2-5
「さてと、この後はどうする?」
俺はエイレに話しかける。
対してエイレは、返事をせず「うーん」と唸りつつ考える仕草をとるだけ。
同じように俺も考えるが何も浮かばない。
そんな感じでお互い悩んだまま馬車の中に戻り、この後何をするかゆっくり考え始めた。
ゲームタイムもリアルタイムもまだ十分に余裕がある。
しかし、かといって何かしたいわけではない。
レベリングは俺が無理だし、レア掘りも……まぁ無理だろう。
弱い状態じゃあ足を引っ張るだけだからな。
それに装備できるかも怪しいしー
その他にできることもあるにはあるが、現在の時間や場所位置を考えるに、ちと厳しい。
となると、やはりしたい事が何も思い浮かばない。
しゃあない、今日は終わりにしようか。
そんな風にエイレに言おうとした時だった。
「きゃーっ!!」
荷馬車の外から響き渡る、女性の悲鳴。
俺とエイレは直ぐ荷馬車の外に出た。
──しかし何も起きていない。
いや、誰もいなかった、が正しいだろうか。
声の大きさから、目と鼻の先の出来事であった筈だが、人一人の姿も見えない。
あるのはエイレの屋敷と周囲にある木々のみだ。
「……どう思う?」
俺はエイレに訊ねる。
それに対し当たり前と言わんばかりの表情を向けながら、エイレは口を開いた。
「怪しい、その一言に限るわ。木はあるけど密集はしてないから隠れられないし、家には施錠してある。それなのに彼女たちは“どこへ消えたの?”」
そう言った後、ある一点を指差し見つめる。
その先にあるのは、これまで俺らがいた荷馬車。
その上の方を指していた。
真っ直ぐ、一点に。
「予想としては二つ。空耳だったか──そこに隠れているかよねッ!」
直後、エイレは作ったばかりのロングソードを瞬時に装備し、目の前の荷馬車を上から下にかけて斬りつけた。
すると荷馬車があり得ないほど柔らかく、そうまるで紙のように斬れ、同質量あるだろう砂糖に変わった。
……ん、砂糖だって?
何故だろう、あの時の村長との会話を思い出すのだが。
あの下らない俺の筋書き、ストーリーの話を。
「クックック、バレてはしょうがない」
砂糖が山のように積み重り終えた時、何処からか声が聞こえる。
耳を頼りにするならば、声の元は正面──砂糖の山からだろうか。
念のため、俺も唯一装備可能な定規を持つ。
威力や俺の能力的に意味はないかもしれないが、精神的に安心にはなる。
俺は得物を正面に構え、敵の動きを待つ。
「ならば私“たち”も動き出すとしよう」
その声がした瞬間、その砂糖が動きだし俺たちを囲んだ。
そして段々高く積み上がり、八個の人形に姿を変えた。
それぞれ黒のブーツに黒のコートを着用し、フードを深くかぶっている。
また、同じ得物を持っており、白い剣のような形状をしていた。
──さて、ここまで見れば手強そうな厨二集団だが、吸糖鬼である俺にはあることが分かっている。
それは武器が砂糖で出来ているということ。
……間違いない、こいつらスタートビレッジの村長が言ってた糖党って奴らだ!
明らかに糖分高そうなオーラ出してるもん!!
うわっ、一気にやる気がなくなってきた。
俺は露骨にテンションが下がり、大雑把なテキトー構え方をする。
その際エイレを見てみたが、凄いキラキラしている表情をしていた。
嬉々しているのが、一発でまる分かりだ。
「あなた達、何者よ!」
何処と無く嬉しそうにしながら言うエイレ。
相手もノリノリで厨二な感じで対応を始める。
「クックック。貴様らに教える筋合いはない。お前らはここで消える運命なのだ」
「ふっ、そうなるのはあなた達の方よ」
「クックック、クァーッハッハ!面白い、かかってこい!!」
という訳で、こうして8人の敵さんとエイレさんのバトルが始まった。
え、俺はだって?
いち早く戦線離脱しましたが。
だってあの空間嫌だったんだもの。
もちろん俺が弱いからってのもある。
だが、「ク」の文字が多すぎる笑い方だったり、運命を「さだめ」と読んだり、相手の呼び方が変わったり……
そういうのは、正直言って俺は無理だ。
だから大人しく実況しよう。
うん、そうしよう。