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はるかかなたのエクソダス3 ~インディペンデンス・デイ  作者: 風庭悠
第16章:第6の災厄:「地は病によって打たれる」
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第121話:盤上の戦い(後編)

 フェニキア人主催のダンスパーティが始まる。


 とりわけシモンとアーニャは大人気で、フェニキアの紳士淑女たちにひっきりなしにお誘いを受けていた。

グランノール氏も一曲アーニャとのダンスを所望して、フロアの中央でワルツを披露した。歳を感じさせないシャープなステップであり、会場の拍手を受けていた。


 一方尊の方はダンスよりも名刺の受け渡しが多く、皆の活躍を横目に資金や技術の提供や取引について語っているのに忙しくしていた。

グランノール氏も、テラノイドを見直したのか、大層ご機嫌だった。しかも、大分酔いも回って来たようだった。脇に侍するジェノスタインははらはらしながら見ていたが、ついにグランノール氏が尊に絡み始める。


「閣下、せっかくのパーティですから、ここは仕事は忘れて、無礼講と行こうじゃありませんか?」

尊は穏やかにほほ笑んだ。グランオール氏は続ける。


「素晴らしい、実に素晴らしい。テラノイドのみなさんがなぜ400年も奴隷の地位に甘んじて来たのかは存じないが、我々と同じく文化をたしなむ民であることはよく分かりました。どうです? ここは一曲、ご夫人と踊られては如何かな?」


 氏は恐らく、尊が踊る間もなく働いているのを見て、ダンスが不得手なのだろう、と思ったようだ。ここは一つ尊に恥をかかせて明日からの協議を有利に進めたい、という狙いは明らかであった。


「承知しました。無礼講でよろしゅうございますね。」

そういって尊は一礼すると傍らのアーニャの手を取った。アーニャの眼を見て、彼女の疲れの度合いを見る。

貴女ユア・グレイス、少々お疲れではありませんか。」

尊の労りにアーニャは首を振る。

「まだ余力はありましてよ。」


「じゃあ、"あれ"でいきましょう。」

「はい。"あれ"で。」


二人がフロア中央に進むと灯りが落とされ、やや柔らか目のスポットライトを浴びた二人の姿が写し出される。会場のすべての耳目が二人に注がれた。やがて音楽が始まる。ラザロが隣にいるエリカを見ると彼女は心配なのか唇を噛みしめ、何かに祈りだしそうな様子だった。


 そして、尊とアーニャが踊り出したのはワルツではあったが、まるで旧世界(オールド・オーダー、地球のこと)の競技ワルツのような優雅で激しいものだった。

 紳士たちは驚いて口をあんぐりと開け、淑女たちはうっとりと、フロアいっぱいいに滑るように踊る二人にその目は釘付けになる。


「『あれ』をやると思った。」

ラザロとエリカの後ろでシモンがボソッと呟いた。二人が振り返るとシモンが顔に苦笑を張り付けたまま固まっている。


「『あれ』って……?」

エリカが機械仕掛けの人形のようにぎこちなく振り返る。ラザロに至っては二人のダンスが華麗過ぎるあまり、泡を食っているフェニキア人の様子が可笑しくて可笑しくて腹筋が崩壊しそうなのだろう。腹を抱えてうずくまらんばかりであった。


「『あれ』はですね。我がヌーゼリアルに伝わるダンスでして、両親から教わったものです。義兄が来るまでは両親が踊っていたんです。」


「漂流王族が?」

ラザロがちょっとぶしつけな表現で尋ねる。

「まあ、いつでも帰れるように備えをしてるのもありますが、村の……ミーディアンの村祭りのダンスコンテストでうちの両親が『アレ』をやると無敵でして。」


「王族が?」

エリカも開いた口がふさがらない様子だ。

「ええ、貧乏の上子沢山で、その上オヤジは飲んだくれですから。……『あれ』をやると村の皆が商品と称して様々に食糧を恵んでくださるという一種の出来レースなんですが。エンデヴェール家開闢かいびゃく以来の汚点ですけどね。」


「お気の毒……というか。」

結構苦労してるのね、イケメンなのに。エリカはそう思ったが、あんたら美女イケメン家族だったおかげで生き長らえてこれたのね、と羨ましくもあった。


 ダンスが終わると会場はクライマックスの盛り上りであった。興奮冷めやらぬグランノール氏は「ブラボー」を連呼しながら二人に抱きついてきた。


 挨拶を終え、宴がお開きになると、全力を出しきったアーニャがよろけてしまう。それを尊は"お姫様抱っこ"で会場を後にした。


「うわ……気障きざ

エリカがあきれたように言うと、ラザロが笑いをこらえながらいう。

「あれが、ゼロスの『意趣返し』だよ、ご覧。」


 映画のワンシーンのような退場劇。その光景をうっとりと眺めるご婦人たち。そして、その目はパートナーに注がれる。

 そして、「嫌な予感」を額に浮かべた汗で表現する紳士方。ラザロはワライノツボに入ったまま帰ってこれず、夜半まで自室で笑い転げることになる。


「明日、『魔女の一撃(ぎっくり腰)』をくらう殿方が何人でるかのう。いっしっしっし。」

ベリアルが愉快そうに笑う。


「アーニャ、ありがとう。いつも私はあなたに助けられてばっかりだね。」

尊がご褒美に暫くお姫様抱っこを続行させられている。一旦、部屋着に着替えた後も、彼女は尊の膝を要求した。


「そうですね。ご褒美は高くつくわよ。覚悟していてくださいね。あなた。……でも、今日は楽しかったね。村のお祭りを思い出しちゃった。」


  ホテルの最上階の窓からメンフィスの広大な夜景が広がっていて、まるで星空をみているようだった。

ミーディアンの乾燥した空気の村だったので、やはりこんな星空だったことが思い出された。

「そうだね。あの頃は毎日がお祭りみたいで楽しかったね。うん。明日からの交渉、がんばるぞー」


メンフィスの夜が更ける。


ついに39話の伏線を回収だ!!もうみんな忘れてますがな。

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