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16.ディアナの答え




「いいえ、恐ろしくなんかないわ」


 ディアナは静かに、けれどきっぱりとルカの言葉を否定した。


「なっ……」


 予想外の答えにルカは虚を突かれ、動揺する。

夜でも昼間のように周囲を明るく見渡す事の出来る紅の瞳は限界まで見開かれていた。

そんな、時を止めたかのような彼に構わずディアナは続けた。


「だって、ヴァンパイアでもルカはルカでしょう? おかしいじゃない、ヴァンパイアだって判った瞬間に怖がるだなんて」

「俺は……俺?」


 言葉を確かめるようにゆっくりと呟くルカ。

それにディアナはしっかりと頷く。


「そう。私と出会った時にはルカはもうヴァンパイアだった。ここで一緒に暮らしてきたルカも、私が知らないだけでヴァンパイアだった。出会ってからずっと、ルカの事を怖いだなんて思った事はなかったもの。ルカかがルカである限り、ヴァンパイアだからって理由だけで私がルカを怖がったり嫌ったりするだなんて有り得ないわ」

「はは……。ディアナはすごいな」


 ヴァンパイアだからといって嫌いにならない。

怖がりもしない。


 そう言われて初めて、ルカは胸の中で張りつめていたものを息と一緒に吐き出すと、ずるりと足腰の力が抜けたようにその場に尻餅をついた。


「ルカ!?」

「気が抜けただけだ」


 心配して駆け寄ろうとするディアナをやんわりと制するルカが考えを巡らせるのはある世界の理についてだ。


 人に限らず、生き物とは未知の存在に対して本能的に恐怖心を抱くように出来ている。

何故なら、そうする事が危険回避に繋がり、最終的には種の生存確率を大きく高めるからだ。


 だというのに、怖くないと言う勇敢なディアナをルカは本心からすごいと思った。


 それと同時に、初めて自分の存在を肯定する言葉をかけてもらえたルカは、長い間ふらふらと漂っているようだった両足がやっと地についたような気がした。

あれだけ頭の中に蔓延っていた狂気にも似た声が聞こえなくなっている。


「そんな事より、ルカ。さっき私にわざと嫌われようとして、自分の事を醜いとか言ってたよね? そんな事、二度としないでね」


 本当の意味で満たされた、そんな感覚にぼーっと身を委ねるルカを現実に引き戻したのはディアナだった。


 これだけは言っておかなければならない。

そんな思いで彼女は人差し指を立てる。


「どうして?」

「傷つくからよ」

「どうしてディアナが傷つくんだ?」


 一方のルカはディアナの話が心底解せなかった。

むしろ、ディアナがつらくないように、なるべく傷つかなくて済むようにいかにヴァンパイアが醜く恐ろしい存在かを彼女に伝えて身を引こうとした。

優しい彼女のことだから、きっと受け入れようとして苦しむだろうと。


「傷付くに決まってるでしょ!? そんなに信用されてないのかなとか思うし。それに、私にとってはルカはもう家族も同然なんだからね。たとえそれが本人でも、自分の大切な存在を貶めるような事を言われたら嫌だよ」

「家族……?」

「そう。血の繋がりは無いけれど、一緒に暮らして、喜びも悲しみも一緒に分かち合っていきたいと思うって事だよ」


 それはディアナの精一杯の告白であり、願いだった。

教会の信者としては、彼を拒絶すべきだとわかっていたが、それでもルカに惹かれている気持ちを彼女は否定できなかった。


 教会で聞くヴァンパイアは残忍で非道で禍々しい存在だったけれど、ルカは違うと思う。


 出会ったその日、彼は暴漢から救ってくれた。

これは紛れもない事実だ。


「俺が家族でいいのか?」

「ルカがいいの」


 ルカがいい。

ルカだからそばに居たいのだとはっきり告げるディアナの言葉に、ルカは救われた気がした。

一緒にいたいと言われたのはこれが初めてだった。


「だから、私の為とか考えて拒絶するのも禁止! わかっててもあれ、結構傷付くんだからね」

「そういうものなのか?」

「じゃあルカは私に無視されても平気?」


 なかなか気持ちの機微を理解してくれないルカにディアナは意地悪な質問をする。

半分は先程肝を冷やされた事に対する仕返しだ。


 問われたルカは途端に眉を潜めて苦虫でも噛み潰したかのような顔をした。


「どう? 判ってくれた?」

「よくわかった」


 下から顔を見上げてくるディアナにルカはしっかりと頷く。

好いているものに拒絶されたり、無視されたりするだなんて想像しただけでぞっとした。


「それからもう一つ。私はルカと一緒にいたいって言ったけど、ルカはいったいどうしたいの?」


 出会ってすぐの頃はディアナが願い、それをルカが受け入れる形で同居を始めた。

しかし今度のディアナは、ルカの意思を問おうとしたのだ。


「俺は……可能なら、それが許されるのならディアナと一緒に暮らしたい」

「よく言えました!」


 長い間、口を開きかけては噤んで言葉を発するのを躊躇うルカをディアナは辛抱強く待った。

そうして漸く決心したルカが、それでも遠慮がちに答えればディアナは満面の笑みでルカの頭に手を伸ばし、わしゃわしゃと掻きまぜた。




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