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「ふぁああああっ……」
俺は欠伸と共にベッドからゆるりと起き上がった。
──読者の皆様、おはよう、こんにちは、こんばんは。
この俺はこの主人公を務める古見遊ショウ。
ここヒュースシティという地方都市のノウマン地区というところに暮らす高校二年生だ。
どうか今後ともよろしくお願いしたい。
さて、寝惚け眼のところではあるが、必要最低限くらいは自分の紹介をしたいと思う。
まず俺の容姿。
頭は金に近い明るめの茶色で、一応地毛だ。
目は親の影響もあり少し青みがかった色をしている。
背は比較的高めで、少々筋肉質──所謂細マッチョと言われる感じ。
トレーニングと呼べる事はせず、強いて挙げても偶に走る程度なのだが、なんとかこの体型は維持できている。
おかげで後述の趣味がありながらも、学校での運動成績はいい方だ。
後は目元に黒子があるくらいで特に身体的特徴は無いかな。
学校生活としては……まぁ成績は良い。
自分で言うのもなんなのだが、学年順位が一桁だから自慢していいだろう、うん。
運動はできる、ってもう言ってるし、他に特記はないか。
んで、ここが俺的重要ポイント。
とにかくゲームが好き。
好きこそものの上手なれ、という言葉があるが正にその通りになっている。
何度もやっているうちに強くなり、気付けばあらゆるゲーム大会で優勝。
このベッドからでも無数の輝かしいトロフィーが見える程に。
──さて、そろそろ簡単な自己紹介はここまでにして、いい加減服を着替えようかな。
俺はようやくベッドから下りてタンスを物色。
パジャマ代わりのジャージから部屋着のジャージに着替え、そのままなんとなく部屋の中心に立った。
…………
……うーん、何をしよう。
今日は学校休みの土曜日。
出かける予定も気力も無いし、溜まりに溜まった積みゲーでもやろうかな。
そう思い、部屋の隅で重なってるゲームカセットの方を見ようと視線を動かした。
「……あ、はな子!」
そんな時、日当たり良好の窓際に置いている俺の大切なよく分からない花の、肥料というか水みたいな栄養のやつが、すっかり無くなっているのに気付いた。
これはヤバイ。
このままでは俺のはな子が枯れはしないけど、なんか大変なことになってしまう気がする!
俺は慌てて上着を着、部屋を飛び出し階段を降り、玄関で即外靴に履き替えて家の外へ。
……まではよかったんだけど、すぐに家の中に戻った。
何故家の中に戻ったのか。
その理由はあれ、だ。
「パパー、ぼーるであそぼー!」
「ハッハッハ、元気だな」
そう、近所のお子さんとお父様が、我が家の前で遊んでるのだ。
そのくらいで家の中に戻ったの?と、お思いだろう。
……フッ、理由は簡単さ。
「わわわ……」
さっき説明してなかったけどね。
俺、実は人見知りコミュ障で人間恐怖症なんです。
どれくらいのレベルかと言うと
見知らぬ他人に訊ねる→無理
誰かと目線を合わせる→絶対不可
突然声をかけられる→死ぬ
普通に声をかけられる→死ぬ
というか会話自体→死ぬ
こんな具合なのだ。
なので、実は学校行くのは苦痛だわ、買い物すらできないわ、公共交通機関が使えないわなどなど。
普通の生活に支障をきたしているくらい、俺のコレは重度なのだ。
というかそんななのによく買い物行こうとしたな、俺。
買い物できないと言ったが本当にできないからね。
店員に買おうとしている商品を渡せないもの。
それ以前に人が多かったら入れないもの。
「……よし、諦めてゲームしよう!!」
高校生になってまで申し訳ないが、栄養剤は親に買って貰うことにしよう。
栄養剤的なのは大事だが、そんなすぐ必要になるようなものでもない筈だし。
多分そうだ、詳しくないけど多分そう。
うん、そうなるとやっぱり今日は積みゲー消費デーだな。
一度リビングによってから、二階の我が城にこもるとしよう。
そう自分を納得させながら靴を脱ぎ、リビングの中に入る。
リビングだけにここは家族団欒スペースではあるが、今は誰もいない様子。
ソファーには誰も座ってないし、テレビは電源が落とされている。
ただ、長テーブルには新聞とチラシが散乱し、食べカスが残された皿があった。
多分今日早い始業だったんだろうなぁ、親。
片付けする余裕がなかったくらい焦ってたんだろう。
しょうがない、キッチンに行くついでに片付けするかー、とテーブルの整理を始めた俺。
だがその時、俺の目には衝撃的な物が映り出され、手が完全に止まってしまった。
「大規模仮想現実オンラインゲーム、『南方ストーリー』が今日ついに発売……!?」
俺は声を震わせながら、片付けてた物をテーブルに置き、チラシを手に取った。
これが本当ならマジでヤバイニュースだ。
というのも、この前作に当たる『北方ストーリー』が凄い神ゲーだった。
初めてバーチャルリアリティーを採用した大規模オンラインゲームで、今までの常識を全て打ち崩した作品だった。
グラフィック、戦闘、ストーリー、自由度。
全てが最高レベルで、まるで現実で行われているようなリアルさ。
どのゲーム、どのジャンルにおいても、このゲームに勝るものはいない。
世界中で十億売れたとか、課金廃人が滅茶苦茶増えた、というような話も出るくらい盛り上がり、連日テレビで特集が組まれる程の人気ぶり。
現在、制作者側の都合でわずか数年足らずでオフラインになってるが、それでも未だ十分楽しめる作品となっている。
──そんな作品の続編だ。
販売側は大混乱を予想し、売る当日にお知らせするという謎処置がなされたり、売られてないのに転売とかの予約で一杯だったり。
もう次回作の期待度が高すぎるのだ。
因みに俺も同様、次回作をものすごく待ち望んでいた一人だ。
これは何があろうと買わざるをえない!
というか今すぐ入手してやりたい!!
俺は迫り来る緊張と恐怖の魔の手を振り払い、財布速攻手にしてから外へと飛び出していった。