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はるかかなたのエクソダス3 ~インディペンデンス・デイ  作者: 風庭悠
最終章:僕らは「自由」の名の下に
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第145話:始まりの宴

(姉さーん!)

シモンは一瞬、そう叫びそうになったがなんとか堪えた。もし、ここでそんなことを口走ってしまったら、一生涯、これをネタに弄ばれるに違いない、そんな恐ろしい言葉でもある。


モニターから見える空がが一瞬にして真っ暗になる。夜?なのか。

召喚陣(ゲート)通過しました。」

ほんの数秒の出来事だった。


「当選の現在空域を確認し、報告せよ。」

後から次々と後続の船が現れる。驚いたことに出てきたのは宇宙空間であった。しかも、ヘリオポリス上空100kmにある宇宙港デジマの周辺であった。


 一方、尊も最後の船とともにゲート・アウトする。振り返ると、後ろから追手が来るのが見える。


「仕方ありません。」

尊はもう一度杖をとると、詠唱を始める。


「自由へ続く道。それは神聖と呼ばれた道。立去れ、立去れ、なににも触れるな。それは逆巻き、うねりあがった星の海。その姿を解き、元の静かな空へとかえれ。歌え、勝利の歌を。まことに高められた創造主の歌を。」


 すると、ゲートが閉じられていく。光の道の両脇に盛りあった光のしぶきが、飛び散りながら閉ざされていく。最後は、静かな水面にしずくを垂らしたような波紋を残し、空間は閉ざされたのだ。


(逃げ切れた……)


そう実感した瞬間、シモンは安堵のあまりその場でへたりこみそうになったが、これもなんとか堪えた。


「船団の安否をすべて確認せよ。士師ジャッジに連絡を取れ。デジマの管制に通信。接舷せつげん許可を取れ。」」


シモンに部下からコーヒーが渡される。シモンがそれを口にしたところでモニターに尊が現れた。

慌てたシモンがコーヒーを落としそうになる。


「シモン、そのままでいいですよ。お疲れ様。おかげで戦いに集中できました。」

シモンの敬礼に尊も笑顔で返礼する。他の3体のセラフたちは役目が済んだからなのか、すでに姿を消していた。


「終わったのでしょうか?」

「はい、終わりました。」

シモンの問いに尊は穏やかに言う。しかしその目は悲しそうであった。


「グレゴリウス大統領は、どうしましたか?」

シモンは心配そうに訊く。

「ええ、私たちの後を追って召喚陣(ゲート)に突入したようです。」

「ではここに間もなくくるのでは?」

シモンの顔が不安に曇る。


「それはありません。門は閉ざされてしまったからです。彼らは時空の津波に呑み込まれてしまいました。。」


「それじゃ、彼らは今どこに?」

「私たちにはわかりません。」


後日談になるが、臨時大統領の暴挙をアモンが政府を代表して陳謝に訪れた時に、マリアンから、グランドキャニオンで彼らの死体が発見されたこと、どの死体も損壊されておらず、死因は墜落によるものではなかったということが知らされた。ただ、彼らの艦船はどこにも、破片の一つとして見いだされなかったという。


「では、帰りましょうか。」

これで、すべての戦いがおわった。


起動エレベーターをシャトルで降ると、眼下に流れるギデロン川の桜並木が見える。シモンは尊に握手を求める。尊はそれに応えるとシモンを抱き締めた。

「ありがとう。シモン。」

「約束、果たせましたよね、義兄さん。」


[星暦1001年4月2日]


尊はアーニャと腕を組んで桜並木を歩く。ふわっと風が吹いて枝を揺らすと花びらが舞い落ちる。

「やっと終わりましたね。」

アーニャの言葉に尊の顔も綻ぶ。

「そうだね。これからはもっと忙しくなりますね。」

そう、これからが尊たちの本当の困難が始まるのだ。手にした自由はあっても、目の前に広がるのは無限の広野である。破壊しつくされた都市、汚染しつくされた大地。

これを再び建て直さなければならない。


「ゼロス! アーニャ!」

二人を見かけたエリカが手招きする。仲間たちが勢揃いして集まっている。今日は花見の会なのだ。花見の習慣が無いヘリオポリスでは、花を見ながら酒を楽しむこともなく、散策する市民たちから奇異な目で見られていた。


「うーん、エリカにとって私はいまだにゼロスなんですね。」

そちらに向かいながら、尊が呆れたようにアーニャに呟く。その鈍感さに呆れながらアーニャは尊の顔をのぞきこんだ。


「どうしてなのか、知ってる?」

「さあ、いまだ学生気分が抜けないんじゃないですか。」

「バカ」

尊の腕にとりついたアーニャが尊の腕にピッタリと顔を寄せて小さな声で呟く。尊の耳にその声は届かなかった。


宴が始まる。尊にとって花見はには様々な思い出がある。今日もきっとそうなるだろう。そして、皆でこうして集まれるのもあとわずかかもしれない。これからはそれぞれが指導者として、各都市へと散っていくことになるからだ。


何度目かの乾杯の後、皆を代表してカレブが口を開いた。

「士師、今度の日曜日、俺たちからのプレゼントがある。付き合ってくれるな?」


突然の申し出に尊が首をかしげる。

「プレゼント? どちらかと言えば、私の方こそ皆さんにお礼をしなければならないと思いますが。わかりました。アーニャさえ良ければ私は構いませんが……」


「私は大丈夫ですよ。実家にでも行ってますわ。」

「お宅は同居でしょ!?」

アーニャに皆でツッコミをいれる。笑い声が広がる。


その日曜日、ラフな格好で待ち合わせ場所で尊を待ち受けていたのはラザロただ一人だった。

「あれ?皆は?」


尊の問いにラザロは答える。

「問題ない。それぞれが自分のやるべきことをやっている。今は、俺についてきてくれ。」

突然、連れて行かれたのは王立劇場であった。ヘリオポリスで一番大きなホールであり、国の行事は大抵ここで行うため、馴染みの場所でもあった。いつものように、美容師さんにヘアメイクとメイキャップをしてもらい、コーディネーターさんに、タキシードを着付けてもらう。


「随分本格的ですね。表彰式でもしてくれるのですか?」

尊が少しワクワクして尋ねると、ラザロはそっけなく答える。

「近いな。でも、当たりではない。」


頭にクエスチョンマークを乗せたまま、尊はラザロのなすがままになっていた。

「控え室」と書かれたドアの前に来ると、ラザロは2回のノックを3回する。

「着いたわね?」

ドアを開けて顔を出したのはエリカであった。珍しくフルメイクで、いつもの雰囲気よりずっと大人っぽい。

「どうしましたエリカ、『光学迷彩』ですか?」

尊は思わず最悪の台詞をいっているしまう。


「どつくわよ。」

こめかみに怒りマークをつけたままエリカが苦笑する。

「入って。」

エリカに促されるまま部屋に入るとそこにはウエディングドレスを身に纏ったアーニャがブーケを手に、俯きかげんにこちらをみながらはにかんでいた。

「なるほど。」

すべてを悟った尊の第一声も、ひどく拙劣であった。

「本当に、どつくわよ。アーニャになにか言うことがあるでしょ?」


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