第17話 蛮勇と後悔
広場を抜け盗賊と思われる足跡が続いていた方向の森に入ろうとした俺は、補助魔法三種をかけ直す。
そして、森の中へ入って行き真っ直ぐ進んでいた。
(この先には残党がいるかもしれないからな、ここからは慎重に進まないと)
この先には残党がいる可能性があるため、気を引き締め直す。
俺は先程までよりも周囲への警戒を強めながら進んで行く。
俺はしばらくの間、適度に補助魔法三種をかけ直しながら足跡の方向の森の中を進んでいた。
だが、残党の姿は見えずそれどころかこの方向の森に入ってから魔物が一体も出てきていない。
周囲を警戒するように目をやりながら進んでいく。
しかし、森には鳥の鳴き声のようなもの以外は一切せず静まり返っていた。
そのことが逆に俺の心を不安な気持ちにさせる。
(なんだろう……、すごく不気味だな。残党はともかくとして、魔物すら一体も出てこないなんてな)
俺は不安な気持ちを抑えるために大鎌の柄を両手で強く握りしめる。
もしかしたら、表情にも出ているかもしれない。
俺は首を何度か横に振り、気持ちを切り替えようとする。
それでも、不安が消えるわけではないが少しましにはなった。
それから、たぶん一時間近くは歩いただろうか。
残党も見つからず魔物にも出会わずただ補助魔法をかけ直し周囲を警戒しながら歩くだけ。
それを繰り返しながら進んでいると、突如どこかから物音のようなものが聞こえた。
「……!?」
俺はびくっと体を震わせると、姿勢を低くし大鎌を強く握り締めながら周囲の様子を探る。
様子を探ってみると、音源は前方からのようだった。
俺は物音を立てないよう注意しながら慎重に近づいて行く。
それからしばらく時間をかけて慎重に近づくと、前方が若干明るく煙のようなものが見えた。
さらに姿勢を低くし、耳を立てる。
すると、話し声のようなものが聞こえてきた。
「お、やっと戻ってきやがったか。で、なんかあったか?」
「とりあえず、こんなもんしかなかったぜ。ったく、碌なもんがねえな」
「水は確保できたが、食い物がねえとどうしようもねえ」
そんな会話が俺の耳に入ってきた。
俺は草木の陰から姿勢を少し上げ、その人物達を確認する。
視界に映るのは三人の男達だった。
上半身は皮製の胸当てをつけてるだけでほとんど裸だ。
下は長ズボンを履いていて、腰の辺りに短剣のようなものを携えているように見える。
そして、頭には赤いバンダナ。
いかにも盗賊だといった格好をしていた。
(相手が三人か、どうしよう……。さすがに三人同時相手はきついかもしれない)
ユリカのように戦闘経験が多ければ平気だろう。
だが、俺は戦闘経験が少ないためできれば数人を同時に相手にするのは避けたい。
だから、どうしようかと悩んでいた。
とりあえず、もう少し様子を見ることにした。
「そういえばよ、この辺に村あったよな? 襲っちまうか?」
「お、いいね~。食い物に酒だろ、あと女も奪っちまうかぁ~。ひゃははは!」
「それ、いいな。あいつが戻ってきたら行くとしようぜ。久しぶりに楽しくなってきた!」
男たちはそんなことを言っていた。
(村を襲うだって!? ……不安だから各個撃破したかったけど、そういうわけにはいかなそうだな。やるしかないか……)
そう思い、立ち上がろうとして突如後頭部に衝撃を受けた。
「がっ!?」
衝撃を受けた俺は地面にうつ伏せに倒れてしまった。
そして、その音に男達が反応する。
「……!? なんだ、今の音!」
「なんかいるのか!?」
「確認してくる!」
男がこちらに向かってくるようだ。
(やばい!? こっちに向かってくる。早く逃げなきゃ……)
そう思い、急いで逃げようとしたが体が思うように動かない。
目だけを動かし、確認すると何やら人のようなものの足が見えた。
革製のような靴が見えるのでたぶんそうだろう。
「これはいいもん見つけたなぁ~」
背後の方からそんな男の声がしたと思ったら、意識が闇の中に落ちた。
俺は目を覚ました。
(ここは……?)
俺は周囲を確認しようとして、後頭部に痛みが走る。
「いたっ……!」
突如走った痛みに思わず声が漏れた。
俺は痛みに耐えながら、周囲を確認する。
そこはどこかの小屋のようだった。
周りにはイスとテーブルがある以外は何もない。
しばらく誰も使っていなかったのかどこか埃っぽい部屋だった。
俺は起き上がるため、上体を起こそうとしたが両腕が何かに引っ張られ起き上がれなかった。
「え……?」
俺は頭を上げ、両腕を確認する。
どうやら、自分はベッドの上に寝かされているようだった。
大きさはそこそこあるが、敷布団がすごく薄いのかベッドがすごく硬く感じた。
そこまではよかったが、問題は両腕だった。
なぜか、それぞれベッドの右端と左端にロープでかなりきつく縛られ固定されていた。
これではほとんど腕が動かせない。
(なんだよ、これ……)
嫌な汗が流れ、俺の心は段々と不安になっていく。
足の方を動かそうとしても足もほとんど動かせなかった。
足首辺りの感触から恐らくは足も腕同様ロープで縛られ固定されているのだろう。
体は完全に四肢が固定されているようだった。
俺は焦る心を抑えながら、状況を整理する。
(俺は確か……、盗賊の残党を見つけて様子見してたんだ。それでそいつらが村を襲うって言ってて、俺は……、……!?)
少し最後の辺りが曖昧になっていたが、おおよそのことは思い出せた。
そして、自分が置かれた状況をなんとなく把握する。
俺はあの時、村が襲われる事実に頭がいっぱいで気づいていなかった。
奴らは誰かの帰りを待ってるみたいなことを言っていたことに。
様子を窺うのに集中していた俺は、背後から近づいてた彼らの仲間に気づかなかった。
そいつに後頭部をやられ意識を手放し、目が覚めたら……。
(それが今の状況……。つまり俺は……)
俺はどうやら盗賊の残党に捕まってしまったようだ。
そして、気づいたが口には猿轡がされていた。
これでは助けを呼びたくても声が出せない。
いや、こんな森の奥で助けも何もないが……。
そしてこの状況をどうしようか考えている時、ふと猿轡の目的に気づいた。
(……そうか、魔法対策!? 声が出せなければ魔法が使えない! 魔法がある世界なら有効だ!)
俺は試しにホーリーランスを発動しようとしてみるが……。
「ほぉーひぃーはんふ!」
一応、それらしきものは言えるが当然発動しない。
これでは、魔法でロープをなんとかするということもできない。
何もできない事実に、心が不安に支配されていきただ焦るばかりだ。
(どうしようどうしよう!? このままじゃ、逃げられない! それにこんなところにいたら、あいつらが何してくるか……、……!?)
俺は思いつく限りの最悪の想像をいくつかしてしまった。
そのせいで目元が潤んできてしまっている。
村を出る時に声をかけずに出てきてしまったし、おそらく誰も気づかないだろう。
俺はなんとかしようともがいた。
だが、そのせいでベッドが軋んだ音を立ててしまう。
それは外にいる男達に聞こえてしまったようで、男達が小屋に入ってきた。
「おやおや~? ようやくお目覚めかな~?」
男のうちの一人がこちらを見ながらそう言った。
下卑た笑いを浮かべながら俺を眺める。
その視線に鳥肌が立った。
俺が涙目で震えている様子に気を良くしたのか、男達は俺が固定されているベッドの傍まで寄ってくる。
「で、こいつどうするよ? かなりの上玉だからきっと高く売れるぜ! 奴隷商人に売り飛ばすか?」
先程の男とは別の男がそう提案する。
こちらも下卑た笑顔を浮かべながら、俺の全身を見回していた。
(奴隷商人!? この世界、奴隷なんているのか!?)
俺は驚きと恐怖で顔が強張る。
これもゲームが現実になったせいだろう、ゲームの時には一度も出たことがなかった言葉だ。
すると、また別の男が言う。
「こいつの服装、どっかの貴族の令嬢じゃねえのか? なんなら、家吐かせて金品いただくってのはどうよ? もちろん、吐かせる方法は……だけどな。ひゃははは!」
そいつも他の男と同じく下卑た笑い声を上げるが、目が若干狂気が混じっている感じがしてすごく怖い。
最後にまだ喋っていなかった男が口を開いた。
「とりあえずよ、どうするかは置いといて愉しまねえか? 売り飛ばすなり家吐かせるなりするにしてもよ、こんな上玉滅多にいねえぜ? やれる時に愉しんどこうぜ、どうするかは明日決めりゃいいしな」
最後の男がとんでもないことを言い出した。
そいつも他の男達と同じ様な表情を浮かべているが、何か違う。
一見すると一番冷静そうに見えるが、視線は俺の体中を舐め回すように見ている。
この男に対する嫌悪感が他に比べて半端じゃない。
(こいつ、絶対やばい!? どうしよう……、そんなの絶対に嫌だ!)
俺はそう思い、ロープを何とかしようともがくがびくともしない。
そんな俺の様子を男達は下卑た笑みを浮かべながら愉快そうに見ている。
しばらく俺の抵抗を愉しみながら見ていたが、最初に喋った男が突然同調するように頷いた。
「ああ、それはそうだな。これだけそそられると我慢できねえよな~、くくく!」
すごく嫌な目付きで俺を眺める。
すると、他の二人も頷き出した。
「確かにな。初物のが高値が付くがこれを頂かない理由はねえな」
「そうだな、お前の言う通りだ。今日はこいつで愉しもうじゃねぇか! ついでに色々吐くまでたっぷり可愛がってやるぜ~。ひゃははは!」
他の二人も同じ様に俺の全身を眺め始める。
男達の会話に、俺は顔が青ざめていく。
(嘘……、嘘だろ……? 嫌だ、そんなの絶対嫌だーー!!)
「んんっ! んんー!」
俺は抵抗を激しくしたが、男達は激しくロープを引っ張っている俺を眺めながら俺を囲むように四方に散る。
俺は絶望的な状況だった。
(どうして……、どうしてこんなことに……。俺がユリカの言いつけを破ったから? おっちゃんの心配を無視したから?)
俺は潤んでいた瞳から涙を流しながら、後悔していた。
ユリカの言いつけを守って宿屋にいれば、こんなことにはならなかった。
おっちゃんに言われた通り、村を出ず話を聞いて回るだけにしていればこんなことにはならなかった。
後悔先に立たず、もうどうしようもない。
俺の左上に来た男は俺の首筋に顔を埋めると息を吸ったり吐いたりし始めた。
どうやら俺の匂いを嗅いでるようだが、当たる息がすごく気持ち悪い。
「すぅ~はぁ~。こいつすげえいい匂いするなあ~」
「んんっ!」
俺は当たる息の気持ち悪さに顔を男のいる方向とは反対方向に向け、震えながら耐える。
それは男の顔を愉し気に歪ませるだけだった。
右上にいる男は左手を俺の胸元に持って行き、俺の豊かな胸の感触を愉しんでいた。
他人に触られる感触にすごい嫌悪感が湧き、俺は身を捩ろうにも固定されて動けなかった。
「ひゃははは! こいついいもん持ってるじゃねえか!」
「んんーっ!」
嫌らしい動きで手を動かし、下卑た笑い声を上げる。
俺は嫌だと首を横に振ると、男は舌舐めずりして愉快そうにもう片方の手を空いている胸に伸ばす。
左下に移動した男は俺の白く滑らかな肌をした太腿を手で撫でたり揉んだり、たまに顔を近づけて頬擦りしたり口づけしたりしていた。
「あ~……、このすべすべの肌手触りたまんねえ~」
「んー!」
しつこく撫でまわされ鳥肌が立ち、時々体がびくっと震える。
俺の反応に男は気色悪い笑みを浮かべ、さらにしつこく上の方へと撫でまわしていく。
右下の男はしばらく何もせずに傍観していた。
一番嫌悪感が酷かった男が何もしないのが不気味ですごく不安だった。
しばらく傍観していた男が突如動き出す。
その顔には下卑たような狂気のような笑みが浮かんでいる。
俺の体は震え、恐怖でさらに顔が強張った。
近づいてきた段階で激しく首を横に振って嫌だという風に暴れる。
そんな俺の様子を見て益々愉し気に顔を歪ませながら、近づいてきた男は……。
俺のスカートの中に顔を突っ込んできた。
そして、そのまま顔を俺の股にくっ付け下着の上から舐め始める。
それだけで先程とは比べ物にならない凄まじい嫌悪感が生まれた。
「んーっ! んんーーっ!」
俺は体を反り返らせ、その反応に男はさらに呼吸を荒くしていく。
(こいつ……、やっぱりやばい!? ほんとにやばい!?)
どんなに抵抗しようと暴れても固定された俺は何もできない。
さっきまでは涙を流す程度だったが、俺は本気で泣き出した。
「うぐ……ひぐっ……」
(このままじゃ……、絶対……。嫌だ……、そんなの絶対嫌!! ……助けて、……助けてユリカっ!!)
俺は泣きながら心の中でユリカに助けを求めた。
届くはずはないのに……。
俺がそう心で願った時、突如外の方から大きな音がした。