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はるかかなたのエクソダス3 ~インディペンデンス・デイ  作者: 風庭悠
第13章:第4の災厄「地はアブによって打たれる」
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第94話:巨砲対巨砲(前編)

 ヘリオポリスはいまだに「軍都」であった。都市の機能はほぼ快復しており、住民を受け入れる用意はあらかた整っていた。しかし、まだここにいるのは主に軍人だけであった。ここ数年、神殿で訓練を受けていた若者たちが移動してきたのであった。また、各地で蜂起した「義勇軍」たちもここを目指していることだろう。


 皮肉なことに、アマレク人が施したバリケードのおかげで、城塞都市となっており、安全であった。そろそろ夏も盛りにさしかかっており、焼け付くような日射しが降り注いでいる。尊は久し振りにアーニャを連れて街を散歩していた。街路樹の濃い緑色の葉は二人に日陰を供していた。 


「住民が少ないと、なんだか寂しいですね。」

アーニャは暑くても尊と腕を組んで歩く。気温は高いが湿度は少ないので、汗はすぐに蒸発してしまい、日陰なら快適に過ごせるのだ。


「そうですね。でも、次の災厄が済めば、どっと人が増えると思いますよ。」

尊は眩しそうに空を見上げる。

「早く、家族みんなも一緒に暮らせるといいですね。」

尊の言葉にアーニャは黙って頷いた。


「まだ、家族(みんな)は呼べないのですね。」

しばらく無言で歩いてから、アーニャは尊に尋ねた。

「ええ、この街は近いうちに、敵によって攻められるからです。」


尊の言葉にアーニャは首をかしげる。

「なぜ? 私たちは静かに暮らすことさえ許されないの?」

自分たちが放棄した町をなぜ彼らが取り返そうとするのか、理解できないようであった。


「アーニャ。私たちが羊飼いのお手伝いをしていたことを覚えていますね?」

「もちろん。大変な仕事だったけど、私は大好きでした。」

アーニャは遠く離れたミーディアンの村に思いをはせる。


「そうでしたね。アマレク人にとって私たちは羊と一緒なんです。彼らにとっては家畜なんですよ。もし、羊が柵から出ていってしまったらアーニャはどうしますか?」

「探しに行くわ。」

「そうでしょう。……だから、彼らは取り返しにくるんです。羊泥棒である私の手からね。」


指令室に哨戒部隊からの連絡が入った。

「哨戒チーム105から連絡。敵の接近を確認しました。エネアードと思われます。デカイ!!」

本日の司令代行はジョシュアであった。


「105。報告は具体的に。敵の所在、距離、方角、進軍速度、敵の数、……何一つ入っていないぞ。」


 今回はネーヅクジョイヤは使わない、というのが尊の方針だった。先の二戦は敵がかなりの曲者だったが、今回のジェドエフラーは間違いなく正面から来るため、対策は取りやすいからだ。

「東南東,サマリアの森です。敵旗艦を先頭に、戦闘車輌多数。道路を一列に進んでいます。恐らくあと2時間ほどでヘリオポリスまで到着します。」


「よし! 士師ゼロス)と司令に連絡。エリカは一隊を率いて宇宙港の警備にあたれ。」

「代行、(エリカ・)バーグスタイン中尉からアスタロットの使用が申請されています。」

「許可する。」

ジョシュアが恙無く"代行"を務めているところで尊から連絡が入る。


「ジョシュア、引き続き戦況を見守り、適切な指示を出してください。今回私も『バエル』で出ます。フォーメーションは"B"です。バラクは本隊を指揮して右翼を、カレブは別動隊を率いて左翼を形成してください。中央は私が務めます。」


 スフィア軍は幾つかのフォーメーションを計画し、それに則って訓練を重ねて来たのである。それでも『バエル』の名を聞いたメンバーの間にはざわめきが起こった。最強の「主天使ドミニオン」であり誰もその姿を見た事がない、という伝説の機体である。むしろ、既に本体は失われているのではないか、という噂さえあった。全容を知っているのは尊とバラクだけだろう。


ジェドエフラーの軍は規律正しく森を抜けるとヘリオポリス正面にある大平原を見下ろす丘に陣取った。ここからは大河を挟んですぐのところに都市がある。その川を渡る橋の手前にスフィア軍が進軍する。ジェドエフラー側から通信が入る。


「労務者諸君。我はジェドエフラー・コンスタンティヌス、侯爵である。当方は交渉のために来た使者である。同時に賊を排除する執行者でもある。代表者は前へ出るように。」


尊が陣の両翼の真ん中から現れる。いつものパワードスーツとは違う出で立ちに、皆がざわめいた。

「丸腰……!?」

カレブが驚嘆する。無論、腰の両側に大型の拳銃を下げてはいたが、ふらっと敵の大軍の前に登場するにはあまりにも脆弱な出で立ちである。


「全軍、通信回線開け」

尊がラティーナ(網膜モニター)を開くよう命じる。

「私が不知火尊、スフィア国王の代理人です。ここは我が国の軍都です。これ以上の接近は宣戦布告と見なされ、我が軍による排除の対象となります。」


尊の警告をジェドエフラーは鼻でわらった。

「勇ましくて結構。ただ、君たちを殲滅することが我が政府の思うところではない。君たちは我我の『家族』なのだ。」


ジェドエフラーの言葉にジョシュアは毒づく。

「『家畜』の間違いだろ?」


ジェドエフラーは続ける。

「そして、この戦争『ゴッコ』を終了しようではないか。我々が本気でかかれば君たちを粉砕するのは訳がないことだ。無闇に死に急ぐのは愚かなことである。ただちに武装を解除し、和解しようではないか。平和的な対応を見せれば、我々も慈悲を示さないでもない。どうだね、代理人とやら。」

あくまで親切に言っているつもりだろうが、高圧的で無礼な物言いであった。


「お断りいたします。私たちの未来は私たち自身が選ぶ、ただそれだけのことです。過去に私たちの先祖があなた方の言葉を真に受けたのが今日の私たちの同胞の苦しみの始まりでした。ここで同じ過ちを繰り返すつもりはありません。」

尊の答えにジェドエフラーやれやれ、といった顔で頭をふる。


「では、もう一度警告しよう。我が実力をもって。」

尊は彼がレールガンを射つつもりであることは分かっていた。恐らく、町の防壁を射つつもりであろうことも。

「君たちは我々がプレゼントした(から)にこもり、何かを勘違いしてしまった用だね。きっとこれを見たら気が変わるよ。『身の程』という言葉の意味を教えてあげようじゃないか。」

ジェドエフラーの言葉は不快なものであったが、はったりでもこけおどしでもないことはわかる。


「どうぞ。(As it as yourself)」


ジェドエフラーにとって尊の返答はいささかシュールに思えた。




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