第11話 この世界はスタゲですか?
ベッドに横になっていた俺は何やら足の痺れを感じて目を覚ました。
体の上体を起こし足を見ると、ベッドの外に膝を曲げて投げ出されていた。
(なんか、足痺れると思ったら変な風に寝ちゃったからか……)
痺れてしまった足を両手を握り拳にして、足首辺りから順に膝の方へ向かって挟むように軽く叩いていてマッサージしていく。
何往復か繰り返していると足の痺れが取れてきて、楽になった。
ユリカの方を見てみると、彼女もベッドに横になり寝ていたのだが……。
(ちょっとユリカ!? スカートが……)
俺は少し赤くなりながら、ユリカの方を見つめる。
少女は穏やかな寝息を立てていた。
寝ている途中で寝がえりをうったのだろう、左側を下にしてこちらに顔を向けるように寝ている。
そのせいだろうか彼女のスカートが際どい位置までずり上がり、その綺麗な肌をした太腿が露わになっていた。
普通に女の子だったらなら直してやって終わりだろうが、俺は見た目が女の子でも中身は男だ。
ユリカも普段は男口調で態度も男性全開だからあまり気にならないが、こうして寝てるとただの可愛い女の子なのだ。
俺は緊張して体が固まり、目が離せないまま動けなくなった。
しばらくそのままでいたが、ようやく緊張が緩まってきたので直してやることにした。
ユリカと、俺の精神衛生のために。
意を決して、直すために手を伸ばそうとしたら……。
「ん……」
ユリカが突然もぞもぞと身動きした。
「ひゃうっ……!」
突然身動きしたユリカに驚いた俺は変な声を出しながら慌てて手を引っ込め、口元を両手で押さえた。
自分が出した声が恥ずかしくなり、頬が熱くなる。
それから、しばらく様子を見ていたが度々身動きしどんどんずり上がって際どくなっていく。
さすがの俺もこの状態でいるのは辛かった。
(神様お願いします、早くユリカのスカートを直させてください……。俺のためにも……!)
俺は心の中でそう願った。
願いが通じたのか、身動きしたタイミングを見計らってユリカのずり上がったスカートを直すのに成功したのであった。
その後、ふと思いつき腕輪を起動してモニターを表示する。
すると、モニターが壁となり少女の姿が視界から見えなくなった。
(最初からこうすればよかった……)
俺は顔を赤くしながら、ただただ画面を見つめ続けた。
適当に腕輪のモニターを眺めているとユリカが起きだした。
眠そうな顔をして上体を起こし、体を伸している。
「ユリカ、起きたのですね」
「ん~……、なんか寝ちまってたわ」
ユリカは体を伸ばしながら、目を擦っている。
まだ、眠そうな顔だ。
しばらく伸びをしていた彼女はおもむろに立ち上がった。
「どこに行くのですか?」
「ちょっとトイレ行ってくる」
ユリカはそう言って部屋を出て行った。
彼女がトイレに行ったため、暇になってしまった俺は窓の外を眺める。
外は相変わらずの土砂降りの雨だった。
(明日は晴れるといいな~……)
そう思いながら、窓の外をのんびりと眺めていた。
しばらくして戻ってきたユリカと入れ替わるように、俺はトイレに行った。
そして、戻ってきた俺は彼女にこの世界のことを聞いてみることにした。
「ユリカ、私達がいるこの世界はスタゲの世界なのですか?」
ユリカは顎に右手を当て考え込む。
「う~ん……、スタゲの世界というよりはスタゲの世界に似た世界って言う方が正しいかな」
「スタゲの時と違うところがあるってことですか?」
少しの間を置き、ユリカは頷いた。
「ああ、微妙に違ってるところがあったりするな」
ユリカがこちらを一瞥すると、そのまま話を続ける。
「まず一つ目が、まあこれは言われてみれば当然っちゃ当然なんだけど、街や村は勿論、街から街までの街道やダンジョンなどの広さが全然違う。ゲームだった時は狭かった部分が現実になって広くなってるんだ。ゲームだと街から街まで戦闘交えても十分もあれば余裕で行けたけど、現実になった今では普通に数日かかる」
「確かに言われてみればそうですが……、ってそんなにかかるのですか!?」
ユリカの話を聞いて、俺は驚いていた。
言われてみれば当たり前のことだが、実際に言われるとやはり驚いてしまう。
そんな俺に一度目をやってから、話を続ける。
「二つ目の違いはHPがなくなったことだな。ゲームだった時はHPがある限り死んだりすることはほぼなかった。だが現実になった今は心臓や頭をやられたり、出血が多ければ間違いなく死ぬ。まあ、元の自分の体よりはだいぶ頑丈ではあるけどな。あと、スタゲに似た世界だがゲーム感覚は早めに捨てろよ。でないと……、すぐ死ぬぞ?」
ユリカは途中から声のトーンを下げ、真面目な顔をした。
俺は背筋が凍る思いで聞いていた。
昨日、この世界に来て森を彷徨っている時に狼に襲われ戦ったりはした。
だが、狼は攻撃魔法でなんだかんだ倒し、親玉狼に襲われてピンチだった時はユリカに助けられた。
だから、俺はこの世界で本当に命懸けで戦闘をしたことはなかった。
いや命懸けのような戦闘はしたが、ゲーム感覚ではなかったとははっきり言えなかった。
(たぶん、心のどこかでは未だにゲーム感覚な部分があるんだろうな……。だけど、そう言われても簡単に捨てることなんてできそうにない……)
俺は頭の中でいろいろ考えてるうちに俯いてしまった。
俺の様子を見たユリカが、おもむろに立ち上がってこちらに寄ってくる。
そして、俺の頭を優しく撫で始めた。
「まあ、いきなりは無理だろう。少しずつ慣れていけばいいさ」
俺は俯いたまま頷いた。
ユリカはしばらく俺の頭を撫でていたが、俺が顔を上げたので手を離して自分のベッドに腰掛けた。
「少し落ち着いたみたいだな。さて、違いについての話に戻るぜ。最後に三つ目は、この世界には冒険者ギルドと呼ばれる組織みたいなのがあることだな。まあ、他のゲームだとこういうのはあるものもあるからなんとなくどういったものかはわかるだろう?」
ユリカの言葉に俺は頷く。
おおよそどういったものかは予想できる。
スターゲートオンラインのクエストは基本的に各街や村にある掲示板から選んで受けるか、NPC達から直接受けるかの二通りだ。
冒険者ギルドのような依頼斡旋所みたいなのはスターゲートオンラインにはないのだ。
「まあ、スタゲとの違いはそんなもんかな」
「スタゲというよりゲームと現実の違い……といった感じですね」
俺がそう言うとユリカは頷いた。
彼女の話でここがスターゲートオンラインの世界ではなくスターゲートオンラインに酷似した世界だということが分かり、ふと疑問が浮かぶ。
「昨日、私達がいるのはアステリア王国だって言ってましたよね? それって私達が今いるのは惑星エルスフィアってことですか?」
俺が尋ねるとユリカはまた思案するような姿勢を取る。
「たぶん、そうだとは思う。アステリア王国はもちろんアステリア王国以外の国やダンジョンもゲームの時と一緒みたいだしな。」
「そうなのですか」
私達がいるだろうと思われる惑星エルスフィアはスターゲートオンラインのゲーム内で登場する四つの惑星のうちの一つだ。
ゲーム内の表記は第一惑星:始まりの星エルスフィア。
サービス開始時に実装された最初の惑星でファンタジー世界のような惑星なのである。
「ということは他の惑星もあるんでしょうか?」
「惑星間を移動したって話は聞いたことがないな。でも、今いるこの世界というか惑星がエルスフィアに似てるから、可能性はあると思うぞ?」
ユリカは少しの間思案した後、顔を上げる。
俺は他の惑星について思い返していると、背筋が寒くなった。
「もし、他の惑星があるならエルスフィアに飛ばされたのは不幸中の幸いでしたね、アビーダスに飛ばされてたらと思うと……」
「それは考えたくない話だな……。アビーダスはもちろんのことグリーウッドもそうとう厳しいだろう……」
俺の言葉に、ユリカが顔を引きつらせる。
アビーダスとグリーウッドはそれぞれスターゲートオンラインに存在する惑星の名前だ。
ゲーム内の表記はそれぞれ第三惑星:新緑の栄える星グリーウッド、第四惑星:闇が覆いし深淵の星アビーダスである。
グリーウッドは惑星の大半が森で覆われた惑星だ。
食料は森の中なので木の実や食べられる草花もあるだろうし、水も川や湖が見つけらればなんとかなるかもしれない。
問題は、この惑星には多くのエルフとダークエルフが住んでいるということなのだ。
エルフとダークエルフは互いに敵対関係なのだが、双方ともに相手エルフ族よりも人族を目の敵にしているのである。
この惑星にも人族は住んでいるし国はあるが三分の二はエルフ達の領土なので、もしそこに転移していた場合、即命を狙われていた可能性が高い。
アビーダスは空が闇に覆われていて朝昼晩ほぼ日の光が差さず、ずっと夜状態の惑星だ。
この惑星は土地がかなり腐敗しきって大地の大半が死滅しており、毒や瘴気などの地形ダメージが異様に多い。
故に綺麗な水源なども少ないだろうし、食料など期待すらできそうにない惑星でそもそも人が住めるような環境の惑星ではない。
さらに、この惑星に住んでいる主な種族は屍族と吸血鬼族、要するにゾンビと吸血鬼しかほぼ住んでいない。
人族は吸血鬼族に食用として飼われているの以外存在していないのだ。
転移したら最後、食料や水がなくて死ぬか吸血鬼族の餌として死ぬかの二択になるだろう。
実際に存在するかは分からないが、転移された惑星が本当にエルスフィアでよかったと思う。
ユリカからこの世界についての話を聞いて一段落した頃、窓の外を見ると雨が降ってはいるがすっかり弱まり暗くなっていた。
結構時間も経ち、お腹も空いてきている。
「ユリカ、そろそろ暗くなってきましたし晩ご飯にしませんか?」
「そうだな。それじゃ、晩飯にするか」
ユリカは頷き立ち上がった。
俺もそれに倣って立ち上がる。
ずっと座ってたせいか体が硬くなっていたので、少し体を伸ばし解した。
そして、俺達は下の階に降りておっちゃんに晩ご飯を頼むと、夕食にするのだった。