第137話:第9の災厄;「地は闇に閉ざされる」
しかし、「王家の谷」は尊の「災厄」発言で騒然となった。その中を尊たち一行も立ち去ろうとする。そこにアモンが近づいた。
「代執行人、お帰りですか?」
「はい、用事は総てすみましたから。」
アモンは尊と肩を並べて歩く。
「それではシャトルまで自分がご案内します。」
「はい、お願いします。」
二人のあとを皆が付いていく。
「不知火君、また、一般市民を巻き込むつもりではないだろうね。」
アモンの心配は当然のものであった。尊は
「先日の宇宙港の件のようなものとは異なります。同じことをしても意味はありませんから。ただ、前回同様、日付は告知しました。みなさんの対策次第では当然被害もでます。ところで、義妹がお世話になっているようで、あの子はきちんとお役にたっているでしょうか?」
尊が初めて見せる兄の表情に、アモンの表情も少し和らぐ。
「ええ、よくやってくれています。」
「そうですか、それは良かった。」
アモンはなおも尊に食い下がった。
「先程の続きだが、君はここで何を起こすつもりなんだ?」
「そうですね、大統領のリクエスト通り、皆さんを"追い出す"というのがコンセプトでしょうね。」
シャトルに着くと、そこはシモンのファンでいっぱいになっていた。尊は再び脇役へと帰る。
「お見送りありがとうございます。」
アモンに頭を下げる。
「いずれあなたとは決着をつけなければならないでしょう。」
アモンが不敵な笑みを浮かべる。
「そうだな。」
「その時はもう、間もなくです。ではまたお会いしましょう。」
「来月の一日まで」あと1週間ほどだ。間もなく10月が終わる。アモン以下スタッフは頭を捻っていた。
「我々を"追い出す"。か……」
正直、アマレク国民のほとんどは相次ぐ災厄と戦争で疲れきっていた。経済活動も生活もめちゃくちゃになっていたからだ。非公開の交渉であったため、今回もパニックを避けるため、と称して事実は国民に伏せられていた。
「あの伝説の魔獣たちが再び襲って来るとか?」
魔獣とは、600年前にアマレク人の英雄、初代ラムセス・クレメンスの知略と初代トトメス・グレゴリウスの武勇を、もって退治されたという、かつてこの星に生息していた凶暴で知能の高い獣のことである。
「でも1週間限定とか………だからな。」
「また、虫シリーズとかね。」
思い付かなければ対策の立てようもない。政府は"1週間の闇"という言葉から軌道エレベーターのエネルギーユニットに対する攻撃と読んで警戒を強めていた。侵略用の武力はほぼ壊滅したものの、防衛用の武力は未だ健在である、というのが大統領の強気の源であった。
「まあ、そこらへんじゃないの。今度はハッキングされないようにしっかり遮断もしてあるし、大丈夫だと思うなあ。」
結局、防災セットを販売することにした。ロウソクや水や非常用電源、簡易トイレなど備えるよう呼び掛けられた。
マリアンは心配した両親から仕事を辞めて帰ってくるよう言われたが断った。
「義兄さんは、直接市民を攻撃しない、って言ったから」
というのがその理由であった。
「敵の首領の言葉の方が、大統領の言葉より信頼できる、ってのもおかしいわよね。」
そう言って皆笑った。
そして約束された日、災厄は静かに、そして最も恐ろしい仕方で表れた。
アマレクのメインコンピューター"トート"が停止したのである。国内すべての軌道エレベーターを初め、あらゆる社会基盤が停止してしまった。原始時代まで戻ってしまったのである。
「……そうか、そういうことか。」
うなだれているアモンに
「……どういうことですか。」
マリアンが尋ねる。
「トートは元々、テラノイドが構築したクラウドコンピューターシステムだ。それを我々が接収して新たなコントロール用人格アプリであるトートを入れたのだ。……それが停止した。つまり彼らの支配力の方が我々より上だ、ということだ。」
マリアンは尋ねる。
「トートは停止しても、また動くのですよね?」
「そうだね。そしてまた、不知火尊はいつでも好きな時に、『指先一つ』でトートを止めることができるわけだ。つまり、北半球どころか、この惑星に我々の居場所はない、ということだ。」
アモンは笑い出す。
「これは傑作だ!! 我々はあの男の掌の上でずっと踊りを踊っていたにすぎない。そう、最初の最初からだ!」
「みんな、これで私たちの勝利はほぼ確定した。」
尊がモニターを見ながら宣言する。
「どういうことー?」
ジョシュアとエリカが怪訝そうな顔をする。
「士師の指先一つでいつでもオンオフができるわけだ。そんなところにおちおち住んでいられるほど無神経ではないわな。」
カレブの解説に尊もうなずく。
「第6の災厄で気がつくべきだったんだ。あの時にはすでに、トートは乗っ取られていた……というよりお返しいただいたわけだ。」
ラザロが付け加える。
「そのとおりです。もはやトートが乗っ取られていた時点で彼らは負けていたのです。彼らは間違った自尊心に捕らわれ、私たちの力を見くびり続けました。もっとも、私たちもこれからは400年の間に染み付いた奴隷根性を捨てていかなければなりません。これはこれで大変なことです。しかし……彼らはもう一枚ジョーカーを持っています。」
「ジョーカー??」
「アモン・クレメンスです。彼の持つアヌビスの力で挑んで来るでしょう。わたしは彼と決着をつけねばならないのです。」
しかし、この災厄の裏側にはもう一つの闘いが秘められていた。過去千年にわたる自称「モルドレッド・モリアーティ」ことジム・ハリスとの決着である。




