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村を出た先にあったのは、一面の草原だった。
うん、本当になにもない草原だ。
木や小屋なんかがあってもいいと思うんだけど、本当一面草しか見えない。
丘すらないまっ平だし。
これ、デバックちゃんとやってるよな、なんて少し不安を感じるが一旦置いておいて。
まず、するべきことをやってから気にするとしよう。
「ステータスチェック!」
俺はそう高らかに宣言する。
すると目の前にメニュー画面が現れ、その中のステータスの項目が開かれた。
──ステータスチェック。
当たり前だけど、これは初見かつゲーム冒頭では重要なことだ。
回復魔法使えたら薬草をどう使うか考えられるし、技があるのならばモンスターとの戦闘方針も決めることもできる。
序盤は魔法や技を覚えていない事が多いが、ステータス的に判断・予測する事もできるし。
特に今回は吸糖鬼という謎過ぎる種族。
調べておかないと、下手したら次の村まで辿り着けない可能性だってある。
俺は若干嫌な予感がしつつも、ステータスをまじまじと見つめた。
〜ステータス〜
ショウ Lv.1
HP 5/5
MP 1/1
攻撃 1
防御 1
素早 2
魔力 1
魔防 1
命中 1
賢さ 1
幸運 5
…………
あれ、おかしいな。
俺は誰かの通信簿でも開いてしまったのか?
しかも留年確実といえる感じの。
運動だけが取り柄なんだぜ的に、体育しか得意じゃないみたいな。
俺は一度画面を閉じてまた開いてみる。
うん、数値に変化はない。
最悪な事にどうやらこれが吸糖鬼の本気らしい。
こんな酷い初期ステータスじゃあ、恐らく最弱モンスターのスライムに敗れますよね、一撃で。
念のためスライムのステータス、確かめておこう。
そう思った俺は、テロップのナビ子(俺命名)にデータを取り寄せてもらった。
すると、直ぐにステータスの書かれたテロップが目の前に現れた。
スライムLv.1(ここ一帯のデータ)
HP 7
MP 0
攻撃 6
防御 3
素早 3
魔力 0
魔防 0
命中 5
賢さ 1
幸運 2
あぁそうか、そうだったんだ。
スライムが強敵でラスボスだったのか。
だって、本当にスライムの攻撃一回で即死なんだぞ?
早さも負けてるから先手とれないし。
遭遇したら終わりだ。
「い、いや、まだだ!」
早くもこのゲーム詰んだかなと思ったが、希望はまだある。
このようなキャラは、次のレベルアップまでの経験値が少なくて済む事が多い。
そう、例えばスライム一回倒すだけで──
ショウのレベルアップまで
100000000
……あれぇ?
レベルアップアップするのに、ラスボスなスライムを五千万体倒さないといけないだなんて。
変だな、目が霞んできたよ。
【分かったから正面を向こうね、正面を】
そんな感じで鬱な気分に襲われた時、ナビ子さんがそう言った。
どうせくだらないことだろうと思って見てみる。
──後悔した。
何故なら
「ピキー!」
ラスボス(スライム)の登場であったからだ。
「…………」
俺は迷わず、コマンド『逃げる』を選択!!
絶対に逃げて──
【しかし逃げられなかった!】
えっ、ナビ子さん、今なんて言った?
逃げられなかった、だって?
──それを頭で理解できた時にはもう遅かった。
コマンド失敗により、動けない俺。
体当たり攻撃するために、助走をつけるスライム。
避けられるほど早さがない俺。
走ってくるスライム。
ええ、これは間違いなくーー
「俺、死んだわ!!」
【スライムの攻撃!!】
そんなナビ子さんの声がする中、腹部にスライムのポヨポヨ感。
それと同時に上空を舞う俺の体。
ああ、俺はここで死亡なのか。
何という悲しい人生だった……
【ショウは4のダメージを受けた!!】
ってあれ、まだ生きてる。
おかしい、普通なら俺は死んでいるはずだ。
何故なのかあれこれ考えてると、あることを思い出した。
それは防具。
運営の人に貰って装備した、あのコート。
装備したから防御上がって、何とか生き残れたわけか。
助かった、初期戦闘でいきなりデススポーンは恥ずかし過ぎるからな。
思わず額から出た汗を拭っていると、威圧的と感じるくらいに、目の前にナビ子のテロップが出てきた。
【ショウのターンです。何しても無理だから早く死ね】
「ナビ子さん、ひどっ!?」
【いいからとっとと行動する!】
コンピューターにも馬鹿にされてる俺。
いいさいいさ、パッパと行動しつつ何とかしてみせるさ!
……さて、何を選択しよう。
逃げるを選択したいが、前作と仕様が変わらなければ、一度失敗したため逃げられない確率が高くなっている。
通常攻撃しても威力が足らない以前に、早さも足りないから先制されて死ぬだろうし。
道具を使っても永遠に、回復→瀕死→回復のデフレスパイラル。
防御は問題外。
ならやっぱり詰んだ?
と思うだろうが、まだ可能性が一つ残っている。
その可能性とは、魔王の登場で調べなかった技の欄である。
もしかしたら完全逃走系や即死系の技があるかもしれない。
それでなくても何かがあれば活路が見出せるかも
お願いだ、あってくれ!
【技:石投げ】
──だが悲しい結果しかなかった。
何だよ石投げって。
道端の石を投げるのか?
それでどうしろって言うんだ。
「だけどもうヤケだ、石投げを選択ッ!」
【先制攻撃、ショウの石投げ!!】
えっ、まさかの先制攻撃!?
何故先制なのかは知らないが、さっさとそこら辺の石を投げてしまおう。
どうせ死ぬんだし。
「ほれ」
俺はスライムめがけて軽く投げた。
何とか命中し、ぽこんと当たる音が聞こえる。
【スライムは1600000のダメージを受けた!!】
「えっ?」
【スライムは爆散した】
「…………」
どういう、ことなんだろう、ね。
俺にはこの展開はさっぱりだ……