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はるかかなたのエクソダス3 ~インディペンデンス・デイ  作者: 風庭悠
第14章:明日なき明日へ~ヘリオポリス動乱編
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第105話:アーニャ、誘拐さる。

 [星暦998年9月14日]


アーニャが訪れた最後の部屋は6人部屋であった。窓は開放されていて、初秋にしては爽やかな風が吹き込んでいた。アーニャが病室に入った時、外で爆発音がする。ラザロの傍らにいた護衛の一人が窓に駆け寄る。状況を確認したかったのだろう。


「デニス、持ち場を離れないで! 陽動の可能性があるわ」

もう一人の護衛、メリッサ・レイノルズが強く言う。その瞬間だった。窓からロープを使って"賊"が次々と侵入したのである。窓辺にいたデニス・ クルーウェルは強かに蹴られて打ち所が悪かったのか、ノックアウトされてしまった。


 ラザロとメリッサは銃を抜いて構えた瞬間、ベッドに横たわっていたはずの患者が起き上がり、隠し持っていた銃をアーニャにつきつけた。テロリストが患者に擬態していたのだ。院長も婦長も驚いた様子もなく両手を挙げている。


(しまった……コイツらもグルか)

 手際のあまりの良さにこの暴挙に院長が介在していることは容易に想像できた。ラザロとメリッサは拳銃を取り上げられるとベッドのパイプ部分に手錠で繋げられる。賊はアーニャにも後ろ手に手錠をかけると彼女を抱え、窓からロープを伝って降りていく。下にはトラックが待ち構えており、彼らがそこに飛び降りると発車した。


ラザロはベッドを引き摺ってデニスの側に行き、尻を蹴り上げる。目覚めたデニスに、彼の拳銃で手錠を破壊させると部下を集めた。

しかし、完全に手遅れであった。彼はカレブに連絡を取って検問を張らせたがいずこかに潜伏したようであった。

「してやられた。」

ラザロは悔しがった。


「すまない、士師ジャッジ

ラザロは尊に頭を下げた。というよりは力なく項垂うなだれたというほうが正確かもしれなかった。


「ファースト・レディを誘拐されるとか面目次第もない。」

「いや……ラザロがしてやられたんだ。誰がそこにいても結果は変わらないだろう。それで、ラザロ。相手はどう出ると思う?」


 尊はラザロを責めるでもなく、事後どうなるか意見を求めた。その前向きさはラザロが昔から知っているゼロスと変わらなかった。チームメイトがたとえ彼の作戦を無視して失敗を犯しても、それを責めるより先に、事後策を考えるタイプだったのだ。


「人員が育つ前に組織が大きくなってしまった主な責任は(捕虜交換に応じた)GOSENの連中にある。そして、ラザロだけじゃないが、皆に重い役割しごとを2つも3つもかけもちさせている僕の責任でもある。」

尊はまずラザロに責任を問わないことを明言した。


「賊は恐らくダタンの手のものとみて間違いないですね。あまりにも……手際がよすぎます。」

「すると背後にはGOSENがいることになる。やつらの目的はなんだろうか?」


答えはラザロにもわかりきったものだった。

「それはゼロス、君の排除だろう。その後にGOSENがその地位を受け継いでこの町を掌握し、俺たちはまた、奴隷へと逆戻りだろうね。」

「それは困った。」

尊はおどけてみせた。


「それよりもアーニャさんをどうすれば無事に助けられるか、ですが」

ラザロの言葉に尊の答えは不敵なものだった。

「それは何とかなるでしょう。」

尊がニヤリとしながら言った。

「伊達に5年も一緒じゃないですよ。まあ、僕たち夫婦の絆というものを信用していただきましょう。」


[星暦998年10月1日]


アーニャが拉致されてから2週間あまりが過ぎようとしていた。突然、公に姿を現さなくなった理由を、世間的には「体調不良」と周知アナウンスされていた。しかし、誘拐されたらしい、という噂も広まっており、世間の耳目をあつめていた。


そして、対決の日がやってくる。この日、「自由と独立のための国民集会」が都市のセントラルパークで行われることになっていたのだ。


 広場の真ん中にステージが特設され、中央に尊とアーニャの席が、右翼側にGOSENのメンバーの席、左翼側にバラクを始めとした軍指導部の席が設けられた。


そして、集会が始まってもアーニャの席は空いたままであった。集会はGOSENのメンバーと軍指導部が交互にスピーチして国民の結束と協力を訴えるのものであった。そして最後に尊が締めくくる、ということになっていたのである。市民はだれでも参加でき、テレビやインターネット中継もされている。


そして、レオ・ゴバイタスの順番がやって来た。ダタンのバックと見られている男である。彼はGOSENの歴史を語り、安定や安心は伝統と経験から生じ、独裁政治からではなく、民衆の支持に裏打ちされた民主主義によってのみ生じると主張した。そして、不知火尊を士師から解任してGOSENによる集団指導体制への移行を訴えたのである。


「不知火尊は若いなりに良くやってくれてはいる。しかし、事態は最早、彼の手に負えるものではなくなっているのだ。例えば、彼は国民の生命と財産を本当に守れるのだろうか? 彼は自分の妻すら護れない無能者ではないだろうか。アーニャ・エンデヴェールはどこにいる? 彼女は賊によって拉致されてしまっているのではないか。」


聴衆から悲鳴とどよめきが生まれる。レオはさらにまくしたてる。

「彼女の身柄がアマレクに渡されたらどうする? 彼は妻の身と引き換えに我々を、みなさん国民を売り渡すのではないか?我々はまた奴隷になりたいのか? 私の言葉が嘘だと思うなら、そこにいるその男に尋ねてみるといい。お前の妻はどこにいるのか?、と。」


彼の煽り文句に会場の空気がにわかにおかしな感じになっていく。


 その時だった。


「お待ちください!」


マイクを通して凛とした声が会場に響く。ステージ上のカメラが声の主を捜す。モニターに若く美しい女性の姿が映し出される。


「不知火アーニャ・エンデヴェール!!」



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