第132話:第8の災厄;「いなごは地を喰らい尽くす」
「フォークリーチャーズ!!」
軍本部で諜報部から提供されていた動画を見ていたアモンが叫んだ。
(やはり、不知火尊自身がそうだったのか……、いや、まだ結論づけるのは早計だ。)
アモンはもう一度ソファーに深く座り直した。
「お待たせいたしました。スフィア国王アーサー四三世の代執行人として、第8の災厄を執行いたします。」
尊の手に古めかしく込み入った装飾の大きな鍵が現れる。そして、発動の詠唱を始める。
「巨大な星よ地に堕ちよ。底知れぬ深みの坑が今、開かれる。出でよ、いなごよ。天を真っ暗に閉ざせ。その姿は凶悪にして、鉄を食い破る鋼の歯を持ち、蠍の尾を持って敵を刺せ。その数は数千の数千倍。数万の数万倍である。」
画面がホワイトアウトする。
すると、空気が震動する。しかし、地鳴りのような低周波音ではない。高い響きだ。
快晴の空が真っ暗に染まる。
「何か巨大な物体が出現!!」
レーダー士が叫ぶ。しかし、モニターを注視していたカレブは
「いや、『巨大』ではない。『おびただしい』、だ。」
アマレク側は後退するスフィア軍に乗じて前進し、アントニオの塔(最終防御ラインの要塞)の通過に成功する。
「よし、抜いてやった!」
このまま一気に都市まで行くべきか、指示を受けるために回線を開くと、そこは混乱の極みだった。
空中母艦「ネフェルタリ」はグレゴリウス家の旗艦である。80機の空戦機竜と160機の陸戦機神を積む、今回の地上軍の旗艦である。それが、おびただしいイナゴ型兵器に襲われているのである。イナゴといっても、一匹は体長が50cmもある。それが取り付き、とりわけ発艦孔から侵入している。
空中母艦は、ホルスが発着を繰り返すため、戦闘中はバリアを展開出来ない。そのために周囲を護衛部隊が守っているのだが、標的が小さい上、数が多すぎて防御出来なかったのである。イナゴは侵入を果たすとセトの格納庫に向かう。艦内ではアマレク兵が銃で必死に応戦するが、イナゴに銃の弾丸程度では落とせない。やがて、セトに取りつくと、ハッキングを始め、無人のまま起動する。起動したセトは船内の破壊と殺戮を開始する。
混乱はネフェルタリだけではない。多くの艦でもイナゴが侵入する。イナゴは種類が幾つかあり、敵艦に侵入するためのものやハッキングをするためのものなどがあり、あたかも軍隊のように組織だって攻撃を繰り返す。
乗っ取られた船は味方の艦船に攻撃を加え始める。 まだ乗っ取られていないものは、船同士の間隔を開け、弾幕を張ってイナゴを阻止しようとするが、数でまさるイナゴは次々に取りついていく。
やがて、ネフェルタリに乗る敵司令官は本国に救援を要請し、総員に退艦を命じた。
「旗艦ネフェルタリ撃沈。」
カレブたちが固唾を飲んで見守るなか、旗艦ネフェルタリは黒煙をあげながら傾き、ふらふらと山地へと墜落していった。
「さすがは"ベルゼバブ"と呼ばれただけはあるな。」
フォークリーチャーズと個人的に面識があるバラクはつぶやいた。宝井舜介にインストールされたアプリはベルゼバブ(「蠅の王」という意味を持つ悪魔の別称)であるが、その名の通り強力な兵器に昆虫を象った兵器で対抗する戦法を得意とする者である。今回は第3,4の災厄を担当したのも「彼女」であった。
勿論、今回は細かい動きまで指示するため、尊も含めたセラフ全員でコントロールする必要があったのだ。これと同じ技術はエンデヴェール家でも使われている。
今回、アーニャが付き添ったのも、それと関係している。
旗艦を失ったアマレク軍は撤退を始める。一旦谷の外へ出て集結し、態勢を建て直すつもりだろう。カレブは追撃を命じた。
「なるべく戦力を削いでおけ。ただし、深追いは禁止だ。谷の外へ出ることを禁ずる。」
カレブの指示は簡潔だ。
「押し返せ!」
ジョシュアが反転攻勢を指示すると、勝ちに飢えた兵士が鬨の声をあげながら敵に襲い掛かる。
ジョシュアの赤い機体、マルコシアスが躍動する。まあ、激戦のため、泥や埃まみれでその真紅の機体は汚れてはいるが。次々とアストラルコーティングの刃を持つ手斧を模した兵器で敵の機体を屠っていく。
「この斧。『ヒー●ホーク』と名付けよう。」
ジョシュアが調子にのって、いってはいけない名前を叫ぶ。
「閣下、それは例の『雑魚キャラ』の武器では?」
思わず、副官がしてはいけないつっこみをしてしまう。
「『ザ●』とは違うのだよ。『ザ●』とは。」
ジョシュアは高らかに言い放った。副官は自分のツッコミがオウンゴールであることをさとった。
(●の中には『コ』が入ってるはずです。戦場は騒音にあふれているからねえ、作者談)
「こちらは大丈夫(勝ち)そうですね。」
ニックの声も弾む。
「宇宙港は大丈夫でしょうか?」
「まあ、大丈夫だろう。」
バラクもほっと胸をなでおろした様子であった。




