3-7
──それから俺は無事階段を降り、一人建物から出た。
うん、出たまでは良かった。
まだ“誘惑目”だかの効果が持続していた二人を見るまでは。
「クックック、この虫けらが、クックック」
「私が悪者をやっつけちゃうんだから☆」
五七五の川柳で厨二を表現するエイレと、超ノリノリで片足上げのダブルピースで言う宇佐美。
その光景に思わず、俺は強化定規を片手に取り
「いい加減にしやがれ!!」
先程使った光で敵を滅する技、光牙滅斬を放った。
2人はもちろん光と共に吹き飛ぶ。
「いつまでふざけてる気?」
俺は黒焦げになって倒れている2人を、見下しながらドスの聞いた声で言う。
と言うか最初からおかしかったんだ。
レベルが俺より高い筈なのに、ステータス異常系に耐性がある種族なのに。
混乱異常になるわけがない。
なったとしても、とうの昔に解けている筈だ。
それがまだ解けてなくてこんな状態なのは絶対あり得ん。
俺は結構本気でエイレの頭を叩く。
すると「ぎゃん!」と悲鳴をあげた後──
「いったいわね!なにするのよ!!」
と、俺を睨めつけていった。
かかった、狙いどおりだ。
俺の策略だとすぐ気づいた彼女は、“しまった!”という感じの表情を出す。
これはやはり予想していたとおり、戦いがめんどくさくなって、混乱しているフリをしていたってことだろう。
人が、一応仲間が大変な目にあってるのに。
「何か言うことは?」
「ご、ごめんね!」
悪気の無い態度で言うエイレ。
俺はにこやかな笑みを浮かべ笑う。
それに釣られてエイレが笑いだし、宇佐美も乾いてはいるが笑い出した。
みんな笑って幸せそう。
だがそれで済むわけ無い。
「ふざけんじゃねぇよクソがッッッ!!」
俺はついにブチギレ、再び定規を構える。
そして全力を注ぎ込み高く飛ぶと、彼女らへ向け定規を投げる。
すると定規は光の槍となり、地面に突き刺さる。
その槍は周囲100メートルの大地を、底が見えないほど深さまで消滅させていた。
2人の安否がどうなのか気になった時、ナビ子さんが
【厨二と痛兎は死んだ】
と教えてくれた。
俺は2人に次やる日をダイレクトメールで送り、そのままログアウト。
そして2日後...
「「すみませんでした」」
ログインすると、そこには土下座をして待っていた2人の姿があった。
だがすっかりいつも通りのコミュ障に戻っていた俺。
これは逆に胃に負担がかかる。
申し訳無さと恥ずかしさで。
なので大丈夫と言って全力で止めた。
「さて、今日は何をするんですか?」
話題を変えようと、切り出した宇佐美さん。
個人的には次の町に行くか、武器が良くなったからレベル上げしたいのだが……
エイレの事だから何かするんだろう。
今回のギャンブルのように。
そう考えてると、やはり懐から何かを出していた。
「その前にあなた達はこのチラシを読んだかしら?」
出した物は本人が言った通り普通のチラシ。
えっと内容は……
「“南方ユーザーよ、みんな集まれ!『第258次オタ杯闘争』開催”……って、まさか!?」
「ええ、そのまさかよ」
これは俺もビックリだ。
なんせオタ杯闘争はハイジーン帝国の前身である、オターク国が建国されてから今までずっと行われていた祭りだからである。
半年に一回とペースは早いが、この祭りは老若男女、ニートやコミュ障、更にはヒッキーまでもがみんな騒ぎ浮かれる位の人気だ。
因みに内容はゲームをしまくったり、大会を開いたり、二次元メディアを大々的に取り扱うって感じだ。
そんな祭りを、国民全員がプレイしている南方とはいえ、オンラインでやるのか。
うれしいっちゃうれしいが、なんか寂しいというか、物足りないというか。
ふと隣の宇佐美を見てみると、彼女もそう言いたそうな雰囲気だった。
【大丈夫です、本来の祭りも前日にやるらしいですから】
「本当なのですか、ナビ子さん!」
【はい。そう掲示板に記載される予定です。どうやらスタッフの手違いで先に南方のイベントから通達してしまったらしいですよ】
なんか普通にナビ子さんが会話に参加してるけど、それは本当に良かった。
やっぱり祭りは二次でやるより、現実世界でやる方が楽しい。
俺と宇佐美は安堵すると、エイレは改めて話を続ける。
「話を戻すけど、それに参加するから開催国に行きたいの。この島じゃないから」
ふむ、この大陸外か。
そうなると船か飛行挺の移動になる。
だがここからだと、確かどちらとも遠い筈。
なら確かに今の内に移動する必要があるな。
それに早く行っとかないと、行く道がプレイヤーで一杯になり、処理落ちが酷そうだし。
何より人多すぎになったら俺精神的に死ぬし。
「オーケーかしら?」
エイレは俺ら二人に訊ねる。
宇佐美さんもどうやら俺と同じ考えだったようで、ほぼ即決で行くことを決めた。
「よし、じゃあ行きましょう!!」
こうして俺らパーティーは、大会会場に向けて旅立ったのであった。