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寝落ち転移~寝落ちして起きたらマイキャラで異世界にいたんだが!~  作者: 水菜
第1章 異世界へ、そして運命の出会い
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第21話 不穏な影

 今、俺の目の前では魔物に向かっていくユリカの後ろ姿が見える。

 もうすぐお互いに攻撃射程に入り戦闘を始めるだろう。

 俺は彼女の作戦通りに行動するべく、様子を見ながら待機していた。

 

(いつでも、回復できるようにしておかないとな)

 

 俺は大鎌を両手で握りしめてユリカを見守っていた。

 

 敵に接近していったユリカが魔物を攻撃射程に捉えたのか攻撃に入る。

 そして最初の一撃と同じように先制の突きを繰り出す。

 だが、今回は移動した時の勢いは乗せずにしっかり地面を踏みしめて突いていた。

 それを受けたゴリラ改は最初と同じように体を左にずらし受け流そうとする。

 ユリカは受け流されないように突いたハルバードを手早く引き戻した。

 そして、バックステップして少し距離を取る。

 ゴリラ改も攻めには行かず、様子を窺いながら迎撃の構えを取っている。

 ユリカがハルバードを強く握りしめるのが視認できた。


(そろそろかな……)

「それじゃあ、そろそろ終わりにさせてもらうぜ!!」


 俺がそう思ったのと同時にユリカの声が聞こえた。


狂戦士の魂(バーサーカーソウル)!!」


 ユリカがスキル名を宣言した。

 すると、ユリカの全身が赤いオーラに覆われる。


(やっぱり、それだったか。……無理はするなよ)


 俺は気を引き締め、ユリカを見つめる。

 狂戦士の魂(バーサーカーソウル)は職業バーサーカーが習得できるスキルランク7のスキルだ。

 このスキルは三分間の間、自身の全ステータスを一・五倍にするのだ。

 ただしその代償として、十秒毎に最大HPの一割のダメージを受ける。

 要はダメージと引き換えに一定時間ステータスを爆上げするスキルなのだ。

 俺はこの代償ダメージが気にかかっていた。

 ゲームだった時はHPゲージが減るだけだったのでよかったが、現実となった今どういう風に代償ダメージが現れるか分からないからだ。

 

(……一応予想はできている。だがその通りだった場合、ユリカには相当な痛みが走るはずだ。俺は素早くヒールで痛みを和らげないといけないな)


 俺はじっとユリカの様子を見守る。


 狂戦士の魂(バーサーカーソウル)を発動したユリカは一気に魔物に迫る。

 その移動速度は先程までとは段違いだった。

 敵の方も少し慌てているように見える。

 ユリカは先程と同じようにまずは突きを繰り出した。

 ゴリラ改は避けようとしたが突きの速度が速すぎて避けることができず、突かれた勢いそのままに後方へ突き飛ばされる。

 そして、地面に仰向けに落下した。


「グガァァァァァッ!」


 どうやらかなりの痛みがあったようで大きな叫び声を上げている。

 先程までほとんど通らなかった近接攻撃が効いているようだった。

 ユリカの方を見てみると右腕の上腕の辺りに切り傷のようなものがいくつかできており、血が流れているようだった。

 痛みのせいか表情も度々歪んでいた。

 

「ヒール!」


 俺は急いでユリカにヒールを発動する。

 彼女の全身が光に包まれ傷が癒えていく。

 だが、しばらくすると同じような傷ができていた。


(やっぱり、狂戦士の魂(バーサーカーソウル)の代償って……)


 俺の予想通りだった。

 代償ダメージはゲームの時と同じように発生していた。

 効果時間中、使用者の肉体を少しずつ切り刻むという形で。

 

(ユリカ、速攻で決めないとまずいぞ!)


 俺はそう思い、度々ヒールをかけながら見守る。

 それはユリカ自身が一番よく分かっているようで、敵が仰向けに倒れた瞬間即座に迫っていた。

 代償ダメージによってできる傷に度々顔を歪めながら、それでも速度は落とさない。

 倒れた魔物のすぐ傍まで一気に迫った。

 

専用特技(パーソナルスキル)!」


 そう宣言しながら、ユリカは高く飛び上がりながらハルバードを振り被る。


全てを貫く破砕の一撃(アブソリュートブレイカー)!!」


 専用特技(パーソナルスキル)を宣言すると、ハルバードの刃の部分から先端までが青白い光に覆われる。

 そして、振り被ったハルバードを魔物に思い切り振り下ろした。

 あらゆる防御を突き破る一撃が敵を一刀両断する。


「ウガァァァァァァ……」


 最初一瞬だけ叫び声を上げたゴリラ改だが、すぐさま真っ二つになり叫びを止められた。

 敵を真っ二つにしたユリカは少し離れた位置に移動すると、ハルバードを地面に落としその場に座り込む。

 

「ユリカっ!!」


 俺は慌ててユリカの傍に駆け寄った。

 そして、ヒールをかける。

 

「ユリカ!」

「ははは……、なんとか倒したぜ……。……スキルの代償、思ってた以上にきついな……。体があちこち痛いぜ……」


 ユリカは肩で息をして度々走る痛みに顔を歪めながら笑う。

 俺は狂戦士の魂(バーサーカーソウル)の効果が切れるまでユリカにヒールを度々かけ続けた。


 スキルの効果時間が切れ、ユリカへの代償ダメージが納まった。

 ユリカに新たな傷ができていないことを確認すると、俺は立ち上がろうとした。

 だが立ち上がろうとした瞬間、体がふらつき地面に尻もちをついてしまう。


「あ……れ?」

「エリア、無理するな。ずっとヒールをかけ続けてくれただろう。少しこのまま休もう」

 

 ユリカにそう言われ、俺達はそのまま並んで地面に座り込んだ。

 しばらくどちらも話さず辺りが静かだったが、ユリカが話しかけてきた。


「エリア、ヒールありがとな。 すごく助かったぜ」

「いえ、私の方こそ戦闘を任せきりで申し訳ないです……」


 ユリカがお礼を述べて来たが、俺は申し訳なさそうな顔をしてしまった。

 ユリカは俺の頭を撫でる。


「気にするなよ、俺がそうしようって言ったんだからさ。それより、さっきまでスキルのダメでずっと体中痛かったんだぜ。お前のヒールがなきゃ、やばかったんだからさ。それにさ……」


 ユリカは俺の頭を撫でながら優しい表情を向けた。

 俺は彼女の方に顔を向けながら話を聞いている。

 

「俺は近接で殴るくらいしかできないけど、エリアは違うだろ? 近接以外にも魔法攻撃も補助も回復もできる。前線で戦えなかったことを気に病む必要はないんだぞ?」

「はい」


 ユリカにそう言われ、俺は頷く。

 俺は内心安堵していた。

 

(よかった……。ユリカの役に立てたんだな) 

 

 俺はすっきりした気持ちだった。

 それは俺の表情にも出ていたのだろう、ユリカが頭を撫でるのを止めた。

 そして、ユリカが突然笑い出す。


「ふふっ! どうしたエリア? なんか残念そうな顔をしてるぞ?」

「え?」


 ユリカになにやらにやにやしながらそう言われたが、俺は分からず首を傾げる。

 そんな俺を見て、ユリカは笑いながら話を続ける。


「俺が撫でるのを止めたら、残念そうな顔になったからさ。ついな」

「……そんなことはありません……」


 ユリカにそう言われ、俺は恥ずかしさで顔を背ける。

 頬が熱くなってるのを感じたからだ。


(残念そうな顔をしてたって俺がか……? ……まあ、ユリカに頭を撫でられてると安心感があったのは事実だが……。って俺は何を考えてるんだか)


 そう思ったら余計に頬が熱くなった気がする。

 

 しばらく恥ずかしくて顔を背けていたが、ユリカに声をかけられた。

 

「そろそろ落ち着いたか? それじゃ、村に帰ろうぜ。きっと、お前の事心配してるだろうからな」

 

 ユリカに言われて俺は思い出した。

 おっちゃんに何も言わずにここへ来てしまったことを。


(帰ったら怒られるかな? 心配かけてしまってるだろうしきちんと謝らないと……)


 俺はそう思いながら空を見上げる。

 空はもうすぐ夕方になりそうで、少し夕日が見え始めていた。

 

「そうですね、帰りましょうか。帰ってきちんと謝らなければいけません……」

「ちゃんと謝れば分かってくれるさ。俺も一緒についていてやるから」


 俺がそう言うと、ユリカは俺の肩を叩きながら言った。


「ありがとうございます」

「おう!」


 俺は頷き、ユリカにお礼を述べる。

 それを聞いたユリカは頷きながら返事をした。

 俺達は付いた汚れを叩き落として立ち上がる。

 そして、村に帰るために来た道を戻ろうとした。

 その時、ふと倒した魔物の死体を見ると傍に何かが落ちていた。


「何でしょう? あれ……」


 俺は小さく呟くとゴリラの死体の方に歩いて行った。


「エリア? どうしたんだ?」


 俺が死体の方へ歩いて行くのを見たユリカが走って追いかけてきた。

 

「いえ、死体の傍に何か落ちてるみたいだったので何か手掛かりでもあるのではと思いまして」

「え? どれどれ……」


 俺がそう言うとユリカが魔物の死体の周辺を見渡す。

 すると、死体の肩の傍に何かが落ちていた。

 俺達は近寄ってそれを確認する。

 

「なんだこれ? 胸当て……か?」

「みたいですね」


 ユリカが落ちていた何かを確認するとそれは革製の胸当てだった。


「なんでこんなものが落ちてんだ?」

「分かりません……。……頭にも何かついてますね」


 俺は魔物の死体の頭の方に近づいて行く。

 血に塗れて分かりにくかったが、それは赤い布だった。

 元から赤かっただろう布に乾いた血がこびりついていた。

 俺はそれをユリカに見せる。


「赤い布ね……。どっかで引っ掛けてきたのか?」

「う~ん……、どうなんでしょう? ここら辺でそんな場所なさそうですけど」


 ここら一帯は完全に森のようで、人が住んでるわけでもなさそうだった。

 ただ、俺の頭の中で何かが引っかかった。

 

(この胸当てと布……。どこかで見覚えがある気がする。どこだったかな……)


 俺は右手を顎に当てて思い出そうとした。

 ユリカは俺の様子を黙って見守る。

 そして、ふと思い出した。

 ただし、思い出したくない記憶とともに……。

 

「……思い出しました」

「おっ? 何か分かったのか?」

「これ、あの残党達が身に付けていたものと同じですね」

「なるほどな。……大丈夫か?」

 

 俺が暗い表情をしてしまったせいか、ユリカが心配そうに聞いてきた。

 俺は少し笑顔を作り、頷き返す

 俺が頷いたのを見たユリカが考え込む。

 そして、彼女は怪訝な表情をする。


「なんで、この魔物が残党の身に付けていたものを持ってたんだ? 残党は俺が全員倒したはずだから、俺達が来る前に俺が倒したのとは別の残党がいて襲われたのか……?」

「いえ、ユリカが倒したのはぜん……」


 俺は突如背筋が寒くなった。

 なぜならユリカが倒したので全員ではなく逃げた残党が二人いたことを思い出したからだ。

 そして言おうとした時、ふとある可能性に気づいてしまった。

 俺が青い表情でいるのに気づいたのかユリカが困惑した表情でこちらを見つめる。


「エリア、どうしたんだ? 何か気づいたのか?」

「……はい。ですが……」

 

 俺の頭にはある可能性が浮かんでいた。

 だが、それを認めたくはなかった。


(残党が身に付けていた胸当てと赤い布……おそらくバンダナがゴリラの死体に引っかかっていたこと。逃げた残党が二人いたこと。そして……、あのゴリラはまるで人のような知能があるような動きをしたこと……)


 状況的に推測するには十分ではないだろうか。

 確証はないが、可能性は高そうだった。


「実は……、ユリカが倒した残党は全員じゃないんです。あの時、ユリカが小屋の外で戦ってる間に残党が二人窓から逃げ出していました」

「何!? そうだったのか!?」


 俺が残党二人が逃げていたことを伝えると、ユリカが驚いていた。

 俺は彼女を見ながら話を続ける。


「それで、残党二人が逃げたと思われる方向から人のような知能を持っていると思われる魔物が二体現れた……。そして、死体の周りには残党が身に付けていたものと同じ物……」

「……!? それって、まさか……!?」 

 

 俺が話すとユリカも気づいたのか真剣な表情になった。


「ええ、おそらくはこのゴリラのような魔物は元は人間だったのではないでしょうか」

 

 俺はこの状況から考えられる推測を述べた。

 それを聞いたユリカが少し考えると俺の手を取り、引っ張る。

 

「ユリカ?」

「エリア、急いで森から出よう! もしその推測が当たってるなら……、残党を魔物に変えたやつがすぐ傍にいるはずだ」


 手をいきなり引っ張られ驚いた顔をした俺にユリカは真剣な顔でそう言った。

 それを聞いた俺も真剣な表情をして頷く。

 確かに、残党達が逃げてからあまり間を置かずに現れたのだから近くにいる可能性は高いだろう。

 俺が頷いたのを確認すると、ユリカが森の中へ駆け出す。

 俺も彼女の後に続いて森の中へ駆けて行った。

 

 

 

 二人の少女が森の中へ駆けて行く後ろ姿を見つめている人物がいた。

 その人物は全身を覆うような大きな深緑色のローブを身にまとっていた。

 頭もすっぽりとフードに覆われ、どんな人物なのかは全く見えない。

 少女達が見えなくなると一人呟きだす。


「僕の実験体(おもちゃ)を随分と壊してくれたみたいだね~」


 その人物はそう呟いた。

 声からしておそらく男性だろう。

 

「まあ、戦闘データは取れたし操作の試験もできたからよしとしようか。また、新しい実験体(おもちゃ)を探さないとね~。それにいいものも見つかったしね~、ふひひひっ!」


 そして、呟いた後に怪しく笑う。


「あの娘……、確かエリアちゃんって呼ばれてたかな~。あれはすごく僕好みだね~。長くて綺麗な髪にあの大きな胸……、たまらないな~……ふひひひっ!」


 その人物は、先程の戦闘を観戦中に片方の少女に興味を持ったようだった。

 小さく彼女のことを呟き、また怪しく笑う。

 フードで表情も隠れているがおそらく卑しく歪んでいることだろう。


「あれもそのうち完成するだろうし、そしたら最初に使って存分に可愛がってあげるからね~。楽しみにしててねエリアちゃん……、ふひひひっ!」


 最後にそう呟いて怪しく笑った後、二人の少女が入って行ったのとは別の方向の森の中へと歩いて行く。

 そして、その人物の姿は暗い森の中へ溶けるように消えていった。

 

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