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はるかかなたのエクソダス3 ~インディペンデンス・デイ  作者: 風庭悠
第19章:第9の災厄;「地は闇に閉ざされる」
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第139話:歴史の裏側の闘い(後編)

ビルが銃を手に尊に向かってゆっくりと近づいてくる。


 尊はその姿に気おされ、思わず後ずさりする。そして、何かにつまづいて転んでしまった。

そこには、なぜかビルが横たわっていた。額から血を流し、目を見開いている。尊の手にはその血がべったりとついていた。尊は悲鳴をあげた。あの時の恐怖が一気にフラッシュバックをおこしたのだ。


「これがお前の望んだ結末なのか?」

ビルの問いに尊は震え上がる。汗をびっしょりとかいている。尊は首を横に振った。

「お前に人を愛する資格などあるのか? お前の奪ったものを考えてみたらどうだ? お前は俺の大事なものを返してくれるのか?」

ビルが手にある拳銃を尊に向けた。


「俺が楽にしてやろう? お前を救ってやるよ、すべての重荷と苦しみから。」

銃の安全装置セーフティが外れる音がする。尊は目をつむった。


その時だった。歌声が響いてきた。夜のとばりがおり、真っ暗になった校舎に澄んだ、暖かい歌声が響く。


「手をつなごう、あなたとわたし。

あなたは弱い人。わたしも弱い人。

だから手をつなごう、二人ならこらえられる。


あなたはひとりきり、わたしもひとりきり

だから手をつなごう、確かめ合うために。


だれもあなたがわからない。きっとわたしもわからない。

でも、寄り添うことはできるはず。

だからてをつなごう、歩きはじめるために


手をつなごう。あなたといたいから。

伝わるものを感じよう。


言葉なしでは伝わらない。言葉だけでもつたわらない。

あなたを愛するこの気持ち


支える手、分け合う手、

いやしの手、慰めの手。


楽しいときだけじゃなく

つらい時こそいっしょにいたい。


だから手をつなごう

あなたはわたしの大切な人」。


歌が終わると、尊の心も平常心を戻していた。アーニャの声。

彼にとって、今、最も大切な者の声だ。


尊の閉じられた瞼から一筋涙が流れた。

そして、尊の手は彼の頭に向けられた銃をつかむ。


「モルドレッド。貴様に一つだけ言わせてもらおう。これらはすべて自分自身が決めた結果だ。ビルはジェフの犯罪を止めることではなく、手伝うことを選んだ。

 クレメンス大統領は国民の命よりも国家の体面を選んだ。そしてアマレク人も地球人種テラノイドを友として見送ることではなく、家畜として繋ぎ止めることを選んだ。


 そして貴様は、反対者モルドレッドであることを選んだ。


 その結果はだれもが甘受しなければならない。俺は茉莉のために人を殺してしまった。それは俺が選んだ結果だ。しかし、俺は自分の愛する人たちが笑顔でいられるなら、どんな苦しみも甘んじて受けよう。それが、俺の覚悟だ。俺はこの十字架を決して放棄したりなんかしない。たとえ、俺の歩みの行きつく先が『処刑場ゴルゴダの丘』であってもだ。」


 尊が銃を奪う。彼とて当時の無力だった高校生ではない。何年もの間、愛するものを護るために研鑽をつんできた技がある。ラガーマンであろうと、力だけでは通用しない。彼はビルのかいなをとって地面にねじ伏せた。


「ぐぎぎぎぎぎぎぎぎぎ……。痛い、痛いですよ。パーシヴァル。」

ビルはそのままモルドレッド・モリアーティに姿を戻す。そして、そのまま闇へ溶けいるように消えていった。


「逃がすか!」

尊は銃を撃つ。しかし、もはや彼の姿は消えていた。そして、校舎の幻影も、ロンドンタワーも消えていく。


ただ、消えるとと言っても崩れて落ちていくので、こちらは防御が必要だった。


「惜しいですね。もう少しのところだったのですが。まさか、奥様の横やりがはいるとは。ごきげんよう、パーシヴァル。いずれまたどこかでお会いしましょう。『平和』などという偽善と退屈は私の性にはあいませんのでね。」


高笑いを残し、「ドM」様は去っていった。


「逃したか……。やはり、一人で行くべきではなかったのう。禍根を残してしまうとは。」

ベリアルが悔しがる。

「しかし、いつアーニャは『ボイス』を仕込んだのじゃ?まあ、ぬしはしばらくは嫁御よめごには頭があがらんぞ。」


歌声はベリアルにも届いていたのだ。尊は自分が潜入する前にアーニャとキスを交わしたことを思い出した。

「あの時か。」

尊の表情が和らいだ。

「人類の救済どころか、俺は助けてもらってばかりだな。」

尊が自嘲気味に言った。


「まあ、そこがぬしのよさであろう。これでトートは我がしもべとなったわ。それでは帰るとするかの。」

これでアマレク政府と国民の中枢神経であるトートは尊の支配下におかれた。これは


王手チェック・メイトじゃの。」

尊の勝利がもはや揺るがないことを示している。


 尊が目を開けると、心配そうに見つめるアーニャの姿があった。カプセルが開くとアーニャが尊に抱き着いてきた。

「ありがとう、アーニャ。」

尊もアーニャを抱擁する。


しばらく抱き合っていた二人だが、アーニャが涙でぬれたまつ毛をしばたたかせると

「お腹すいてません?」

そう尋ねた。尊は少し考えてから、

「そうだね、まだ食欲はわきませんね。少し二人で散歩でもしましょうか。」


カプセルから出ると少しふらつきもしたが、しっかりとした足取りで尊は歩き出す。アーニャもそれを支えるように寄り添って歩き出した。


手をつないで。








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