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はるかかなたのエクソダス3 ~インディペンデンス・デイ  作者: 風庭悠
第19章:第9の災厄;「地は闇に閉ざされる」
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第135話:マリアン、OLになる。

まだ6月前だというのに、ルクソールの町はすっかり夏の陽射しになっていた。

「暑い……」

快適な高原都市ヘリオポリスから来ると余計に暑い。マリアンはしたたる汗を拭った。メンンフィスも暑かったが、比較的乾燥していたので、不快度ではなかった。


(こんな暑いところで生きていけるのかしら。)

マリアンは早くも挫けそうであった。両親にルクソールへの出向を告げるとその反応は複雑だった。父親はこの人事の裏側にある意図に疑心暗鬼を示し、母親は娘の結婚を望んでいた。しかし、国賊として悪名高い不知火尊(ゼロス・マクベイン)の義妹をわざわざ嫁に欲する酔狂な家庭はないはずだ。


マリアンは内務省ビルに入って、受付を済ます。そこでマリアンに向けられた受付嬢の憎悪に満ちた表情に、マリアンはますますここでやって行く自信が揺らいでいた。

(身内が戦死でもしたのかしら)

 しかし、ネームプレートを見るたあびに、相手の顔が険しくなるというリアクションは正直つらかった。しかし、さすが男性はそういうことはなく、マリアンは少しほっとしていた。


 「国家再建庁準備室」とプレートが下がった部屋に到着する。最上階のすぐ下の良い部屋のようだった。最上階は職員食堂も兼ねたレストランがある。


 ドアをノックすると「どうぞ」という女性の声がする。「失礼します」と入っていくと、全面ガラスになった窓に面した瀟洒しょうしゃなオフィスで、OLであれば確実にテンションが上がりそうな職場である。


 広いフロアに沢山のデスクが並び、比較的若いスタッフが多いようであった。女性職員の案内でパーテーションで仕切られているボスのコーナーに行き着いた。背の高い若そうな男性の後ろ姿がそこにあった。少し長めの金髪で、襟元で束ねられていた。彼は窓から町並みを見下ろしていた。


「今日からこちらに配属になりました、マリアン・マクベインです。

 マリアンは緊張ぎみに大きな声で挨拶をする。ボスが振り向いた。

「……!!!」

マリアンはびっくりして飛び上がりそうになる。ボスは、

「アモン・クレメンス閣下……」

噛みそうになるのを必死でこらえて言い切った。


「よろしくマリアン。よく来てくれたね。実は、赴任を断られたらどうしようかと気を揉んだよ。」

アモンはスマートな動作でソファに座るよう勧めた。

「あの、私……」


 アモン・クレメンスは謂わば、プリンスなのである。ハンサムで独身で大貴族の三男坊で、頭が良くて物腰が柔らかい、少女漫画にでも出てきそうな男であった。さすがにマリアンも緊張を隠せない。

「君には、僕の秘書をやってもらう。まあ、実は細かい業務は期待していない。」

「は……はひ」


  マリアンはかなり失礼なことを言われているのだが、そこまで頭が回らないほど緊張していたのだ。

「君は、ヘリオポリスでテラノイドたちと暮らしたこともあるし、幹部連中とも顔見知りだ。しかも、あの不知火尊の義妹だ。僕は、テラノイドの独立は避けられない、と思っている。だから、君という彼らとの"繋がり"が欲しかったんだよ。」

「はあ……」


 マリアンは今一つ状況が飲み込めていなかった。

「これまで、政府もマスコミを使ってテラノイドを憎悪するよう煽ってきた。だから君のように冷静でいられる人間が私のそばには必要でね。」


「わかりました。」

マリアンが思い立ったようにいう。アモンが驚いて彼女をみつめた。

「女子職員の皆さんが怖い顔をなさっていたのはこのためだったのですね。」

アモンは軽くずっこけた。それもスマートであった。


 マリアンのOL生活が始まった。記者時代の自由すぎて堕落した生活と違い、規則正しい生活に直すことが殊更のように苦痛ではあった。目覚まし時計がなるたび、

(いつかフリーのジャーナリストになってやる)

という思いが強くなるのであった。


マリアンの主な仕事は、外信で伝えられるニュースから、偏向のベクトルを除くことであった。


(なるほど、これはこれで勉強になるわ。)

マリアンも驚くほど情報の偏向がひどかったのだ。これでは自分が望んでいる平和など訪れないのではないか、とおもわれるほどであった。

(これが戦争の本当の恐ろしさなのかもしれない。)


アモンは先の会戦の敗北のおかげで失地を回復したのだった。露骨なクレメンス派外しのおかげで無様な敗戦を喫したグレゴリウス大統領は、謹慎で無骨を囲っていたアモンを内閣に取り込み、挙国一致体制を演出して国民の歓心を買おうとしていたのだ。


 アモンとしても、今回は尊の勝利に感謝せざるを得ない状況ではあった。

国論は二分され、時代遅れの奴隷制度は解消すべき、という左派と恩を仇で返すテラノイドにもう一度誅殺すべし、という強硬派に分かれていた。


しかし、歴史を紐解けば、アマレクが移民してきた当時色々世話をやき、親身に接してくれたのはテラノイドであった。凶悪な生物「魔獣」に対して共に戦い、この星に平和と秩序をもたらしたのはこの2つの民であった。以前の住みかで嫌と言うほど同族で殺しあい、すっかり戦争などに嫌気をさしてこの星に逃れついたテラノイドを奴隷にしたのはアマレク人ではないだろうか。


「マリアン、君の義兄さんはここに攻め上るつもりはあるだろうか?」

アモンが尋ねてきた。


「それはないと思います。」

マリアンは断言する。

「アマレクとテラノイドは共存共栄が可能だと義兄は思っています。ただそれは主人と奴隷という関係ではなく、対等な友人でなければならないと。」


アモンは

「友人になる? ではなぜ、不知火尊は我々に戦いを挑むのだろうか?矛盾ではないかね。」

「そうですね、私も戦争ではない方法はないものかと思います。でも、私たちもテラノイドたちを対等とは認めませんでした。家畜として扱ってきたのです。それも。400年という長い間。」


「我々と彼らが対等であることを認めさせるための戦争というのか。」

「そういうわけです。ですから、彼らはこれからも交渉しようとするでしょう。次の災厄の内容については誰も知りませんが、恐らく、毅然とした態度で交渉を迫って来るはずです。」


マリアンは、恐らく大統領も交渉を望んでいるのだろう、と推論した。先の戦いでグレゴリウス家は空戦騎士団オグドアッドの半分を失った。もはやクレメンス派と協調しなければ国政もままならないのだろう。しかし、きっと義兄は要求のハードルをさらに上げてくるはずだ。今回、交渉を妥結させないと、この国は取り返しのつかないダメージを受けるかもしれない。


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