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さて、俺が店に向かって疾走している間、少し歴史やその他諸々について話そう。
このヒュースシティが属しているのは、ハイルジーンという帝国である。
国民はおおよそ一千万人、緩やかな平野部が多い緑豊かな国だ。
緑豊かと言っても首都の方はそれなりに栄えていて、ゲーム関連の店や企業がバカみたいに多い国となっている。
一応高層ビルもハイタワーマンションもいっぱい。
インフラも十分整っているし、綺麗に清掃や整備もされている。
まぁ地方であるこことかは、アクセスの面とかでちょっと不便な点があるけれど。
でもそれなりに楽しく暮らしていける。
このくらいが地理面、次は政治といこう。
現在この帝国をおさめる治めているのは、悪の皇帝と名高いオータク三世。
55歳という年齢だが結婚はせず、常にフケが舞うなど不潔。
能力も大してあるわけでもなく、それどころかまともに政治を執り行わない。
ニートの様に部屋にずって篭る生活を送り、一日の大半をゲームに費やす廃人ぶり。
まつりごとは全て側近任せ。
トドメに税金で課金をしてしまう、史上最低の皇帝である。
そんなやつが何故皇帝に君臨してるかというと、なんやかんやでゲームの腕はいいからカルト的人気があるのだ。
ゲーム好きな国民の。
なお俺は嫌いです、はい。
一方補足しておくが、初代オータク一世は名君で有名である。
周辺の争いを終わらせる、国土を増やす、国民のために尽くす、良識的な法を作る。
こんな理想的な事を平然とやってのけたのだ。
しかもそれだけじゃない。
大規模仮想現実オンラインゲーム『北方ストーリー』を作り、この国にゲームというものを広めたのがこのオータク一世なのだ。
正に神と崇めるべき存在である。
現在とある怪我のせいで辞めてしまったのだが、未だ根強い人気がある。
俺もだいすき。
因みに次の代のオータク二世は、何をとち狂ったか二歳で就任した為、一年で国が廃れた。
それからというもの、オータク二世は髪の毛の色からとって、『黄色のあくま』と何故か呼ばれている。
本当に何があったんだろう、訳がわからん。
……と、語ってるうちにゲームショップについたようだ。
この自動ドアの先にお目当の物がある。
俺は唾を飲んで覚悟を決めると、店の中に一人入っていった。
──だが
「いらっしゃいませー」
入るときにかけられる声、はまだいい。
だが物凄く人が多い多い。
俺はここに来てはいけなかったのだとすぐに悟って後悔した。
できるなら今すぐ帰りたい。
けど『南方ストーリー』を手に入れるためだ、これくらい頑張らねば。
人波と言う名のトラウマに勝つんだ!!
俺は自分でそう言い聞かせ、ゲーム購入のための半券を取ってそのままレジに並んだ。
だが前作売上十億の新作、まるで遊園地のアトラクションを待つ時のような長蛇になっている。
国民に行き渡るくらいは生産してるとチラシに書いてあったので、売り切れにはならないと思うが……これは多すぎる。
どのくらい掛かるのかなと思いつつ、ふと隣を見ると待ち時間60分と書かれたボードがあった。
……俺の精神大丈夫かな。
俺はただ天井を見て、時間が過ぎるのを待った。
「次の方ー」
そうしているうちに、いつの間にか俺は先頭になり呼ばれたようだ。
深呼吸を一回し、意気込んでレジの前に立って半券を出す。
「1万ですー」
俺はひたすら下を向きながら、震えた手で1万円札を出す。
そして袋を店員の手に当たらないように持つと、そそくさと店を後にした。
「あじゃしたー」
──それから数分後、何事もなく家に帰ってこれた。
あの親子もいなかったのは幸運だったな。
もし居たらズタボロな俺の精神が危なかった。
だが無事何も起きなかったし、買い物は済んでいる。
そんなことを気にするより、さっそくゲームをやるべきだ。
俺は走りながら二階に上がって自室に行くと、さっそくゲーム機の電源を入れて、南方ストーリーのディスクを入れる。
そしてヘルメットみたいなものを被り、頭のボタンを押す。
すると視界が一瞬暗くなり、すぐに真っ白な世界が視界に入った。
『南方ストーリーへようこそ!さっそくここでのあなたの姿や種族を選びましょう!!』
ジャーンという音と共にタイトル画面がでかでかと現れ、この様なテロップも目の前に現れた。
俺は慣れた手つきで容姿を自分を反映設定、性別を男、種族を吸血鬼にして設定を終える。
これは前作、北方ストーリーと同じキャラ設定。
やっぱ慣れてるやつが一番だ。
他の種族も魅力的なんだが、スペックやらなんやらがなぁ。
しかも場合によっては攻撃方法が変わってくるし。
慣れてるの一番、これ大事。
『設定完了しました。それでは特殊能力を与えます』
とやっているうちに、早くも次の段階に進んでいた。
特殊能力ってのは戦闘やらなにやらで有利になる能力のことだ。
これはスタート時にランダムに決められるらしい。
さっき、さっと見た説明書にそう書いてあった。
さて、なーにかな?
『貴方の特殊能力は“左手で触ると何かが起こる”です』
およ、随分と訳のわからない能力だな。
おもしろそうだからいいけど、一体どういう事なのだろう。
まぁ始まった時に色々試せばいいだけか。
そんなの気にするより一刻も早くゲーム開始が先決、さぁやるぞ!!
『それでは南方の世界を楽しんでくださいね!シーユー!!』