第13話 ユリカの滞在理由
ユリカが顔を真っ赤にしたまま背を向けてからしばらくの時間が流れた。
あの後、俺は桶と使った布を下の階へ持っていきおっちゃんに返してきた。
その時になぜかおっちゃんがこちらをじっと見ていた気がするが、なんだったんだろうか。
部屋に戻ってきた俺はすることもなく、なんとなく窓の外を眺めていた。
降っていた雨は今はもう止んでいる。
きっと明日は晴れることだろう。
だが、俺の心は晴れてはいない。
ユリカに拒否の姿勢を取られたことが予想以上に心に響いていた。
(ユリカ、どうしたんだろう……)
考えても分かるはずはないのだが、窓の外を見ながらそんなことを考えていた。
すると、突然ユリカがこちらに向き直ったので、俺はユリカに顔を向ける。
顔が赤かったのが納まり、いつものユリカに戻っていた。
「ユリカ……」
俺がそう呟くと、ユリカはこちらに顔を向けた。
そして、少し照れくさそうに後頭部を掻く。
「あ~……、さっきは悪かったな。ちょっと色々あってな……。でも、もう大丈夫だからな!」
ユリカはこちらに笑いかけた。
その顔を見た俺は、少し安心できたのかつられたように笑顔を浮かべる。
それから、話題を変えるようにユリカに尋ねる。
「あの……、明日はどうするのですか?」
ユリカは右手を顎に当てて考える。
しばらくして考えがまとまったのか、こちらに目線を戻す。
「明日はコルナの森に行ってみようと思う。ほら、エリアと出会ったあの森だ」
「何か用事があるのですか?」
俺が尋ねると、ユリカは頷いた。
「ああ。実はカリーサ周辺で暴れてた盗賊団があってな。ギルドの依頼で潰したんだが、その残党がこのコルナ村周辺に潜伏してるみたいなんだ。だから、コルナの森を探してみようと思ってさ」
「ギルドって先程言っていた冒険者ギルドのことですか?」
ユリカの話を聞きギルドについて確認すると、ユリカが頷いた。
カリーサは惑星エルスフィアのアステリア王国にあった街の一つだ。
ゲームを始めた初心者が一番最初に行く街で、序盤の狩り場の拠点にするのである。
「ああ、そうだ。コルナ村には冒険者ギルドはないが、カリーサにはあるんだ。俺はそこで盗賊団討伐の依頼を受けたのさ。で、盗賊団の残党を片付けるためにコルナ村にいるんだ。昨日も森で残党探ししてる途中に何やら森の一部が光っててな。それでそこに行ったらお前を見つけた、というわけだ」
「なるほど、そうだったのですね。あの時はそのおかげで助かりました。……ということは残党探しの中断をさせてしまったわけですか……」
ユリカの話を聞き、俺は少し申し訳ない顔をした。
そんな俺の表情を見て、彼女が少し笑いながらフォローを入れる。
「おいおい、そんな顔するなよ。お前を見つける前も探してて、見つかってなかったんだからさ。中断しないで探してても、見つかったかどうか怪しかったんだぞ」
笑いながら言うユリカを見て、俺も少しだけ笑顔を浮かべる。
そして、俺は明日の予定を考えていた。
(ユリカには助けてもらったし世話になったからな。人手は多い方がいいだろうし、明日は盗賊団の残党探し手伝おう)
そう考えた俺はユリカに聞いてみることにした。
「あの……、ユリカ。私にも盗賊団の残党探し、手伝わせてもらえませんか? ユリカにはお世話になってますし、探すのなら人手は多い方がいいと思うのですが……」
「え?」
俺がそう提案と、ユリカが驚いた顔をした。
そして、暫く考え込む。
「いや……、駄目だ」
「え? なぜですか!?」
ユリカがそう言うので、俺は思わず叫んでしまった。
まさか、駄目と言われるとは思っていなかったからだ。
そんな俺を見てユリカは真面目な顔をし、声のトーンを落す。
「エリア、俺は遊びに森へ行くわけじゃないんだぞ? 盗賊団の残党の討伐に行くんだぞ? それに、森には魔物もいるし危険だ。だから、大人しく宿で待ってろ」
「でも……!」
俺がさらに何か言おうとすると、ユリカは睨みを利かせる。
その可愛い顔には似つかわしくないほどの迫力だった。
怯んだ俺は、押し黙ってしまった。
「大人しく宿で待ってろ、……いいな?」
「…………」
さらに、凄みを利かせて釘を刺す。
俺は何も言うことができなかった。
「明日は朝早くに出る。だから、俺はもう寝るぞ」
そう言うとユリカはベッドに入り、こちらに背を向けて横になった。
まるで、聞く耳を持たないというように。
俺はしばらくユリカの背中を見つめていたが、これ以上は無理だと思い俺もベッドに入って横になった。
そして、目を閉じる。
(ユリカ……。心配してくれるのは分かるけど、でも……)
俺は色々考えているうちに眠りに落ちた。




