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はるかかなたのエクソダス3 ~インディペンデンス・デイ  作者: 風庭悠
第20章:最後(第10)の災厄;「初子は地に斃される」/「星海は開かれる」
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第142話:平和の鐘が鳴らされる

[星暦1000年11月25日]


 こうして尊はアマレク側と休戦協定を結び、ヘリオポリスへと帰還した。すでにニュース速報で「休戦協定妥結」の一報が伝わっており、軌道エレベーターの地上港前の広場には尊を出迎えようと多くの市民が集結していた。誰もが、尊の口から直接その「戦争が終わった」という言葉を聞いて安心したかったのだろう。


 軍の庁舎へと続く大通りには市民が大挙して集まり、さながら戦勝パレードのようであった。その人の波は庁舎が面する市の中央の広場まで続いているどころか、その広場も群衆でいっぱいであった。


 尊は急遽集まった群衆に報告を行った。


「市民の皆さん………ついに、戦争は終わりました。そうです、私たちが勝ったのです。」

集まった群衆から歓声が上がる。尊はその声が収まるまでしばらく群衆を見つめている。そして、演説を続けた。


 「これまで本当に長くて、険しい道のりでした。私たちは失った自由をもう一度勝ち取るために、厳しい戦いを何度も、そう何度も戦ってきました。この中には愛するご家族を、愛する友を、戦いで失われた方も多くおられます。私たちはその尊い犠牲に感謝すると共に、その犠牲を決して無駄にしてはならない、という義務を負ったのです。


 ついに、ついに私たちは自由です。どこで生きるか、誰と生きるか、どのように生きるか、それを決める権利はあなたのものです。しかし、決して忘れないでください。たった一つだけ、そうではないものがあることを。


 ―それは『なぜ』生きるか―ということです。


 なぜなら、今、あなたが持つ命、そして自由は、多くの犠牲によって産み出され、育まれ、与えられたからものだからです。そうです、あなたのために戦い、死んでいった人たち。あなたを産み、育んでくれた人たち。この惑星へと私たちを送りこんでくれた地球の祖先たち。これらすべての人々にあなたは、自分がどんな生き方をしたのか、何を成し遂げたのかを言い開きをする『義務』があるのです。


 戦争は終わりました。しかし、私たちがこれからも自由であり、私たちの子孫にこの貴重な権利をバトンタッチするための戦いは、今日この日、いや今この時から、もうすでに始まっているのです。自由に生きる『権利』と『義務』は決して切り離すことのできないものなのです。


 自由に生きて下さい。皆さんはもう自由です。しかし決して忘れないでください。


  皆さんの自由は、『誇りある自由』でなければならないのです。

(Your freedom must be freedom with pride.)」


尊の演説に皆共感する。誰もが自由を望んでいた。誰も他の人の犠牲の上に築かれたを望まなかった。しかし、自由と平和、そして権利は戦わなくては得ることができず、勝ち取ってなお、戦い続ける運命にあることを思い知らされたのだ。


(それでも今は、勝利と平和と希望に酔いしれてください。みなさんにはその権利と価値がある。)

尊は口にしなかったが、心からそう思った。


 「終戦及び平和のためのアマレク連邦共和国とスフィア王国との間の講和条約」は星暦1000年12月30日にフェニキア共和国がアマレクから租借している都市ティルスで締結された。


条約に含まれていた主な条項は以下の通りである。


①アマレク共和国はスフィア王国を主権国家として認証する。

②南北両回帰線上にあるすべての植民都市をアマレク共和国はスフィア王国へ返還する。

③アマレク共和国は星暦1,070年までに赤道上に植民都市を建設し、移動する。その間南回帰線上の植民都市をスフィア王国から租借する。租借料をもって奴隷支配の賠償とする。

④両国民ならびにその子弟に対して相手国やその国民を憎む教育を施し、憎悪を煽るような政策を取ることを両国に禁ずる。

⑤アマレク共和国国内の奴隷は無条件並びに無償で解放され、職業や居住地、婚姻、移動に関するすべての決定権を持つものとする。スフィア王国国民を奴隷とするためのアマレク共和国国内のすべての法律は失効する。


他には軍事面や、条約に違反した時の罰則、国境線など様々なものが盛り込まれていた。

興味深いのは両国民に商取引、旅行による交流は認められても留学や同居、同じ職場で働くことなどが50年間にわたって禁止されたことだった。400年の間培われた差別や憎しみが消えるかどうかは別にしてもお互いの感情の冷却期間は必要であろう。


 目指すのは隷属からの脱却と共存への道筋を着けることだった。


身辺整理や受け入れなどのことも考えて、集団移動は翌年3月15日から2週間をかけることになった。座天使スローンズによるピストン輸送である。


調印式が終わるとパーティーが開かれた。フェニキアのお偉いさんたちのたっての希望で、仲介役をしてもらった義理で断りきれなかった尊はアーニャとのダンスを披露させられ、またもや散々な目にあった。


ダンスの関係せいでお酒にありつけなかった尊は、自室に帰る前にアーニャを連れてホテルのバーに立ち寄った。


そこにはアモン・クレメンスがいた。

「あれ、アモンさん。」

こちらを見て立ち上がり、スマートに一礼をしたアモンを見て、尊は、彼がここにいるのは偶然ではないことを悟った。

「私、お先にお部屋に行ってますわ。」

アーニャも気を利かせたのだが、

「アーニャさんも出来ればご一緒に。」

アモンは引き留めた。


会話はたわいもないものから始まる。アーニャとの馴れ初めやミーディアンでの貧乏暮らしの話しなど、また、アモンのフェニキアでの留学時代のエピソードなどの会話が弾んだ。

(多分、二人とも地球人で、普通に出会ったら結構良い先輩後輩だったかもしれないな。)

尊はそう思った。つい先日国家の命運をかけて命懸けで戦った相手とは思えなかった。

(いや、違う。命懸けで戦ったからこそお互いにリスペクトできるのだろう。)


やがて沈痛な面持ちでアモンが本題を切り出した。

「尊くん……実は、敗戦を認められない一部の貴族たちが君の命を狙って何かを目論んでいる、という情報がある」

「そう言えば、アモンさんは諜報部のご関係でしたね。まあ、アマレクらしいといえばアマレクらしいですね。」

尊は何げなく言ったのだが、アモンはそうとらえなかったようだ。

「すまない。」


尊は少し慌てた。

「いえ、嫌味でいったわけではないんですよ。なんというか、アマレク人は自立心が強い方が多いですから。国のために何とかしたい、という方がいても不思議ではありませんね。わかりました。お立場上アモンさんが動けないでしょうから、自分で……いや皆で何とかします。」


アモンの表情が少しほっとしたものになった。

「ありがとう。尊くん。皆で何とか……か、そこらへんがテラノイドらしいよね。……いずれにしても、今回の温情的な条約には国としても個人的にも感謝している。……でも、ほんとうにこれでいいのか。僕としては幾分甘いと思うのだが。僕ならば……」


「アモンさん。」

ここでアーニャが話に割って入って来た。尊はいつもと一味違うアーニャにキョトンとし、アモンは興味深そうにアーニャに続きを促した。


「尊さんはいつかアマレク人とスフィア人は友達になれる、そう信じているのです。相手を尊敬し、互いの違いを楽しむことができれば友達になれると、そう信じているのです。アモンさんは尊さんとお友達になりたいんでしょ? 実は尊さんも、そうなんです。」

アーニャにじきじきに言われるとお互いに変に照れが入ってしまった。


二人は連絡先を交換して別れを告げる。

「彼とはまたゆっくりと話がしてみたいね。今度そうなるときは、彼はこの国のリーダーになっているだろうね。」

尊の言葉には願いよりも確信がこもっていた。

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