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寝落ち転移~寝落ちして起きたらマイキャラで異世界にいたんだが!~  作者: 水菜
第1章 異世界へ、そして運命の出会い
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第1話 異世界

 俺は目を覚まし、上体を起こした。

 寝起きでぼーっとする頭で、昨日のことを思い出そうとする。

 

(休んでたら結局寝落ちした……)

 

 自分が寝落ちしたことを思い出し、立ち上がろうとして手から伝わる感触に違和感を覚えた。

 

(なんか、ベッドの感触が変だな)

 

 立ち上がるためにベッドについた手を見ると、手はベッドではなく地面に手をついていた。

 手から伝わるのは硬い地面と僅かな砂の感触。

 

(地面?)

 

 不思議に思い辺りを見渡すと、そこは自分の部屋の中ではなく森の中だった。

 右も左も前もどこを見ても草が茂り木が立ち並び、鬱蒼とした森が広がっている。


「え?」


 思わず声が出る。

 昨日の記憶を思い出しても、そもそも家から出た記憶がない。

 なので、こんな森の中にいるのは異常な事だった。

 

(普通に考えたらありえないし、これ夢か? なら、今日もバイトあるし目覚ましなるまで2度寝するかな。眠いし……)

 

 これは夢だと思い、二度寝することにした。

 起こした上体を再び倒し、寝ようとする。

 だが、倒した拍子に何かに頭を思い切りぶつけた。


「っ!?」


 結構勢いがついていたため、かなりの痛みが走り後頭部抑えて悶える。

 ついでに先ほどまでの眠気も一瞬で消し飛んだ。

 

(痛えっ! 思い切り何かに頭ぶつけた!)

 

 あまりの痛みに若干目元が潤んでくる。

 そうして、痛みが引くまで悶えていた。


 ようやく後頭部の痛みも落ち着き、冷静さが戻ってきたところで気づいた。

 これは夢ではないと。

 もう一度、周りを見渡す。

 やはり、先ほどと同じように森の中だった。

 

(頭ぶつけた時すごい痛かった……、なら夢じゃない……?)

 

 ぶつけた部分を手で優しく撫でながら、先程の痛みのことを考えるとそうとしか思えない状況だった。


「まじか」


 ふと、声がおかしいことに気づく。


(ん? 声がなんか変だ、いつもと違う)

 

 自分が発した声がいつもと違っていた。

 

「あ、あ、あ~」


 試しにもう一度声を出してみたが、やはり自分の声ではなかった。


(女性? いや、女の子の声か?)

 

 その声は少女のような声だった。

 他にも変なところがないか調べようと体を見下ろして見る。

 すると、いつものジャージではなくフリルが多く付いた服を着ていて、胸の辺りがやけに盛り上がってる。

 さらに、その下はスカートで膝上くらいまでの靴下を履いた細く綺麗な足が覗いていた。

 俺は胸の辺りで大きく主張している盛り上がりを触ってみる。

 すると、柔らかく弾力のある感触と胸の辺りが触られてる感触が返ってきた。

 

「……」

 

 思わず沈黙する俺。

 もう一度触ってみても、やはり同じように触った感触と触られた感触が返ってくるだけだった。

 それらの感触にしばらく固まってしまったが、すぐに我に返る。

 慌ててスカートの中に手を入れて下の方も確かめてみた。

 だが、あるはずの相棒の感触が見つからなかった。

 こちらも当然二回確認した、大事な事なので。


「どうなってんだよぉぉぉっ!?」


 体の異変や今置かれている現状も合わせて混乱した俺は、頭を抱えながら絶叫した。

 

 絶叫からしばらくしてほんの少しだけ冷静になれた頭でどうするか考える。


「ど、どうしようか……」


 とりあえず、これが現実なのはさっきの激痛で確認済みだがこの体のせいでまた疑わしくなってくる。

 試しに頬を抓ってみるが、やはり痛みがあった。


「やっぱ、現実なのかぁ……」


 俺は溜息を吐いた。

 お尻の辺りに付いた埃を叩き落としながら立ち上がり、周辺を見渡してみる。

 すると、右方向の木々の隙間から僅かに水色っぽいものが見えた。

 おそらくは川か湖のようなものがあるのだろう。

 

(飲める水があるかもしれない。寝起きで喉渇いてるし、ちょっと行ってみるか)

 

 邪魔な草を手で除けながらそれらしき方向に向かって歩いていく。

 二十分くらい歩くと、森の中に大きな湖があった。

 湖に近寄り水が飲めそうかどうか確かめる。

 

(よかった、これならたぶん飲めそうだな)

 

 湖の水は綺麗に透き通っており、飲んでも大丈夫そうに見えた。

 手で水を掬おうと覗き込んだ水面に少女の顔が映る。

 澄み渡る空のような綺麗な水色の瞳に整った顔立ちをした美少女だった。

 一応周囲を確認したが、誰もいないため間違いなく今の俺の顔なのだろう。


(これが今の俺か? 随分可愛いくなってるな。でもどこかで見覚えあるような?)

 

 すぐに思い出せなかった俺はもう一度水面を覗き込み、映る少女をよく見る。

 覗き込みながらしばらく唸っているとふと気が付いた。


「あれ? もしかしてエリア!?」

 

 映っていたのは俺がスターゲートオンラインで使っていたマイキャラのエリアだった。

 それは即ち、俺の体がマイキャラのエリアになっているということでもある。

 

「なるほど、だから見覚えがあったのか」

 

 疑問が解けたところでとりあえず乾いた喉を潤すため、水を掬い服を濡らさないよう注意しながら飲んでいく。

 水を飲んで喉を潤したあと、湖の傍らに立ってる木の傍に座り背中を預ける。

 そして、今の状況とこのあとどうするかについて整理することにした。

 今現在分かっていることは、起きたらどこかの森にいることと自分の体がエリアの体になってるということだけ。


(それにしても、どこの森にいるんだ? 近くにこんなでかそうな森なかったと思ったが)

 

 俺が住んでいる場所は都会のようにビルが建ち並んだりしてはいない。

 だが、田舎のように周りが田んぼや畑というわけでない、そんな場所である。

 なので、近所には街路樹くらいはあるが森はない。

 現在地に関しては、森を出ればわかるだろうとひとまず置いておくことにした。

 次に体の異変について考えてみる。


(なぜ、こんなことに……。そもそも寝て起きただけで、どうしてこんなことになったんだ?)

 

 昨日の夜に寝落ちする前の記憶を辿ってみるが、全く原因に心当たりがない。

 というか、普通に考えたらありえない現象。

 考えても分かるわけがない。

 体の異変に関しても思考放棄しようかと思ったが、ふと疑問が浮かぶ。 

 

(もしかして、エリアの体になってるってことはここはスタゲの世界なのか?)

  

 そんな疑問を持ち、スターゲートオンラインのことを思い返していると何やら嫌な予感がした。 

 

(もし仮に、ここがスタゲの世界だとすると……)

 

 そう思った瞬間、どこか遠くからウォォォォンという遠吠えのようなものが聞こえた。

 まるでタイミングを見計らったかのように……。


「今のって、まさか……」


 遠吠えのようなものが止むと辺りの草むらがガサガサっと音を立てた。

 そして、草むらから狼の姿が現れる。

 それも一頭ではなく、ざっと見ても五~六頭はいる。

 もしかしたら、もっといるのかもしれない。

 狼達は俺を視界に収めると、俺を逃がさないよう囲い込むように近づいてくる。

 

(ほんとにいやがった! 怖いし、なんか囲まれそうだ。どうにかしないと)

 

 どうするか考えて真っ先に思い浮かんだ方法は、武器で対抗することだった。

 ゲーム内ではいつもマイキャラが自分の武器を背中に背負っており、戦闘でよく使っていたからだ。

 背中の方に手を伸ばして武器を掴もうとするが、空を切るだけだった。

 

(あれ? スタゲの時は武器はいつも背負ってなかったか? なんでないの!?)

 

 ゲーム内だったときはエリアがいつも持っていた大鎌がそこにはなかった。

 慌てて体中見まわしてみたが、やはり武器はない。

 

(え、なにこれ。もしかして、武器どこかに落とした?)

 

 可能性として高そうなのは最初に目が覚めた場所だ。

 ただ、もしそうなら今からじゃどうしようもない。

 悩み慌てる間にも狼達は距離を詰めているのだ。

 すぐに襲ってこないところを見ると、こちらの様子窺ってる感じがするが時間がないのは変わらない。

 すぐさま、別の方法を考えようとして閃いた。

 

(エリアになっちゃったなら、魔法使えるんじゃないか?)

 

 エリアの職業はメイン職業がウェポンマスター、サブ職業がアークビショップである。

 ウェポンマスターは武器での直接攻撃を得意とする職業で、アークビショップは主に回復魔法を得意とする職業だ。

 そして、アークビショップには数は少ないが光属性の攻撃魔法がいくつかある。

 なので、武器がない現在この数少ない攻撃魔法に頼るしかないのである。

 

(エリアが使えた攻撃魔法は四つ。出の速い広範囲攻撃のスターライト、同じく出の速い単体攻撃のシャインブラスト。発動速度は普通だが前二つよりは威力が高い複数攻撃のシャイニング、四つの中で発動速度は一番遅いけど威力が一番高く最大敵六体を狙えるホーリーランス。さて、どうしようか……。実際に使えるかは、使えることを信じてぶっつけ本番で試すしかないしな)


 こちらも周りの狼達の様子を窺いながら、どう動くか慎重に考える。

 ここで死ぬことは絶対に避けなければならない。

 向こうもこちらを窺いなら距離を詰めてくる。

 敵の攻撃射程内に入ったらアウトだろう。

 緊張のせいか額から汗が流れてくる。

 

(向こうも様子を窺ってる感じはするけど、距離を詰めるだけでまだ攻撃してこない。この距離ならホーリーランスいけるか? それなら、ホーリーランス使って発動と同時に撃ち逃げすれば逃げられるかもしれない。実際にちゃんと発動してくれればだけど)

 

 俺は覚悟を決め行動に移すことにした。

 

「ホーリーランス」

 

 念のため、意味があるかわからないが狼達に聞こえないように声を潜めて口に出してみる。

 口に出したと同時に体から何かが抜けていく感じがした。

 それから数秒か数十秒か細かくは分からないが、そのくらいの間をおいて空中に大きな光の槍が六本現れた。

 どうやら魔法が発動してくれたようである。


(よっしゃ! 魔法使えた!!)

 

 内心でガッツポーズする。

 光の槍が現れると危険と感じたのか、狼達が一斉に迫ってきた。

 迫ってきた内の一頭に目線を送って一本刺すように念じてみると、光の槍の一本が狼目掛けて飛んで行き眉間の辺りから心臓を貫くように勢いよく突き刺さった。

 同じ要領で迫ってくる狼達に次々と光の槍を突き刺していく。

 ホーリーランス六本全部撃ち終ると、目に見える範囲の狼達は串刺しになりながら真っ赤に染まった地面に転がっていた。

 

(危なかったが、なんとかなったな)


 そう思い安堵したのも束の間、また遠くから遠吠えのようなものが聞こえた。


(またか! 距離はありそうだけどまた襲われても困るし、すぐにここから離れよう。魔法が使えることが分かったとはいえ危険は避けないとな)

 

 急ぎこの場を離れることにした俺は、遠吠えらしきものが聞こえたのとは逆の方向に向かって走って行く。


 俺は邪魔な草を手で除け木の根に躓かないように気を付けながら、森の中をとにかく走った。

 走り続ける間、背後から聞こえていた遠吠えがいつの間にか左右からも聞こえてくる。

 遠吠えによって包囲されてきてるのは分かったため、完全包囲される前に急ぎ正面突破を試みることにした。

 走り続けていると、俺は森の中に一面開けた広場のような場所に出てきた。

 空を見上げれば、この辺りは木が茂っていないため日の光が降り注いでいる。

 太陽の位置が真上辺りであることから、元の世界と同じならお昼を少し回ったくらいだろう。

 周辺を見渡すと、切り株が無数にあった。

 切り株の面を見ると何かで切られたような痕跡があることから、どうもこの辺りの木は伐採されたことが窺える。

 

(切り株があるということは、もしかして近くに人が住んでるのか!?)

 

 それはつまり、この近くに人が住んでいるかもしれないということだ。

 もしかしたら、村や町がある可能性もある。

 俺は急ぎ周辺に人の痕跡がないか調べてみることにした。


 近くにある切り株の周辺から、痕跡を探していく。

 調べている間にも背後左右の遠吠えが近づいてきている、一刻の猶予もない。

 順々に調べて行き、広場の真ん中辺りの切り株を調べたところ雑草に隠れるように人の足跡らしきものを見つけた。

 その足跡は俺が進もうとしていた正面方向に続いているようだ。

 

(正面方向か、ちょうどいいな。急いで行こう!)

 

 段々と近づいてくる遠吠え達を気にかけながら、急いで正面突破を再開しようとした。

 その時、正面方向から遠吠えが聞こえた。

 それは背後左右から聞こえていたものより全然大きく力強い遠吠えだった。

 そして、正面からの遠吠えに呼応するように背後左右から遠吠えが同時に聞こえてくる。

 まるで、親玉に報告するかのように。

 正面も塞がれほぼ完全包囲状態になってしまったようだ。


(まずい。正面に親玉らしきものがいて、完全に包囲されちまった)


 周囲を見渡してみるがまだ敵の姿は見えない。

 

「ホーリーランス」


 念のため、いつでも撃てるようにホーリーランスを発動し待機させておく。

 そして、また体から何かが抜ける感じがした。

 俺は姿勢を少し低くしながら周囲の様子を探る。

 向こうも親玉らしきの含め、遠吠えを上げながらこちらに近づいているようだ。

 

(包囲されてる以上、逃げられない。なら、姿が見えた瞬間速攻で撃ち貫く!)

 

 極度の緊張に体が強張る。

 今の状態はまさに獲物ターゲットを待つスナイパーのようである。

 辺り一帯を静寂が包む。

 時折、遠吠えが聞こえ近づいてきてるのは分かるがまだ姿は見えない。

 なかなか姿を見せない敵にこちらの精神が磨り減ると同時に、迷いが出てくる。


(なかなか姿を現さない……。これなら、正面突破した方がよかったのか?)


 無理に突っ込むのは得策でないのは分かっているが、いつまで経っても敵が姿を見せず緊張状態が続くのは精神的にくるものがある。

 

(まだ姿見せないのか……。どうしよう、正面に突っ込んでみるか?)

 

 いつまでも続く緊張状態と木が茂っていないことにより直接照り付ける太陽の熱が、段々と体力と冷静な判断力を奪っていく。

 焦れに焦れて正面突破に切り替えようとした時、正面方向にいる親玉らしきものから一際大きな遠吠えが数回連続で上げられた。

 今までと違う遠吠えに気を引き締める。

 遠吠えが終わると、四方から狼達が姿を現した。

 数がかなり多く、適当に数えただけでも二十頭は軽く超えている。

 姿を現した狼達はこちらに目を向けると一斉に迫ってきた。

 

(やばいやばい、数が多すぎる! 近づかれる前に、殺るしかない!)


 予め発動させておいたホーリーランスを一番接近してきていた背後の狼達に狙いを定めて撃ち放つ。

 湖のそばで戦った時の様に、眉間の辺りから心臓を貫くように光の槍が刺し貫いていく。


「ホーリーランス」

 

 続けて、すぐさま新たなホーリーランスを発動する。

 ホーリーランスが生成されるまでの間も三方向から狼達が迫って来る。

 少しの間を置き、再度現れたホーリーランスを今度は左側から迫る狼達に狙いを定めて撃ち放つ。

 背後の狼達と同じ様に、光の槍が左側から迫っていた狼達を刺し貫いていく。


「ホーリーランス!」


 残りを刺し貫くため、再度新たなホーリーランスを発動し、生成完了を待つ。

 残りが正面と右側の半分になったが、既にかなり接近されていた。


(ホーリーランス、早くしてくれー!)

 

 もう目と鼻の先まで迫ってきた狼達を警戒しながら、早く生成が完了することを祈る。

 生成完了し再び出現したホーリーランスの狙いを右側から迫る狼達に素早く付けて撃ち放つ。

 光の槍が右側から迫った狼達も刺し貫き、残りは正面のみとなった。

 だが、正面の狼達がすぐにでも飛び掛かかれそうな距離まで迫っているため、もうホーリーランスの生成が間に合いそうになかった。

 

(この距離じゃ生成が間に合わないか。数が多いし、ここはスターライトで!)

「スターライト!」

 

 そう考えた俺はスターライトを発動する。

 数秒の後に突如、正面の狼達の目の前に光の球体が出現して破裂するように強烈な光を発した。

 俺もその光のあまりの眩しさに、思わず目を瞑り手で光を遮る。

 しばらくの間、発されていた光が納まったのを感じると、目を開けて辺りの様子を確認する。

 狼達は倒れてはいなかったが強烈な光に当てられたせいか、ふらつきながら目を瞬きさせていた。

 

「これはチャンス! ホーリーランス!」


 視界が回復し落ち着くまで時間がかかりそうに見えたのでチャンスとばかりに、距離を取りながらホーリーランスを発動する。

 そして、少しの間の後に生成された光の槍を残りの狼達に狙いを定め撃ち放った。

 発射された槍が残りの狼達を刺し貫き、なんとか狼達の撃退に成功した。

 ひとまずの窮地を脱したことで緊張状態が緩み、どっと疲れが出てくる。

 おそらく魔法を連発したせいだろう、肩で息をしている状態だ。


「もう少しで……跳びかかられてたな……」

 

 だが、まだ終わったわけではない。

 正面方向の森には、まだ親玉らしきものが残っているはずだ。

 しばらく正面の様子を窺っていると、親玉らしきものの遠吠えが聞こえ森から姿を現した。

 その姿は狼だったが、先程までの狼達とは全然違う。

 先程の狼達が灰色の毛色なのに対してこちらは茶色で、大きさは二~三倍はある。

 前足の爪は鋭く長く、口から覗く牙も大きく鋭い。

 引っ掻かれたり、噛み付かれたりしたらひとたまりもないだろう。

 

「ホーリーランス!」

 

 俺は先手を打つべく、ホーリーランスを発動する。

 だがその時、視界が揺らぎ体がふらついた。

 そして、立っている感覚が狂い尻餅をついてしまう。

 

(あれ……? 目が回って、動けない……)

 

 敵が迫っているのに、視界が揺れて体が動かない。

 段々と頭痛のようなものもしてきた。

 

(まさか、MP切れ……なのか? そういえば、魔法を発動する度に体から何か抜ける感覚があったけどもしかして……)

 

 スターゲートオンラインでは、スキルや魔法を使うときはMPメンタルポイントを消費する。

 MPは回復アイテムを使用するか、行動をしないで待機するか(移動は可能)、敵に通常攻撃(スキルを使わず、武器などで攻撃すること)をすることで回復する。

 ゲームだった時は、近接主体だったこともありMPがなくなっても武器でひたすら殴って回復していた。

 ここはおそらくゲームの中の世界だろうが、今の俺にとっては現実リアルである。

 だから、MPが切れて眩暈と頭痛がきてるのだろう。

 だが、このままではあの親玉狼の餌になってしまう。

 

(なんとかしないと……、このままじゃ……)


 親玉狼はしばらくこちらの様子を窺うように少しペースを落として迫っていたが、尻餅をついたまま動かない俺を見て迫る速度を上げる。

 俺も死にたくないため、必死に体を動かそうとしてみるが、全然動かない。 

 こちらに迫っていた親玉狼がこちらに飛び掛かるつもりなのか、足に力を籠め始めた。

 死の予感に俺の顔が強張る。


(このまま死ぬのか……? いや、嫌だ……。死にたくない……!!)


 足に力を籠めた親玉狼がこちらに向かって飛び掛かってきた。

 その鋭い前足で俺を引き裂くつもりのようだ。

 それでも俺の体は動かず、俺は思わず目を瞑る。

 もうだめかと思ったその時、なにやら肌に風を感じた。

 その瞬間、親玉狼の鳴き声のようなものと共に何かが遠くでズドーンと落ちる音がする。

 恐る恐る目を開けてみると、親玉狼が俺からだいぶ離れた位置で倒れていた。

 体は左側面が切り裂かれたような大きな傷ができており、首の辺りから上が切断され少し離れた地面に転がっている。

 そして、傷口から流れ出る大量の血液が辺りを真っ赤に濡らしていた。

 

(俺……、助かったのか……?)


 何が起こったのか分からないが、どうやら俺は助かったらしい。

 助かったのが分かって安堵した時だった。


「あんた、大丈夫か?」

「え?」

 

 突然人の声がした。

 

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