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「……さて、と」
まずは何をしよう。
現状俺は武器や防具は無いし、アイテムすらも無い状態。
……え、刀の武器?断浪清風?
そんな武器、俺は知らないな。
知っているのは村長宅玄関を彩っている、ほかほかしている刀ぐらいだ。
と、まぁそんな感じで何もない俺。
幸いに無一文というわけじゃなく、開始時に1000円、村長から2000円貰っていた。
3000円もあれば色々と揃えられるだろう。
「んじゃ、まずは装備を整えておくかな」
俺は村長の家の隣にある、古ぼけた武器屋の中に入った。
「はい、らっしゃい!」
入ると同時に物凄く大きな声で俺を出迎える、ムキムキマッチョなオッサン。
数秒毎に違うファイティングポーズをとる辺り、格闘家か何かなのだろう。
じゃなかったら上半身裸で汗を光らせている変質者だからね。
……うん、これは早いとこ買い物を済ませよう。
「一通り武器を見せてくれ」
「はいよ!!」
すると目の前に、武器の一覧が書かれたウインドウが現れる。
おっ、序盤のわりには充実してるな。
種類としては剣、短剣、刀、斧、槍、弓、杖、槌、鞭、扇、バット、メリケンサック、フライパン、鉄砲。
もっと細かく見てみると、剣の欄には長剣や大剣、銃なんかはSAA、Mk22、AK-47、RPG-7、コルトバイソンなんて物もある。
選り取り見取りに選べそうだ。
まぁ吸糖鬼が何を装備できるかが問題なのだが。
あの武器の件もあるから少々不安、いやあの武器の件って知らないけど。
ともかくだ、少し覚悟して見ていかないといけない。
……よし、まず誰でも装備できる短剣、「冒険者の短刀」から試そう。
そう思った俺は短剣を選択しようとした。
【ぜんぶそうびができません】
──ら、途端にそう流れるテロップ。
思わず「は?」と、呆気ない声を出す俺。
いや、まさかな。
俺の聞き間違いであって欲しいと願ったが、現実は非常であった。
【貴方は武器が使えないのさ!残念無念!!】
武器なのか怪しいフライパンすら装備できないのか、俺は……
正直マジで素で落ち込んだ。
思わずうなだれていると、それに気付いた店主が声をかけてきた。
「おう、どうしたボウズ!」
気さくに声がけするマッチョ店主。
あっ、こういうフレンドリーな店主なら、もしかしたら何か見繕ってくれるかもしれない。
そう考えた俺は、武器が何も装備できないことを相談した。
が、やはり現実は非常すぎるのである。
「んだよ装備できねぇんならとっとと失せちまいな、このダラズが!!」
店主、まさかの放棄&追い出しであった。
これは流石に泣きそうになるぞ。
ちょっと選択を間違えただけなのに、こんな目に合うなんて……
「この筋肉が光っている内にはよ消えな!」
と思っていたけれど、やっぱり装備できなくて幸運だったかもしれない。
だってマッチョポーズするたびに、汗が商品に飛んでいき、付着しちゃってるんだもん。
よく見たら一部染み付いてるのあるなこれ。
買わなかったら買わなかったで何かありそうだったし、これはついてるかも。
俺はそのまま店を出た。
しかしながら店主の言動に多少文句があるのは事実。
なので上半身露出しているから警察(運営)と、ダメになってる品物売っているので消費者庁(運営)。
その2つに連絡しておきました。
「よし、切り替えて今度は防具を見に行くか」
防具屋は武器屋の向かいのお店である。
中に入ってみると、内装が武器屋よりも小綺麗で清潔感がある。
店員さんもマッチョではなく、綺麗なお姉さんだし。
内心ホッとしながら、俺はお姉さんに訊ねた。
「防具を一通り見せてください」
「どうぞー」
先程と同じように、一覧が書かれたウインドウが出るがここは普通の序盤な品揃えのようだ。
旅人の服に鎖帷子、布のローブ、革の胸当て、防弾チョッキに──はぁ!?
何でこんなところに、「魔法少女のローブ」が売ってんだ!?
最強クラスの防御力を誇り、直接攻撃ができない代わりに魔法力が馬鹿みたいに上がる、前作の魔術師御用達の定番防具!
見た目が名前通り魔法少女チックなところを除けばとても素晴らしい防具なのだ。
全く、普通の品揃えって言ったやつ誰だよ、滅茶苦茶凄い店じゃないか!
これは買えるのであれば、装備できなくても今後の保険として欲しい。
テロップ無視して購入じゃあ!
「魔法少女のローブを下さい!」
「では現実の金で1億です」
「は?」
あれ、おかしいなぁ?
俺の耳が正しければ、『現実世界のお金で1億を支払え』って聞こえたんだけど、まさかなぁ?
「で、1億払うの?うちは金貸し一応してるよ、十一だけど」
※十一とは10日ごとに一割利子がつくことです
……本当だったよ。
まぁそれだけの品物だからしょうがないだろう、うん。
てか発売して初日だしな、うん。
しょうがない、色々釈然としないが普通の防具を買うとしよう。
武器は全くダメだったが、何が装備できるのかな。
【貴方は旅人の服、布のローブを装備出来ますよ?】
何か普通にテロップが会話しているけど俺はツッコまないぞ、何があっても、うん。
「やっぱそれをやめて、旅人の服を買います」
「じゃあ現金5万円です」
「やっぱ、ぼったくりじゃないか!!」
思わずツッコんじまった。
だってさ、何でゲーム単価だと雑魚敵を数回倒して手に入る資金で買えるものが、現実で電化製品買う並の金を要しないといけないんだよ!?
しかもあえて言わなかったが、このような販売は犯罪だよな。
これは運営に──
【と言うことで通報しました】
「「えっ?」」
うーうーうーうー
店員さんは管理局というか運営さんに連れられていきました。
因みに彼女、ユーザーだったそうです。
てっきりNPCかと思ったが、無意識って怖い。
因みに彼女は捨て台詞に
「私はお金が好きなだけなのに!どうして現金で売って駄目なのよっ!!」
と色々とツッコミしたい、犯罪臭香る言葉を残していった。
余談だが、向かいの店も違法プロテインを売りさばいていたと言うことで御用となったそうだ。
通報が功を奏したみたい。
こっちもユーザーだったようでびっくりしたけど。
そんな訳で、2人を逮捕した協力者という事で、報奨としてTNT爆薬(×5個)、マシンガン、サプレッサー付のガバメントというFPS的な装備を貰いました。
まぁ、俺装備できないけどね。
やれるとしてもTNTしか使えないけどね。
幸いに適当なコートも貰え、しかも装備ができたから良いとしよう。
「さて、と」
これ以上はこの町にいてもすることがないだろう。
俺は不安を感じながらもこの町から出た。
「……あれが伝説の鬼、か」
「本当にこの世界を、この帝国を救う希望になると思う?」
「ならなければならない。もし起きたとて、止められるのは彼だけだ」
「ふーん……まぁ、どうであれ私は監視してるわね」
「よろしくな、我が右腕よ」
「りょーかい、熊様」