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はるかかなたのエクソダス3 ~インディペンデンス・デイ  作者: 風庭悠
第13章:第4の災厄「地はアブによって打たれる」
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第95話:巨砲対巨砲(後半)

 ジェドエフラーの搭乗する超兵器モントゥが起動する。超電磁砲レールガンへのチャージが始まったのだ。戦車隊が無防備になった旗艦を守るフォーメーションを組む。


「ニコラ、やつが大砲レールガンを射つまでの時間を計測しろ。」

バラクが背後に立つニックに命じた。大体のチャージ時間を把握するためだ。

その時物凄い風圧が尊の両側を通り抜ける。その後風切り音が立った。尊の背後で爆発がおき、大きな穴が防壁に穿たれた。


ジョシュアが口笛を吹く。

その後、その穴を中心に防壁が崩れる。瓦礫を取り除けば十分に彼らが進軍できる幅であった。


「どうかね?」

ジェドエフラーが勝ち誇ったように尋ねる。

「ほう、なかなかのものですね。」

バリアを張ったのか尊の回りに爆風による被害は見られなかった。無論、ジェドエフラーが尊に尋ねたのは、超電磁砲の威力についての感想ではなく、降伏勧告に応じるかどうかである。それで尊はもう一度口を開いた。


「……お断りいたします。私たちは奴隷の子として生を受けました。そしてつい最近まで奴隷として生きてきました。しかし、そうありたいと私たちが選んだ訳ではありません。私たちは多少貧しくとも、自分の足で立って生きてゆきたいのです。その私たちの決定を無視するおつもりでしたら私たちにも考えがあります。」


「ほほう。どうするかね?」

ジェドエフラーは意外な反応に戸惑ったような声をあげた。尊はさらに答える。


「あなたの無法で粗暴なふるまいによって、確かに私たちは宣戦布告をいただきました。その答えとして、明日、第4の災いが皆さんに訪れるでしょう。アブがその災いとなります。」


「ブヨの次はアブかね。これはこれは。」

ジェドエフラーの声には愉快さと不快さがないまぜになったものが含まれていた。今日、いやあと数時間の時も残されていない若造が、明日のことを語るとは。


「そしてこちらからも警告いたします。いますぐに、ここから立ち去ってください。もはや戦争なのですから、皆さんの命の保証はいたしかねます。」


 ジェドエフラーは笑った。腹を抱えて笑いたいほどおかしかったのだ。丸腰で敵将の前に堂々と現れたことは認めよう。こいつは、奴隷たちを束ねるだけの胆力はある。これも認めよう。しかし悲しいかな、得てして能力あるものに、みあった力があるとは限らないのだ。


「では、交渉は決裂ということであるな。では、改めて不知火某以外の将兵に問おう。これより我々は君たちの指導者を処刑する。そうしたら今度は改めて次位の者と交渉しようじゃないか。次は賢いヤツだと良いな……いや、期待するものである。」


「バラク、超電磁砲レールガンのエネルギー充填には何分かかりましたか?」

プライベートラインで尊がバラクに尋ねる。

充填チャージまで7分だ。そしてアクションまでは1分だろう。」

「それだけあれば充分です。」


ジェドエフラーが照準を尊に会わせた。今度は、先程崩した瓦礫を尊ごと吹き飛ばして侵入路を確保するつもりだろう。尊の詠唱が始まる。


「至高の方の大祭司のエフォド。"裁き"の名を持ち、金の鎖で繋がれた12の石よ。我にその権能を示せ。刺繍で縁取られし石、その第1列。"星の紅玉"。死の判決を降す神の臨在の残照よ。その力を我に与えよ。そして第4列ベリル、白き御座にましますみ父の衣のふさべりよ。我に力を与えよ。」


 尊の右手に深紅の銃弾が左手には緑色の銃弾が舞い降りる。尊は腰の拳銃をホルダーから抜き、リボルバーに1発ずつ充填する。ゆっくりと両腕をあげ、銃を斜めに構え、照準を定めた。

「5分か。そろそろだな。」

バラクが呟く。

「バラク、あんな銃で何が出来るというのですか? 士師(ジャッジ)が死んじゃいます!」

ニックが叫んだ。


「おい、小僧。気でも触れたか?意地はってないで降伏しろよ。今なら、まだお前の首一つで仲間を救えるぞ」


ジェドエフラーは再び尊に呼び掛ける。皆が息を飲み、息をひそめる。ジェドエフラーの側には勝利の予感による高揚が、テラノイドの側には不安と絶望がみなぎっている。レールガンはトリガーを引いてから30秒で発射される。もう、尊がどんなに急いでも、逃げ場はない。


ジェドエフラーがトリガーを引いた。

両肩のキャノンから火球が尊目掛けてほとばしる。その火球は尊を飲み込んでそのまま街の防壁を吹き飛ばすはずであった。


しかし、火球は弾かれ、上へと跳ね上がる。それは飛行機雲のような白い雲を作りながら上昇し、光点となって消えたのである。


「ばかな……。」


ジェドエフラーは目を疑った。地上最強の「矛」が生身の人間に弾かれることなどあり得ぬからだ。


「生身」ではない。熾天使セラフ重力子(アストラル)体じゃ。物質でないものにたとえ最強であろうとも物理攻撃は無駄じゃ。ぬしは小説の中の主人公を銃で撃ち殺せるかえ?それほどバカげた話じゃ。まあ、その重力を上回ればできぬこともないがあの程度ではの。(ベリアル談)


「では、今度はこちらの順番(ターン)でよろしいですか?

尊も銃のトリガーを引く。その銃弾もキラリと日射しを浴びて真っ直ぐ機体に突き刺さる。続いて第二射が放たれた。

「効かぬよ。……」

ジェドエフラーが意地悪そうに口元を歪ませた瞬間、目の前が真っ白になる。激しい光の明滅が周囲を襲った。普段サングラスをしているバラクでさえ、目に痛みを感じるほどだ。


機体の上半身が火球……というより光の玉に包まれる。その瞬間、光の球は膨張を反転し、あっというまに小さくなると消えてしまった。機体の上半身は全くなくなってしまい、宙に浮いたままだった両腕が落下して激しい金属音を上げた。


「何……今の?」

モニターを見ていて絶叫していたエリカがアスタロットの中で悄然しょうぜんと呟いた。尊は涼しい顔で説明を加える。

「みなさん、ご心配をおかけしました。今のが反物質砲「バエル」です。最強の「主天使ドミニオン」といわれる所以ゆえんの一つです。」


 軌道エレベーターの上部にある宇宙港はもともと地球からの移民船のエンジン部が元になっているのだ。そのエンジンは反物質エンジンであり、起動させれば1日で反物質弾と反反物質弾が1発ずつ作れるのだ。銃弾一発でも、中型の核ミサイルの弾頭につけられた核兵器ほどの威力がある。

それで、もう一発の反反物質弾頭をうちこんでエネルギーを相殺するのだ。


 つまり軌道エレベーターを持つ都市であるヘリオポリスのような都市を奪還しない限り使うことができない兵器なのだ。それがこれまで「失われていた」理由である。


一方、当主を失ったジェドエフラー軍は恐慌を起こす。絶対的勝利を確信し、もはや略奪のことしか頭になかった兵士たちには、戦車隊を有効活用する術も、それをまとめあげる指揮官もすでに存在していなかった。すべてはジェドエフラーと共に消滅してしまったのである。


 我先に逃げ出す戦車隊、なかには自分が前に出るために味方に砲撃する者さえではじめた。

その後はバラクの右翼本隊とカレブの左翼の別動隊の連携によって敵の掃討が行われる。もはや尊の手に反物質弾は存在しないが、アマレク人がそれを知るよしもなく、恐れにかられて、ただただ逃げ惑っていたのである。数時間のうちにジェドエフラーの麾下にあった139両の戦闘車輌のほぼすべてが破壊、もしくは拿捕され、600人以上が捕虜となった。


後に「第一次ヘリオポリス会戦」と呼ばれるこの戦いはスフィア軍の圧勝に終わった。


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