第110話:第5の災厄「家畜は死ぬ」
アマレク軍の陣営は混乱を極めていた。補給用の物資を運送するトラックのエンジンが尽くオーバーフローをおこして稼働不能を陥っていたのだ。
「どうした? 故障か?」
護衛の戦闘機神のパイロットがトラックのドライバーに話しかける。
「エンジンブローです。突然、過燃焼を起こして、焼きついちゃって。エンジンが完全に死んでます。のせかえないと動かないです。」
気づけばずらっと立ち往生したトラックが並び、スタッフたちどうにかエンジンを動かそうと必死になっていた。
そこにラザロの部隊が情け容赦なく襲いかかる。守るものが多すぎる護衛部隊は次々に撃ち取られていく。
「なんか卑怯な気がします。」
部下の感想をラザロが一蹴する。
「安心しろ。補給の分断は王道中の王道だ。覚えておけ。これが戦争だ。卑怯そのものの戦争に、卑怯もくそもない。相手が一番嫌がることをやる、それが定石だ。」
部下も自分の不見識をわびた。
「いえ、申し訳ありません。マイナスのマイナスはプラスです。そう考えればいいわけですね。」
ラザロはふっと笑うと
「それでいい。」
それだけ答えた。
やがて戦場を漂う空気の異変にアモンも気づいた。
「どうしました?」
フェニキアの観戦武官の暢気な口調の問に
「いえ、気になることがありまして、しばらく中座いたします。」
そう答えて本部へ足を運んだ。本部は完全に恐慌状態にあった。
「攻撃部隊と補給部隊の連繋が上手くいってないようですが。」
アモンの指摘は的確であった。
「そうなのだ。補給用トラックがすべてエンジンブローを起こしてな。なんとか体制を建て直しているところだ。」
アモンは首をかしげる。
「エンジンブロー? 整備はどうしていたのです。」
「いや、問題なかった。ただ、立ち往生したトラックが道を塞いでいるのだ。戦闘機神を使ってなんとかどかしている。」
確かに、人が押してどうにかなる重さではない。しかも、悪路である。
「敵襲です。補給部隊が次々に襲われています。107補給小隊通信途絶。206補給小隊交戦中!! 護衛部隊から援軍の要請です。」
指令室はパニックの渦中であった。
「くそ、ロバでも馬車でも、なんなら牛でもいいから調達してくれ!!」
そう叫ぶ下士官の声にアモンは思い当たった。
(牛、ロバ……家畜!?……の死。機械の家畜……トラック……エンジンブロー!!)
アモンの思考は尊の言葉にたどり着く。
(これがヤツの罠だとしたら)
その予感は的中していた。
(しかし、どうやって。『魔法』でも使えるのかやつは。)
「アセチレンガス? あの、溶接に使う??」
尊とバラクは、別動隊を率いるラザロに作戦を説明していた。
「それが、第5の災厄の正体……なのか?」
アセチレンガスは無臭の気体であり、エンジンに大量に吸入されると過燃焼を起こしてエンジンブローをおこし、酷い場合は完全にエンジンを破壊する。
「旧世界でも、対戦車兵器として研究されていたが、噴霧する方法がネックになっていて断念された経緯がある。」
今回は戦場が限定されていて、使い得る戦法も限られている。そこで、罠を張ったのだ。補給経路にアセチレンガスのタンクと噴霧パイプを設置して、やってきた敵補給部隊のトラックを足止めするのだ。
「まあ、馬車やロバの進化系がトラックですから、家畜が死ぬ、というのもあながち嘘でもありません。いうなれば心臓発作でしょうか。」
今回は物資の奪取ではなく破壊に専念してほしい。都市の攻防戦で補給さえ断てば敵も諦めるだろう、という見立てなのだ。
こうしたヘリオポリスの要塞化はすでに100年以上も前から始まっていたのである。ラザロの部隊はトラックを次々に破壊する。無為に護衛部隊と交戦せず、離脱してはまた別の部隊を襲う。破壊された物資がアマレク軍に対するバリケードになるわけである。脇の小路から突破を図ろうとするものもいたが、悉く敷設された地雷の餌食になる。
もう一つは空路の遮断である。ヘリや航空機で補給されるのを防ぐため、尊はヘリオポリス周辺を厚い積乱雲で覆っていたのである。そのため、補給路を陸路一本に限定せざるをえない。それこそがわなであった。
[星暦998年10月24日]
アマレク軍は一時攻撃を中断し平原から出てもう一度集結地点に戻った。
補給の不備のため、敵を押し込めるどころか押し出されてしまったのだ。皆疲労困憊しており、士気も下がっていた。
「航空戦力を投入しよう。」
「空戦騎士団を呼ぶのか?」
「仕方あるまい。これからトラックをかき集めるにも時間がかかりすぎる。」
しかし、5年前に尊のおこした竜巻や、ミサイルの撃ち返しで航空戦力で大敗を喫してから、、空戦騎士団にとって尊と相対することがトラウマになっていたのだ。そのうえ、この積乱雲である。
そのため、空戦騎士団を所有する貴族に要請を断わられた。すぐには準備できない、ということだったが、明らかに尊と相対するのを嫌がっている様子だった。平原に残しておいた偵察隊は、陣地に防空兵器を設置していることを報告してきた。今度は平原への侵入も許さない様子だった。
「こちらの対応は折り込み済みか。ヘリ程度では打ち落とされるのは明らかだな。」
「今回はヤツらに花を持たすことにしよう。地上戦中心では今回は勝ち目がない。」
アモンは撤退を進言しようとしていたが、そうなる前に賢明な判断が下されてほっとしていた。
「アマレク軍、撤退していきます。」
偵察隊の報告にスフィア軍は沸き立った。
「もう少し粘ってくれたら、もう少し戦力を削ってやったものを。」
バラクが少し悔しがる。
「まあ、そう言わないでください。」
尊がなだめてい言う。アマレク人は国防を貴族の務めと見なしており、戦費こそ国庫から支給されるものの、兵器の導入、運用、整備は自前で行っている。だからこそ、負け戦にかっとなって全てを突っ込んで来るものはいないのだ。超兵器を持たない3家だからこそ、下すことのできる判断でもあった。
「わたしたちの目的が成就する日もそう遠くはないかもしれません。」
尊の声は少し弾んでいた。この勝利は独立宣言後の初戦であり、意味も大きかったからである。
「よーし、バカンスだあ!!」
ジョシュアが拳を突き上げる。
「どれ、次回は温泉で水着披露じゃ。」
ベリアルのノリに尊も突っ込んだ。
「A●Cアニメの第4話かよ……」
第二次ヘリオポリス会戦の終結であった。




