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「えーっと、先程はありがとうございました。私は七摘宇佐美と言います。……よろしくお願いしますね」
物凄く困惑の表情を浮かべつつ、律儀にお辞儀をしながら兎人──宇佐美さんが言った。
真にしなくていいのに、なんというか律儀だな。
優しいと言っても良いかもしれない。
大人だなぁと思いつつ、諸悪の根源であるエイレの方を見る。
なんだか満足そうにニコニコしていた。
……うん、子どもだな。
思い通りになって嬉しいって感じだもの。
俺がそんな評価をしていると知らないエイレは、ニコニコのまま宇佐美さんの前に立つ。
「ではこれから宜しくね」
そして手を差し出しながら言った。
「はい、改めてお願いします」
それに対し宇佐美さんは、一言付け加えて握手を交わした。
満足したのか、エイレは握手が終わると、手で片目を隠すという厨二全快ポーズで口を開く。
「さて、これからどうしようかしら」
確かにもうやることはないな。
当初の目的は達成したし、ここ周辺には良いレア堀できないし。
レベル上げは以下省略。
うーん、なにか丁度良いクエとかあれば良いんだがな。
そう思っている時、俺の背中に誰かがぶつかってきた。
見てみると、なんとこの街に連れてきてくれたNPCの女の子だった。
だが様子が変だ。
なんか息切れしている?
「どうしたの?」
エイレは厨二ポーズを続けながら、その子に話しかけた。
ポーズを止めさせるべきだが、それよりもその子の様子が気になる。
女の子は荒れた息を整えながら、慌てた様子で言葉を紡ぎだす。
「あっ、あのグループが!また私や他の人を襲って!!私は大丈夫だけど他の人はやられて……。もうどうしたらいいか分からないの!!」
あのグループというと……糖党か。
エイレも事の問題に気付いたのか、厨二ポーズをやめて真剣に聞き始めた。
宇佐美さんは頭の上にクエスチョンマーク一杯な表情してるけど。
「ねぇ、そいつらは今何処に行ったのかしら?」
「ジャックビルという建物に……」
エイレの問いに、少し落ち着きを取り戻した女の子が答える。
それを聞いたエイレは、女の子の頭をポンポンすると、長剣を取り出して歩み出す。
「安心して。私がすぐに倒すから」
そう言い残し、エイレは夜の闇に消えていった。
……なんだろ、凄いカッコいいんだけど負けフラグな気がする。
そう思っていると、今度は宇佐美が女の子の前でしゃがみ、にこやかな笑顔を向けて言った。
「私は何が起こったか分からないけど、大丈夫だよ。お姉さんも戦うから安心して、ね?」
コクりと頷く女の子。
それを確認すると、宇佐美さんは立ち上がり、同じく夜の闇に走っていった。
……あれか、フラグを立てるのが好きなのか我がパーティーは。
何故か負けるとしか思えなくなってきた。
いや、それ以前に迷子フラグか?
どちらにせよ、良い方向にはいかなそうだ。
「ごめん、案内頼める?」
俺は女の子に案内を頼み、承諾してくれた為、二人でそのビルに向かう。
案外近かったようで、すぐにつくことができた。
迷子フラグがあったが、ちゃんとたどり着けたようで、ビルのあちこちで爆発音や発砲音が聞こえている。
「君はここで待ってて」
「は、はいっ」
俺は例の定規を握りしめ、ビルの中に突入した。
「酷いな……」
ビルに入ったら凄かった。
優しく表現するならば──
辺りには真っ赤なお花畑、時々ミミズが散らばっている……ってとこか。
これは耐性なければ精神崩壊してるレベルのものである。
実際俺もキツイ。
今晩は夢見が悪そうだ。
「ん、あれは?」
吐きそうになりながら進んでいると、生きている人を見つけた。
……見つけたんだけど
「そうッスよね、先輩!私もそう思うんですが全く駄目なんッスよ」
ミミズさんに向かってガールズトークをしていました。
座って物を持ちながら。
乾いた笑いが物凄い恐怖を感じる。
目のハイライト無いし。
可哀想に思った俺は、回復アイテムを使って正気に戻し、即刻立ち去るよう言ってからその場を去った。
そしてしばらく歩くと
「クックック、弱いなクックック」
「クソッ!!これでもくら──」
「二双両断斬!!」
「ぎゃああああ!両腕がぁぁぁぁぁ!!」
「クックック、張り合いがないなぁクックック。とっとと消してやるよクックック」
「あ…あ……」
「暗殺剣、劉翔!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
「クックック、他愛ない。クックッククックッククックック」
厨二全快で、敵を虐殺しているエイレの姿がそこにあった。
というか前のあいつより“ク”が多い。
頭逝かれたのかな?
エイレをウザく感じつつも、俺はドン引きしながら話しかけてみる。
「エイレさん、何をしているんですか?」
「クックック、貴様も殺ってやる!」
「…………」
俺はいつぞやに貰ったTNT爆薬をセットして、上に行きながら起爆スイッチを押した。
そしてまたまた進むと
「魔法少女うさみん!悪をやっつけるんだから!!」
魔法少女的なコスプレをして、ステッキで撲殺している宇佐美がいた。
というか何処からその衣装を出したんだろう。
まさか常に持ち歩いている?
宇佐美の意外すぎる一面を見た俺は、またまたドン引きしながら
「石投げー」
石を投げて倒しておいた。
一体何してんだこいつら。
殺しまくったから頭いったのか?
次は何もないことを祈りつつ、階を移動した。
すると今度は──
「俺が糖党の支部リーダー、コンセント星人のドラ・ゴ・ンフィシュだ!!」
ボスと鉢合わせです。
やったね畜生。