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はるかかなたのエクソダス3 ~インディペンデンス・デイ  作者: 風庭悠
第14章:明日なき明日へ~ヘリオポリス動乱編
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第102話:明日なき明日へ(後編)

 レオの元を訪れたグレゴリウス家の使者は、アモン・クレメンスを伴っていた。アモン護国官ガーディアンとしてアマレク政府の中でも頭角を表しつつある。3人の大貴族が倒され、彼の序列は上がりつつある。ここ数世紀は年功序列であったが、このテラノイドの反逆でそれが崩れているのだ。 


「私に何かご希望でも?」

グレゴリウス家の使者はメンケペルラー・グレゴリウスで当主トトメスの二男であった。年のころはアモンより年長だが若く、レオが血を吐くような思いで働いていた歳の頃である。生意気な若造め、という表情が出ないようレオは慎重に声に出した。


「ヘリオポリスに行ってくれないか?」

「はい?」

 あまりに存外なリクエストにレオは思わず聞き返してしまった。随伴したアモンは目論見を語る。つまり、ヘリオポリスを乗っ取って欲しい、ということだった。なるべく「ヘリオポリス臨時政府」を「民主主義的」な組織にして、尊から合法的に代表権を取りあげてしまえば武力を行使することなく無力化できる。形式的に国家としての独立を形式的にを保って、再び保護国の条約を結べばよい、ということだった。


 「しかし、そのためには民心を彼から遠ざけねばなりませんが。」

レオはそれこそが難しいことを良く知っていた。尊とその部下たちは堅い絆で結ばれており、兵たちの間でも民の間でも人気が高く、特に尊の"妻"である不知火アーニャ・エンデヴェールは絶大な人気があるのだ。

 しかも度重なる勝利で、その機運は絶大なものとなっている。


「方法はお前にまかせよう。兵と武器は供給する。やってくれるね?」

メンケペルラーは尋ねているようで命令していることが明らかであった。レオは覚悟を決めた。


明日なき明日へと自分がもがいている事実に身を焦がしながら。


― 一方


  いつもは能天気な尊が今日に限っては神妙な面持ちで直立している。アーニャはいつものホンワカな笑顔であった。今日は長らく神殿にいたエンデヴェール家の面々が遂に、ヘリオポリスで勢揃いする日なのである。シモンが神殿までネーヅクジョイヤで迎えに行き、宇宙港から軌道エレベーターで降りて来るのだ。


「両陛下がお着きになられました。」

 ジョシュアのかけ声で自動ドアがゆっくりと左右に開くと、いつもの父君と母君が正装して並んで立っている。流石に決める時には決まる人々、まさにロイヤルファミリーであった。人々の歓声とどよめきとため息の中、尊たちと対面し、握手を交わす。カメラに向かい、挨拶を標準語スタンダードで行った。その後、王宮の広間で歓迎の昼餐会が行われ、宿舎になっているセント・バージニアホテルに向かった。


 尊が惑星外の王家と姻戚関係で在ることを誇示して、アマレク政府や反士師派のGOSENの委員たちを牽制すると共に、国民の求心力を高めるのが狙いであった。


ヘリオポリス中心部の大きな公園であるセントキャサリンパークに面する3つの大きな旧ホテルが政府宿舎として使用されているセント・バージニアホテルは本館が士師公邸、軍本部として、別館が軍幹部宿舎として用いられている。他の2つは政府高官の官舎、議員会館として使用されており、GOSENの委員も入居できるのだが、彼らは経済力があるため、近隣に家を借りているものがほとんどであった。


 そして、ホテルの最上階の1フロアが、尊とエンデヴェール家の宿舎となっていた。主に警備上の理由である。


「兄ちゃん」

「兄さま」

「兄ーに」

 3人娘が尊に群がる。彼女たちは尊の両腕に取り付いたり首にぶら下がったり、抱きついて顔をうずめたりと、再会を祝してたっぷりの愛情表現を見舞ってきた。尊も戸惑いながらもひさしぶりの彼女たちとのスキンシップに癒されていた。戦いの日々が続くと殺伐とした気持ちになったり、何のために戦っているのかを忘れてしまいそうになる時がある。しかし、妹たちの無邪気な笑顔は尊を力付けるのであった。


  3人は宇宙港や軌道エレベーターのリフトの様子を興奮ぎみに語っている。尊は彼女たちの世話を焼きながら話に耳を傾けていた。

彼女たちは近いうちにそれぞれ学校や幼稚園に通うことが決まっている。途中編入になるため、明日は尊とアーニャが保護者として付き添うことになっていた。


「尊さん、忙しいのに、ごめんなさいね。」

アーニャが申し訳なさそうにいった。

「いや、全然かまわないよ。僕の大切な家族だからね。」

尊が快くいうとアーニャの顔パッと明るさを取り戻す。

「ありがとう。尊さん。」


 尊はアーニャの髪をなでた。夕食、そして尊のお手製のプリンまでしっかりと平らげた3人娘たちは、長旅の興奮でためこんでいた疲れが一気に吹き出したのか、尊に取りすがったまま眠りに落ちていた。

「アーニャ、こんな大事に巻き込んだのは僕の方だからね。だから、気にしないで。」

「んーん、ありがとう。大切にしてくれているの、みんな感じてるよ。あなただって、エンデヴェール家の一員なんだから。」


 年長のブリジッドを尊から受け取りながらアーニャは微笑む。非日常が続いてきた今だからこそ、こうした日常がたまらなくいとおしいのだ。年少のサビーネとターラを抱き抱えた尊と一緒にアーニャは3人娘の部屋へと向かっていく。こんな日常がずっと続くようにするために尊は戦っているのだ。


 今は明日なき明日へと向かってもがいている。でも、こんな一条の光がさしこんでいるのなら。どこへだっていける、尊の足取りは軽かった。


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