に行きましょうか」
「やっと飯だー! 腹減ったー!」
俺がそう言うと、ユリカが勢いよく立ち上がる。
俺達は部屋を出て一階に降り、晩ご飯にした。
お腹がすいていた俺達はいつもよりも少し多く食べ、二人ともいい食いっぷりだったぜと言われるのだった。




