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はるかかなたのエクソダス3 ~インディペンデンス・デイ  作者: 風庭悠
第16章:第6の災厄:「地は病によって打たれる」
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第118話:第6の災厄「地は病で打たれる」

[星暦999年3月19日]


 戦闘の開始から3日目、戦闘が膠着状態になり、アマレク軍は一旦攻撃を引いて集結する。もう一度、陸空の戦力の連携を確認し、一気呵成に敵防御を突破しようとしてていた。


夜明け前のこの時間、この時が突撃の時となるだろう。

「突撃せよ!」

命令とともに全軍が動き出す。スフィア側も、対応に追われていた、その時だった。本部よりの緊急通信がラティーナに入る。。尊が全兵士を含む全市民に演説の聴取を求めたのだ。

「やっときたか!」


ジョシュアもラザロも準備の手を止め、皆にも尊の演説に傾聴を求めた。

「何だよ?この忙しい時に。」

回線を開くと、当の尊は篝火かがりびをたきその中心に立っていた。明々と燃える炎が夜明け直前のほの暗い中、尊の顔を照らす。その目が金色に輝いているようにも見え、思わず引き込まれるような映像になっていた。


「親愛なる国民の皆さん、そして敬愛なる兵士諸君。これより、この不知火尊がスフィア国王アーサーの名において第6の災厄を執行します。」

尊が杖を篝火に突き立てると、真っ赤に燃えた炭が現れた。この動画は一般回線のものであり、チャンネルさえ合わせれば、敵陣にいるアマレク軍も視聴出来た。


 もちろん、彼らは軍事行動に突入しているため、見ている者はそういないであろう。

ただ、メンフィスの宇宙港で待機しているアモンは見ていた。

(何をするつもりだ?)


尊は杖を振り上げると炭は焔を一瞬上げて粉々に飛び散った。

「アマレクの全土には疫病がおこり、多くの苦痛を巻き起こす。人々は倒れ、助けを求めるが誰も答えず、だれも救うことはない。それは『原罪』によるものである。一人の人が罪を犯し、罪を通して死が世に入り、こうして死がすべての者が罪を犯したごとく世界を蝕んでゆくだろう。」


 宣言が終わると、回線は切れた。これを見ていたジョシュアもラザロも、また遠くで見ていたアモンも当初は理解できなかったが、すぐにその意味を知るようになる。


 アマレク軍の兵器に搭載された制御用の生体型コンピュータが一斉にシャットダウンを起こしたのである。


 独立した生体型コンピュータを持つ天使、セト、ホルスを除いた兵器が一瞬にしてに使い物にならなくなったのだ。

「ジョシュア、ラザロ。第6の災厄を発動しました。敵の通常兵器に搭載された生体型コンピュータはすべて破壊されました。ただし、ホルス、セトにこの災厄は及びません。それで、通常兵器を徹底的に攻撃してください。」


 尊の指示に対して、ジョシュアとラザロを通して具体的な命令がくだされる。動かなくなった通常兵器はもはや、ただの的でしかなかった。

「ラザロ。もうホムンクルス兵士は動けません。命令経路が絶たれたために休眠状態に入りました。」

ホムンクルス兵士は気をつけをしたまま固まっている。もう、無益な殺生をする必要もないのだ。

「これより、攻勢に出る。一気に叩け。」


 一方、アマレク軍はパニックに陥っていた。兵器が使い物にならない。セトも、動けない友軍を見捨てる訳にもいかず、対応に苦慮していた。


「コンピュータウイルスです!」

 情報将校が原因をアマレク軍の司令部に知らせたのは異変が起こってから間もなくであった。突然進軍が止まり、激を飛ばそうと全く動かない軍に、敵が襲いかかって来たのだ。なすすべもなく次々に破壊されていく。中にいた兵士たちも立ち往生した兵器を棄てて退却を始める。


そして、足元をうろうろする友軍に気を取られ、無事なセトもホルスも、全く戦闘にならなくなった。

「どうやって、感染させられたのだ?」


 司令部の問は道理にかなっている。いつ、奴隷に過ぎないテラノイドどもが、全ての兵器にウイルスを仕込めたのか。もし、一台に仕込めたとしても、ネットワークで感染させるにはかなり時間を要するはずだし、気がつけばすぐに遮断して防ぐことができるはずだ。


「どうも、最初から仕込んであったようです。」

ウイルスのサンプルを解析した諜報部の元同僚からアモンは驚愕の結果を聞くはめになった。

「最初、というのは?」

「テラノイドたちから先住民ケルビムの遺産を接収した時にはもう、すでにあったもののようです。あまりにも堂々と入っていたので誰もそれがウイルスだとは気づかなかったようなのです。」


「では、400年も前からこの日のために仕込んであったというのか?」

アマレクの持つ生体型コンピュータはテラノイドから取り上げたケルビムの遺産のコンピュータを培養し、発展させたものだった。


「それでウイルスのコードネームが"原罪"ですか? 皮肉が効いてますな。」

初めて知ったバラクも苦笑を浮かべざるを得なかった。尊も苦笑する。

「今頃、アマレク軍だけでなく、企業や家庭も大パニックだろうね。社会資本のベースが死んじゃったわけだし。」

「そうですな。」


 ただ、バラクが「皮肉」といったのと尊が考えていたことは若干違っていた。尊はアマレク社会全体が死に瀕していることを語っていたが、バラクは第3の"ブヨ"の災厄で生体型でないコンピュータを破壊したので、それを怖れたアマレク軍が、ヘリオポリス討伐軍には生体型コンピュータを持ってくるように仕向けた巧妙さのことを述べていたのである。


結果は午前中にはほぼ決していた。通常兵器は放棄され、セトも僚友を援護しながら撤退せざるを得なかったのである。さらに、ホルスを退かせたシモンの防空部隊が、アマレク軍の地上部隊の退路を断つ動きを見せる。


 アマレク軍はギデロンの谷の門の外へと退却を始めた。スフィア側の完全勝利であった。後にいう「第3次ヘリオポリス会戦」である。


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