第10話 危険な回復魔法
メニューのスキルの項目の確認を終えた俺は、ステータスの項目を確認をすることにした。
腕輪のモニターのメニューにあるステータスの項目をタッチするとモニターにはマイキャラのステータスが表示された。
そこにはキャラネーム、メイン職業サブ職業の職種、メイン職業サブ職業のレベル、キャラのステータス、装備中の装備が表示されていた。
一通り確認はしたが……。
(やばいな、さすがにステータスまでは覚えてないぞ……)
そう、ゲーム時代だった時のステータスまでは覚えていなかったのだ。
自分の方で確信が持てなかったので、ユリカに聞いてみることにした。
「ユリカ、ステータス項目のステータスってゲームだった時と一緒なんでしょうか? どうにも思い出せなくて……」
「悪い、俺もそれ覚えてなかったから一緒だったかは分かってないんだ」
どうやら、ユリカも同じだったようだ。
彼女の方を見ると、俺の腕輪のモニターに目を向けていた。
(そういえば、公開設定にしたままだったな)
俺の腕輪のモニターを見ていたユリカだが、途端に表情が険しいものに変わった。
俺は小首を傾げながら彼女を見つめる。
「ユリカ、どうしたのですか?」
「エリア、お前の職業……」
ユリカはそこで言葉を切った。
何が言いたいのかはなんとなく分かっている。
俺のメイン職業サブ職業の組み合わせがあれだと言いたいのだろう。
なにせ、サブ専と呼ばれている職業をメイン職業にしている上にメイン職業が近接職、サブ職業が回復魔法職という組み合わせなのだから。
説明しよう!
スターゲートオンラインでは、プレイヤーキャラはそれぞれメイン職業とサブ職業を持っている。
キャラ作成時はメイン職業のみだが、メイン職業がレベル三十になった時に発生するクエストをクリアすることでサブ職業が習得できる。
ただ、メイン職業サブ職業共に一度決めた職業は変更することができない。
故にある程度の決まった組み合わせの型から選択するのが一般的なのである。
マイキャラのようなメイン職業がウェポンマスター、サブ職業がアークビショップというのは型外の組み合わせなのだ。
如何にも初心者がやっちゃったぜ! 的な構成だが、個人的にはやっちゃったぜ! 構成のつもりは全くない。
ソロで狩りをする時は、回復アイテムの節約になり手持ちを気にせず回復できるため個人的には気に入っている。
火力もそこそこは出るのでそこまで気にはならない。
問題点があるとすれば、それぞれ攻撃や回復、補助の特化型に比べると全部がそれぞれの劣化になるという点だ。
色々できるということは、比較されればただの器用貧乏なのだ。
それに伴って最上位ダンジョンだと野良PTに参加できないことくらいである。
最上位ダンジョンは難易度がすごく高いため、各特化型を募集してる場合が多いのだ。
まあ、基本的にソロで可能な金策クエストばかりやっていて、ダンジョンはギルドメンバーと行っていたのでそれ程困ったことはなかったが。
「ユリカ、分かってますよ。でも、これはこれで器用貧乏ですが、ちゃんと安定して戦えるのですよ?」
「いや、そういうことじゃないんだ……」
ユリカは否定するように首を横に振った。
俺はどういうことか分からず首を傾げる。
「エリア」
ユリカはそう言うと真面目な顔をしてこちらを見つめてきた。
「今から大事な話をするからちゃんと聞いてくれよ? 単刀直入に言うぞ。ヒールと状態異常回復の魔法以外、回復魔法は極力使うな」
「え? なぜですか?」
俺は首を傾げたまま、続きを待つ。
ユリカは右手を顎に当てて少し考える素振りを見せた。
おそらくどう話すか整理しているのだろうが、それ程大事な話のようだ。
「この世界では、回復系の魔法を使えるのは教会で修練した人間だけらしいんだ。それで一般的にはヒールと状態異常回復の魔法を使えれば教会の人間としては一人前、複数人一度に回復できるヒールオールが使えれば幹部候補レベル、ハイヒールに至っては教会のトップ数人しか使えないらしい。だから、それ以上の回復魔法を使ったら大変なことになるんだ」
「た、大変なことってなんですか……?」
なぜか感じる嫌な予感に、嫌な汗が出てくる。
「まず、知られたら王都に連れて行かれるだろうな。ただでさえ、回復魔法が使える人間は貴重なのに教会のトップよりも強力な回復魔法が使えるんだからな。きっと王国軍お抱えの治療術師にされるだろう」
「それってつまり……、一生王都から出られなくなるかもしれないってことですか……?」
ユリカは真剣な表情で頷いた。
俺は背筋が寒くなる思いだった。
(それってほぼ捕らわれの身と一緒ってことじゃないか!? そんなの絶対に嫌だぞ!!)
俺は思わず自分の身体を抱くようにして震えた。
そんな俺の様子を横目で見ながら、思い出すように話を続ける。
「最近は話を聞かないが、二年くらい前にメインがアークビショップだったある転移者がいたんだ。そいつは蘇生系の回復魔法まで使える回復特化型でな。王国軍に知られて使者が来て、協力要請があったそうなんだ。でも、そいつは断ったんだそうだ。そしたら、そいつは無理矢理王都に連れて行かれてな。連れて行かれても抵抗したそいつは結局……」
「…………」
ユリカはそこまで行って話を切った。
俺は黙って俯いてしまう。
彼女が続けようとしていた言葉がなんとなく分かったからだ。
「……どうしても使用すると目立ってしまうから、スキルランクの低い回復魔法以外は使用するなってことですか……」
俺の言葉にユリカは真面目な顔をして頷いた。
彼女の話をまとめるとこういうことだろう。
まず、スターゲートオンラインは何次職業かによって習得できるスキルランクの上限が決まっている。
1st職業はスキルランク1~3まで、2nd職業で1~5、3rd職業で1~7となる。
最初に出てきたヒールはスキルランク1、状態異常回復の魔法は回復させる状態異常によるがそれでもスキルランクは1~2だ。
そして、この世界ではエリート扱いされるヒールオールとハイヒールはともにスキルランク3。
ちなみにヒールオールは1st職業であるクレリックで覚えられるが、ハイヒールを覚えられるのは2nd職業のビショップだ。
要するに、教会の人間の実力は2nd職業になってそこそこがトップということだ。
そんな世界で2nd職業の上位回復魔法や3rd職業の回復魔法を使用すれば明らかに異様に見えるだろう。
そんな超常の力を持ったヒーラーがいれば、無理矢理にでも連れて行こうとするのは理解できる。
ヒーラー全体の数が少ないとあれば尚更だ。
蘇生系回復魔法なんて彼らから見れば、神の様な力なのだから……。
俺はサブ職業アークビショップだからスキルランク7の蘇生系回復魔法は使えないが、それでもスキルランク5の回復魔法は使用できるため十分危険に巻き込まれる可能性がある。
おそらくユリカはそのことを心配してくれているのだろう。
それに俺だけならまだしも彼女まで危険に巻き込む可能性もある。
ここは慎重に使用するスキルは選ぶべきだろう。
「分かりました。余程のことがない限りはヒールと状態異常回復の魔法以外の回復魔法は使わないようにします。ユリカにまで危険が及ぶ可能性もありますからね」
「ああ、そうしてくれ」
ユリカは目を閉じて少し嬉しそうに頷いた。
話が一段落したところで、一つ思うことがあった。
先程の話とはまったく関係ないが……。
「あと、ユリカだけ私のステータス画面見てずるいです。私にもユリカのステータス画面見せてください」
「悪かったよ。これで見えるか?」
そう言ってユリカが自分の腕輪のモニターを見せてくれた。
そこには彼女のマイキャラのキャラネーム、メイン職業サブ職業の職種、メイン職業サブ職業のレベル、ステータス、装備中の装備が表示されていた。
ユリカのメイン職業はバーサーカーで、サブ職業はウェポンマスターだった。
「メインバーサーカー、サブポンマスって鉄板構成ですね」
「メインはともかく、近接・射撃職なら大抵はサブポンマスだろうな」
バーサーカーは近接3rd職の一つで高火力職だ。
使用できる武器が攻撃速度が遅い大剣か斧なのが欠点らしい欠点だろうか。
その分、一撃一撃の破壊力がとんでもないのだ。
さらに、スキルランク7のスキルの中には瞬間火力を高めるものや一定時間仰け反りなどを防ぐスキルなど攻撃を強化したりサポートするスキルがあり、近接職の中でも人気が高い職業の一つだ。
ウェポンマスターもバーサーカーと同じく近接3rd職の1つで、よくサブ専と呼ばれている職の1つだ。
長いので略してポンマスとよく呼ばれている。
この職業は名前の通り使用できる武器に制限がない。
ただ、攻撃スキルがあまり多くなく、どの武器の攻撃スキルも習得できるのはスキルランク5相当の攻撃スキルまでなのだ。
この職業のメインスキルはアクティブスキルではなくパッシブスキルだ。
武器装備時に敵に与えるダメージが増えたり、特定武器装備時に通常攻撃や攻撃スキルに特殊な効果が付与できるようになったりとそんな感じのスキルが多い。
しかも、その辺りのスキルは一部を除くとスキルランク5以下のスキルばかりなのだ。
故にサブ運用言われているのである。
まあ、俺はメイン職業にして使っているわけなのだが……。
「この組み合わせなら、弱い敵は射程の長いスキルを使えば戦うことなく敵を倒せそうですね」
「まあな。このコルナ村の周辺くらいならソニックスラッシュかショックウェーブ一発で沈むぞ」
ユリカが少し楽しそうな表情を浮かべる。
彼女のステータス画面を見終わった俺はメニューから設定の項目を選んで公開から非公開に設定し直した。
それを見ていたユリカも俺に倣って、設定を公開から非公開に設定したようだ。
俺は自分のベッドに移動し腰掛ける。
そして、体を倒して伸びをした。
そのまま目を閉じて横になっていると、俺の意識は闇の中に落ちていった。




