3-6
「クックック、貴様が我が宿敵吸糖鬼か!!」
手で口元を隠しながら、傲慢な態度で言う相手。
本来ならば、またその笑い方かよって言いたいところである。
そう、言いたいところなの。
でもね俺、今二重の意味でピンチだからそんな余裕無いの。
相手がユーザーだという事と、一人で強そうな奴と戦わなきゃいけないって事の二つが。
あーマズイマズイ。
手が痺れてきた。
「貴様の仲間は俺がおかしくさせた。治して欲しければ俺を倒してみるんだな!」
あ、そうだったんですね。
どおりでおかしかったわけだ。
──じゃなくてじゃなくて。
きっとここは逆上して戦うとか、本来は熱いシーンになる筈だろう。
だが俺には無理だ。
戦う前から精神が瀕死なんです。
動悸も激しくなってきているんだもの。
そんな俺の状況を知らない敵は、ニヤリと不適な笑みを浮かべた。
「クックック、挑発に乗らないとは流石吸糖鬼と言うべき、か。面白い、蹴散らして糖尿病にしてやる!!」
そう言って、相手は長いコードを手にとって向かってきた。
予想するに鞭みたいに使うのであろう。
先端にはプラグがついている。
あれなら、当たると痛い。
「送電雷光鞭!!」
訂正、死ぬわ。
敵はあろうことか電気を流してきたのだ。
そのせいでプラグは、目で確認できるほどの電気を走らせている。
これはくらったら間違いなく即死だ。
「ふんぬ!!」
気合いを込めた声と共に、素早い蛇のような一撃が襲ってきた。
それを感で避けるが、直ぐに二手三手と俺の命を奪いに来る。
このままでは間違いなく終わる。
何か反撃できるものがあればいいが、生憎持っているのはドリンクと定規、分度器のみだ。
武器は問題外だし、ドリンクはランダムと信用できない。
詰んで終わったか、そう思った時にあるものを思い出した。
それは特殊能力。
まだ逆転のチャンスは残されている。
一か八か、運命と俺の幸運に祈ろうじゃないか!!
俺はせまりくる攻撃を何とか避けながら、左手で相手の肩に軽くタッチした。
「避けて何をするかと思えば、触れるだけで精一杯だとはな。呆れたぞ!」
俺をあからさまに見下しながらそう言った敵。
だが俺は逆に笑みを浮かべる。
「勘違いしてるな。お前は“勘違い”しているぞ!」
ド「何をい──!?」
だって“左手”で軽く“タッチした”んだ。
そうするだけで俺の能力、『左手で触ると何かが起こる』が発動される!
相手は光に包まれたが、さあ一体どうなるんだろうか。
光が段々と薄れ、相手の姿が見え始めてきた。
「…………えっ?」
そして、絶句した。
何故なら、敵のいた場所に大人がいたから。
30代前半くらいで、スーツを着ているまるでサラリーマンのような男性が。
もしかして、外見をユーザー自身に変える効果だったのか?
物凄い俺に特効じゃないですか、クソッタレ。
「な、何でリアルの姿なんだ!?お前何をした!!」
ごめん、対人でもオンラインのキャラなら、まだ動悸だけで済む。
だがリアル人は駄目だ。
「あ……ぅ……」
動悸が酷い、目が眩む、頭が痛い。
特にサラリーマン──もといスーツには嫌な思いでしかないから、いつも以上の効果がある。
ちくしょう、かすれてきた。
もうぼくはむりだよ。
ごめんねみん──
【ここで諦めるんですか、ショウさん】
なびこさん、むりなものはむりなんだ。
【それに思い出してください。あの人とは初見ではない事を】
え、いちどあったことがあるの?
【貴方の記憶中枢にありましたので確かです。……思い出しなさい、あれを】
あれを?
【はな子の栄養剤がきれたこと──具体的には2016年4月26日6時57分に更新した、一話の1―1、約20行目辺りを】
…………(スマホで確認中)
あ!!
【そうアイツは子持ちのリア充なんです!「ハッハッハ」って言うくらいの!!】
そうか、ナビ子も非リア充なんだな。
道理で共感できるわけだ。
【ええ。だから代わりに頼みます。リア充への制裁を……】
そうだな、ここでトラウマこじらせてる場合じゃねえ!
俺は目眩やら動悸やらを気合いで何とかし、いつの間にか座っていた身体を無理矢理立たせる。
そして敵の姿を改めて確認する。
スーツの30代男性、手には指輪、雰囲気が幸せぷんぷんだ。
もうこれで、戦えない八百万の理由より、たった一つの殺気が勝った。
コミュ障故に彼女ができない俺に、リア充な姿を見せるのがいけないんだよ!
「何をさっきからぶつぶつ言ってるんだ!さっさと元に戻せよ!!」
「──いくぞナビ子!」
俺は敵の話をスルーし、あるドリンクを飲み干した。
それはラムダドリンク。
ナビ子さんが教えてくれたお陰で存在を知ったわけだが、これは“ランダム”を操ることができる能力を持つ。
つまり望む能力を使えるって訳だ。
勿論、左手の能力も適応される。
飲み干した後、60㎝定規を左手で持った。
【能力付属しました。効果は以下の通りです。武器攻撃力強化(特大)、光属性付属、斬撃効果延長、攻撃範囲延長、全状態異常耐性付属、装備者の能力向上です】
「シカトをやめたまえ!精神をおかしくしてやる!!」
【リア充は混乱技、錯乱目を使った】
「よし!これで──」
【そんなのが効くとでも?】
「なッ!?」
驚愕の表情を浮かべる敵。
技が決まらなかったのもそうであろうが、一番は俺の武器であろう。
定規が光の剣の形になり、輝かしい光と威圧を放っているから。
敵を倒すための一撃を放つ為に。
そう、この間まで無言に徹したのはこれをする準備をしていたからだ。
相手は恐れ、逃げようとするが遅い。
「光牙……滅ざぁぁぁん!!」
一振り。
その一振りは全てを滅する強大な光の牙となり、敵を飲み込みながら天へと還っていった。
【これが非リア充の】
「リア充に対する恨みだ!」