11-9 [ナビ子サイド]
エイレ様から頂いた長剣を構え、男と対峙する私。
後ろには両手に拳銃を持ち、銃口を敵に向けるシーメル様。
正に臨戦態勢の構えを取る私たちですが、一方の相手は剣を無気力に下げ戦えるかも怪しいほど虚となっています。
本来ならチャンスとばかりに、そのまますぐにケリをつけたいところではありますが、いかんせん先程の動きが気になります。
私の不意打ちを防ぎ、シーメル様の攻撃を弾いた一連の動きが。
最初から彼の動きを見ている訳では無いので確証はありませんが……このまま普通に戦っても埒が開かないような気がします。
私たちも若干の手負いとはいえ、一度は回復した身。
体力面や人数面でもアドバンテージはこちらにあると言える状況下。
それでも倒せないと思える“何か”
勝たなければいけない以上、気を付けて戦わないといけませんね。
【私が前衛をします。援護お願いできますか?】
『……ええ、いいわよ』
【では、よろしくお願いします】
シーメル様に無線でそう伝え、私は改めて敵を見定めます。
相変わらず虚な状態でその場に立っているだけです。
【行きますっ!!】
私は声を出しながら、敵に向かっていきます。
距離をどんどん詰めますが反応は無し。
敵の間合いにも入りますが、動く気配がありません。
不気味さを感じるものの、私はまず水平に剣を振りました。
すると敵が反応、大剣で攻撃を防御。
しかも武器を立たせるだけという、とても最小限の動きだけで。
今度は剣のない方を狙って振り下ろしますが、同じく少しの動きで攻撃が止められました。
「行くわよ!」
シーメル様の声と共に、3つの発砲音。
この攻撃に合わせれば通る可能性が高い。
私はギリギリまで自身で銃弾を隠し、避けると同時に銃弾の位置の反対方向から奇襲。
普通に考えれば前後からの攻撃故に回避は難しい筈なのですがーー
「ーーーー!!」
声にならない咆哮を上げた敵。
次の瞬間、荒々しい動きで銃弾を撃ち落とし、私の攻撃を受け止めていました。
【!?】
思わぬ動きにただただ驚いてしまう私。
大剣と呼ばれる、本来扱いにくい武器を使っているのにも関わらず。
前から後ろにかけて放った、ガサツとも言える素早い一振りで防いだからです。
一体どんな筋力をしていたらあんな素早くできるのでしょうか。
私は未だ体験した事ない力量に、ただただ驚愕し怯えてしまいました。
「ナビ子ッ!!」
怯んでしまい、動けなくなってしまっていた私を、気付かせてくれたのはシーメル様の声でした。
私はハッと我に返り、すぐ様敵から間合いをとります。
この際に攻撃がくるかと身構えますが、特段と何も起こらず、無事距離を取ることができました。
……取ることができましたが、しかし。
今度は非常に強い違和感に襲われました。
先程まで感じていた驚愕と恐怖を忘れる程に。
というのもその違和感はすでに分かっていました。
なんなら戦闘開始時点で既に何となく感じていたくらいに分かりやすい違和感が。
【シーメル様、いいでしょうか】
私は敵から目を離さず後退し、シーメル様と合流をします。
相変わらず敵の動きはありません。
「言いたいことは分かるわ。敵は“防ぐ事しか出来ない”って事の確認と、防御しても無意味レベルの遠距離最大攻撃で倒しましょうって言う発案でしょう?」
【……流石はシーメル様。私はD兵器が使えないので、攻撃をお願いしたいのですがよろしいでしょうか?】
「ええ、問題ないわ。この飛行船が壊れない程度の最大火力をお見舞いしてあげるから」
よろしくお願いします、とシーメル様に声をかけ、私は再び前線へと出ます。
ーーそう、違和感というのはシーメル様が言った通り“敵は防ぐ事しか出来ず、攻撃やカウンターができない”というものです。
確証がある訳ではありませんが、間合いに入っても攻撃しない事、明らかなチャンス時に攻撃をしなかった事、カウンターを一回もしなかった事。
ブラフの可能性が捨てきれませんが、ここまで揃っていれば確信に近いと思います。
相手は何故か攻撃できない、と。
ならばブラフだけを警戒して立ち回れば問題がないはず。
私はロングソードを構え直し、敵とまた対面しました。
「…………」
やはり変わらず動かない敵。
いくら隙を見せても、ただただ立ち尽くしているのみ。
【だからといって慢心しませんし、このままでいるのも恥ですので】
私はできるだけの力を込め、思いっきり助走をつけて相手に斬りかかりました。
敵はやはり剣で受け止めます。
【そもそも貴方の様子を見ていると、武器を破壊しない限り攻撃が通らない気がするのですよねッ!】
その瞬間、武器を持っていない反対の手に忍ばせていた、ビームセイバーを起動し武器に攻撃を仕掛ける。
敵も何かを感じ取ったのか、何とか武器に当てまいと動こうとしますが一手遅く。
高密度のビームでできた刀身は、敵の分厚い鉄塊のような剣を両断しました。
よし、これで無効化したも同然です。
後はどうにか離脱するだけーーと、考えていた私に襲う鈍い痛み。
何が起きたか理解できないまま、私は吹き飛ばされ、壁に激突。
【かっ……!?】
い、一体何が起きたのですか!?
損傷場所を確認するに腹部に一撃貰ったようですが、尋常じゃないダメージ量です。
ゲームでよくあるHPゲージ表記なら、4分の3を一気に持っていかれたレベルの威力。
それに加えて真っ黒になってしまった、攻撃されただろう箇所。
間違いなく「炎」によって燃えてしまった、火傷の跡がついていました。
属性付与した一撃、しかもおそらく格闘による攻撃。
これはマズいと脳内で警鐘が響く中、目の前に炎を纏わせ拳を振り下ろそうとする敵が。
【デッ、消滅結界!!】
私は咄嗟に攻撃を消滅させる防御技、消滅結界を使用。
もちろん消滅させる技故に、この結界に当たったら普通は武器どころか身体も消えてしまう。
そんな技の筈なのに。
【“拮抗”している!?】
まるで普通の盾で防ぐように、ただのバリアに攻撃しているように。
私の結界と男の拳がぶつかり合った。
魔法の影響かバチバチ音を立て拮抗し合う状況。
予想にしていなかった光景に、思わず私はちょっとした混乱状態になりました。
「ーーーーー!!!!」
まるで勝機と言わんばかりに、またもする獣の様な咆哮。
それに合わせ拳の勢いが増し、少しずつこちらが押され始めました。
ピキッ、ピキッと音を立て。
ゆっくりに、確実と。
拳が私を目掛けて近付いて来ています。
「ナビ子ッ!!」
後ろからシーメルさんが声をかけて来ます。
どうやら武器の準備ができた様ですが、私が射線にいることで攻撃ができない様子。
離脱したいところですが、今のこの現状では不可能に近いです。
少しでも動くものなら、一瞬で狙われて倒されることでしょう。
ちょっとした隙でもあれば良いのですがーー
「重力砲撃!!」
そんな微かな願いを浮かべた瞬間でした。
聞き慣れた声と共に、重力の塊が敵の身体に被弾。
敵は少しよろける程度だったものの、そのおかげで攻撃は完全に緩みました。
【はぁぁぁぁぁっ!!】
私はそのまま押し返し、敵の姿勢を完全に崩す。
後方へ倒れたのと同時に、素早く先程の声のする方ーー宇佐美様のいるところへと退避しました。
「全く、ホントいいタイミングなんだから……!おかげで最高の一発が撃てそうだわ!!」
立ち上がる敵。
私を探し、見つけ、攻撃しようと襲いかかろうとするが時すでに遅し。
「ミョルニル、シュート……!」
雷の怒号の様な音が響きながら。
ミョルニルと呼ばれた武器から、雷を連想とさせる砲撃が発射されました。
特大かつ極太の電子の束。
周りの床や物を消却しながら敵へと突き進み。
そして。
「二つの」激しい音と共に、敵は灰塵と化したのであった。