第133話:終結! 第4次ヘリオポリス会戦
「はあ、なんとか間に合った……」
尊の宣告を目にしたシモンは心底ほっとした。もう何隻かの揚陸艦に取りつかれ、接岸孔が開きそうだったからである。
「接舷孔開きます。」
「装甲兵、突撃準備。」
パワードスーツに銃を抱えたアマレク人の装甲兵が身構える。侵入して心臓部の管制室を制圧すれば彼らの勝ちである。訓練を積み重ねた勇猛果敢な兵士たちはアドレナリンが迸るのを感じていた。それは、これまでの敗戦続きの鬱憤をはらすかのようだった。やがて厚い炭素繊維の壁が切り抜かれると、突撃隊の先鋒が丸い引き扉を開ける。展望台は無人であった。
彼らがあたりを警戒しながら降り立つと、突然、イナゴが殺到してきたのである。イナゴは揚陸艦に侵入する。居残りの警備兵やパイロットに遅いかかった。
彼らが慌ててイナゴを排除しようにも、あまりに数が多い。そして、イナゴに乗っ取られた揚陸艦は、発艦のための逆噴射を始める。冷静なものはドアを破ろうとするが、そこはすでに外側から鋼鈑で溶接、補強されていてなかなか破ることができない。揚陸艦が接舷孔を離れると、真空に向けて空気が流れ、次々に宇宙港に侵入を果たしたアマレク人の装甲兵たちが宇宙空間へと吸い出されていった。
揚陸艦は宇宙空間を逆進すると母艦に取りつく。そして自分の母艦の外壁に接舷孔を開け始める。接舷孔を開けるとさらに反転して艦砲をぶちまける。中にいる船員たちの悲鳴があがるが、外へ吸い出されたり、真空になると何も聞こえなくなった。
母艦は、揚陸艦の"逆襲"を受けた区画を放棄して艦隊ごと一旦下がる行動を始めた。態勢を立て直すためであった。
彼らの意図を察したシモンは
「エリカさん、ただちに部隊を撤収してください。惑星防御砲発射用意。」
と命じた。エリカから撤収完了の報告を受け、映像で確認したシモンは
「目標、敵旗艦! …………射て!」
敵旗艦側にも艦砲の発射孔にこちらに向けられたエネルギー反応が確認される。
しかし、着弾した反物質砲が炸裂した。
音はしないが、強い衝撃波が襲う。対ショック姿勢を命じ損ねていたこともあり、一同いすから転がり落ちてしまった。
「敵旗艦大破、四散しました。艦影確認できません。敵艦隊撤退します。」
旗艦他、多数の艦艇を失った敵艦隊は、もはや戦闘集団の体をなしておらず、エリカの空戦隊に対して、また宇宙港のシモンに対して、降伏の意思を表明した。機体を降りても逃げられる惑星内と違い、ここでは母船を失えば、死か降伏かの二択なのだ。
エリカは彼らの武装を解き、ホルスごと曳航した。
「なんとか勝ったわね。」
ほっとしたエリカが地上を見下ろすと、ヘリオポリス周辺は炎の色で明々としているのがみえる。禍々しい戦火の美しさであった。
宇宙港の管制室内には歓声が上がった。皆がハイタッチやダンスで喜びを表す一方で、シモンは安心して力が抜けたのか、ぐったりとなってしまった。
「お疲れ様です。戦闘は終結しました。これより帰投します。」
エリカの敬礼にシモンも答礼する。
「エリカさんも。お疲れ様でした。本当にギリギリでしたね。すみません。お疲れついでにもうひとつお願いがあります。外へ投げ出されたアマレク兵を救助してくれませんか? 」
シモンは義兄の尊が命じそうなことをエリカに依頼した。
(さすが、王子様らしいわね)
エリカも疲れ切ってはいたが快く応じた。こうして、疲労を押したエリカたちの働きで宇宙港周辺や、大破した艦隊の宙域に残された敗残兵が多数収容された。
「アーニャ、お疲れさまでした。」
尊が目を覚ますと、勝利の報に安堵したのか、アーニャがカプセルの上に突っ伏して眠っていた。
尊がこんこんと内側からカプセルをノックすると、アーニャは目を覚まし、柔らかくほほ笑んだ。
「いいえ、私の闘いはこれからですわ。」
アーニャが妻から軍医総監の貌に変わる。
間違いなくこれまでとは比較にならない事態が待っていることは容易に想像できた。
後に第四次ヘリオポリス会戦と呼ばれた戦いはスフィア側の圧勝で終わった。




