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無題

目を覚ませば見覚えがあるが自宅ではない場所だ。夜勤明けで体が言うことが利かないがそれはいつもの事なので問題ない。逆に気だるすぎる感じがするのはと考えを巡らせていると足音が聞こえるので夫だろう。

「大丈夫か?」心配そうな声が聞こえるが見えない。動かない私を慣れた手で抱き上げて風呂へ

ざっとシャワーを浴びさせてくれてソファーへ。膝枕をしてくれながら

「仕事やめような。こんな調子だと体を壊すだろう?色々と変調が出始めているだろ?」分かりきっているのに聞いてくるのは私を説得しようとしているからだろう

「昔の古傷が悪さしているのは分かっているだろう。主治医が心配して連絡してくれた」パサッという音がしているから診断書を置いたのだろう

昔、無茶をして体はガタガタ言っているのは理解している。それでも補助器具を使って通常以上の生活ができるので気にしていなかったが、最近ちょっと無理をしていたので変調が出始めたのだろう

「これを会社に提出して体調がよくなるまで休むかやめるかしないとダメだ。それが嫌なら軟禁だな」穏やかな声で脅してくるが、まだ宣告してくるだけ良いのかも知れない。さてはてどうやって仕事を継続していけないか考えていれば

「ダメだ」

「決定事項なの?」

「決定事項だ。上からにも承認も得ているからな。で、上から職場に一応電話をいれてくれているけれども」

「説明を入れたい」そういえば着替えさせてくれて外出の準備をしてくれた。杖を持たせてくれてエスコートしてくれる。補助器具がなければ杖か車イスだが、付き添いがいなければ明暗しかわからないのでエスコートがなければ出歩く事もできない。

軟禁というのはそういうことだ、車に乗せられついた先は職場の病院。杖をつき介助されながら歩いている私を見て驚いている雰囲気が部署内に流れている

「佐倉さん」声がした方向に体を向けて

「はい?」それにショックを受けたようなので間違ったようだ

「師長いますか?」聞きながらナースステーションに入れば

「佐倉さん。どうしたの」驚きながら聞いてくる師長のところに導いて貰い

「うちの親族から退職の打診が入ったようなので説明に来ました。補助器具がなければこんな感じなんですよ私」パサッと音がしたので既往歴が書かれた紙と主治医の診断書が渡されたのだろう。数秒の沈黙と共に

「どうやって」そう言う師長の呟きに

「いつもは眼鏡で視力を強化していました。それに後遺症が残っている怪我は数珠で補助して仕事していました」

「それでも」

「ええ。そのためには大量の癒し石を使用していますが、生成・調節しているのは私なので」そう言うと気まずい沈黙が流れる。普通に考えれば癒し石ひとつ買うだけでも数百マンは下らないのにと思っているだろう。補助器具だけでも結構な額が出るが、補助器具だってアイデアは私が出したものでありアイデア料として試作品の使用と調整をお願いしているのでお金がかかった事がない。

怪我だって姉や親しい人を守るために負ったものだから後悔はしていない。怪我のせいで夢を諦めるつもりも更々なかったので、叶える方法を模索して現在の状況になっている

「まあ。これで妻が使用している補助器具の有効性とデータが取れたので製造が許可された。妻以外にも数人に同じような試作品を提供してデータが取れ有効性が示されたということもあるが」その補足情報は今は要らないだろう

「ということで妻の体調も悪化しているので仕事をやめさせたいと思っているのだが」

「悪化というと?」

「器具がなければ生活できない訳ではない。軽い補助的なものがあれば通常は生活に困らないのにも関わらず、補佐的なものではなく補助的なものを使わないと生活ができなくなっているのが良い証拠です。補助器具をはずしたら杖歩行から車イス。しかもリクライニングにでの生活になってしまうと主治医が判断しているので」とんとんという音が響いているので主治医の意見書を示しているのだろう夫

「やめるのは致し方がないとして急にやめると言われても人員確保等で1ヶ月ほどかかるのですが」

「ええ。妻の代わりに妻よりも技術がある人間をこちらから派遣しますので問題ないでしょう。その事に関しては理事長先生に上のものが話しているはずですよ。今」と言っている最中師長のピッチに連絡が入った

「はい。え?はい。はいわかりました」あきれたような声を出したあとに

「理事長から佐倉さんの今日付けの解雇が言い渡されました。ロッカーの荷物をまとめて鍵を総務に」と言って退室を促された。

その足でロッカールームに行き整理をして総務に鍵を渡す。一応ロッカーの整理は女子ロッカーなので夫には待ってもらった。

「とんとん話で決まったけれども結構前から計画していたんでしょ?」と聞けばキスをしてごまかしてくる夫

確かに調子は悪かったが主治医がストップをかけるほどではなかったはずである。なにか計画しているのか夫として危機感を感じたのか知らないが私に仕事をさせたくないということは確かである

正直少し休みたかったから丁度よかったが、もう少し穏便な方法を選択してほしかった

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