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はるかかなたのエクソダス3 ~インディペンデンス・デイ  作者: 風庭悠
第13章:第4の災厄「地はアブによって打たれる」
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第97話:アブの災厄(前編)

  ジェドエフラーの一件に関して政府からの発表はない。すでに敗れた二人の時と同じく、機密事項扱いになるのだろうか。グレッグとマリアンが到着した時はすでに、メンフィス・タイムスの編集部も大騒ぎであった。


「こいつは本物の動画なのか?」

「ヤツの使った武器はなんだったんだ?」

「なぜ爆風が消えたりするんだ?」

ジェドエフラーの機体が漠滅ばくめつする動画を見ながら、信じられない、合成じゃないのか、といった疑問の声があがる。


「そいつもひっくるめて鑑定に出す。」

編集長は動画をダウンロードするように指示を出す。間もなくこのサイトも政府によってアクセス禁止になるだろう。


 一方、マスコミ各社の記者たちも、すでにジェドエフラーの屋敷の周りに詰めていて、情報や状況の変化を小さなものでも見逃すまいと目を皿のようにして待ち構えていた。


人々が「ジェドエフラーはどこだ?」にかまけているうちに事は進展していた。メンフィス近郊の上空に光学迷彩を施したネーヅクジョイヤがいた。尊はシモンと共に"アブ"の散布に来たのだ。


「どうにも無警戒に過ぎますね。」

シモンが期待外れだ、という顔で言った。


情報統制や政府自体の動揺を抑えるためだろうが、"アブ"についてはすっかり忘れさられ、全く警戒も分析もされていないようだった。逆にそれだけ、アマレク政府の側に精神的な余裕がないともとれる。


「ええ、それだけ仕事は楽になって良かったですね。では、シモン、投下をお願いします。」

 尊がシモンに指示を出すと、彼は射撃手に合図する。すると、射出口からカプセルにいれられた"アブ"が無数に射出される。カプセルはメンフィスの夜景の残照に一瞬の煌めきを残して闇へと散っていく。まるで、夏の夜空をわたる流星群のように。


「……!?」

尊がただならぬ気配を感じたのはその時であった。尊はいきなり身を起こし、レーダー画面を食い入るように見つめ、その正体を確認しようとした。

「どうかしましたか?」


レーダー士が驚いて尋ねる。尊の尋常でない様子に不信感を感じたのだろう。いつもシモンに「船長はいちいち慌てるな、驚くな」、と口を酸っぱくしてたしなめている尊とは正反対だったからだ。

「驚かせてすみません。いや、どうやら気のせいだったでようす。」


尊が席に戻って座り直した。しかし、気のせいではないことは明らかだった。席に身を預けて目を閉じ、やや顎を上げる。そんな時は大抵、C3(大脳皮質コンピューター)をフル稼働させている時なのだ。


「シモン、一旦、アストラルドライブに入れてください。……いえ、モード進行にするだけで結構です。」

尊の突然の指示にシモンは思わず理由を聞き返してしまった。


「どうやら、先程何者かがこの船に近づいたのです。」

「レーダーに反応はありませんでしたが。」

尊の言葉にレーダー士が異議を挟む。


「ええ、念のためです。何か取り付けられていたら厄介ですから。」

そして、尊の言葉通り船体に付着物が発見される。マテリアルモードからアストラルモードに変わる時に、適正に処理されていないものは、消滅してしまう。それを防止するために警報が鳴らされるからだ。そして、取り外されたものはGPS発信器であった。


「どうやら、『ドM』様が来られたようですね。」

モルドレッド・モリアーティは神殿の位置を知らない。それを知ろうと躍起になっているのか?


「軍の全機能をヘリオポリスへ移すのを急ぐべきじゃの。」

ベリアルの言葉に尊も頷く。そして気を引き締めるように自分の両頬をパチン、と叩いた。


「では皆さん、明朝0400、作戦を決行します。予定に変更はありません。」


 ネーヅクジョイヤは郊外に潜み、ラザロがグラーシャ・ラボラスとドローンで偵察に出た。


夏の朝は早くから陽が高くなる。軌道エレベーターのある都市は回帰線上にあるため、尚更である。


 さて、アブが襲ったのは"工場街区"であった。"アブ"は"ブヨ"と同じ要領で作成された自立型特攻爆撃マシンである。ただ、ブヨより大型であるため、搭載される炸薬さくやくは飛躍的に多い。


 アブが工場に入り込むと、あらゆる工作機械に取りつき、自爆するのだ。繊細なロボットアームの配線だろうと、制御装置だろうと、爆破しては外装に穴を開けて、次々に内部に侵入しては破壊を繰り返した。たとえ工場の扉が施錠されていても、鍵をそして扉の一部を、また窓ガラスの一部を破壊して内部に侵入する。生産に係わる機械類を徹底的に破壊した。


社員が出社する時間になると、パニックが始まる。工場内を飛び回り、破壊の限りを尽くすアブをはたき落とそうと必死に走り回るアマレク人の上司たち。そして、それを横目で見ながらテラノイドたちも立ち尽くしていた。


「お前たちも手伝え!! 手伝わないヤツは減給だ。」

アマレク人上司たちの悲鳴にも似た叫びに、

「で、課長。減るもなにも、俺たちに給料その物が支払えるんですかい?」

多くのテラノイドは皮肉を込めて尋ねた。


 これまで、自分たちが劣等であるために優秀なアマレク人に服従しなければならない、という長年行われてきた洗脳教育の呪縛が解けた瞬間はこの時点だったことだろう。これまで、アマレク人からの解放など考えるだけでも恐ろしい、と思考が恐怖ですっかり凝り固まってしまっていたテラノイドたちは、慌てふためいて"アブ"を追うアマレク人たちの姿を可笑しく感じるようになったのである。


彼らは手を叩いて上司たちの"応援"を始める。上司たちも怒りながらも、アブを追う手を休められない。


「こりゃあ、明日は臨時休業だな。」

「おう、そうだな。ただ、"臨時"で済んでくれればいいけどねえ。」


 唯一攻撃を免れたのがテラノイドの食料を生産する工場だけであった。これはもともとはスフィア王国の所有する聖杯システム(人間の生活必需品や食糧を生産する工場)をアマレク人が接収したものである。アマレク人の持つスーパークラウドコンピューターである「トート」によって管理されていたが、その接続を"アブ"の攻撃によって断たれたのである。


「しまった。アブのことをすっかり忘れてたじゃねえか!」

電話で工場街のパニックの知らせを受けたグレッグが叫ぶ。すぐに彼は机に突っ伏して仮眠を取っていたマリアンの身を揺すった。

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