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きゅう、とう、き……?
もしかして水をお湯にする機械、給湯器のことか?
いや、それだと村長の発言と合わない。
体の糖度が減ったという発言、苦い血を吸った筈なのに異常に甘かった味、そして鬼で何かを吸引する能力。
それらのヒントから浮かぶ漢字は──
「吸糖鬼!?」
「何を今さら言っておるのだ」
と、まるでアホの子を見るような目で言う村長。
ふと見ると、入り口近くの村人もそんな目で見ている。
そんな風に見られると流石に落ち込む。
というかそもそも吸血鬼を選択した筈なのに、どうして吸糖鬼になっているんだろう?
もう訳がわからなくなったので、その事を村長らに相談してみることにした。
「間違って吸血鬼の下を選択したんじゃないか?吸血鬼の次は吸糖鬼の筈だしな」
「それに吸血鬼だったら人の町に入れなくなるし、色々不遇だから良かったんじゃないかな?怪我の功名だと思うよ」
始めに村長、次に入り口近くの村人が教えてくれた。
だが、ここで一つ疑問が生まれた。
「不遇ってなに?」
「……お前、説明をまともに読まずにゲームするタイプだろ」
俺がそう言うと、凄い飽きられた形相で入り口近くの村人が言った。
くっ、文句を言いたいけど実際ほとんど本当の事だから言い返すことができない!
だって適当に流し見した程度だもの。
「しょうがない、ここは僕が説明してあげようじゃないか!」
と、頼んでもいないのに解説を始めた入り口近くの村人。
分かりやすかったが、結構長かったので要約すると
◇今回の設定は人と怪異が共存しない、つまり争っている状況になっている。
◇争っている為、怪異系ユーザーは人間の町に入れず、人間系ユーザーは怪異の町に入れない。例外で中立の町は誰でも入れる。
◇この国に秘密結社が多くあるのだが、それらがこのゲームをしている。一番の勢力を持つのが『糖は至高にして最高の栄養素なのですよ党(通称糖党)』という、糖分ばっかり摂取しているところらしい。
◇特殊キャラだけが両方の町に入れる。それの一つが俺、吸糖鬼だった。
という感じらしい。
成る程、色々見えてきたようで、よく分からない部分も出てきたような気がするぞ。
「俺はこれからどうすればいい?」
俺は念の為、村長に確認をしてみる。
というのも前作北方では、自分がやりたいことをやるフリーストーリータイプのゲームだった。
けれど今の話を聞く限り、最低減のメインストーリーがありそうな気がしたのだ。
特に秘密結社の件で
少し緊張しながら聞く中、村長はにこやかな表情をしながら教えてくれた。
「まずは色んな町の糖尿病を救うのだ。そして糖尿病を生み出す根源である、秘密結社『糖党』を潰す。それがお前の流れとなるだろうな」
「なんとも言えないストーリーだな……」
俺は思わずがっかりしてしまった。
だってそんなゲームしたいと思う?
正直そんな話、今まで見たことも聞いたこともないし、ウケるわけないと思う。
こんなの実際のゲームで出したら、糞ゲーの殿堂入りした後にすぐ廃止になるレベルだろ。
そんな精神抹消ゲームを今からやるなんて……
「まぁ流れが決まっただけいいじゃないか!」
1人気を重きしている中、俺の肩を叩き戯けながら入り口近くの村人が言った。
流石の俺もこれには激おこである。
俺は笑顔で顔を近付けると「名前が入り口近くの村人さんに言われたくないけどね(はーと」と言う。
すると入り口近くの村人はしょんぼりして落ち込んだ。
やったぜ。
……まぁ、だからといって気分が完全に晴れたわけではない。
そのまま気を詰めた表情をしていると、村長はため息をしながら口を開いた。
「分からなくもないが随分と荒れとるな。仕方あるまい、アイテムを与えるから気を直してくれ。お礼も兼ねたいからな」
アイテムを与える。
その言葉で俺は、村長に膝をついて最大限の敬意を示す。
だってイベントアイテム好きなんだもん、強いから。
「……まあ良いか。ほらこれをやろう、暖刀『断浪清風』だ」
「なっ、なんだってぇえぇぇ!?」
俺は思わず驚愕した。
前作の北方ストーリーにおいて、刀系武器の中でコスパ最強と称された断浪清風をくれるというからだ。
切れ味は鋼鉄をも切り裂き、強度も上々。
暖刀の名前通り、炎属性がついており、炎を噴き出す能力付き。
そして何よりの特徴が、柄頭からマイナスイオンが常に垂れ流しという点。
毎回の戦闘でリラックスしながら戦えるのは勿論、なんとこの風が防御壁にもなってくれる代物なのだ。
また、能力がいっぱいついているにも関わらず金額も安い。
同攻撃力帯の武器たちより1万円ほど安かったりする。
全種族が装備故に、お金がない中堅ユーザーは皆この武器を手にしていたぐらいだ。
中にはずっと使っているから愛着が湧きすぎて最後まで使う猛者も出るほど。
そんなユーザーからも愛される名武器が最序盤で入手できるなんて
やべぇ超嬉しすぎる!!
「有りがたき幸せ」
もうこの村長には尊敬、敬意しかない。
まるで中世騎士のように忠誠を尽くす俺に、村長は呆れながら地図を一つ渡してそのまま続けた。
「この大陸『ヒュマノフ』の地図を渡しておく。まずはこの村で装備を整え、近隣の怪異村、『モンスタットビレッジ』に向かうと良いだろう」
「イエス・マイ・ロード」
俺はスッと立ち上がり、村長の家を後にした。
──こうして波乱だらけの俺のゲームがスタートしたのであった。
「っと、その前に断浪清風を装備するか」
【そうびできません】
「え、そんなわけないだろ?全種族装備できるんだから。もうお茶目なテロップだなー」
【そうびできません】
「俺を怒らせたか。いいだろう、腐ってても鬼の称号を持つ、この吸糖鬼の力を見せてやる!」
【そうびできません】
「調子のって申し訳ありませんでしたッ!どうか装備させてください!!」
【むりといっているでしょう、このこみゅしょうが】
「…………」
その後、断浪清風は村長宅玄関前のモニュメントとして過ごしましたとさ。